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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
少年期【バセナ旅行編】
74/192

3-28 城砦

 竜暦6557年11月18日


 普段から着慣れている冒険者装備を身にまとい俺達は三人は田園都市マレストの外に出た。

 目指すのは東にある城砦の跡地だ。

 黄金色に色づく葡萄の葉が風で揺れる丘陵地の葡萄畑を三人でのんびりと歩く。


「見渡す限りの黄金色か、綺麗だな」

「そうね、こんな場所があったのね」

「もう少しすると落葉しちゃうから本当にいい時期に来たのかもな」

「今度は葡萄が採れる時にきたいですー」


 葡萄畑の先の丘の上に高さ5mほどの石造りの城砦の跡地が遠くに見えてきた。

 近寄ってみると巨大な構造物であるのが分かる。

 幅も長さも80mほどの正方形の防壁が取り囲む姿は威風堂々としていた。


「想像していた以上に立派な砦だな…」

「入口はあそこかしら」


 サリスが防壁にあるアーチを指差す。


「みたいだね。入ってみようか」


 中に進むと広い空間に小屋が点在している。

 この城砦の近くの葡萄畑の農家が農機具を置いているようだった。

 奥を見ると防壁の上に昇る階段が見える。


「あそこに階段があるから防壁の上に昇ってみようか」

「そうしましょ」

「はいです」


 俺達は高さ5mほどある防壁の上にあがると、壁の上を歩くための幅3mほどの通路を目にした。


「ここから城砦の外の敵を攻撃してたんだな…」

「すごいわね、景色…」

「綺麗ですー」


 俺はサリスとアミの言葉で視線を遠くに移すと眼下に、なだらかな丘陵地帯一面を覆いつくす光り輝く黄金色の葡萄畑が広がっていた。


「「「…」」」


 三人ともその神々しい雰囲気のある景色をただ黙って眺めていた。

 人の営みによって生み出された畑が見せる表情なのだが、それにしても荘厳な雰囲気があり綺麗だった。


「この時期にしか見れないわね、この景色」

「そうだね、みんなで旅に出てよかったよ」

「サリスとベックと来てよかったです!」

「同行してくれてありがとな、アミ」

「そうね、アミありがとう」

「えへへ」

「折角だし、ここでランチにするか」

「いいわね」

「はーい」


 俺は防壁の上の通路にアイテムボックスから取り出したシートを敷く。

 アミは水筒から紅茶を取り出しコップに入れれてくれる。

 サリスはアイテムボックスから大きなランチボックスを取り出し蓋を取る。

 朝から時間をかけてサリスが料理を作っていたけどかなりの量のバゲットサンドが入っていた。


「美味しそうなバゲットサンドだな」

「美味しそうじゃなくて美味しいわよ」


 そういってサリスが笑う。

 肉の挟んでいたサンドに手を伸ばし口に運ぶ。

 昨日食べたツーヘッドダンドのお肉をソテーしてバゲットに挟んであった。

 肉汁が美味しい。

 噛むたびに肉汁があふれる。

 ついつい夢中で食べてしまい、あっという間に胃袋におさまった。


 アミを見ると別の具材が挟んでいるサンドを食べていたが、頬が落ちそうな笑顔で頬張っている。

 サリスを見ると自分で作った料理の味を確かめながら美味しそうに食べている。

 空は青く澄み渡ってる。

 頬を撫でる風はちょっと冷たいが陽の光のおかげで心地よい。

 小鳥の鳴く声がかすかに聞こえる。


 心が満たされていく。

 やっぱり旅っていいな

 ふと以前、本で読んだ童話作家のアンデルセンの残した格言が頭に浮かぶ。


『旅は私にとって精神の若返りの泉である』


 この格言の通り、旅があれば俺はいつでもドキドキできる。ワクワクできる。ウキウキできる。

 もっと旅を楽しむためにも毎日一所懸命この世界で頑張ろうと思う俺がいる。


 陽も傾いてきたのでランチを終えて街に戻ることにした。

 俺とサリスとアミが並んで葡萄畑に挟まれた農道を街に向かって歩いていると100mほど先の道に転がり出てくる人陰が見えた。

 道に人が転がり込む状況を目にした俺達は、すぐに異常が発生したと悟り身構える。


(【分析】【情報】)


 <<アーラ>>→犬人族女性:10歳:冒険者

 Fランク※

 HP 97/141

 筋力 2

 耐久 8

 知性 2

 精神 2

 敏捷 2

 器用 6

 <<装備>>

 スナイプボウ

 ハンターヘッドバンド

 ハンタージャケット

 ハンターアームガード

 ハンターレッグガード


(アーラだ、しかも体力が減ってる!)


「怪我をしてるみたいだ!救出するぞ」


 俺のその言葉にサリスとアミが農道を駆け出した。

 援護するためにマルチロッドを構えたところで視界に魔獣が見えた。

 道に倒れたアーラを襲おうと葡萄畑の垣根から出て姿を見せたのだ。

 しかし駆け寄ってくるサリスとアミに気付いた魔獣は即座に逃走を始めた。

 俺は逃げ出した魔獣に対して咄嗟に分析を行った。


(【分析】【情報】)


 <<オーガ>>→魔獣:アクティブ:闇属

 Eランク

 HP 154/168

 筋力 4

 耐久 6

 知性 4

 精神 4

 敏捷 2

 器用 1

 <<装備>>

 ハチェット

 レザージャケット

 プレートレッグガード


(!!!)


 俺は唖然としたオーガが防具を着ている。

 上がレザー、下がプレートということは最低でも2名の被害者が出ている…

 サリスとアミがアーラの元に駆け寄った時にはオーガは葡萄畑を横切り林の中に全速力で駆け込んでいた。

 俺も走ってアーラの元に向かう。

 サリスとアミは知っている冒険者が負傷していることに驚いていた。


「アーラ大丈夫?」

「助かった…のか…」


 俺達の姿をみて左腕から血を流していたアーラが助かったことが信じられない状況に言葉を失っていた。


「魔獣は逃げたよ。アーラは助かったんだ」

「よかったですー」

「とりあえず傷の手当をしましょう。アミ、水で傷口を洗って」


 サリスが手際よくアミに指示して傷の手当を行う。

 俺はアイテムボックスから回復薬を取り出しアーラに飲ませた。


「よし応急処置はこれでいいだろう、アーラ歩けそうか?」

「足は負傷してないし歩けるよ。あと傷の手当ありがとう」

「困ったときは助け合うのが冒険者だろ」

「そうだったな」


 そういってアーラが気丈に立ち上がり歩き始める。

 心配したアミが肩をかしてあげてる。


「しかし無事でよかった」

「本当にありがとう、サリスたちが来なければ俺死んでたかも…」

「ベック、あの魔獣って…」

「ああ、あれはオーガだな」

「やっぱり…」


 サリスの顔が少し曇る。装備を着てたのをサリスも気付いたのだ。

 街に戻る途中、アーラにオーガに襲われた状況を聞いてみた。


「ワイルドラットを狙おうと弓を構えたときに、いきなり横から襲われて逃げ出したんだけどな」

「そうか」

「葡萄畑の垣根に身を隠していたのね」

「状況は思っていたより深刻だな。既に被害者が出ているのが分かったし」

「え?」


 アーラが驚く。

 気付いていないようだった。


「装備を着ていたからね、襲った冒険者か農夫から装備を剥ぎ取ったと考える必要があるんだ」


 そういって聞かせるとアーラは襲ったオーガの姿を思い出しハッとした。


「…すでに被害者が出てるのか…」

「とりあえず戻って冒険者ギルドに報告だ。これ以上被害を出したらまずい」

「そうね」

「「…」」


 サリスは返事が出来たが、Fランク冒険者のアミとアーラは事態の深刻さに言葉が出なかった。

 田園都市マレストに辿りついた俺達4人は、すぐに冒険者ギルドに向かい冒険者ギルドの職員にオーガで被害が発生しているという経緯を話した。


「今回はマレストの冒険者を助けてもらって本当にありがとう」


 職員が頭をさげて礼をいってくる。


「まだオーガは討伐されていませんし、お礼はあとで結構です」

「そうか、では緊急で通達を出すので私は失礼するよ」

「はい」


 そういって会議室から退出する。


「俺達は宿に戻るがアーラも怪我をしてるんだし今日は家でゆっくり休めよ」

「おう、ありがとな!」


 アーラの調子が出会った頃のような元気な口調に戻っていた。

 精神的に強いなと感心した。

 やるべきこと、伝えることは終わったのだ。

 あとは優秀な冒険者に任せるしかない。

 アーラと俺達は冒険者ギルドの前で別れた。

 宿に戻るとサリスとアミがぐったりしてる。


「ピクニックは楽しかったけど、余計なイベントがあったわね…」

「ですー」

「たまたま俺達がいてアーラも無事だったし結果的には良かったのさ」

「とりあえず夕食にしましょうか」

「ランチがまだ余ってたよな?」

「ええ、まだ残ってるし食べちゃいましょうか」

「はいですー」


 俺達はランチの残りを食堂で食べて腹を落ちつかせた。

 まだ寝るには早い時間だ。

 俺はアイテムボックスからトランプを取り出し遊ぶかどうか聞くとアミが首を大きく縦に振る。

 その姿はサリスも一緒に付き合わざるをえない状況を作り出す。

 俺の部屋に移動し、新しいゲームを二人に教える。


「今日は7並べを教えようか」

「7並べ?」

「まずカードを順に配る」

「手札の中に7のカードがあったらテーブルの上に出してね」

「2枚あったですー」

「私はないわね」

「俺も2枚あったから出すよ」


 俺は場に出された7を縦に並べる。


「順に手持ちのカードから7につながる同じマークの数字のカードを出して並べていくんだ」

「最初は6か8のカードってこと?」

「うん。まずアミからね」

「私はスペードの6のカードあります!」

「じゃあそのカードをスペードの7の隣に並べてね」

「はいですー」


 アミがスペードの6を場に出して並べた。


「次はサリスだね」

「私は置くカードがないわ…」

「そしたら次の人にパスをするんだ。ちなみに一人三回までパスは出来るよ。三回パスした人が場にカードが出せないと負けね」

「…なるほど奥の深いゲームね」

「運の要素も絡むけどね」

「そっか」

「一番早く手持ちのカードがなくなった人が勝ちだよ」


 そういってサリスがパスをしたので俺はハートの6を場に出す。

 順に手札を並べてカードを場に出していきゲームが進む。


「やったですー」


 アミの手札が一番早く無くなった。アミの勝ちであった。


「おめでとう、アミ」

「わーい」


 アミが嬉しそうにはしゃぐ。

 田園都市マレストの五日目の夜はトランプのゲームを楽しむ声で更けていく。


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