3-35 鍾乳洞
竜暦6557年11月25日
モタル村の食堂で朝食を注文する。
俺はハムとカブのキッシュにコーヒー。
サリスはカスレにホットミルクティー。
アミはカボチャとカブのポトフにミルク。
食事を食べながらキラースパイダーの件を話す。
「とりあえず糸対策にナイフはいつでも取り出せるようにしておこう」
「あと注意点はあるかしら」
「サリスは手足の切断を優先してね」
サリスが小さくうなずく。
「アミは敵を引きつけてくれれば、サリスが安全だよ」
「サリスの方を向かせないです!」
そういってアミがスプーン持つ拳をグッと握り締める。
「アミ、よろしくね」
「はいです」
「俺は槍で援護に回るよ」
「うん、お願い」
そこでふと援護方法について少し考える。
(マルチロッドと槍だけじゃ、援護の攻撃方法が少ないよな…)
そう思った俺は攻撃の幅を広げるためにどうすればいいかをサリスに相談してみることにした。
「サリス、俺の攻撃方法だけど幅を広げるにはどうすればいいかな?」
「前衛で戦うの?」
「うーん、さすがに前衛となるとサリスやアミほど動けないと思うんだよ」
「そうよね」
サリスがカスレを口に運んでいたスプーンを皿に戻す。
少しだけ考えていたサリスが口を開く。
「やはり遠隔武器かしらね、弓とか、もしくはスローイングダガーとか」
「どっちも訓練が必要だよね…」
「そうね、特に弓はかなり訓練しないと使いこなすのは無理でしょうね」
「スローイングダガーもあくまで牽制だよな」
「そうでもないわよ、毒薬やしびれ薬を刃につけて投げつけるとかって手もあるわ」
「なるほどな」
俺はその話をきいて討伐を有利に進めることが出来そうだなと考える。
「バセナで3ヶ月ほどクエストを適度に行いながら過ごす予定だから、遠距離攻撃の武器の修行でもやってみるかな」
「そういえばバセナでの宿はどうするつもりなの」
「気になるです」
俺も考え中の話題になったので今の時点での計画を話す。
「とりあえずバセナについたら宿屋に宿泊しようと思う」
「うん」
「そのときに長期で馬を預かってもらえないか交渉してみようと思ってるよ」
「でも飼葉代も結構かかるでしょ」
「長期ということで少しは安くならないか交渉してみるつもりさ」
「そうね」
ここまでの話をアミは黙って聞いている。
「あと宿屋に泊まってる間に、短期的に借りられる家がないか不動産屋にいってみようと考えているよ」
「そんな都合のいい物件あるかしら…」
「ずっと宿屋で過ごすより安いだろうし、是非とも見つけたいんだけどね」
「どうしてもって時は馬車で寝泊りしてもいいわよ、ベック」
「そういってもらえると嬉しいけど、まずは不動産屋を当たってからだね」
「わたしは二人におまかせです!」
「ありがとうね、アミ」
そこまで話を進んだところで食事を食べ終わる。
食後の飲み物をゆっくり味わってから俺達は食堂をあとにした。
モタル村を出て地図に示された洞窟を目指す。
1時間ほどかけて、ようやく目当ての洞窟が見えてきた。
「入口近くにキラースパイダーが潜んでいるから慎重に進もう」
二人は首を小さく縦に振る。
地面に4mほどの大きな穴が開いている。
その入口の奥に蠢くものが見えた。
(【分析】【情報】)
<<キラースパイダー>>→魔獣:アクティブ:闇属
Eランク
HP 164/164
筋力 1
耐久 1
知性 2
精神 1
敏捷 4
器用 2
(敏捷と器用が高めなのか)
俺は無言で二人に合図を送る。
キラースパイダーの死角をついて口の近くまで進んだ。
合図を出してアミとサリスが飛び出す。
アミが両手の盾を前に構え突進する。
いきなり現れたアミに対応が遅れたキラースパイダーが体を捻って尻をサリスに向けようとした時に横からサリスが足を狙って斬りかかる。
ザシュっという音ともに後ろ足が切断されアミを狙っていた尻がずれる。
そこから粘着質の糸が飛び出たがアミに当たることはなかった。
アミがキラースパイダーの前面に盾を構えながら進み、右手の篭手で思い切り顔面を叩いた。
キラースパイダーが思わずたたらを踏む。
サリスがその隙に手足を狙い斬りかかる。
俺もシェルスピアで手足の切断を狙い槍を振るう。
次々と手足を失い、最後はサリスが横から顔面に袈裟切りを放ち、キラースパイダーは絶命した。
やはり三人で挑めばそこまで脅威ではない魔獣だった。
俺は傷ついた右目を取り外し採取箱に収める間に、アミが胸のあたりからEランク魔石を回収した。
「これで討伐完了だな」
「じゃあ、あとはこの洞窟の調査ね」
「ああ」
俺とサリスは手馴れた様子で迷宮探探索と同じ用意をする。
迷宮灯をつけ、巻糸の端を入口近くの岩に結びつける。
あと腹止丸を取り出し三人で飲みほすとアミが驚く。
「サリスもベックも慣れすぎです!」
「迷宮に何度も足を運んだからかな」
「そうねー」
「でも装備が揃ってると普通の洞窟の調査でも役立つな」
「うん、準備しておいてよかったわね」
「すごいです!!」
準備が整った俺達は洞窟の中を進んでいく。
複雑に入り組んだ洞窟を慎重に10分ほど進むだところで大きな広場にいきついた。
そこの景色を見たサリスとアミが言葉を失った。
広場一面が鍾乳石に覆われている。
鍾乳石の表面が迷宮灯のあかりをうけてキラキラを輝く。
天井から鍾乳石がつららのように複数垂れ下がる。
床には石筍が複数立ちあがる。
二箇所ほど天井からの鍾乳石と石筍がつながった太い石柱も見える。
神秘的な光景が目の前に広がっている。
「やはり石灰岩洞窟だったか」
「石灰岩洞窟?」
「こういう石灰岩が溶けて出来た洞窟のことをそう呼ぶって本に書いてあったのさ」
「石灰岩って砕いて建築に使う白い粉の元になるやつ?」
「うん、壁に塗ったりしてるよね」
「あー、壁面いっぱいが白くなってるけど、あの粉と同じってことなのね」
「まあ、似たようなもんさ。こっちは自然が作り上げたものだけど」
いままで黙っていたアミが目を潤ませてながら声を振り絞る。
「…これって精霊が作ったものじゃないんです?」
「いや自然の力だな。石灰岩の成分は水に溶けやすいことがこの景色を生み出しているよ」
「…こういった神秘的な場所には精霊がいるって聞きましたけど…」
「うーん。たしかに荘厳で神秘的な景色だけど、精霊がいるかどうかはわからないな」
「…そうですか」
ちょっとアミが気落ちしていた。
聖地と共通する要素があるんじゃないかと思っていたみたいだった。
「でも本当に綺麗な場所ね」
「ああ、精霊が作ったといってもおかしくはないな」
「綺麗です」
俺達は濡れた鍾乳石に光が反射して神秘的な雰囲気が漂う綺麗な洞窟の内部を見てまわった。
「きてよかったわ」
「俺もそう思う」
「よかったです!」
「さてそろそろ戻りましょうか」
鍾乳石で覆われた大きな広場から立ち去ろうとしたとき広場の奥の壁の一部が小さく崩れおちた。
背後でガラガラッと音がしたので俺達三人は足を止め辺りを見回す。
「あそこ崩れてるです」
暗視の加護のあるアミが崩れた奥の壁を指差す。
俺達は慎重に崩れおちた場所までいくと崩落した鍾乳石の中に光る石を見つけた。
(【分析】【情報】)
<<精霊石>>
聖属
魔力 2000
耐久 不明/不明
(っ!なんだこの魔力!)
その光る石は含んでいる高い魔力によって自然と光を放っていた。
アミとサリスも、光る石を驚いてみている。
「えっと、どうやら魔力を多く含んだ石みたいだね」
「自分で光る石なんて…魔石じゃないんです?」
「違うみたいだな、魔石は魔獣から取れるけどここはただの壁だよ」
「理由はわかんないけど魔力が集中しちゃったのかしら」
俺は恐る恐る触ってみたが問題ないようだった。
「どうしようか」
「扱いに困るわね」
「精霊の欠片かもしれないです!」
「うん、アミのいうとおりかも…な」
ここが精霊に関係していると思っているアミはそう力強く主張する。
俺も分析結果で精霊と名が付いているのをしっているので、思わず頷いてしまったが分析のことは言えないので言葉を濁す。
「とりあえず俺が責任もってあずかることにしようか。アイテムボックスに保管しておくよ」
「それがいいのかしら」
「あとは正体が判明するまで他の人には公言しないようにしよう」
「そうね」
「はいです!」
「どこかに鉱物に詳しい人がいればいいんだけどな」
俺は手に持っている精霊石を布にくるんでアイテムボックスにしまった。
ちょっとしたハプニングが起こったが俺達は洞窟をあとにしてモタル村に辿りついた。
すぐに冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドの受付の男性に採取箱と依頼票を提出し、報酬として銀貨4枚を受け取る。
報酬を受け取った後に受付の男性に洞窟のことを少し聞いてみた。
「すいません、討伐後に洞窟の奥まで調査で入ったんですけど」
「珍しいな、あそこの奥まで入るなんて」
「ええ、綺麗な場所がありましたので満足しました」
「確かに魔獣さえいなければ綺麗で良い場所だな」
「そういえばあの場所って精霊と関係する伝承とかはないでしょうか?」
「精霊?」
「ええ、猫人族の仲間の子が、精霊が作った場所じゃないかっていうんですよ」
それを聞いて受付の男性は納得した。
「亜人族はああいった場所を神聖視するらしいし、そういう話なんだろうな」
「そこで、なにかこの地方に精霊に関する伝承や言い伝えがないかと」
男性は腕を組んで考え込むが、やはり思いつかなかったみたいだった。
「すまない、そういった話は記憶にないな」
「いえいえ、もしかしてという話だったので」
「そうか、何かあったらまた来てくれよ」
「はい、ありがとうございます」
そういって俺達は冒険者ギルドから外に出る。
アミが俺と受付の男性の話から、新しい展開がなかったことにガックリしていた。
「どこかに答えがあるかもしれないし、今後も機会があったらいろいろ調べてみよう」
「はいです!」
俺が励ますとアミが大きく頷く。
精霊石の謎に関しては、アミの為にもすぐに解明したいという思いがあった。
しかし、情報が少なすぎる。
これからかなりの時間をかけて調べるしかないだろう。
とりあえずは目の前の南部都市バセナへの旅路に集中することにしようと思う俺がいる。
2015/04/24 表現追加
2015/04/24 会話修正
2015/04/24 表現修正




