3-22 リジュモ村
竜暦6557年11月12日
ラトスレ村を出発して半日、丘陵地帯の街道をのんびりと進む。
この丘陵地帯を転生前の記憶を辿って例えるならば日本だと北海道の富良野や美瑛に近いと思った。
ラベンダーや各種の花々を植えて並べたら壮観だろうなと頭に風景がよぎる。
御者台で、そんなことを考えていると街道の脇に大きな直立巨石が3つ立っているのが分かる。
高さは10m、幅は3mほどあるだろうか。
似たようなものを見たことあるなと記憶をさぐったらあった。
この直立巨石の上部に枝をつけたらマダガスカルで見たバオバブにそっくりだと思った。
直立巨石の近くで馬車を止める。
「でかいなー」
馬車が止まったことで外にでたサリスとアミも巨石を見上げて唖然としていた。
「これって巨人が作ったのかしら…」
「どうだろうね、ただ自然に出来たとは思えないから誰かが何かの意図を持って巨石を立てたことは間違いないだろうね」
「大きいです!」
これだけの遺跡だ、もっと話題になってもおかしくないだろうと思ったが、確かに周りに何もなさ過ぎるのが災いしているのであろう。
もしくは、巨石を立てた存在を畏怖して立ち寄らない可能性もある。
「謎だな、この巨石…」
「そうね」
「この街道の守り神かもです!」
俺達はしばし、その巨石を見つめ続けた。
少しの間、休憩がてら巨石を眺めてから馬車を先に進める。
後方に遠ざかっていく巨石が俺達を名残惜しそうに見つめているようだった。
そこから半日ほど進み、ようやく今日の予定地のリジュモ村に到着した。
農作業をしていた村人に聞いた宿屋に向かう。
「いらっしゃい」
「今日と明日、二頭立ての馬車を預かって欲しい。あと二人部屋を二部屋、二泊分用意できるだろうか?」
「どちらも大丈夫ですよ」
「料金はいくらになるだろうか?」
「馬車は2泊で銀貨2枚。部屋のほうは二泊で銀貨2枚でどうでしょう」
「じゃあ、それでお願いします」
「ありがとうございます。こちらが鍵になります」
そういって102号室と103号室の部屋の鍵を受け取った。
「そういえば食事はどのようにすればいいのかな?」
「厨房を好きに使っていただいて構いませんよ。調理ができないのであれば、お金を頂ければうちの女房に依頼も出来ます」
「料理が得意な仲間がいるので自炊しようと思います。わざわざ説明していただきありがとうございます」
「いえいえ」
そういってから俺達は部屋に行き、私服に着替えてから食堂の厨房に向かった。
「ここも素泊まりなのね」
「料理の提供を考えた場合、常に食材を準備する必要があるからな。たまにしか宿を利用するものがいないのであれば素泊まりの方が宿としてもいいんじゃないかな」
「なるほどね」
「まあ、部屋のベッドで眠れるだけマシってことさ」
「そうですー」
「さてサリスとアミが調理している間に、この辺りの情報をきいてくるよ」
「いってらっしゃい」
「いってきます」
どこかの新婚のような会話を交わす俺とサリスだった。
この会話のあとに軽いキスをしたら完璧だなと脳内でイメージする。
宿の主人のところにいき、話を聞いてみることにした。
「すいません、ちょっといいですか?」
「なんでしょうか、お客さん」
「リジュモ村の冒険者ギルドは宿から近いのでしょうか?」
「冒険者ギルドなら、この通りをまっすぐ進んで4件目の建物ですよ」
「なるほど、明日行ってみます」
俺は宿の主人に返事をしてから、さらに村のことについて聞いてみた。
「あと、このあたりの特産や名所はないでしょうか?」
「特産…、でしたらカオリダケでしょうか…」
「カオリダケ?」
「数は取れないんですけど香りがいいキノコです」
「貴重なんですね」
「ええ、地中で成熟するキノコでボアが好んで食べるんですよ」
「ボアの餌なんですか?」
「はい、それでカオリダケを採取する方法なんですけど、ボアの後をつけていって土を掘り起こしているボアを討伐してから、ついでにカオリダケを採取するんですよ」
「なるほどボア退治のついでなので、あまり数が取れないんですね」
「そういうことです。でも味も香りも格別ですしボアを狩れる冒険者の小遣い稼ぎになってるという感じなのですけど」
「一度たべてみたいです」
「そういえば今年は、まだ採ったっていう村人はいなかったですね」
「そうなんですか?」
「冒険者の数が減っているのですよ、パムって街に迷宮が出来たんで村の実力のある冒険者がそっちに出稼ぎに行ってるんです」
「あー、そうでしたか。情報ありがとうございました」
(話をきくとカオリダケってトリュフのことだな…、あとはここの村までパム迷宮の件が絡んできてるのか…)
俺は宿の主人に頭をさげてから食堂に戻る。
席に戻るとサリスとアミが料理を運んできた。
「昨日と同じだけど豆があったから今日もカスレね」
「あと薬草茶ですー」
「ありがとう」
昨日と一緒といいながらハーブなどの味付けは昨日とは異なっている。
同じ味にならないように、ひと手間くわえていたのであろう。
ほくほくの豆を美味しくいただいた。
夕食がおわったところで、明日の話をする。
「このあたりの特産にカオリダケという貴重なキノコがあるみたいなので探してみようと思ってるけどいいかな?」
「ベックにまかせるわ」
「おまかせです」
「まあ、カオリダケを採取するにはボアを利用するらしいから戦闘もあるはずだよ」
「へぇー」
「ボアの肉おいしいです!」
「まあ、明日は動き回るし今日は早めに休んでおこう」
「はい」
「はいです」
俺達は明日、カオリダケ探しをする為に早めに就寝することにした。
あと寝ながら思ったことだが、ベッドの上で寝れるってやっぱり最高だな。
2015/04/23 表現追加
2015/04/23 脱字修正




