3-6 セルメ村
竜暦6557年10月28日
パムを出発して3時間ほど経過したところで小川にさしかかった。
ちょうど良い機会なので馬を休めるために休憩する。
「天気が良くて助かったわね」
「そうですね」
サリスとアミが会話する。
俺は馬に小川から汲んだ水を与えたあと、時計とドルドス国内の簡易地図と方位計を見てから二人に話しかける。
「道も外れてなさそうだし今日の夕方にはセルメ村に着けそうだな」
「今日はそこで休むのよね」
「うん、あと馬を休めたいからセルメ村で1日ほど過ごしたあと出発する予定だよ」
「美味しい食べ物あるといいわねー」
「ねー」
「冒険者ギルドもあるはずだから、資金の足しに簡単な依頼を受けてもいいなと思ってるけど、二人はどうする?」
「ベックに任せるわ」
「私もお任せします」
「まあ、ついてから考えよう」
小川のほとりでゆっくり休憩したあと御者台に俺が座り、セルメ村に向けて走りだす。
街道を進む馬の蹄の音が気持ちいい。
空は青くところどころ浮かんでいる雲がゆっくりと流れていく。
この景色を独り占めしているという感覚は非常に心地よい。
御者台の後方の室内からサリスとアミが笑う声が聞こえてくる。
(楽しそうだなー)
そういえば馬車の室内は昨日サリスとアミの手によって魔改造されてしまっていたのには唖然とした。
馬車の室内が開閉式のカーテンで仕切られており、フラットにした床にはカーペットを敷かれ、さらに複数の大きめのクッションが持ち込まれ寛げる空間になっていた。
短期間でここまで仕上げてしまう女子力とは恐ろしいものだと思った。
特に魔獣にも盗賊にも襲われずスムーズに目的のセルメ村についたのは17時だった。
村の人に馬屋のある宿を教えてもらう。
「この通りの先に宿屋があるそうだよ、そこまでいって宿に泊まる手続きをしよう」
「はい」
「はいです」
人の目のあるところでは、馬車に複数の人が乗っていると印象づけるほうが安全を確保できるので御者台に俺とサリスが座り、馬を操作して宿を目指す。
2階建ての宿が見えてきた。
宿の前に馬車をとめて、宿の中にはいりカウンターにいる主人に声をかける。
「女性二人、男性一人で部屋を二泊利用、それと二頭立て馬車を馬屋で保管してほしいのだが空きはあるかな?あと料金も教えて欲しい」
「部屋は大丈夫ですよ」
「よかった」
「馬車については少々お待ちください」
奥の部屋に行き、一人の青年を連れてきた。
「馬車と馬は息子が裏の馬屋に連れて行きますのでご安心ください」
「それは良かった」
「料金ですが宿泊は二泊二部屋で銀貨4枚。馬屋の利用は別料金で二泊で銀貨4枚となりますので全部で銀貨8枚ですね」
銀貨8枚を主人に渡すと息子が宿屋の前の馬車を馬屋に移動していく。
主人の方は俺達に部屋の鍵を渡す。
「二階の201号室と202号室です」
「ありがとう」
受け取った鍵の一つをサリスに渡す。
「二人は201号室を利用してくれ、俺は202号室を利用するよ」
「はいです」
「はい」
荷物を部屋に置いてから宿屋の1階のテーブルに集合する。
「食事はここでも食べれるわよね?」
「そのはずだけど、ちょっと村の様子も聞いてみるよ」
俺はそういってカウンターの主人と話をする。
「ちょっと聞きたいのだがいいかな」
「なんでしょう」
にこにこと主人が話す。
「ここで食事の提供もしていると思うが、村の中に他に食事を食べれる場所はあるのかな?」
「小さい村なので、ここ以外はありませんね」
「なるほど」
「じゃあ、おすすめの名物料理を教えていただけないだろうか」
そう質問すると奥の厨房から女性の方が出てきた。
「ここでオススメは村の畑でとれるポトフだよ。私の自慢の料理だ、是非とも食べていっておくれ」
「では、三人分お願いします。あとバゲットもお願いできますか」
「カンパーニュなら用意できるよ」
「では、それでお願いします。食事の料金はおいくらでしょう」
「ひとり一食銅貨10枚だよ」
そう聞いて代金として銅貨30枚を支払う。
「じゃテーブルで待ってておくれ」
「うちの女房のポトフは絶品だから期待していいぞ」
宿の主人の言葉を聞いて二人の待っているテーブルに戻る。
「ベックってさ、手馴れすぎてるわよね」
「え?」
「宿との交渉とか初めてでしょ、それなのに手際よすぎるわよ…まったく」
「ああ、父様が行商人で昔から話を聞いていたのさ」
「ふーん…」
(ひさびさのサリスのジト目だなー、ゾクゾクしちゃう)
「でもとても頼りがいありますよ、さすがサリスの旦那さんになるって感じですよね」
「うん、ベックは昔から凄いのよ、あのね、昔ね…」
なにやらサリスがアミに対して俺自慢を始めた。
顔から火が出るくらい恥ずかしかったので、話を途中で止める。
「サリス、その話はあとで部屋に戻ってからアミとしなよ。ここじゃ俺はずかしいからさ…」
「じゃあ、そうするわ」
そんな話をしていると宿の奥さんが、あつあつのポトフとカンパーニュをテーブルに運んできた。
「召し上がれ」
「「「ありがとうございます」」」
オススメしてきただけあって、この宿のポトフは絶品だった。
肉とニンジンとカブとセロリが煮込まれており、各種香草による風味も絶妙な加減である。
しかし味の決め手の肉が、なんの肉かがわからない。
食事を終えたあと、奥さんに直接聞いてみた。
「美味しいポトフありがとうございました」
「気に入ってもらえたようだね」
「一つ気になったのですが、あのお肉はなんの肉ですか?」
「ああ、あれはナイトラビットの肉だよ」
「初めて聞きますね」
「この辺りにいる小型魔獣さ、ただし臆病でね。夜中しか活動しないんだよ」
「へー、勉強になります。でも、捕獲は大変じゃないですか?」
「冒険者ギルドに依頼を出しててね、このあたりの冒険者は小遣い稼ぎに罠をつかって捕獲しているよ」
「罠ですか」
(魔獣なら狩ってみたいな、明日は冒険者ギルドに寄ってみるかな)
「そういえば冒険者をやっているんですけど、この村のギルドはどこにあるのでしょうか?」
「それなら、宿を出て右手に進むと冒険者ギルドがあるよ」
「ありがとうございます、明日にでも覗いてみます」
そう礼をいってテーブルに戻った。
サービスで出された薬草茶を飲みながら、三人で話す。
「冒険者ギルドの場所もわかったし明日少し寄ってみるよ」
「わかったわ」
「はい」
「あとさっきのポトフで使われていた肉はナイトラビットという魔獣の肉で、この辺の特産らしいね」
「へー」
「もしクエストで依頼があったら、狩りに挑戦してみたいな」
「いいですね、美味しかったですし」
そういってアイテムボックスからメモを取り出した俺はセルメ村で得た情報を細かくメモしていった。
「細かくメモとってるわね、ベック」
「ああ、あとで本にするからね」
「ベックさんって細かいことが得意ですよねー」
「うん、性にあってると思うよ」
「でも旅に出て本当によかったかも」
「そう?」
「ベックが別人みたいに生き生きしてるわ」
「もしかして表情が顔に出ちゃってた?」
「うん、いつもよりニヤニヤしてるわ」
「あーー、気付かなかった…」
「あはは」
俺とサリスの滑稽な掛け合いにアミが可愛く笑う。
(迷宮の殺伐とした環境より、こういう雰囲気いいなー)
楽しい会話と共に夜が更けていく。
2015/04/16 表現修正




