3-24 田園都市マレスト
竜暦6557年11月14日
次の目的地の田園都市マレストへ目指すため、リジュモ村の宿の前で馬車をひく馬を世話しているとサリスとアミが宿から出てきた。
「おはよう」
「おはよう、ベック」
「おはようです」
「夕べは遅くまで話していたようだね」
「ええ」
「そうですー」
サリスが恥ずかしそうに俺に言う。
「私がちょっとだけ、そうちょっとだけ寂しい時は、ベックと同じ部屋で寝ていいっていう話になったから…」
「そうか」
俺はサリスに微笑んでから、アミに対して頭を下げた。
「ごめんな、アミ。迷惑をかけて」
「サリスが幸せなら私も嬉しいですし問題ないです!」
アミも俺達を仲間と思ってくれているのだろう。
最初旅に出る前はどこか他人行儀だった態度から仲間として友人として接するようになってくれたのは非常に嬉しかった。
「サリス、いい友達が出来てよかったな」
「うん、本当にありがとう。アミ」
「えへへ」
猫耳を動かしながらアミが微笑む。
「さて準備も出来たし出発しよう」
俺は馬車の御者台に座り、サリスとアミが馬車に乗り込んだのを確認し馬を走らせると蹄の音がリズムよく鳴る。
半日以上かけて丘陵地帯の街道をのんびりと進むと遠くに鮮やかな黄金色に輝く丘陵が見えてきた。
小麦畑と最初に思ったが、丘陵にあるのはおかしいと思い馬車を進めると黄金色の正体がわかった。
「サリス、アミ。外を見てごらん」
馬車の室内にいた二人に声をかける。
車窓から外を見た二人が驚く。
「綺麗ね!」
「きれいですー」
「垣根式に植えられた葡萄の樹だよ」
「これ全部の葡萄の樹なの?!」
「もう収穫が終わって葉が黄色くなってしまっているけどね」
そのまま黄金色の丘陵地帯を進み、俺達が目的地の田園都市マレストに着いたのは予定通り夕方だった。
通りを歩いている人に宿屋への道を聞き、町外れの宿へ向かう。
「宿泊できるか確認してくるからサリスとアミは馬車を見てて」
「まかせて」
「はいです」
俺は宿の受付に向かい、カウンターの中にいた受付の女性に話をする。
「二人部屋二部屋用意できないだろうか」
「一泊ですか?」
「いや七泊を予定しています」
「七泊ですか…」
受付の女性が宿帳を確認する。
「部屋は大丈夫なのですが、お値段は一部屋あたり一泊銀貨2枚ですから二部屋七泊で銀貨28枚になりますが大丈夫でしょうか?」
「大丈夫です、それでお願いします。それと馬車があるのですがここで預かってもらえるでしょうか?」
「馬車も七泊分でしたら銀貨7枚でお預かりしますよ」
「安くないですか?」
「七泊の長期利用ですので割引があるんですよ」
「なるほど助かります。」
商売上手な宿だなと思う俺がいる。
受付の女性から203号室と204号室を受け取り、馬屋の担当の男性に馬車を預けて俺達は部屋で至福に着替える。
「食事がてらマレストの冒険者ギルドに行ってみようか」
「いいわね、ベック」
「はいですー」
受付の女性から冒険者ギルドの場所を聞き、田園都市マレストの冒険者ギルドをたずねてみた。
パムやレウリより少し小さな感じの建物だったが、クエストの報告に訪れている冒険者でホールは混雑していた。
報告待ちの行列の中に亜人の姿が見えるのが印象的だった。
「アミ、あれって猫人族?」
「尻尾が短いし犬人族だと思います」
「へぇー」
初めて犬人族を見たが確かに尻尾が太く短くアミとは違う。
しかしあらためて見ないとほとんど分からないというのが感想だった。
(犬人族が普通にいる街なんだな、マレスト…)
マレストでは亜人族と人族とが密接に付き合ってることに驚きつつ、俺達はEランクのクエスト掲示板の前に移動し依頼を確認する。
・ファングベア討伐 銀貨30枚
・トレント討伐 銀貨20枚
・ボア討伐 銀貨16枚
・キングワーム討伐 銀貨15枚
・ブラウンベア討伐 銀貨15枚
・オーガ討伐 銀貨12枚
・ゴブリン討伐 銀貨8枚
「知らない魔獣の依頼があるわね」
「アミは知らない魔獣いるかな?」
「キングワームとオーガは知らないです」
「ふむ」
俺はその場で魔獣の名前を控える。
「名前は控えたし、夕食をとった後に話をするよ」
そういって俺達は田園都市マレストの冒険者ギルドを出て、近くにあったカフェテラスで食事をとることにした。
メニューを持ってきた店員が葡萄酒を使った料理がオススメと言うので、オススメの料理を頼むことにする。
飲み物は俺はコーヒー、サリスはホットミルクティー、アミはミルクを頼んだ。
食事がくるまで大通りを眺めながら先ほど見た犬人族の話をする。
「アミは犬人族についてなにか知ってる?」
「詳しくは知らないです…」
「そうか、でもマレストには犬人族が多くいるようだね」
「そうですね」
大通りを行き交う人の中に犬耳が生えている人がたまにいるのが見える。
「パムじゃ人族ばかりだし、ここまで亜人族がいるのは驚きだわ」
「たしかにそうだね、サリス」
「確かにパムは亜人族すくなかったですね」
「もともと亜人族自体、人数が少なかったはずだよね」
「…そうです、ね」
ちょっとアミが悲しそうな顔をする。
「たしか加護の影響だったわね…」
「はい、私の育った村でも子供は少なかったです…」
「つらい思いをさせちゃったみたいだね、ごめん。アミ」
「いえ、いいんです。本当のことですし」
「とりあえず田園都市マレストじゃ、仲良くやってるようだしいいことじゃないかな」
「そうね」
「はいです」
そういっていると店員が料理を運んできた。
「これが当店オススメのボア肉のフルーツビネガー煮込みです」
「甘酸っぱい独特の香りがするわね」
「美味しそうだね」
「たべるですー」
俺達はビネガーによってさっぱりした口当たりのボア肉を堪能する。
「フルーツビネガーって葡萄酒に似た風味があるけど」
「同じ葡萄から作られてるんだよ、葡萄酒に酢酸菌を加えてさらに発酵させたはずだよ」
「ベックはいろいろなことを本当に知ってるわね」
「ほ、ほら、小さい時から本が大好きだったしさ…」
「…」
「さて食べながらだけど、さっきの魔獣の説明しようか」
俺はそういって魔獣図鑑の挿絵を見せながら説明をする。
「ファングベアはブラウンベアより大きい魔獣だね。牙と爪が鋭くて危険なんだよ」
「ですです」
「へー」
「トレントは樹に擬態している魔獣でね、ちょっと厄介かな。ただし火には弱いけどね」
「あまり森で会いたくないです」
「なるほどね、アミは苦手なのね」
そういうとアミが首を縦に小さくふってうなずく。
「キングワームは巨大な芋虫でね、たしか樹を傷つけるんで嫌われてるはずだよ」
「虫なんだ」
「…」
女性陣が黙る。
「オーガは人の大きさのゴブリンと思ってくれればいいよ」
「えっ!?」
「それって…」
「言いたいことはわかるけど、亜人族ではなくて魔獣だよ」
「どうして魔獣っていいきれるの?」
サリスが質問してくるので図鑑を見せる。
「手足の指が3本しかなく角と牙がある。あと重要なのが死ぬと体内に魔石がある」
「なるほど…納得だわ」
「あと倒すときの注意点としてはオーガはそれなりに知能があって犠牲になった人の武器や防具を装備することがあるから気をつける必要がある」
「「…え!?」」
二人が唖然とした。
「ようは裸の状態であれば被害者はいないと思っていいけど、服や装備を着ている場合誰かが被害にあってることを意味するんだ」
「…」
「人に近いから戦うのには躊躇うのも分かるけど被害も多いのは事実だから発見されるとほぼ討伐依頼が下されたはずだよ」
「パムの近くにはいなかったわね…」
「アンウェル村の近くにもいなかったです」
「めったにいない魔獣だよ」
そういって話を終わる。
ここで方針を話す。
「田園都市マレストに路銀稼ぎで一週間いる予定だけどオーガは避ける方針でいこう」
「そうね」
「はいです」
「さっき見たように他の冒険者も多いし、オーガもすぐに倒されると思うしね」
「うん、わかったわ」
「はいです」
そういって俺達は食事を終えて宿に戻る。
「久々だし少しやろうか?」
そういって俺はトランプを取り出すと二人は喜んだ。
トランプのゲームで騒いでる声と共に田園都市マレストの一日目の夜は更けていく。
2015/04/23 表現追加




