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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
少年期【バセナ旅行編】
87/192

3-41 パーティー

3章完

 竜暦6557年12月24日


 この世界にはクリスマスという存在しないが、俺の心の中でだけ今日は"クリスマスイブ"である。


 サリスとアミには慰労パーティーと説明しているが、今日の夕方が楽しみだった。

 俺は朝食のサリス特製ブイヤベースを食べながら今日の予定を考えていた。

 既にプレゼントも用意していたし、ケーキの注文も終わらせているので夕方までどうやって過ごそうか。


 居間の窓から外を見ると天気も良いし海も穏やかである。


(釣りで夕方まで過ごすかな、そのあとケーキを受け取りにいけばいいしな)


 俺は夕方まで釣りに行くことに決めた。


「今日は昼間は釣りにいってくるよ」

「気をつけてね、ベック」

「魚いっぱい持ち帰ってくださいです」

「ああ、そうだな」


 魚介のスープを味わいながら俺は笑って答えた。

 朝食が終わると少し厚着をしてから釣り道具を持って家を出た。


 厚着した理由は暖かい南部都市とはいえ、12月である海風に長時間さらされると体が冷えてしまうからだ。

 俺は行きつけの漁具屋に顔をだす。


「いらっしゃい」

「生餌はありますか?」

「昨日活きのいいゴカイが入荷されたよ。銅貨10枚だが、それでいいかい?」

「はい」


 俺は代金を払い、ゴカイを入手した。

 ついでに良い釣り場がないか聞いてみる。


「そういえば今日はいつもの桟橋以外で釣りたいんですけど、大物が釣れるオススメの場所はあります?」

「桟橋以外か、それならちょっと歩くことになるけど東の倉庫街の先に堤防があるが、あそこがいいかもな」

「じゃあ、そこに行って見ます」


 俺は店主に礼をして、東の堤防に向かった。

 大きな岩を積み上げた堤防で、波をうけて飛沫があがってる場所がいくつか見える。

 また岩の隙間に小さな魚が入り込むのも見える。

 なるほど、ここなら小魚目当てに少し大きな魚が寄ってきそうな場所だなと思った。


 俺は足場の良さそうな場所に腰掛けて釣りの道具を準備をする。


 ちなみに使っている釣竿だが、結構丈夫なものである。

 しなる木材に土魔石と木魔石のコーティングがされていて、かなり曲げても折れない。


 糸のほうもハードクロウラーというFランクの小型魔獣が巣作りで吐き出す糸を使用しており、引っ張られてもなかなか切れない。


 リールもかなりしっかりした構造になっていて、ハンドルを回すと糸を引き上げることが出来る。

 この世界にリールがあったことに驚いたが、漁具屋の店主に聞くと数百年前に糸を紡ぐ糸巻き機を改良して作られたらしく、今ではいろいろを改良が加えられて使いやすくなっているという話をしてもらった。


 俺は釣り針にゴカイをつけてから、堤防の岩のすこし先を目掛けて釣り針を投げ込む。

 今日は波も穏やかで風も強くなく陽の光も暖かい絶好の釣り日和だなと思いながら、海にゆらゆらと浮かぶ浮きを見ている。


 浮きが大きく海中に沈むのが見えた。


 俺は勢いよく竿を上げる。

 竿がかなりしなる。

 竿を下げながら糸を巻く。

 また竿を上げる。

 また竿がかなりしなる。

 しなる竿を下げながら、また糸を巻く。


 手ごたえからすると、かなりの大物だ!

 慎重に竿を操って糸を手繰り寄せる。


 水中に釣り針にかかった魚影が見えてきた。

 最後まで気を抜かずにいっきに釣り上げる。


 釣れたのは、バセナの人がドルドスシーバスと呼ぶスズキという魚でサイズは30cm前後あった。

 市場で買うとそこそこの値段がしたはずの魚である。


 ほどよい魚との駆け引きに背中に汗がにじむのを感じる俺がいる。


(こんなのが釣れるのか!ここは穴場だな)


 俺は袋にドルドスシーバスを仕舞うと、またゴカイを釣り針につけてから海に投げ入れた。

 サリスに近いうちに白身魚のムニエルでも作ってもらおうと考えながら、また浮きを見つめた。


 15時まで釣りを続けたがドルドスシーバスは残念ながら最初の一匹だけだった。

 あとは小さなサイズの鯛やカサゴばかりだった。

 小さなサイズであるが、ブイヤベースの出汁に使えるので、それなりに食す事が出来るため満足だった。


 俺はいったん活動拠点の家に戻るとサリスとアミが料理の仕込みをしている最中だった。

 厨房にいい香りが立ち込めている。


「今日の釣果だよ」


 俺はそういって魚をアミに渡す。


「はーい」


 アミが手馴れた様子で魚を処理して据え付けの保存箱に入れていく。

 俺は二人に出かけてくると告げて、パティスリーに向かった。


「いらっしゃいませ」

「予約していた商品を受け取りにきました」


 俺はそう店員に話し、預かっていた交換用の札を渡す。

 店員は札を確認し、奥から包装した袋を持ってくる。


「ラズベリーのタルトです。間違いありませんか?」

「はい、ありがとうございます」


 俺は礼をいって包装した袋を受け取り、パティスリーをあとにした。

 夕方近くの南部都市バセナの街中をたくさんの人が行き交う。

 その中を俺は袋を大事そうに抱える。


「ただいま」

「ベック、おかえりなさい」

「おかえりですー」


 活動拠点の家の帰りつくと、ちょうどサリスとアミが居間に食事を並べていた。


「俺も手伝うよ」

「じゃあ、飲み物を用意してくれる?」

「サリスとアミは何が飲みたいのかな」

「ミルクですー」

「わたしは紅茶で」


 俺は二人の希望を聞いて、飲み物を準備してテーブルに運ぶ。


 テーブルの上には、


 ・オリーブオイルソースがかかったサラダ

 ・トリュフとチーズを上にのせた貝柱のソテー

 ・カブとカボチャのキッシュ

 ・スズキを使ったブイヤベース

 ・ツーヘッドダンドの栗詰め丸焼き

 ・スライスしたバゲット


 が並んでいた。

 かなり豪勢な食事である。


「気合いを入れすぎだな、サリス」

「ええ、せっかくだしね」

「楽しみですー!」


 俺達は食事をしながらパーティーをはじめた。

 美味しい食事で会話がはずむ。

 いろいろと旅であった話で盛り上がる。

 みんな自然と笑顔がこぼれる。

 お互いに短い期間だったが今までの苦労をねぎらう。

 そして、これからも一緒に頑張ろうと誓い合う。


 食事も終わり、ふくれた腹が落ち着いたところで、俺は買ってきたラズベリーのタルトをテーブルに持ってきた。


「デザートは俺が用意しておいたよ」


 そういってラズベリーのタルトを皿に出すと俺はナイフで切り分ける。


「美味しそうね!」

「凄いですー」


 あれだけ食事を食べていたのに女性のお腹はすごいなと思う。

 そういえば甘いものは別腹というが本当のようだ。


 俺も含めてデザートにラズベリーのタルトを頬張ると、全員の頬が緩んだ。


(甘くて美味しいって幸せだなー)


 パーティーの余韻を味わいつつ、デザートを食し終えた俺は、パーティーの最後に二人にプレゼントを渡した。


「これは俺からサリスとアミに旅のお礼を込めてのプレゼントだ。受け取ってほしい」

「えっ?」

「なんです?」


 二人は包装をあけてブレスレットを取り出す。


「とっても綺麗ね。ありがとう!ベック」

「わーい!」


 サリスとアミがプレゼントのブレスレットを見て、目を大きくして喜んだ。

 サリスがブレスレットを見て眺めていると、いきなり席を立ち自分の部屋に向かった。

 なにごとかと思ったが、手にマフラーを持ってやってくる。

 旅の途中から編んでいた見覚えのある編み物だ。


「すこし手を加えてから渡そうかと思ったんだけど、これ私からのプレゼントよ、ベック」

「ありがとう、サリス」


 俺はマフラーを受け取る。

 いろいろな色を組み合わせており、非常におしゃれなデザインだ。

 サリスはアミにもマフラーを渡す。


「こっちはアミへのプレゼントよ」

「わ、わたしにです?」

「うん、親友だもの」


 サリスがアミににっこりと微笑むとアミが猫耳を斜め後ろに倒して泣きそうな顔をしてサリスに抱きつく。


「あ、ありがとうです!サリス」

「いいのよ、アミ」


 微笑ましい光景だなとサリスとアミを見つめていたが、ふと俺のプレゼントと、サリスのプレゼントで喜び方に差がある事を不思議に思う。

 あまりの嬉しさから泣き出したアミが落ち着きを取り戻してから俺はアミに理由を聞いてみた。


「サリスからのプレゼントってアミにとってそんなに特別だったの?」

「…えっと…」


 アミが恥ずかしそうにうつむく。


「女の子の友達から初めてもらったんです…、プレゼント…」

「えっ?」


 アミが、ゆっくりとだが理由を話してくれた。


 生まれ育ったアンウェル村に同年代の子供がいなかったということだった。

 他の子供はいたが年が離れており全て男の子であった。

 その為に、これまでずっと女の子の友達が欲しかったそうだ。


 最初にパムでサリスから旅に誘われた時は友達が出来るんじゃないかと内心凄く喜んだらしい。


 実際に旅の途中で友人としてサリスが接してくれているのが嬉しかった。

 しかし、アミはサリスが自分のことを冒険者仲間として接してくれているだけではないかと疑心暗鬼になっていたということだった。

 アミは同年代の女の子の親友が欲しかったのだ。


 そこに親友と口に出してくれて、プレゼントまで送ってくれたことでサリスの本心が分かったアミは感情を爆発させたと話してくれた。

 その話を聞いたサリスの目元にも涙が浮かぶ。


「もうアミったら、もっと自分に自信を持っていいのよ」

「サリス、ありがとですー」


 アミとサリスが仲良く会話する姿を見て、心許せる友達っていいなと思う俺がいる。

 俺が紅茶に口をつけると、アミがサリスと俺に向かって大事な話があると言い出した。


「わたしは特に贈り物とか準備してなかったです。ごめんなさいです」

「ああ、いいよ」

「私も平気よ、アミ」

「えっと贈り物ではないですけど、ずっと考えてたんですけど」

「けど?」


 アミがなにかを決したように口を開く。


「わたしもずっと一緒にいたいです。以前話のあったクランの件お願いしますです!」


 俺とサリスは港湾都市パムに帰ってからクランの件の返事があると思い込んでいたので、ここでアミから返事がもらえたことにビックリした。


「本当にいいの?アミ」

「大事なことだし、まだまだ先でもいいんだよ」

「いえ、バセナに着いてからもずっと考えていたです」

「そういってもらえると嬉しいけど」


 俺は少し悩んでからアミとサリスに話す。


「クランの申請は、パムに戻ってからにしよう」

「どうしてです?」

「うまくは説明できないけど、俺の中のけじめかな」

「そういうなら…」

「そのかわりバセナでの修行ではクランを組むことを前提にして、連携を確認していこう」

「わかったです」


 考え込んでいたサリスが口をひらく。


「出来れば合図なしで連携できるほどになるのが目標よね」

「そうなるにはまだまだ経験が足りないな」

「頑張りましょうね」

「はいです」

「ああ」


 今日のパーティーは俺達の関係に進展があった大切な日となったのである。


2015/04/24 表現修正

2015/04/24 誤字修正



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