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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
少年期【バセナ旅行編】
69/192

3-23 トリュフ

増量中

 竜暦6557年11月13日


 リジュモ村の冒険者ギルドに訪れた俺達はEランク掲示板のクエストを確認する。

 昨日宿で聞いたとおりEランクのクエストの依頼がそれなりの数残っていた。

 その中で俺は目的のボア討伐の依頼票を手にとって受付の女性に冒険者証と共に渡した。


「えっと…、えっ?!」


 驚いた女性は、おもわず俺を二度見する。

 サリスとアミも冒険者証を提示した。


「Eランク冒険者が二人なんですね。確認しましたが問題ありません…それに…」

「なにかありました?」

「レウリの称号が押されてますね…」

「あるクエストで貢献しまして押していただきました」

「なるほど実力も実績もあるということがわかりました。ボア討伐ですが皮と肉を提出をお願いいたします」


 そういって受付の女性から採取箱を受け取った。


「依頼票にはボアの出没する場所が詳しいが書かれていないようなんですけど」

「そうですね、旅の方ですので説明しますとリジュモ村の北東にある林が生息地になっております。地図はこちらです」


 そういってリジュモ村周辺の簡易地図を受け取る。


「ありがとうございます」


 そういってギルドを出てから、村の北東にある林に向けて3人で歩き出す。

 1時間ほど歩いて目的の林についた。

 しかし俺が想像していた林と違い、平地に落葉した木々が間隔をあけて点在している。


「これだけ開けているとボアを見つけやすいな」

「いいわね」

「いや、実はボアがカオリダケを見つけるまで手出しを控えようと思ったんだけど…」

「ああ、そっか。これだけ開けてると近寄りすぎちゃうとボアに私達見つかっちゃうわね」

「遠目でボアを探して見つからないようにしよう」

「うん」

「はいです」


 いつもの鬱蒼とした林以上に木の陰に隠れながら慎重に捜索を進めていく。

 アミが何かを見つけたようで無言で俺からみて右のほうを指差した。

 蠢く影がある。


(【分析】【情報】)


 <<ワイルドボア>>→魔獣:アクティブ:風属

 Eランク

 HP 196/196

 筋力 4

 耐久 4

 知性 2

 精神 1

 敏捷 4

 器用 1


 地面を一生懸命掘り返している大きなボアの姿があった。

 まだ俺達は気付かれていない。

 俺は土魔石をセットしマルチロッドを構えてボアに土塊を撃ち込む。


「《バースト》」


 土塊が胴体にあたり泥が飛び散る。

 俺とサリスとアミがボアに飛び掛る。

 攻撃を受け俺達の存在に気付いたボアは穴掘りを止めて躊躇なく突進してきた。


 ゴシンッ


 ボアの前に立ちふさがったアミが盾で突進を受け止めるが、落ち葉が積もった足場のせいで踏ん張りがきかず弾かれて倒れてしまった。


「アミ!!」

「クッ」


 俺は思わず叫んでしまった。

 アミが小さく呻く。

 ボアはさらにアミに突進を仕掛けようとしたが、サリスがその頭を目掛けて横から思い切り斬撃を当てた。

 ボアの鼻先から血が噴出す。

 俺もアミの援護のために持ち直したシェルスピアでボアの胴体を目掛けて槍を突き入れる。

 アミがようやく立ち上がりサリスを狙おうとしたボアの眼前に体を差し込む。

 左の篭手を体に密着させてガードポジションをとり、右の篭手でボアを殴りつける。


「私が相手です!」


 アミが叫ぶ!

 あまりに近いアミに脅威を感じたボアはアミを攻撃対象に選ぶ。

 しかし密着されているので助走が取れずにいるボアは最大の脅威である突進を封じられてしまっていた。

 牙を振り回すだけのボアはそれほど脅威ではなく、アミが冷静に牙を盾で受け止める。

 こうなると、あとの戦闘は一方的な蹂躙となった。

 サリスが次々に放つ斬撃がボアの硬い皮膚を突き破り内臓まで傷をつけていく。

 傷が一方的に増えていったボアは血を失いすぎたせいか、ほどなくしてその場に倒れた。

 やっと倒せたことに安堵する俺達がその場にいた。


「アミが倒れた時はヒヤっとしたな」

「ええ、間にあって良かったわ」

「ごめんです…」

「いや足元も不安定だったし、しょうがないよ」

「そうね。あと仲間なんだしこういったアクシデントがあったときにカバーにまわるのは当然だから気にしなくていいわよ。アミ」

「そうだね、俺達仲間だし」

「ありがとうです…」


 アミが嬉しそうに笑う。目元には微かに涙がにじんでいた。

 その姿を見て戦いの余韻からさめた俺は冷静に辺りをみると、返り血を浴びてひどい状況の俺達の姿に気付く。

 俺はアイテムボックスから清浄送風棒を取り出し、みんなの返り血を除去していく。


「ありがとう、ベック」

「ありがとです」

「予想以上に返り血を浴びていたな」

「傷を負っても牙を振り回してたわね、タフなボアだったわ」

「でも血抜きせずに済むな、ここまで流血してると」

「ですですー」


 そういって俺達は解体作業と魔石の回収に移る。

 大きなボアだけあって解体作業だけで30分ほどかかった。


「採取箱に入らないボアの肉がかなり残ったわね」

「あまったボアの肉は俺達の分として持ち帰ろう」


 そういって余ったボアの肉は布で小分けに包み俺のアイテムボックスにしまっていった。

 ようやく魔石と採取が終わったところで、本命のカオリダケ探しである。


「宿の主人の話だと、さっきボアが掘っていた辺りの地中にカオリダケがあるそうだから手分けして探そうか」

「どんなキノコなの?」


 俺は港湾都市パムで買った植物図鑑をアイテムボックスから取り出してカオリダケのページを開き二人に見せる。


「黒くて丸い形をしてるようだね、あと独特の香りがあるそうだ」

「わかったわ」

「はいです」


 サリスとアミは地中の浅い部分を手で掘ってさがしてもらい、俺はシャベルで地中の深い場所を探す。

 5分ほど探しているとサリスが何かを見つけた。


「ベック、これがカオリダケ?」


 そういってサリスが地表から5cmほどの深さにある直系3cmほどの黒い芋のような塊を指差す。

 俺は慎重に塊を持ち上げて匂いを嗅ぐ。

 独特の芳しい香りが鼻をぬける。

 カオリダケの香りは間違いなくトリュフの香りだった!


(【分析】【情報】)


 <<カオリダケ>>

 Dランク

 闇属

 魔力 130

 耐久 62/62


「うん、カオリダケで間違いなさそうだね」


 そういってサリスとアミにもカオリダケの香りを嗅がせる。


「すごい独特な匂いね」

「森の匂いですー」

「貴重な食材だし、料理には香りをつける為に少しだけ使うのがいいかも」

「そうね」

「さて、もう少し周りを探してみようか」

「わかったわ」

「はいです」



 お宝探しの遊び感覚で、そのあと1時間ほど俺達は辺りを掘り返し3つのカオリダケを手に入れた。


「さてそろそろ時間だし村に戻ろうか」

「はい」

「はいですー」


 夕方、村にたどりついた俺達はそのまま冒険者ギルドに向かい報告を済ませる。


「ありがとうございます。報酬の銀貨10枚です」

「どうもです」

「最近ボア討伐依頼をやってくれる冒険者が減ってしまっていたので助かりました」

「パム迷宮への出稼ぎですか?」

「ええ、ここの村の冒険者は、農家と兼業してる人が多いのですけど」

「なるほど、迷宮のほうが稼げますよね…」

「そうなんですよ。冬の時期は農作業が出来なくなるので狩猟で生計を立ててるのですけど、そこに迷宮の話が聞こえてきたのでそちらに向かう人が多くいまして」

「そうだったんですね」

「でも今回の確保してくれた肉の量があれば当分困りそうにないですね」


 そういって受付の女性が笑顔になる。

 俺はついでにカオリダケがどのくらいの金額になるのか興味があったので聞いてみることにした。


「すいません。ボア討伐の際にカオリダケらしいキノコを見つけたのですが、これでいくらになるのでしょうか?」


 そういって受付の女性に直径3cmほどの一番小さいカオリダケを見せる。

 受付の女性が目を丸くして驚く。


「えっ?!ちょっとよく見せてください」


 カオリダケを手に取った受付の女性は、匂いを嗅いだりじっくりと形を確認したりサイズを測ったりする。


「本物…ですね…。これだけの大きさのカオリダケは久しぶりに見ました!」

「そうなんですか?」

「ええ、これは田園都市マレストに持っていけば銀貨60枚以上になるかもしれませんね」

「「「ふぇ」」」


 その金額を聞いて俺達3人は思わず変な声が出してしまった。

 銀貨20枚で庶民の家族が一月生活できる事を考えると銀貨60枚というのは高額であるのだ。


「普段とれるのは2cmほどの大きさなんですけど、それでも銀貨30枚の値が付きますよ」

「そうなんですね」

「聞いた話では少量つかっただけの料理でもそれなりの金額で売れるそうなのでレストランなどが主に購入するそうですけど」

「なるほど…」

「私もお金があれば買い取りたいです…」


 受付の女性が残念そうにカオリダケを見つめる。

 その姿にちょっとだけ可哀相におもった俺は、カオリダケを少しスライスして女性に渡した。


「いろいろ教えていただいたお礼です。料理にでも使ってください」

「えっ?!」


 受付の女性は唖然としてから礼を言ってきた。


「ありがとうございます!」

「こちらこそ情報を教えていただきましたしお互い様ですよ」


 そういって冒険者ギルドの外にでた途端、サリスが俺の袖を掴む。

 俺はサリスの方を見ると怒ってるサリスがそこにいた。


「…女性に優しす・ぎ・る・!」


 そういってサリスが非難の声を浴びせてくる。


「そうです!ベックさん!サリスが可哀想です」


(えーーーっ!!)


 俺は内心焦った。

 いままではジト目だけで済んだのに…最近直接抗議されることが増えている…

 これからもこれが続くのか…

 どこかでサリスとアミを安心させないと身が持たないかもしれない…

 俺の胃がキューっと縮む。


「えっとあの程度は普通だよ」

「…それでもイヤなの…」

「サリスが可哀想です」

「あのー、昔からあの程度の親切は誰にでもしてきてるしさ」

「…それでもイヤなの…」


 話がループしている。

 村の通りの真ん中で言いあう姿はちょっと恥ずかしいので場所を変えることにした。


「部屋にいって話をしようか」

「「…」」


 そういって俺達は宿に戻り、俺はサリスとアミの泊まっている102号室で話をすることにした。


「ちょっと冷静になって話をしようか」

「「…」」


 女性陣から受けるプレッシャーがきつい。


「さっきも話をしたけど、昔から誰にでも親切にしてきた俺としては女性だからといって優しくしないわけにはいかない」

「…うん」

「でも、サリスが嫉妬する気持ちもわかる」

「…うん」

「俺のことが好きなら、俺の性格も受け入れて欲しい」

「…」

「ずるいです、ベックさん」

「アミは少し黙ってて」


 俺は毅然とした態度で二人に話をする。


「俺はサリスと交際してるんだし、サリスのことを幸せにしたいと思ってる」

「…それは嬉しいわ」

「でもサリスにも自信を持って欲しいんだ」

「えっ?」

「どんな女性が俺の前に現れても、動じないで自信を持って俺のことを幸せにするのは自分だと思ってほしい」

「…」

「冒険者として腕もある。度胸もある。自信もあるのに、俺のことだと少し臆病だよね、サリス」

「だって…ベックが私から離れちゃうのはイヤだし…」

「前からいってるけど俺はサリスのことを嫌いになることはないよ」

「…」

「強くて笑顔も可愛くて料理も上手で俺の事を大切に思ってくれてるのに俺がサリスのことを嫌いになるとか有り得ないから心配しなくていいよ」


 そういってサリスに優しく語りかける。


「アミには迷惑かけちゃったな」

「サリスを見てたら辛くなったです。サリスのこと大事にして欲しいです」

「ああ、今まで以上に大事にするよ」

「アミ、ありがと」


 なんとか落ち着いたようだが、また同じことが旅の途中で起きかねないので少し腕を組んで考える。

 考えるが答えが出てこない。

 二人に相談してみることにした。


「今回は分かってもらえたけど、また同じことありそうだよな」

「…そうね」

「嫉妬するなというのも無理があるのかな」

「私が我慢すれば…」

「我慢はよくないです」

「アミのいうとおり我慢はよくないな、結局どこかでサリスの抑えてる気持ちが爆発するかもしれない」

「…」

「サリスが悪いわけでもないし俺が悪いわけでもないし、まあそこが問題なんだよな」


 俺達3人は考え込む…が答えが出ない。

 そこでアミのおなかが「きゅーーーーっ」と空腹を告げるように鳴った。


「ふぇぇぇぇっ」


 アミがおかしな声を出して慌てる。

 その姿に俺とサリスは笑いこらえきれずに吹きだした。


「まずは夕食を食べようか、空腹じゃいい考えは浮かばないだろうし」

「そうしましょう」

「…たべるです…」


 サリスに一番小さなカオリダケを渡す。


「料理に使ってみて欲しいけどいいかな?」

「うん、任せて」


 そういって俺達は食堂に向かう。

 俺はテーブルで旅行記の記事を書いて食事が出来るのを待っている。

 サリスとアミが料理を運んできた。


「残っていた最後のナイトラビットの肉をソテーしてカオリダケを少し加えた葡萄酒ソースをかけてみたけどどうかしら」


 料理の盛られた皿から葡萄酒とカオリダケの絡まりあった芳醇な香りが立ちのぼり俺の脳を刺激する。


「芳醇な香りが食欲をそそるな。食べる前から口の中に唾液が出てくるとは…」

「はやくたべるですー」


 俺達は席について香りたつソースのかかった肉を口にする。

 香りが鼻から抜けるとともに口の中が幸せに満たされる。


「美味しい料理を作ってくれてありがとう、サリス」

「どういたしまして。しかし本当に香りがいいわね」

「森の匂いですー」


 至福の時間が過ぎる。

 夕食の片付けをするサリスをぼーっ眺める俺がいる。


(イチャイチャを我慢しているのもサリスにとってよくないのかな)


 アミを仲間にしているので俺とサリスは今回の旅で出来る限り距離を取るようにしている。

 アミを加えて旅をすると決めた時の条件だ。

 しかしその我慢がやはりストレスになってるのかもしれないなと俺は思った。

 片付け終わったサリスとアミが席についたところで、薬草茶を飲みながら二人に相談する。


「アミに相談があるんだけどいいかな」

「なんですか?」

「最初の約束をやぶることになるけど、たまにサリスが不安になってるときだけでも俺とサリスで同じ部屋に泊まってもいいかな?」

「「えっ」」


 アミだけでなくサリスも驚く。


「いろいろとサリスも我慢していると思うんだ、それが今回みたいな嫉妬につながってるかもしれないと思ってね」

「…サリスが元気になるなら…いいと思います」

「とりあえず、アミとサリスで相談してくれないか、微妙な問題だと思うし男の俺じゃ分からないこともあるから」

「わかったわ」

「はいです」

「問題を丸投げしちゃって申し訳ないが、今後のことも含めて女性としてアミとサリスでじっくり話をしてほしい」


 そういって俺はサリスとアミを食堂に残して部屋に戻る。

 サリスとアミにとっては長い夜になるなと思いつつ俺はベッドに横になる。


2015/04/17 脱字修正

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