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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
少年期【バセナ旅行編】
75/192

3-29 オーガ

 竜暦6557年11月19日


 目の前が真っ白だという感覚がおぼろげにある。

 何かの音が聞こえるという感覚がおぼろげにある。

 瞼を開けようとするが体が動かない。

 起き上がろうとしても体が動かない。

 サリスの顔がちらちく。

 魔獣の姿がちらつく。

 葡萄畑がちらつく。

 アミの顔がちらつく。

 頭が働かない。

 体のスイッチが入ってない。

 頭の中でスイッチを探そうとあがく。

 なかなか見つからない。

 あがいていると徐々にだが呼吸とともに胸が動く感覚を感じてきた。

 鼻や口から空気を通る音が次第に大きく聞こえてきた。

 何かを叩く音がハッキリと聞こえてきた。

 瞼をあけようとするが、周囲があかるくて薄目になってしまう。

 声を出そうとするがうまく出ない。

 誰かが俺の名前を読んでいるのが聞こえてきた。

 サリスの声だ。


「ベック、もう朝よ」


 サリスの声と分かった瞬間、あれだけ探していた頭の中のスイッチが目の前に現れた。

 俺は薄目を手でこすり、無理やり覚醒しようと頑張る。


「っふぁぁぁぁっ」


 大きなあくびが口から出る。

 ベッドの中で腕を伸ばし硬直した体をほぐそうとする。


「…ごめん、いま起きた」


 俺は何とか目覚めてドアの外のサリスに話しかける。


「起きたようね、食堂で待ってるわよ」


 そういってドアの前から人が離れていく気配がする。

 俺はベッドから起き上がり、覚醒しきれていない頭で装備に着替えていく。

 足元の確認がおろそかだったが、のろのろと歩き食堂に向かった。


「ベックさん、遅いです!」

「夜更かししてたの?ベック」

「…ごめん、そんな感じ…」


 まだうまく言葉がでてこないので、なんとか搾り出す。

 椅子に座ってボーっとしているとサリスが紅茶をいれたコップを目の前においてくれた。


「寝起きでまだ寝惚けてるみたいね」

「…うん、もうちょっとまってて」

「じゃあ、アミ。私達だけで先に食べていましょ」

「はいですー」


 サリスとアミが美味しそうにカスレを食べている。

 次第に意識がハッキリしてきたので紅茶を一口のむ。

 ホっとする。


「ごめん、まだボーっとしてるけど大丈夫かな、なんとか目覚めたよ」

「珍しいわよね、ベックが寝坊とか」

「ですです」

「ちょっと寝る前に記事を書くのに夢中になっちゃって…ごめん」

「いいのよ。それより食事冷めちゃうわよ」


 そう言われて俺もカスレをゆっくりと味わう。

 寝起きの体に優しい味だ。

 朝食を食べ終えたところで完全に覚醒した俺がいる。


「ごめん、ようやく目覚めたよ」

「よかったわ」

「今日はクエストに行きたいけどボアかブラウンベアにしようと考えてるから、そのつもりで」

「うん」

「はいです!」

「じゃあ行こうか」


 俺達は宿を出て冒険者ギルドに向かう。

 朝のギルドがいつも以上に騒がしい。

 それに犬人族の冒険者の姿も多い。


 Eランクのクエスト掲示板を見ると理由がわかった。


 ・【緊急】オーガ討伐    銀貨40枚


 新しく緊急クエストが発行されているのだ。

 冒険者ギルドにあつまっているのは地元の精鋭の冒険者だろう。

 俺達はとりあえず予定どおりボアかブラウンベアのクエストをやろうとEランクのクエスト掲示板を見るとブラウンベア討伐のみがあったのでボア討伐は諦める。

 ブラウンベア討伐の依頼票を受付の男性に渡す。


「ブラウンベアの1匹討伐。毛皮と肉を採取箱に入れて提出してほしい。場所は南東の林になるがオーガ出没の話があるので注意してくれ」

「オーガですが今集まってる地元の冒険者が討伐対を組んでいるようですけど…」

「ああ、昨日犬人族の少女も襲われたということで犬人族の冒険者を中心に集まっているのさ」

「リベンジですか…」

「まあな、同族が襲われたのだ。それなりに怒りを覚えたものも多いのだろう。特に亜人族は仲間を大切にするのでな」


 亜人族の出生率の低さを考えると仲間を大事にするのは当然といえる。


「でも、オーガも今日中に討伐されるだろうな」

「えっ?」

「昨日襲われた現場で被害者の出血の跡がまだ残っているようだし、オーガも返り血を浴びてるなら討伐も時間の問題だろう」

「もしかして犬人族の加護が関係しています?」

「ああ、君達は知らないのか、彼らは加護で嗅覚が優れていてね。匂いをたどって獲物を追うことが出来るんだよ」

「それは凄いですね!」

「難点もあるけどな、水の中や、より強烈な匂いが近くにあったりすると匂いが掻き消されてしまうんだ」

「あー」

「まあ、オーガの件は、じきに片付くと思うけど南東にいくなら注意してくれ」

「はい」


 俺達は冒険者ギルドを後にして田園都市マレストの南東を目指す。

 2時間ほど進むと目的の潅木の林が見えてきた。


「さてブラウンベアを探そう」

「わかったわ」

「はいです」


 慎重に潅木を掻き分けてブラウンベアを捜索する。

 2時間ほど捜索するとアミが樹につけられてた爪あとを見つけた。


「ブラウンベアの爪あとです」

「なにか食料でも樹に登って採ったのかな?」

「これは縄張りを示すマーキングですー」

「なるほど、近くにいるってことか」

「はいです。もっと慎重にいきます」


 俺達は周囲の警戒を続けながら林を捜索する。

 しかしなかなかブラウンベアが見つからない。

 俺が時計を見ると15時を過ぎていた。


「そろそろ戻る時間だな…。残念だけど今日はここまでで捜索を打ち切ろう」

「仕方ないわね」

「しょうがないさ」

「明日最終日よね?」

「明日も見つからなかったら違約金を払うことになるがブラウンベアは諦めよう」

「うーん」

「まあ、明日みつかることを願って今日は退散だ」

「はいです」


 俺達はブラウンベアを見つけることが出来ずに、そのまま田園都市マレストに戻った。

 宿に向かおうと通りを歩いていると冒険者ギルドの前が騒がしい。

 のぞいてみると討伐されたオーガが荷車の荷台に載せられていた。

 近くにいた冒険者ギルドの職員に話しかける。


「オーガの討伐に成功したんですね。おめでとうございます」

「ああ、追跡に時間がかかったらしいが大勢で取り囲むことに成功してね」

「知性があって逃げる魔獣は厄介ですからね、本当に倒せてよかったですね」

「しかし根城にしていた場所で被害者の装備も見つかってな…、いま持ち主の特定を進めているところさ…」

「…そうでしたか」

「被害者は出ていたが早く倒せて良かったということさ」


 そういって苦い顔をしながら職員が笑う。

 素直に喜べない気持ちが滲み出ている。

 俺達はそんな騒ぎの起こっている冒険者ギルドの前が離れた。


「昨日の魔獣が無事に討伐されてよかったわね」

「ああ、そうだな」


 魔獣のせいで亡くなっていた被害者の事や負傷したアーラの姿が頭をよぎる。

 サリスとアミも俺と同じような気持ちなのだろうか。

 三人とも無言で宿に向かう。

 宿の前までくるとサリスが口をひらく。


「今回討伐したのは精鋭の冒険者達だし、私はいつか父や精鋭の冒険者達みたいに強くなりたいわ…」

「強くなりたいですー」

「なにかを守るためには力が必要か…」


 俺達は宿に戻り夕食を食べた後、それぞれ自分自身の強さを見つめなおした。

 田園都市マレストの六日目の夜は強くならなければと決意する若者達の姿を包み込みながら更けていく。


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