3-34 モタル村
竜暦6557年11月24日
俺達がカルオ村を出発して陽が中天に差し掛かるころ街道の景色が変わってきた。
草が少なく乾いた土が露出していた平野から、広大な枯れ草の覆う平野になっていた。
あと特徴的だったのは枯れ草の合間からたくさんの白い岩が転がるように存在している。
(岩陰とか枯れ草の茂みが厄介だな)
俺は休憩がてら馬車を街道の脇にとめた。
「ベック、休憩?」
「ああ、ちょっと岩場も目立つし休憩がおわったら隣に一人ついてくれ」
「はいですー」
馬に水を与えたあと、シートを広げてそこで休む。
陽の光が暖かい。
サリスが周りを見ながら呟いた。
「やけに岩が目立つわね」
「うん、そうだね」
「寂しいかんじです!」
「今の季節はアミのいうように枯れ草が多くて寂しい感じがするけど、夏場は緑の絨毯に点在する白い岩の対比がお互い引き立てあって良い景色になると思うよ」
「たしかに夏場は見ごたえありそうね」
薬草茶を味わい、夏場の風景を想像しながら景色を眺める。
休憩を終え、馬車を進ませると16時を過ぎた頃にモタル村に到着した。
予定していたより早く村についた俺達は、すぐに馬屋のある宿を見つけ宿泊交渉を行い二泊することにした。
ここの宿も素泊まりだけで、食事はカルオ村と同じく村にある食堂を利用して欲しいと言われる。
早く村につきすぎて夕食にするには時間が早かったため、俺達はそのまま冒険者ギルドに向かった。
Eランクの掲示板のクエストを確認する。
・ボア討伐 銀貨10枚
・キラースパイダー討伐 銀貨4枚
「特によさそうな依頼がないわね」
サリスがつぶやく。
金策としても手前のカルオ村でかなり稼げたので今はそこまで困っていない。
俺はどうしたものかと思案する。
「ボアやキラースパイダーの討伐だけで1日過ごすのはもったいないな」
「キラースパイダーって、どんな魔獣なの?」
魔獣図鑑のキラースパイダーを開いてサリスとアミに見せる。
「昆虫系の魔獣で、尻尾から出す糸で相手を拘束してから牙を突き立てて攻撃してくるんだけど」
「だけど?」
「ソロの冒険者が倒すのは厳しいけど、複数の冒険者で挑めば糸の対策が出来るのですぐに倒せちゃうのさ」
「キングワームみたいな糸です?」
「いや、細い糸って話で剣や解体用の大型ナイフなどの刃物ですぐに切断できるみたいだよ」
「なるほどね」
二人が顔を見合わせ納得する。
「明日そのまま出発すれば夕方には南部都市バセナにつくし、ここで二泊しなくてもいいかもな」
「そうね、ベック」
「とりあえず周辺に目新しい場所がないかだけ確認してみようか。それによって何もなければ明日出発するよ」
「はいです」
「それでいいわ」
冒険者ギルドの受付の男性が暇そうにしていたので話をきくことにした。
「すいません、南部都市バセナまで旅をしている冒険者なんですが、この辺りに景色が綺麗だったり変わった地形の場所だったりした所はありませんか?」
「うーむ、特にはないと思うな」
「そうですか」
「この付近にあるのは魔獣の住む洞窟くらいだしな。洞窟なんぞ珍しくないだろう」
「魔獣の住む洞窟ですか?」
「ああ、大地にぽっかり空いている穴をあけている洞窟でな、魔獣の住処になってるのさ」
「大地にあいてる穴をあけた洞窟はまだ見たことないですね」
「そうなのか?」
「ええ、山や丘などの岩肌の隙間にある洞窟は見たことあるんですけど」
「このあたりじゃ、大地にある洞窟がほとんどだな」
受付の男性の言葉が引っかかる。
「ほとんどってことは洞窟の数が多いんですか?」
「ああ、多いよ」
俺はその話からモタル村周辺の洞窟がカルスト地形の鍾乳洞であると確信した。
カルスト地形とは石灰岩を多く含む大地が雨や地下水などで侵食されてできた地形で、侵食の影響で鍾乳洞も形成するし、地表には侵食により残された岩が点在する。
日本で有名なカルスト地形といえば特別天然記念物にも指定されている山口県の秋吉台だろう。
興味が出てきた俺は受付の男性に洞窟の魔獣について話をきいた。
「さきほど洞窟に魔獣が済んでいるとおっしゃってましたけど」
「ああ、キラースパイダーという人を襲う魔獣さ。数は多くはいないが洞窟に隠れて近くを通る動物や人を襲うことがあるんだ」
「なるほど」
「この村の住人は、洞窟の入口に不用意に近づかないように常に心がけているから、ここ数年は被害は出てないがね」
受付の男性も俺も魔獣が人の生活を脅かしているという話に少し眉をひそめた。
「そういえば内部に人が入り込める大きな洞窟ってあるんですか?」
「ああ、あるけど今はいけないよ」
「なにか理由でも?」
「最近村人がその洞窟にいるキラースパイダーを見つけたばかりなのさ」
「あーー」
さきほど掲示板で見たクエストの経緯に俺は納得した。
俺は受付の男性に冒険者証を提示した。
「ん、えっ?Eランク!」
「はい、事情がありましてEランクに上がってまして」
「偽造はないようだね」
「明日、そのキラースパイダー討伐のついでに洞窟を見てきたいんですが…」
「討伐してもらえるなら歓迎だが、その若さでEランクなのか」
俺の年齢を気にしているようだったが、俺はサリスとアミにも声をかけ冒険者証を提示させた。
「ほう、Eランク冒険者が二人か、ならば反対は出来ないな」
「ベック、クエストを受けるの?」
「うん、キラースパイダー討伐を受けるよ。生息してる場所の洞窟を見てみたくてね」
「アミ、クエスト依頼票を持ってきて」
「はいですー」
アミがEランクの掲示板からクエスト依頼票をはがして持ってきたので受付に提示する。
「じゃあ、討伐証明にはキラースパイダーの目を回収して提示してくれ。あと旅の途中という話だったな。ちょっと待っててくれ」
男性は奥にいきモタル村周辺の簡易地図をもってきた。
「村人用の地図だが目標の洞窟の場所に印をつけておいたから、これを見て向かってくれ」
「はい、ありがとうございます」
俺達は地図を受け取り、冒険者ギルドをあとにした。
宿に戻る前に食堂によることにした。
「いらっしゃいませ」
モタル村の食堂はいたって普通のカフェだった。
メニューから食事を注文する。
俺はキノコとチーズのガレットにコーヒー。
サリスはハムとチーズのガレットにミントティー。
アミはボア肉とカブのキッシュにミルク。
食事を食べながら明日の洞窟の件を二人に話す。
「じゃあ、その洞窟は雨水で溶かされて出来た洞窟ってこと?」
「うん、この辺りの大地の土には水に溶けやすい成分が多いみたいでさ」
「よくそんな事しってるわね、ベック」
「う、うん。昔みた本に書いてあったんだよ」
「なるほどねぇ」
「溶けるとどうなるのです?」
「ああ、洞窟の中が特別な地形をしてるんだよ」
サリスとアミが特別という言葉に興味をしめした。
「普通の洞窟みたいに土壁があって奥まで続いてるんじゃないの?」
「人の掘った洞窟と違うからね、自然の造形美があるかもしれないんだ」
「造形美です?」
「まあ、そのあたりがあるかどうかも含めて明日は洞窟を見てこよう」
明日の鍾乳洞見学を考えてワクワクしながら美味しい食事を楽しんでいる俺がいる。
2015/04/24 会話修正
2015/04/24 単語修正




