3-36 南部都市バセナ
竜暦6557年11月26日
モタル村から南部都市バセナへ向かう街道を馬車で進んでいく。
陽が高くなったので俺達は食事も兼ねて休憩することにした。
街道の脇に馬車を止めてシートを敷く。
「やっと食事か」
「簡単なものになっちゃうけど我慢してね」
「ああ、サリスの料理の腕は確かだから心配してないよ」
「手伝うですー」
そういってサリスとアミが簡易調理器具で食事を作り始めた。
俺は食事が出来るまで馬の世話をする。
飼葉と桶に入れた水を与えおわったところで時刻を確認すると10時半をすぎたころであった。
今日は南部都市バセナに早めに到着しようと食堂の開いていない朝早くにモタル村を出発した為、食事がこの時間になってしまっていた。
あたりに香ばしい香りが漂う。
サリスを見るとフライパンの上にオリーブオイルにニンニクとバジルを加えて火にかけている。
オリーブオイルに香りがついたところで、アミがスライスしたバゲットをフライパンに並べていった。
スライスした柔らかいバゲットの片面にオリーブオイルが染みこんだところでバゲットを取り出して皿に並べる。
最後はオリーブオイルが染みこんだ面を内側にして、チーズとハムを挟んでバゲットサンドが完成した。
俺は香ばしいバゲットサンドを口に運ぶ。
「ニンニクの香りが食欲をそそるな」
「思った以上に美味しいわね」
「この味は好きですー」
美味しい食事で英気を養った俺達は休憩を終えて馬車を先に進めた。
半日ほど進むと丘の上から先に海に面した街が見えた。
「南部都市バセナが見えたよ」
室内にいた二人に声をかける。
二人が馬車の車窓から顔を出して先をみた。
「大きな街ね」
「海の色がパムと違うです!」
アミがいうように海の色が若干ちがう。
港湾都市パムに面した海は深い青色が特徴的だが、南部都市バセナに面した海は少し明るい感じの青色だ。
例えるならラピスラズリの青に近い。
「綺麗な海だな」
「そうね」
「はいですー」
(やっとついたんだな…)
俺は丘の上から南部都市バセナを眺めながら長い旅路だったなとの想いが胸を満たす。
またそれと同時に南部都市バセナでこれから経験するであろう生活を想い描いて胸がわくわくしているのも感じる。
俺達は緩やかな坂道を下り、旅の目的地である南部都市バセナに辿りついた。
時計をみると15時にもうすぐなるというころである。
街の人にきいた街道に近い宿屋につくと、俺は3ヶ月ほど馬車と馬を預かって欲しいと交渉をする。
粘り強く交渉した結果、前金として銀貨50枚を払うという条件で宿屋の主人との交渉が成立した。
それとは別に数日宿泊する部屋も確保できた。
部屋に荷物を置き、私服に着替えた俺達は夕方の南部都市バセナの通りを歩いて街の中心部に向かっていた。
「お疲れ様、ベック」
「ああ、いい条件で預かってもらえて助かったよ」
「でも結構お金かかったわね」
「まあ、お金が足りないようならクエストをやって稼げばいいさ」
「ずっと遊んでるわけにはいかないしね」
「仕事するです」
「あとベックは修行するとか言ってたでしょ?」
「あー、確かに俺だけがお荷物状態だからね、二人に追いつけるようにしないと」
俺は頭をかきながら答えた。
実際に旅の途中で経験した魔獣との戦闘ではサリスとアミの力による貢献度は著しかった。
二人の力に甘えている自分を変えたいと想っていた俺がいる。
「あせらずに、みんなで強くなっていけばいいのよ」
「そうかな?」
「父もいってたけど一人の冒険者として出来ることは限りがあるって、だからクランを組むんだって」
「そうだな」
サリスが俺にそういってくれるが、それでもサリスの背中を守るために強くなりたいと想う俺がいる。
せめて肩を並べて戦いたい、そういった想いだった。
アミが俺の背中を叩いて、前を指差す。
「あそこにあるのは不動産屋じゃないです?」
看板を見ると確かに不動産屋であった。
滞在中の家を確保したかった俺達は不動産屋を訪れた。
「いらっしゃいませ、もうすぐ閉店の時間ですが宜しいですか」
「ちょっと話を聞いたら店をでますのでご安心ください」
「どういったご相談でしょう」
「さきほどバセナに着いた旅の冒険者なんですが、3ヶ月ほど滞在できる家を探してまして」
俺達はそういって冒険者証を店主に提示した。
「港湾都市パムから来たのですか」
「ええ」
「偽造もないですし、その年でEランクということはそれなりに稼ぎもあるということですな」
「はい、バセナに滞在中も冒険者ギルドのクエストで滞在費を稼ごうと思っています」
「家賃の希望はどの程度をお考えで」
「一月あたり銀貨20枚が上限かと考えています」
俺は希望額を口にする。
宿に三人で二部屋確保して一月泊まる場合銀貨60枚はかかる。
三人一部屋で寝泊りするにしても銀貨30枚はかかる。
クエストで稼げばなんとかなるが、パムに帰る際の道中のお金を考えると出来るだけ節約したい。
主人が考え込む。
身元も明らかで稼ぎも心配ない。
しばし考え込んでいた主人が口を開く。
「管理を任されている家で心当たりがありますが、今日は遅いので明日ご案内しましょう」
「では、明日10時に来ます」
そういって俺達は不動産屋をあとにした。
「見つかりそうでよかったわね」
「まずは物件を見てみないとな。あまりに酷い家なら断ることいなりそうだし」
「まあね」
「部屋も多いといいです」
明日借家を見にいけるということで俺達はすこしわくわくしながら南部都市バセナの街の中心部に辿りついた。
通りを歩く人が多い。
かなりの賑わいだった。
俺達はカフェに入り、食事をとることにする。
メニューを見ると魚介類を使った料理がかなり多い。
せっかくなので三人とも魚をつかった料理を注文してみた。
俺は白身魚のムニエルにコーヒー。
サリスはキノコクリーム添えのスズキのポワレに紅茶。
アミはブイヤベースにミルク。
運ばれてきた食事を口にするが、どれも味は格別だった。
「ムニエルにかかっているトマトベースのソースが美味しいな」
「こっちのポワレの蒸し加減も程よくて魚の甘みが引き立ってるわ」
「スープが美味しいですー」
それぞれ感想を口にしながら食事を堪能した。
「バセナはパムと違ってニンニクやトマトを使ったものが多いし味をもう少し勉強したいわね」
「部屋を借りられたらサリスの料理も魚料理中心になっちゃいそうだな」
「お手伝いするです!」
俺達は食後のひとときを飲み物を口にしながら楽しくすごす。
明日からの南部都市バセナでの生活が今から楽しみだなと胸をわくわくさせる俺がいる。




