3-25 キングワーム
竜暦6557年11月15日
これまでの反省から俺達は田園都市マレストの冒険者ギルドの受付の男性に冒険者証を提示してから、Eランククエストの依頼票を提示した。
「…偽装はないけど、そうかその年でEランクとは」
「パム迷宮のおかげです」
「あとはレウリの称号もあるし腕は確かなようだね」
「たまたま遭遇した事件で貢献することになりまして」
「…よし、で今回はこの街に寄って旅の資金稼ぎにキングワーム討伐の依頼ということだね」
「はい」
「討伐数はキングワーム3匹になる。場所は依頼票に書かれているように西にある葡萄畑だ。討伐証明には尻尾にあるトゲを提出してくれ」
「はい、ありがとうございます」
俺はそう告げて採取箱を受け取りギルドを後にする。
「初めて訪れる冒険者ギルドは面倒よね」
「しょうがないさ、この年でEランクなんてイレギュラーだしね」
「仕方ないですー」
田園都市マレストを出て西の葡萄畑を目指しながら俺達はキングワームについて話をする。
「昨日もいったけど樹を傷つける魔獣だから、ここではかなり嫌がられてるんだろうね」
「巨大って話だったけど、どの程度かしら」
「魔獣図鑑でもその記述が曖昧なんだよ」
「そうなんだ…」
「サリスが居れば大丈夫ですー」
「アミ、慢心は駄目よ」
サリスが自分に言いきかせるように呟く。
「攻撃方法だけど糸を吐くのと尻尾にあるトゲに注意って記述はあるね」
「糸かー」
「初めての魔獣だし慎重にいこう。まずは見つけないとな」
「そうね」
「はいですー」
葡萄畑を2時間ほど西に進むと目の前に牛ほどの大きさのキングワームがもくもくと葡萄の樹を齧っていた。
(【分析】【情報】)
<<キングワーム>>→魔獣:アクティブ:木属
Eランク
HP 124/124
筋力 2
耐久 4
知性 1
精神 1
敏捷 1
器用 1
(ステータスを見る限り硬いだけかな…)
「見つけやすくてよかったわね、ベック」
「討伐数は3匹だけど、数えると4匹いるな…」
「それぞれ離れた場所にいるから、開けた場所に1体づつおびき出したほうが良いのかしら」
「サリスの提案のとおり、おびき出す方向で戦っていよう。あと農家の被害の事も考えると3匹だけじゃなくて4匹とも倒しておこうか」
「はいです」
「戦う場所だけど、あそこが開けているし良いとおもうわ」
サリスが小さな小屋をの前を指差す。
俺とアミは小さく首を振って頷く。
「じゃあ、俺が狙撃するからサリスとアミは小屋の前で待機してて」
そういってそれぞれ位置につく。
マルチロッドに風魔石をセットし、一番手前のキングワームを狙う。
「《バースト》」
キングワームの胴体に魔力の塊がぶつかり皮膚がえぐれる。
攻撃を受けたことでキングワームがこちらに気づいて迫ってくる。
キングワームは体を揺すらせ移動するが、とにかく移動が遅かったので俺はキングワームの顔を目掛けて魔力の塊を打ち出す。
ちょうどいい的であった。
「《ショット》《ショット》《ショット》《ショット》《ショット》《ショット》」
次々と顔に魔力の塊があたり、顔の皮膚をえぐる。
もうすこしでアミとサリスの位置している小屋の前の広場までくると思った瞬間、キングワームが顔を持ち上げて高い位置から俺を目掛けて白い液体を吐き出した。
俺は動きがのろいと慢心していたせいで回避が遅れてしまい白い液体をもろにかぶってしまった。
べたべたしていて非常に気持ち悪い。
徐々に固まってきて粘り気が体の自由を奪ってくる。
「液体が危険だ、気をつけて!」
俺は固まりつつある体に恐怖しながら、サリスとアミに叫んだ。
サリスは俺を心配して駆け寄ろうとする。
しかし無事がわかると、すぐにキングワームに向かって走っていった。
アミもキングワームに駆け寄り胴体を殴りつけ、俺にキングワームが近づかないように立ちふさがる。
俺は自分自信の失態に歯がゆいおもいをしながら戦いの推移を見守った。
キングワームは俺に放った白い液体をサリスにもぶつけようとしたがサリスは素早く回避して白い液体をかわす。
しかもかわしながら飛ぶ斬撃でキングワームの胴体を切り裂いてく。
アミのほうは胴体の下にもぐりこむ様な形で連打を浴びせ続ける。
徐々に傷が増えていくキングワームが、尻尾のトゲを振り回しはじめた。
しかしアミはそのトゲのある尻尾を盾で受け、さらに尻尾の根元を横から殴りつけ折ってしまった。
攻撃手段を失ったあとのキングワームは、なすすべなく絶命した。
サリスとアミが俺に心配そうに近寄ってきた。
「ごめん、回避に失敗した…。本当にごめん」
「いいのよ、ベック。無事だったんだから」
「ですです」
「しかしこの粘る液体、どうすればいいのかな」
「私達もさわると、くっついちゃうわよね…」
「ですー」
「「「うーん」」」
3人はいろいろ考えるが良いアイデアが浮かばない。
「焼くとか?」
「俺まで焼けちゃうかな…」
「水をかけてみたらどうです?」
「薄まるのかな…」
「やってみるです」
アミが自分のアイテムボックスから水筒を取り出し水をかけてくれた。
徐々に固まっていた液体が溶けていき、俺は自由を取り戻した。
でもところどころ液体が付着して非常に不快だった。
「あっ、ちょっと試してみていいかな」
俺はアイテムボックスから清浄送風棒を取り出しサリスに清浄風で俺の体に付いた液体の除去をお願いする。
サリスが清浄送風棒を操作して俺の体に清浄風を当てると、液体が分解されて除去されていった。
「なんとかなったわね」
「ああ、清浄送風棒があって助かったよ」
「よかったです!」
「水か清浄送風棒で白い液体が除去できるのも分かったし成果はあったな」
「一時はどうなるかと思ったわよ。気をつけてね、ベック」
「本当に迷惑かけてごめん…。しかし糸という話だったけど実際は液体だったな…」
なんとか白い液体の除去方法も分かったので採取のトゲを拾いEランク魔石を回収した。
「さてどうするか…」
「移動も遅いし樹を齧るのに夢中だから、一気に駆け寄って攻撃したほうがいいかも」
「そうだな…」
「がんばるです!」
「後ろから近づいて、まずは尻尾のトゲを折ってしまおうか。根元はそんなに硬くないみたいだし」
「はいです」
「俺は水魔石をセットして持ち上げたキングワームの顔を狙うよ」
「水魔石?」
「えっと水塊がぶつけると辺りに水をばら撒くから、吐き出した液体を溶かせると思うんだ」
「なるほど、それなら白い液体を避けたあと足場も気にしなくていいわね」
「うん」
「じゃあ、それでいきましょう」
そういって俺達は作戦を組み直し、再度キングワームに戦いを挑む。
<<キングワーム>>→魔獣:アクティブ:木属
Eランク
HP 127/127
筋力 2
耐久 4
知性 1
精神 1
敏捷 1
器用 1
俺は狙うキングワームを指差し合図を送る。
樹を齧るキングワームの背後からアミが一気に近づく。
気配に気付いてキングワームが体を捻ろうとした時には、既にアミが背後に密着して尻尾のトゲの根元の思い切り殴りつけ折る。
サリスは駆け出して飛ぶ斬撃で胴体に次々傷をおわせていく。
たまらず白い液体を吐き出すがサリスは素早く回避して白い液体は地面にぶつかるだけだった。
俺は後方からキングワームの顔を狙い、マルチロッドで水塊をぶつけていく。
「《バースト》」
水塊が弾け辺りに水がバラける。地面に付着した白い液体が溶けていく。
キングワームが白い液体をまた吐くので、また水塊を放つ。
「《バースト》」
白い粘る液体も尻尾のトゲも通用しないキングワームはあっけなく絶命した。
先ほどを同じように折れたトゲを拾い、Eランク魔石を回収する。
「しっかりと準備すればいけそうね」
「ですねー」
「しかし水魔石の消費が激しいな…。こいつ」
「魔石のストックは大丈夫、ベック?」
「ああ、平気だよ」
なんとか勝つことができる方法を得た俺達は同じように戦い、残っていた2体のキングワームも討伐して街にもどる。
冒険者ギルドに到着したのは16時をすぎたくらいだった。
受付の男性に討伐証明のトゲとEランク魔石を渡し報告をする。
「ほぅ、1日で4体も片付けてしまったのか…」
「え?」
「いやキングワームは討伐が面倒でな、倒すのに苦労するんだ」
「もしかしてあの白い液体ですか?」
「うむ、水かお湯で溶かすしかなくてな。一回戦うたびに装備を手入れするのが大変なんだ」
「あー、なるほど」
俺達の場合、マルチロッドやストームソードで底上げしてるから問題なかったが普通の冒険者ならば大変なのだろう。
「討伐は3体だが1体多く倒してくれたし追加報酬対象になるな。ちょっとまっててくれ」
そういって男性は書類を持って奥にいき、戻ってくる。
「決済が無事におりたよ。報酬の銀貨20枚に魔石の買取額銀貨12枚だ」
「ありがとうございます」
「いつまでマレストにいるんだい?」
「1週間ほど滞在予定です」
「そうか、滞在してる間はクエストをどんどんやってくれ。魔獣が減れば市民も安心できるしな、腕利きの冒険者は大歓迎さ」
「はい」
受付の男性が笑みを浮かべる。
俺達は冒険者ギルドを後にする。
「さてちょっと時間が早いな…」
「時間があるなら食材店に寄っていいかな」
「サリスがそういうなら寄ってみようか」
「アミもいい?」
「はいです」
通りを歩く人に近くにある食材店の場所を聞くと、宿の近くにある大きな食材店を教えてくれた。
店内に入ると多くの人がいる。
「にぎわってるわね」
「サリスは何か買いたいものがあったのかな」
「マレストのフルーツビネガーを買っておこうと思ってね」
「あー、なるほど。あれは調理の幅が広がるね」
「うん」
サリスが店員にオススメのフルーツビネガーを聞いている。
店員がいろいろ説明し奥からビンをもってきた。
それを少し味見してサリスは購入を決めたようだった。
アミは棚にあったチーズを物欲しそうに見つめていたので、俺はサリスに話かけ一緒にチーズも買うことにした。
他にも数点いろいろな食材をサリスは購入し会計を済ませていた。
店を出て夕食をどこで食べようか相談するとサリスが自炊するといいだした。
「今朝、宿の受付の人に聞いたら厨房が空いてるらしくて自炊できるらしいのよ」
「そうなの?」
「うん、宿の利用者はほとんど街に食べに行くらしくてね」
「たしかに大きな街だからそうだな」
「それで、厨房が空いてるなら旅の資金も節約できるし自炊しようかなって思って」
サリスから旅のことを考えてくれて嬉しかった俺は、すぐにサリスの提案を受け入れた。
「アミもサリスの手料理だけどいいかな?」
「うれしいですー」
俺達は宿に戻り、受付の女性に厨房の使用の承諾を得た。
サリスとアミがすぐに調理にはじめる。
宿の食堂で、俺はいつものように旅行記の記事を書いて食事が出来るのを待っている。
サリスは料理を、アミは飲み物を運んできた。
「あれ、紅茶の茶葉を買ったの?」
「うん、さっきの食材店にいい茶葉があったから購入しちゃった」
「コーヒーは、さすがに無理か…」
「コーヒー豆の管理が大変だから、ちょっとね」
「アミはいつものミルクだな」
「美味しいですー」
アミが嬉しそうに笑う。
料理に目をやるとフリカッセをサリスが作ってくれていた。
「フリカッセか。手の込んだ料理作ってくれてありがとう、サリス」
「いい鶏肉が売ってたのよ」
「たべるですー」
鶏肉を口に運ぶと炒めた玉ねぎとミルクの風味が口に広がる。
美味しくてついつい食が進む。
最後は一緒に添えられたバゲットにフリカッセのソースをつけて食べていた。
「美味かったなー」
「おいしかったですー」
「どういたしまして」
サリスが微笑む。
食事もおわり部屋に戻る。
アミが昨日と同じようにトランプで遊びたかったようだが、俺は旅行記の記事の続きを書きたくて今日はそれぞれ部屋で休むことにする。
田園都市マレストの二日目の夜は静かに更けていく。
2015/04/18 誤字修正および表現修正




