3-27 ツーヘッドダンド
竜暦6557年11月17日
Fランクのクエスト掲示板からツーヘッドダンド討伐の依頼票を剥がすと昨日あった犬人族の少女であるアーラが声をかけてきた。
「よう、今日はFランククエストか」
「そうよ、ちょっとツーヘッドダンドのお肉が欲しいって話になったの」
アーラの質問にサリスが答える。
「サリスが調理したいって言いだしてね」
「ツーヘッドダンドのお肉かー。あれは美味しいからな」
「食材店で値段みたら高くてビックリしちゃったわ」
「まあ、倒すのが厄介だからな。ん?誰も弓もってるように見えないけど大丈夫か?」
「ああ、放出系マジックアイテムがあるんだ」
「うはー、さすがEランクだな!高いだろ、アレって」
「まあ、そうだな」
「稼げるってすごいな」
「サリスとベックはパム迷宮に行ってたからですー」
アミがそういうとアーラが目を丸くする。
「あー、そういや港湾都市パムの出身って言ってたな」
「ですですー」
アミが尻尾を振りながらアーラに答えている。
「パム迷宮かー、一度は行ってみたいけどマレストからだと遠いしお金もかかるし…」
「すぐに迷宮が無くなる訳ではないし実力がついたら挑戦しにくればいいんじゃないかな」
「そうだな。よし俺も頑張る!じゃあな」
そういってアーラは冒険者ギルドから出て行った。
「本当に元気な子だな」
「そうね」
「元気ですー」
アーラとの話で本来の目的を忘れそうだったが、俺は冒険者ギルドの受付の男性にツーヘッドダンド討伐の依頼票を提出する。
「おっと今日はFランクなのか」
「はい、自分達用の肉も一緒に調達したいと思いまして」
「なるほどな。この採取箱にツーヘッドダンドの肉を詰め込めるだけ詰めてくれ」
「はい」
採取箱を受け取り冒険者ギルドを後にする。
「この採取箱分のツーヘッドダンドだと何匹くらいかしら…」
「3匹か4匹ですねー」
「とりあえず北西の林に向かおう」
「わかったわ」
「はいです」
街を出て1時間ほど葡萄畑の中を北西に歩いていくと落葉した木々が目立つ目的の林があった。
「枯れ草の茂みに隠れてるです」
「ああ、見つかると逃げるから慎重に探そう」
「わかったわ」
俺達は木陰に身を隠すように移動しながら林の木々の中を慎重に探していく。
アミが腰くらいの高さの枯れ草の茂みを無言で指差す。
草の隙間から身を隠している陰が見える。
(【分析】【情報】)
<<ツーヘッドダンド>>→魔獣:パッシブ:土属
Fランク
HP 97/97
筋力 1
耐久 1
知性 1
精神 2
敏捷 4
器用 1
(間違いない!)
俺は無言でサリスとアミに合図を送り土魔石をセットしたマルチロッドで土塊を放つ。
「《バースト》」
土塊が茂みの中の体高50cmほどのツーヘッドダンドに当たり泥が飛び散る。
泥が付着したツーヘッドダンドは逃げ出そうとしたが、泥が重たく自慢の逃げ足が生かしきれなかった。
そこにサリスとアミが飛び掛る。
2つある頭からクチバシを突き刺そうと振るってくるがアミは難なく盾でクチバシを捌いていく。
サリスはその横から細い首を目掛けてようしゃなく剣を振るう。
あえなく2つの頭が刎ねられたツーヘッドダンドはその場で息絶えた。
アミがツーヘッドダンドの足を持ち上げて逆さにし、そのまま血抜きをはじめた。
「やっぱりFランクじゃ物足りないわね」
「サリスのいうとおり、物足りないないですー」
「今日は修行や金策というわけじゃないし我慢してくれ」
「たしかにそうね」
「ああ、明日の食材だからな」
「明日が楽しみですー」
アミの頬を緩んでるのを見てツーヘッドダンドのお肉は、よっぽど美味しいんだろうなと思う俺がいる。
血抜きを終えるとアミが手際よく解体し、肉を採取箱に詰めていく。
ついでにFランク魔石も回収する。
その日は夕方までツーヘッドダンド狩りを続けた俺達は採取箱を冒険者ギルドに提出し報酬として銀貨8枚を受け取った。
自分達用のツーヘッドダンドも2匹捕れたので大満足の成果だった。
サリスが食材店で買物をすませたあと宿に戻ると、サリスとアミは調理の為に厨房に向かう。
俺は旅行記の記事の続きをテーブルで書きながら夕食が出来るのを待っていた。
「おまたせ」
サリスとアミが料理を運んでくる。
おまちかねの夕食の時間だ。
「今日はツーヘッドダンドのエスカロープのクリームソースがけよ。食材店の店員さんに教えてもらったオススメの料理よ」
サリスに調理法を聞くと、ツーヘッドダンドのお肉を叩いて薄く延ばし塩コショウでソテーしたあと、味を調えたクリームソースをかけたというものだった。
非常に手軽に出来る料理だが、口に含んで驚いた。
普通の鶏肉よりも弾力があり非常に噛み応えがある。
噛めば噛むほど味が出るという野性味あふれるお肉だった。
クリームソースの濃厚さも相まって非常に美味しい。
「オススメの調理法だけあるね、叩いて薄く延ばしてるから食べやすいし肉本来の味を楽しめる」
「そうね、中に栗を詰めて丸ごと焼くというのも教えてもらったけど…」
「それはさすがに調理に時間がかかりすぎるな」
「丸焼きも美味しいですー。皮がパリパリしてるです!」
美味しい夕食を食べ終わった後、今夜はどうするか確認するとサリスは明日のピクニックへ持っていく料理の下準備をしたいという話だった。
アミも編み物をするということなので、俺は部屋に戻り旅行記の記事の続きを書くことにした。
田園都市マレストの四日目の夜は静かに更けていく。




