3-14 フォーン
竜暦6557年11月4日
牧畜都市レウリを出て南西に2時間ほど歩いた場所に目的の林があった。
「ここにフォーンがいるのね」
「地図ではここだな」
「頑張ります」
今日はフォーンの討伐のクエストを受けてここにきた。
10匹分の尻尾を納めれば完了する。
「ゴブリン討伐と同程度の難易度だから気負わずいこう。隊形は昨日と同じで。あとマルチロッドは土魔石を使うよ」
「わかったわ」
「はいです」
林の中を慎重に進むと、なにかが動く気配がする。
(【分析】【情報】)
<<フォーン>>→魔獣:アクティブ:木属
Eランク
HP 87/87
筋力 1
耐久 1
知性 2
精神 1
敏捷 4
器用 1
(フォーンが6匹か)
俺は無言で両手の指を6本立てて、そのあと先を指差して合図を送る。
マルチロッドを構え土塊を撃ちだす。
「《バースト》」
土塊が奥のいたフォーンに当たり泥がばら撒かれる。
泥が付着したフォーン達が混乱して一斉に襲ってきたがアミが冷静に盾をふるって攻撃を次々と受け止める。
その隙にサリスが横にまわって、フォーンの下半身を狙って斬撃を飛ばし有利な状況を作っていく。
俺はシェルスピアに持ち替えて、アミの後ろに回り込もうとするフォーンに突きを入れてフォローにまわる。
あっけなく6匹のフォーンは目の前に倒れていた。
手早く尻尾と魔石の回収を進めていく。
「お疲れ様」
「おつかれー」
「あと4匹で目標数に達するね、気を引き締めていこう」
「はいです」
「そうね」
三人での戦闘の安定度はかなり高いのが実感できる。
複数の相手でも揺るがない。
パム迷宮でも三人で戦えればいいのにと思った俺がいる。
パムに戻ったらサリスも交えて真剣にアミとクランを作ることを検討したいと思った。
そんなことを思って林を進むと、木陰に潜むフォーンを見つけた。
(【分析】【情報】)
<<フォーン>>→魔獣:アクティブ:木属
Eランク
HP 85/85
筋力 1
耐久 1
知性 2
精神 1
敏捷 4
器用 1
(今回は5匹か、さっきより楽だな)
さきほどと同じく俺は無言で片手の指を5本立ててパーの形を作ったあと先を指差して合図を送り土塊を撃ち込む。
「《バースト》」
展開は先の戦闘と同じで、あっけなく戦闘がおわった。
フォーン相手では物足りない状況だ。
地面に横たわるフォーンから尻尾と魔石の回収を終わり牧畜都市レウリに帰ることに決めた。
「物足りなかったね」
「三人だし、こんなものじゃないかしら」
「楽しかったですー」
「明日はボアに挑戦してみるか」
「いいわね」
「頑張ります」
広大な草原を牧畜都市レウリに向けてのんびりと歩く。
草原の優しい風が頬をなでる。
降り注ぐ陽の光も暖かい。
空に浮かぶ雲を眺めている俺がいる。
そんな俺の視界に違和感があった。
かなり先だが草原を猛スピードで走りさる牛のような影が見える。
牛にしては駆ける速さが圧倒的に違う!
(【分析】【情報】)
<<ミミックウルフ>>→魔獣:アクティブ:闇属
Eランク
HP 215/215
筋力 4
耐久 2
知性 4
精神 2
敏捷 16
器用 2
(…!まさか、こいつが…でも見た目は牛だよな…とりあえず確かめないと…)
「サリス、アミ、異常事態だ!」
「えっ」
「どうしたんですか」
「走りさる影が見えたんだ、この辺りを捜索するぞ」
そういって俺は逃げていく影とは反対側に向かって走り出す。
慌ててサリスとアミも付いてくる。
捜索した結果、俺は原型を留めないほど損壊している牛飼いの死体を見つけた。
何度も何度も執拗に魔獣に噛み付かれたようであった。
手足は引きちぎれており、頭は数m先に転がっている。
サリスとアミは思わず顔を背けた。
俺は吐き気を我慢して分析する。
(【分析】【情報】)
<<キャフタラム・ジュハイ>>→人族男性:18歳:牛飼い
HP 0/125
筋力 1
耐久 2
知性 1
精神 1
敏捷 1
器用 2
(………)
言葉が出なかったが、牛飼いの被害者ということは判明したので、遺体をそのままにしてギルドに報告に戻る。
早足で街に戻る途中、異常な事態に耐え切れなくなったサリスが俺に状況の説明を求めてきた。
「ベック、詳しく説明してもらえるかしら…」
「…」
アミは黙ったままだ。
俺は答える。
「かなり先だったけど草原を猛スピードで走りさる影が見えたんだよ、それで話題になっていた未確認魔獣かと思って捜索してみたんだけど…最悪の事態が発生してて、それがさっきみた光景だよ…」
「私とアミは気付かなかったわ…」
「かなり遠かったのと、あとはその姿は牛に見えたんだよ」
「えっ」
「あの辺りに放牧してた牛と見間違えたんじゃないですか?」
「牛にしては走るのが速くて、おかしいと気付いたんだ。さすがに追いかけるのは危険だと思い、走り去る反対側を念のために捜索したんだよ」
「「…」」
二人が黙る。
人の死体を見てショックだったのも分かるが、別の問題として近くに未確認魔獣が存在したという事実もショックを与えていたのだ。
「牛に擬態する魔獣が人を襲っているということかしら」
「そうなるね」
「それだと確かに辻褄が合うわね」
「ああ、見通しのよい草原で羊飼いや牛飼いが目撃者もなく襲われるという話だったけど、実は人を襲った後、擬態した魔獣が悠然と目の前を歩いていた可能性がある」
「「…」」
「あと擬態のために羊や牛を襲うことは逆効果になると考える知能もある可能性が高い」
「「…」」
「ようは羊や牛は擬態して身を隠す道具にするために襲わない、襲うのは一人でいる人間って話のようだな」
「その話が本当なら厄介ね…」
「ああ、間違いなくCクラス討伐クエストに相当する。今回は調査クエストだから、あとで報告はするけど討伐は俺達の範疇を超えてるから他の冒険者に任せよう」
「うん」
「はい」
(ミミックウルフか、突然変異の亜種なのかもしれないな…)
街に戻った俺達はそのまま冒険者ギルドに向かった。
まずは未確認魔獣の被害者と思われる牛飼いの死体を見つけた場所を報告。
この時点で12人目の被害者が発生ということでギルド内は騒然となった。
続けて、その場から走りさった牛の姿を報告したことでギルド内は先ほど以上に騒然となった。
俺は相手の魔獣の名前を分析で知っていたが、説明出来ないので想定ということで帰り道にサリスとアミにした内容を話したのだった。
「牛に擬態した魔獣という可能性があります。しかも大きさは牛と同程度となるとEランクでも最大クラス、Cランクでは最小クラス」
「…」
その話をした途端、レウリの冒険者ギルドの職員が一斉に無言で考え始めた。
一人の初老の職員が口を開く。
「にわかには信じられないが、たしかにその話が本当であれば説明がつく点が多いな」
「放牧している牛には、なにか所有をしめすマークなどは記載していないのですか?」
「しているはずだよ」
「危険ですが明日にでも人海戦術で、マークのない牛がいないか草原を捜索してはどうでしょうか」
「…」
「もしくは羊飼いや牛飼いの人は必ず複数人でグループを組んで行動するようにし擬態した魔獣に気をつけるという手もあります」
「そうじゃな…」
俺達はその場をあとにした。
今日は事情が事情なので、夕食もとらずに宿にもどり休むことにした。
気の重い日になったのが残念だった。
2015/04/16 表現修正




