3-4 サプライズ
竜暦6557年10月26日
机にある旅行準備メモを開き記載した項目をざっと見直す。
○資金として最低金貨2枚
○身分の保証する冒険者証
○アイテムボックス
○テント
○寝袋
○毛布
○照明
○着火具
○シート
○着替え一式
×雨具
○ナイフ
○食料および調味料
○水筒
×簡易調理器具
○ロープ
○日用品
○記録紙
○筆記具
○回復薬
○包帯
○携帯型便器
○迷宮灯
○腹止丸
○巻糸
○各種文献
○馬車
○馬二頭(10月25日追加)
(調理器具はサリスの担当だな、もう購入したか確認しておこう。あとは雨具か…)
ロージュ工房にオーダーした適温を維持できる機能のレインコートの開発は先送りしてもらっているので今回は間に合わなかった。
しかし何かしらの雨具は必要だなと考える。
(いま使ってる古い雨具でもいいかな、他の二人はどうだろう…とにかく聞いてみよう)
考えとまとめると旅行準備メモをアイテムボックスにしまい家を出た。
今日は東大通りのカフェテラスで美少女二人と待ち合わせである。
カフェテラスにつくと二人の座っているテーブルにすぐに向かった。
「ごめん、遅れちゃって」
「平気よ」
「こんにちは」
(美少女二人に囲まれるとか最高やん、俺って幸せやーーーー)
そんなダメ人間の感想を脳内で連呼しながら、俺は店員にコーヒーを注文した。
「ベックさんって本当に同じ年なんですか?」
非常に鋭い質問をアミがしてくる。
「アミもそう思ったの?」
「ええ」
(あれぇぇぇぇ)
「ん、俺って変わってる?」
「10歳でコーヒーを好きな人はほぼいないと思いますよ」
「そうよね…」
「あと考え方も大人びてますよね」
「あー、言われてみれば、そうよね…」
ちょっと触れられたくない内容に突入しそうだったので話を逸らす。
「ほら、オーガント家は小さい頃から教育熱心だったし大人びたんだと思うよ」
「ふーん」
「そういえばサリスは調理器具の購入は終わった?」
「終わってるわ、小さいけど簡単な料理なら可能よ」
旅行準備メモをアイテムボックスから取り出し二人に見せる。
二人は目を丸くする。
「本格的ね……」
「そうですね……」
そんな呆れたような会話をしり目に内容の確認をする。
「調理器具は準備できたということで、あとは雨具ね」
「雨具は古いのでもいいから、二人ともあるかな?」
「私はもってるわよ、ベック」
「私もパムに来る際に持ってきてます」
「じゃ雨具も大丈夫と…」
メモに記入する。
「アミは旅行に行くための着替えはまとめてるよね?」
「はい、もともとパムでは宿屋に泊まってますし」
「じゃあ、出発日はいつにしようか?」
「親への説明があるから明後日はどうかしら」
「アミは?」
「あさってで問題ありません」
「じゃあ、明後日の9時にでかけようか」
「「はい」」
そういって二人が返事をした。
(さてそろそろ頃合だな、サプライズを実行しよないとな…)
特注馬車の紹介を画策していた俺は二人に移動するように提案する。
「これからの予定はあるかな?」
「私はないわよ、でもあとでイネスさんには挨拶しに行きたいわね」
「私も予定ありませんよ」
「じゃあ、馬車を馬屋に移動するから手伝ってくれないかな」
「あれ、馬屋にあるんじゃないの?」
「いや他の場所にあってね、準備もあるし移動しておきたいんだよ」
「別にいいわよ」
「お付き合いします」
カフェテラスをあとにして、馬屋で二頭の馬を借り出して、そのまま港湾地区のロージュ工房を訪れる。
馬は外の杭に繋いで工房のドアを開く。
「いらっしゃい」
「お世話になります。ファバキさん」
「こんにちは」
「どうもです」
「あれこちらの猫人族のお嬢さんははじめてだよね?」
「ええ、友人として旅に同行することになりまして」
「なるほどね、じゃあ馬車を受け取りに来たのかな?」
「はい」
「ちょ、ちょっとベック、なにそれ?!」
サリスが慌てた声をだし、アミは事情が分からずポカンとしている表情を浮かべていた。
俺は落ちついた声で答える。
「ロージュ工房に馬車をオーダーしてたんだよ、サリス」
「えぇぇっ!?」
「オーダー?」
「ベック君はお嬢さんに説明してなかったのかい?」
「はい、引渡しのときに説明すればいいかと思ってました」
そういって、にこやかに笑う。
「いくらしたのよ、オーダーって…」
「高かったとしか言えないけどね」
ファバキも意図を察したようで俺に合わせて答えてくれる。
「お嬢さんへのプレゼントって話だったね」
(ナイスフォローだね!ファバキさんグッジョブ!)
サリスが顔を紅潮させて呆れ表情を見せる。
「じゃ倉庫に行こうか」
ファバキさんについて歩き、倉庫に案内されたサリスとアミが特注馬車の車体を見て驚いた。
「ほ、本当に、こ、この馬車を使って移動するの?」
「こんな馬車はじめてみました…」
「ほんとだよ、ロージュ工房を代表する新型馬車さ。そうですよね、ファバキさん」
「ああ、最新の装備を駆使してる自慢の馬車だよ」
驚く二人をみて、ファバキもすでに上機嫌である。
室内の収納に入っていた簡易便器の説明もする。
「えっといつの間にこんな大げさな話になっていたの?ベック…というか変なところから借金してるんじゃない?平気?それとも義父様に貸してもらったとか…」
「はじめて便器なんてみました…」
便器の話をしたところで、もう二人は驚くことを放棄してしまった。
まあ想像を超えた現実を何度も見せられると人って思考を停止しちゃうよねー
「オーダーしたのは、ちょうど一ヶ月前だね。あと借金もしてないしファバキさんとは商品開発で相談しあう仲なんだよ、だからお金のことは心配いらないよ」
相談しあうという話は誤魔化しているが、まるっきりの嘘は言ってない。
事情を察してくれているファバキも話をあわせる。
「きちんと代金ももらってるし工房としてもベック君は良いお客さんですよ」
これ以上は話がループしそうだったので、早速馬車に馬を繋げて馬屋に移動する準備をする。
御者台に俺とサリスが座り、アミは馬車の室内に入る。
「ファバキさん、ありがとうございました」
「南部都市バセナのお土産を期待してるよ」
「はい」
そういって馬車をゆっくり進める。
リズムよく響く馬の足音が心地よい。
大通りの銀杏の下の枝が、ちょうど目の高さにくる景色を眺めると、いつもの街の景色なのだが、まるで別世界に来た様な錯覚を覚える。
そこまでは良かったのだが、一点だけ困ったことがあった。
困ったこととは注目を浴びてしまい少しだけ恥ずかしい思いをしたのである。
しかし普段見たことのない大きな馬車の登場に街を行き交う人達が馬車を見つめてくるのはしょうがないことだった。
目立つなというほうに無理がある。
「馬車の移動って気持ちいいけど、視線が気になるわね…」
「うん」
ほどなくして馬屋に到着する。
馬屋の主人も特注馬車を見て驚いたが、さすがに仕事に実直なだけあって、すぐに所定の位置に移動して預かってくれた。
「さて馬屋への移動もおわったし、あとはそれぞれ出発の最後の準備をよろしくね」
「「はい」」
二人は小さく首を縦に振った。
2015/04/17 誤字修正




