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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
少年期【バセナ旅行編】
77/192

3-31 ブラガ村

 竜暦6557年11月21日


 田園都市マレストを出発して半日、馬車はようやく丘陵地帯を抜けた。

 草が少なく乾いた土が露出し、ところどころに低木が生えている平野が目の前に現れる。

 御者台の隣にいるサリスが呟く。


「風の雰囲気がすこし変わったかしら」

「そうだな、乾いた風ってやつだと思うけど」

「へぇー」

「ドルドスの南部地域の気候は適度に一年を通して暖かく、乾燥していて雨が少ないって本に書いてあったな」

「父と兄がバセナに行くのを進めたのも理解できるわね」

「ああ、冬に過ごすには快適な場所だな」


 乾いた風が頬を撫でる。

 陽射しはそこまできつくなく暖かくて心地よい。


「次の村に宿があればいいけど…犬人族の里だったわよね?」

「ブラガ村だけど犬人族の里なら宿がない可能性は高いな」

「馬車泊と思っていたほうがいいのね」

「そうだね」


 先を見ると良い感じの木陰がある。


「ちょっと休憩しようか」

「いいわね」

「アミ、休憩するぞ」

「はいです」


 室内にいたアミに声をかけると元気な返事がかえってきた。

 木陰に馬車を止め、馬に桶の水を与える。


「昼もここで食べようか」

「そうね。朝作ったサンドを出すわね」


 そういってサリスがランチボックスを取り出す。

 出発前に宿の厨房で作っていたバゲットサンドだ。

 具材はチーズとハムにバジルソースをかけたシンプルなものだが、ソースの隠し味につかっているフルーツビネガーがさっぱりした風味を出していて口の中に美味しさが溢れる。


「旅に出てからサリスの料理の腕は格段に上達したな」

「イネス義母様もおっしゃってたけど食べてもらえる相手がいれば上達するそうよ」

「なるほど、たしかにそうだね」

「美味しいですー!」


 アミが美味しそうにバゲットサンドを頬張り、咀嚼するたびに尻尾が動く。


(無意識に尻尾が動くほど美味しいのか…)


 そんなことを思いながら昼食が進んでいく。

 お腹が膨れたところで、馬を見ると馬も十分休憩できたようで顔を持ち上げていた。


「さて出発するか。アミ、御者お願いできるかな?」

「大丈夫です!」

「じゃあ、室内で少し休ませてもらうよ、サリスはどうする?」

「うーん、アミの隣で周囲を警戒してるわ」

「了解、じゃ行こうか」


 アミが馬車を操作し、先を目指す。

 乾いた風の流れる平地の街道を馬車で進み、4時間ほど経ったところでブラガ村が見えてきた。

 村に入るとアミが宿屋の場所を村人に聞く。

 すると村人が慌てて駆け出した。


「ん?どうした」

「なにかアミを見たとたんに村の人が待っててくれといって飛んでいったのよ…」

「えっ」


 アミも困惑した顔を見せている。

 とりあえず御者には俺がつくことにした。

 村の入口で待っていると犬人族の村人数人と初老の男性がやってくる。


「ブラガ村にようこそ。長老のワイヴァですじゃ」


 犬人族の初老の男性が長老と名乗るので、俺達も名前を告げることにした。


「旅をしている冒険者のオーガント・ベックです」」

「ベックと交際している冒険者のマリスキン・サリスと申します」

「冒険者のムイ・ネル・アミです。よろしくです」


 そういって俺達が案内すると長老のワイヴァが口を開く。


「他の亜人族が訪れるのは久々でな、アミさんは猫人族じゃろう」

「はい」

「もし良ければ家に泊まっていって欲しいのじゃ、どうじゃろう」

「お邪魔でなければ…」

「では、こちらへどうぞ」


 長老の家へ招待された俺達は馬車で家の前までいく。


「馬車はそこに置く場所があるので、置いてもらってかまわんよ」


 見ると長老の家の脇に馬車を止める場所があった。

 行商人の馬車を止めるための場所らしい。

 馬車を止め馬を馬房に入れる。

 それから三人で長老の家にお邪魔すると奥さんと思われる方と小さな男の子が出迎えてくれた。


「今の時期は出稼ぎにいっとるもんが多くてあまり良い振る舞いも出来ず、すまんのう」

「いえいえ、家に招いていただいただけで、とてもありがたいです」

「ありがとうございます、ワイヴァさん」

「ありがとうです」

「そういってもらえると助かるのう、こっちはワシの妻のエーハと孫のビュタファじゃ」


 紹介された家族にも俺達は挨拶をした。


「しかし旅の亜人族がくるとは珍しいのう、よければ話を聞かせてもらえればありがたい」


 そう長老がいうとアミが緊張しながら話し始めた。


「えっとドルトスの北方にあるアンウェル村が出身なんですけど…ご存知でしょうか?」

「行商人から話では聞いたことあるのう」

「そこの村からパムの迷宮に挑戦にきたときにお二人に出会って…それでバセナまでの旅に付き合うことになりまして」

「なるほど、そういった事情じゃったか。心配することではなかったということか」


 俺はその言葉に疑問を抱き、長老に質問した。


「心配とは?」

「ああ。なんといったらいいもんか…」


 アミが長老が言いにくい事に気付いたようで俺に話してくれた。


「亜人族の村が消えたのではという心配だと思います…」

「あっ、そういうことですか」

「うむ、言いにくいことじゃが亜人族は子供が出にくいからのう。中には子が出来ずに村を放棄して放浪をすることになる亜人族もおってな」

「厳しいですね…」

「ここの里は、村人も多く安定しているのだが…アミさんの村が大丈夫そうで安心じゃ」

「放浪した亜人族の方はどうなさるんですか?」


 サリスが不思議そうに聞いてきた。


「同族を探して各地を旅するか、あとは人族の間でひっそりと暮らしていくということになるのう」

「そうでしたか」

「なので亜人族同士、里にくる際には歓迎するのが習わしなのじゃよ」


 そういって長老は寂しく笑う。

 出生率の低さが解決されない限り、この問題は亜人族にとっていつまでも付きまとう話題なのであろう。


「さきほど出稼ぎといっしゃってましたが、田園都市マレストであった犬人族の冒険者の方々は、こちらの方々なんですね」

「うむ、ここより稼ぎがいいのでな」

「アーラもそういってたわね」

「言ってたですー」

「ほうアーラを知っておるのか」

「冒険者ギルドで会いまして、少しお話をしたんですけど」

「そうかそうか、あの子は元気じゃったか」

「はい」


 長老と話をしていると奥さんのエーハと孫のビュタファがテーブルに食事を運んできた。


「たいした食事は出せんが勘弁しておくれ」

「いえいえ、ありがとうございます」


 皿には各種の野菜や香草を葡萄酒で煮込んだ料理が盛られていた。


「香草の香りが食欲をそそりますね」

「いい香りね」

「匂いはいいですー」

「ふぉふぉ、野菜のラタトゥイユじゃよ、このあたりの郷土郷里じゃ」


 口に運ぶと野菜の旨みが凝縮されていて非常に美味しい。

 一緒にだされたカンパーニュをちぎって一緒に食べると食が進む。

 俺達は美味しい郷土料理に舌鼓をうった。

 食事も終わりゆっくりしたところで俺はブラガ村周辺の話を長老のワイヴァに聞いてみた。


「ブラガ村には冒険者ギルドはありますでしょうか?」

「あるにはあるが、今はみな田園都市マレストに出かけておるよ」

「あまりこのあたりには魔獣が出ないのですか?」

「出てもFランクまでの魔獣だしのー。村に残ったもんで倒せてしまうのでな」

「そうでしたか。そういえば精霊神の加護で嗅覚がいいと聞きましたが…」

「うむ、追いかけて狩るのは得意じゃよ」

「なるほど、さすがですね」


 その話をしていると孫のビュタファが話しに加わり自慢する。


「ラットあたりなら僕でも取れるよ」

「すごいなー」

「うん!」


 ビュタファがにっこり笑う。

 年は5歳か6歳くらいだろう。

 この年で既に魔獣の狩りをしているのだ、しっかりしている。

 アミも同じような環境だったのかなと少し興味を覚えた。

 アミのことを考えたついでに、アミから以前きいた話をきいてみた。


「そういえば、アミから猫人族の聖地の話を聞いたのですが、犬人族の里でも聖地の話はあるんですか?」

「ほぉ、面白い話をしっとるのう」


 孫のビュタファが祖父である長老のワイヴァに質問していた。


「お爺ちゃん、聖地ってなに?」

「そうじゃのう、昔わしらの遠い先祖が精霊神と契約を結んだ地のことじゃよ」

「契約?」


 俺はその言葉におもわず食いつく。


「特別な力の加護を得る際に契約を交わしたという話じゃ」

「その契約の代償が、子を生し難くするという事ですか…」

「うむ、しかしその力のおかげで危機を乗り越えたと伝えられとるよ」


 俺は腕を組んで考える。

 昔、危機がまず訪れた、それに対抗するために力を得る契約を結んだ。その契約で出生率が低下した…

 まず危機ってのが気になる。

 出生率が下がることも止むを得ない危機ってなんだろう…

 魔獣の侵攻?

 でもその場合は、対抗が難しいなら逃げるという手もある。

 何かが引っかかるがこれ以上は分からない。

 俺が考えてると、それまで黙っていたアミが長老に質問する。


「えっとワイヴァさんは聖地の場所をご存知ではないですか?」

「ふむ、聖地の場所の話はわからんのう。すまなんだな」

「いえ、私の村でもわからないという話でしたので…」


 アミががっくりと肩を落とす。


「ただし」

「ただし?」

「他の国の亜人族の村では、言い伝えが残っておるかもしれん。行ったことはないが文化も風習も違うじゃろうし、どういった形で残されてるかはわからんがな」

「あ、ありがとうございます」

「いやいや」


 そこまで話が進んだところで奥さんのエーハさんが薬草茶を運んできた。

 薬草茶で一息ついたところで話題を変えて、この辺りの特産品や名所がないか聞いてみた。


「特産品はオリーブの樹かのう。オイルが実から取れるんじゃが」

「なるほど、この辺りの交易品なんですね」

「うむ、南部都市バセナから船を使って交易しとるという話じゃ」

「出来立てのオリーブオイルって美味しそうね」

「さきほどのラタトゥイユでも使っておるよ」


 そう長老がいうとサリスが食いついてきた。


「それであの風味が出ていたんですね!」

「うむ、他にもこの辺りで取れるニンニクを加えておるよ」

「ニンニクもこの辺りですか」

「うむ、この村では売るほどたくさん取れないがな、バセナまでいけばたくさん売っとるじゃろう」


 オーリーブオイルにニンニクか、料理の幅がひろがる組み合わせだなと思う俺がいる。


「名所についてはどうでしょうか?」

「乾いた土地じゃから、特に見るような場所はないのう」

「そうですか…」


 少し気落ちしたが、それでも十分貴重な情報は得られた。


「そういえば明日はどうするつもじゃろうか」

「とりあえず次の村に向かってみたいと思います」

「そうかそうか。今日は、いつも客人をもてなすために用意している部屋があるんで休んでおくれ」

「部屋をご提供いただき、ありがとうございます」

「ありがとうです」

「ありがとうございます」


 俺達は礼を述べ、それぞれ個室に案内された。

 狭いがベッドもあり不自由な感じはしない。

 あと数日でバセナに着くなと思いつつ俺はベッドに横になり、すぐに夢の中に運ばれた。


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