3-32 カルオ村
竜暦6557年11月22日
「良くして頂きありがとうございました」
「ありがとうですー」
「本当にお世話になりました。ありがとうございます」
「また寄ってくれ。ではな」
俺達はそれぞれ長老のワイヴァと家族に挨拶をして、犬人族の里であるブラガ村をあとにした。
朝の冷え込みはきつかったが、陽の光が地表を暖めるせいで日中は過ごしやすい。
風も乾いており汗が出てもすぐに蒸発してしまう。
御者台に座り景色を眺めつつ街道を進むと山々が近づいてきた。
街道は山々の中に続いている。
(ここから山道か、周囲の警戒が必要だな)
馬車を止め室内にいたアミに声をかける。
「アミ、山道に入るから警戒をお願い」
「はいですー」
アミが御者台の隣に座る。
「ごめんな、ゆっくりしてたのに」
「大丈夫です!」
馬車を走らせて周囲を警戒しながら山道に入る。
上り坂になってる箇所で馬が大変そうに馬車を引っ張る。
あとで少し休ませる必要がありそうだった。
問題は下り坂である速度が出ると馬に負担がかかるので慎重に進める。
4時間ほどかかって、ようやく山道を抜け平野が目の前に広がった。
疲労した馬を休ませるために休憩をすることにした。
「きつい山道じゃなくて良かったな」
「そうですねー」
室内からサリスも出てくる。
「お疲れさま、次はわたしが御者するわ」
「そうしてもらえると助かるよ、サリス」
そういいながら俺は馬車の後部から桶を出し、馬に水を与えた。
アイテムボックスから方位計とドルドスの簡易地図を出し確認する。
「もう少し先がカルオ村だと思うけど、近ければいいな」
「すこし時間がかかっちゃってるわね」
「うん、急がないと」
サリスが水を飲む馬をみてから言う。
「馬も無理させちゃってるかもね、カルオ村では一泊はしたいわね」
「そうだな」
アミが薬草茶を水筒からコップにいれてくれたので飲み干す。
「アミ、ありがと」
「はーい」
しばし休憩をしてからサリスが御者、御者の隣は警戒の為のアミという布陣で馬車は進みはじめた。
俺は室内でドルドスの簡易地図を見ながら今後の予定を考えていた。
事前の情報だとバセナまで残り2つの村を通る。
馬を休ませなければいけないので次の村では、確実に二泊宿泊しなければならない。
(このままいくとパムを出て約1ヶ月で南部都市バセナにつくな…)
当初の考えでは寒い冬の間を南部都市バセナで過ごしたいと考えていた。
この日程だと3ヶ月ほどいることになる。
冒険者ギルドで生計を立てればなんとかいけるだろう。
問題は宿だった。
借りると高い、かといって家を買うのは有り得ない。
3ヶ月間過ごす家をどうするかをいろいろ考えるが答えが出てこなかった。
南部都市バセナに着いたあとの予定を考え込んでいると御者台のサリスから声がかかる。
「ベック、村がみえてきたわ」
「車窓から顔をだし先を見ると村が見える」
カルオ村についた俺達は村人に馬屋付きの宿屋を紹介してもらう。
宿の前に馬車をとめ、俺は宿の受付の男性に話しかける。
「いらっしゃいませ」
「二泊お願いしたいんですが」
「はい、まずは表に馬車が見えますが、馬車は馬屋でお預かりします」
「宜しくおねがいします」
「あとお部屋はどうしますか?
「二人部屋を二部屋用意できますか?」
「大丈夫です。その場合馬車の預かりも合わせて二泊で合計銀貨6枚になります」
無難な値段なので宿代を払う。
「食事については、ここでお願いできます?」
「いえ、宿に厨房がありませんので、宿の向かいにある食堂を利用していただけないでしょうか」
「では、そこで食事をとることにします」
宿の主人から101号室と102号室のカギを受け取り、馬車を主人にあずける。
サリスとアミと俺はそれぞれ部屋に行き私服に着替えて、宿の向かいの食堂に向かった。
食堂に入ると元気な女性の声がかかる。
どうやら店主のようである。
「いらっしゃい!なんにしましょ」
見ると食堂に併設して食材も売っていた。
「すいません、宿に泊まっているのですがこちらで食事を取れると聞いて…」
「ああ、食材を求めにきたんじゃなくて食事の注文だったんだね」
そういって店主が店の奥のテーブルに案内してくれた。
「えっとメニューは」
「日替わりで銅貨20枚でオススメ料理をだしてるんだけど、それでいいかい?」
「では、それでお願いします」
店主が店の厨房に消えていく。
「食材屋兼料理屋か」
「食材の管理も出来るし理にかなってるわね」
「お腹がすいたですー」
しばらく待っていると店主が料理をテーブルに運んできた。
「ボア肉のソテーのラタトゥイユ添えとバゲットだ、熱いうちに召し上がれ」
塩コショウして表面をカリカリと焼き上げたボア肉に野菜をたっぷり使ったラタトゥイユが添えられている。
カットした肉の上にラタトゥイユを乗せてから頬張ると口の中に肉汁と野菜から出た甘みとコクが広がっていく。
またニンニクとオリーブオイルの香りが混ざり合いって鼻から抜け出ていくが、脳の食欲中枢を刺激する香りだった。
店主のオススメ料理と言うだけあって本当に美味しかった。
サリスとアミも美味しそうに食べている。
食事を堪能した俺達はテーブルで出された薬草茶を飲みながら余韻を味わっていた。
店主が食材の並べ替えをしていたので、俺はこの辺りの特産や名所を教えてもらえないかとたずねてみた。
「特産はニンニクやトマトやオリーブオイルだね、街からも買い付けにくるほど絶品だよ」
「街というとバセナですか?」
「そうだね、定期的に買い付けに行商人がやってくるよ」
「なるほど」
「名所はどうでしょう」
「見るといっても村の周辺にあるオリーブ畑とかかね」
「そうですか、お話ありがとうございます」
俺は店主に礼をいう。
店を出て宿の部屋に戻った俺はサリスとアミの部屋を訪ねて、明日は朝早くからカルオ村の冒険者ギルドに行くことを告げた。




