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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
少年期【バセナ旅行編】
55/192

3-9 ブラウンベア

増量中

 竜暦6557年10月31日


 宿を出た俺達はオレア村の小さな冒険者ギルドに顔をだした。

 依頼の貼られた掲示板を眺める。


「これなら手頃じゃない?」

「Eランククエストのブラウンベアの1匹討伐か…。毛皮と肉の提出で報酬は銀貨10枚か」

「ブラウンベアって!」

「ああ、アミは知ってるのか」

「はい」

「サリスは…知らないよね…」

「うん、でも1匹だしなんとかなるんじゃない?」

「えっとね、小型魔獣A種の中でも中型に近いサイズなんだよ。性格も凶暴」

「迷宮の魔物と比較したら?」

「ボアを一回り大きくした近じだね」

「じゃいけるわよ、三人だし」


 サリスが自信を持っていう。

 俺も少し考えるが、確かに1匹だけなら三人の連携を確認するのにもうってつけだ。


「大丈夫ですか?」


 猫耳を後ろ斜めに倒して恐る恐るアミがいう。森に近い村で過ごしてきたアミにとってはベアの脅威は経験済みなのだ。

 だが俺は「大丈夫だよ」と説得した。

 受付の女性に依頼票を持っていくと女性が目を丸くする。


「ごめんなさい、これEランクのクエストなのよ」

「大丈夫です。俺達Eランクなので」

「え?」


 女性が驚くので冒険者証を提出し、それを確認した女性がさらに驚いた。


「その年で二人もEランクなんて…パムは凄いわね…」

「ええ。迷宮のおかげです」

「そういえば迷宮が出現してたわね、それにしても…」


 女性の言葉がつまるが、溜息をついて依頼票を処理してくれた。


「とにかく気をつけてね。これが採取箱ね」

「はい」


 冒険者ギルドを出ようとしたとき昨日思いついたことを忘れていたことに気付いた。

 サリスとアミを外で待たせることにして俺は受付の女性に再度話しかける。


「すいません、ちょっといいですか」

「どうしたの?」

「えっと仮冒険者証の基本プレートって余ってませんか?」

「新しいデザインに更新された時に協会から送られてきたものが倉庫にまだたくさんあったはずだけど」

「それって数十枚うってもらえないでしょうか?」

「え?」


 突然の話に女性が固まる。


「えっと不正に利用とかではなく、数を覚える為の知育道具に転用できないかと旅の途中で思いつきまして」

「うーん。何枚くらい使う予定なの?」

「正確には53枚です」

「それなりの数はあると思うけど備品だし勝手に処分できないのよ」

「さきほど新しいデザインに更新という話をされていましたが、以前の古いデザインの仮冒険者証の基本プレートはどうでしょう」

「あ、まだあったはずよ」

「でしたら、古いデザインの仮冒険者証の基本プレートならどうでしょうか。不正にも使えませんよね」

「…そうね」

「もし売っていただけるなら代金はいくらになりますでしょうか?」

「売り物でもないし、処分を考えると倉庫にある古いプレートは無料でいいわ」

「ありがとうございます」


 女性は冒険者ギルドの倉庫から100枚セットになっている古いデザインの仮冒険者証の基本プレートを持ってきた。


「しかしこんなものが欲しいなんて変わってるわね」

「数を覚える為の知育道具に転用できれば商売になりますし」


 本当はトランプに使おうという思惑があるが誤魔化しておく。

 まあ数を覚えるという話は嘘ではないし良心は痛まない。

 プレートをアイテムボックスにしまい、ギルドの外に出た。


「おまたせ」

「やけに話が長かったわね」

「長かったです」

「悪い悪い、あとで宿屋で説明するよ」


俺は二人に頭を下げて謝る。


「さてブラウンベアの件を片付けようか。依頼票に書かれてる西の沢に早速いこう」


 そういって俺達はオレア村を出て、ブラウンベアが見かけられている西の沢に向かう。


「しかしやけに村に近い場所に出没したな…」

「冬が近いせいです」


 アミが説明するので納得した。冬篭りの準備で大量の餌を必要にしているからだ。

 西の沢の見える場所まで来たので、打ち合わせをする。


「アミは知っていると思うが戦う際の注意点は、爪による打撃と噛み付きだ。普段は4本足だが、2本足で立ち上がると2mを越える場合もある」

「はい」

「はいです」

「作戦だが、まずアミは盾で打撃と爪を受け止める役を考えてるが大丈夫かな?」

「父と倒したときに盾で受け止める役だったので平気です」

「じゃあ、まかせよう、無理だと判断したらそのときは戦っている最中でも言ってくれ、隊形を変えるから」

「はい」

「サリスは剣による斬撃で傷を負わせる役だ。懐に飛び込まなくていいのでまずはブラウンベアの手足を封じるように頼む」

「わかったわ」

「俺は槍でサポート、状況に応じて動くようにするよ。あと今回は皮の提出もあるのでマルチロッドのバーストは使わない」

「以上だが、質問はあるかな?」

「「…」」

「ないようなのでココからは周囲の探索に移る。見つけたら声を出さないで合図してくれ」

「わかったわ」

「はいです」


 最低限の打ち合わせを行ったあと、沢の近くの出来るだけ開けた場所に移動しながら探索を進める。

 1時間ほど探索したとき、アミが40mほど先にブラウンベアを見つけ無言で指差す。


(【分析】【情報】)


 <<ブラウンベア>>→魔獣:アクティブ:火属

 Eランク

 HP 182/182

 筋力 4

 耐久 4

 知性 1

 精神 1

 敏捷 4

 器用 2


(でかいな…立ち上がると2m50cmほどになりそうだ)


 二人に合図をし、俺はブラウンベアを足場のいいここまで呼び込む為にマルチロッドに風魔石をセットし単発の長距離射撃を行う。


「《ショット》!」


 勢いよく飛び出した魔力の塊がブラウンベアにぶつかった。


「ガルゥラララララッ」


 突然攻撃されたことに激怒したブラウンベアが俺達に向かって突進してくる。

 アミが両手の拳にセットした盾を構えて足場を固めてブラウンベアの正面に位置どる。

 盾で受け止めると思った瞬間、突進してきたブラウンベアを殴りつけた。


「えぇぇぇっ!?」


 俺は思わず変な声を出してしまった。

 いまのはどう見ても空手の正拳突きにしか見えなかった。

 身長160cmいかない小柄な猫耳少女による盾を使った正拳突きでブラウンベアがたたらを踏む。

 本来ならば小柄な猫耳少女のほうが吹き飛ばされるはずなのに、実際は逆にブラウンベアのよろめいた事実に我が目を疑った。


(これが加護の力ってやつなのか!)


 亜人族は太古に精霊神による加護を受けいれ魔力を有した人族で

 ・加護の影響で強靭な体を得ている。

 ・それぞれ種族固有の特殊能力を持っている。

 というのが文献に書かれていたので知っていた。


 アミの暗視という特殊能力については判っていたが、強靭な体っていう意味を俺は実際に目にして知ることになった。


 俺がアミの加護に呆けている間に、サリスがよろめいたブラウンベアに向かって飛び込んで手足をめがけて気合のこもった剣撃を放つ。


「はぁぁぁぁ!!」


 その気合で我にかえった俺もマルチロッドで単発の魔力の塊を顔に当てていった。

 隙のない連携で攻撃をうけたブラウンベアが後ろ足で立ち上がり仁王立ちする。

 そして咆哮を発して高所からサリスに目掛けて爪を振り下ろす。

 しかし、その爪はサリスに届くことは無かった。

 咄嗟にアミが突っ込み、爪を盾で受け止めたのだ。

 アミが叫ぶ。


「サリスいま!」


 その声に反応したサリスがブラウンベアのがら空きになっていたやわらかい腹に剣を突き入れ、横に振るう。


 ザシュ


 ブラウンベアの腹から鮮血が噴出す。

 内臓を大きく傷つけらたようだ。

 たまらず逃げ出そうとしたが、サリスがその行動を見逃すことはなく太ももと大きく切り裂く。

 程なくしてブラウンベアは倒れ落ちた。


「お疲れ様」

「アミ助かったわ」

「いえ、二人の攻撃があったから倒せました。盾だけじゃ倒せないですし…」

「え?アミの盾による打撃だけど、あれって凶器よね。ベック」

「俺もそう思うよ」

「え?」

「父にはそう言われたことないんですけど…」

「アミは凄いってことで間違いないよ。これからもよろしくな」

「…はい」


 戦闘の余韻にひたっての会話も終えた俺達は、ブラウンベアを解体し採取箱に詰める。

 もちろん余った肉は布に包み、俺達の旅の食料として確保した。

 オレア村に戻り、冒険者ギルドを訪れて受付の女性に採取箱を渡し討伐の報告をすると、朝と同じように驚かれた。


「もう討伐してきちゃったのね…まったく」


 女性は呆れたように肩を落とした。


「10歳でEランク冒険者ってことで実力はあるんだろうなとは思ってたけど、短時間で討伐してきちゃうなんてね…」

「そうなんですか?」

「農家を兼ねてる村の冒険者が今度6人くらいで組んで倒しにいこうって話があったくらいだから」

「…なるほど」

「でも助かったわ、今回のブラウンベアによって蜂の巣も被害を受けていたから。これでハチミツも安定して取れるようになるし」

「昨日宿でハチミツを使った料理を食べましたけど、ここのハチミツは美味しいですよね」

「そうね、村自慢のハチミツよ」


 そういって女性が笑った。

 報酬の銀貨10枚を受け取り、宿に戻った俺達は、主人に熊の肉を渡し調理をお願いした。


「え?あのブラウンベアを倒したのかい!」

「はい、三人で」

「そりゃ助かった」

「もしかしてハチミツ関連ですか?冒険者ギルドでも言ってましたが」

「ああ、収穫量が減っていたのさ」

「よかったですね」

「討伐を記念して気合をいれて料理しないとな、ちょっと仕込みに時間はかかるから待っててくれ」

「あの代金は…」

「肉も持ち込みだし無料で調理してやるよ。邪魔なブラウンベアを退治してくれたお礼だ」

「はい」


 俺達はホールの壁沿いにあるテーブルの一つに俺達は腰掛けた。


「料理が出来るまで楽しみに待っていようか」

「そうね」

「はい」


 俺は食事が出来るまで、二人の目の前で冒険者ギルドでもらった金属製プレートの細工を始めた。


「それって冒険者証じゃない!」

「もう使わない古いデザインのプレートだよ、冒険者ギルドでもらったんだ」


 そういってプレートの表面にハートの1から13。スペードの1から13。ダイヤの1から13。クラブの1から13を書き込んでいき、最後に0と書かれた1まいを準備して完成。


「ハートは心、スペードは剣、ダイヤは貨幣、クラブは棍棒を表現しているよ、そしてそれぞれ1から13まで順位が決まってる」

「これって何?」

「数字のかかれてるだけですよね」

「これは数字を覚えたりする知育道具さ、昔よんだ本に書かれてたんだ」


 二人が不思議がるので比較的簡単なババ抜きを教えることにした。


 ・カードを順番に1枚づつ配る

 ・手札に同じ数字が2枚あったらその2枚を場に出す。

 ・最初に始める人が、右隣の人の手札から1枚カードを取る。

 ・同じ数字が2枚あったらその2枚を場に出す。

 ・手札から1枚カードを取った人は、左隣の人に同じように手札から1枚カードを取られる。

 ・これを繰り返していき、最後まで手札の中に0のカードを持っていた人が負け。


 ルールを説明したが理解されなかったので実践してみたら、二人ともすぐに飲みこみ興味を示してくれた。


「あー、負けた…」

「サリスは顔に出ちゃってるよ」

「面白いです!」


 熱中してババ抜きをしていると主人が料理を持ってきた。


「ブラウンベアの肉を葡萄酒とハチミツに漬け込んだソテーとカンパーニュだ」

「いい匂いですね」

「ああ、自慢の一品だ。味わってくってくれ」


 そういって肉を食して驚いた。

 塩コショウした肉からあふれ出す葡萄酒を含んだ肉汁とハチミツの相性が抜群なのだ。

 二人とも夢中で食べてる。


(これは予想以上の美味しさだな…)


 美味しい料理に舌鼓を打ちながら夜が更けていく。


2015/04/16 表現修正

2015/04/23 表現追加

2015/04/23 誤字修正

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