3-3 猫耳
竜暦6557年10月25日
「父様。相談があるのですがいいでしょうか」
「どうした、ベック」
「オーガント家で契約している馬屋ですが、余ってる馬はおりませんか?」
「少し多めに世話をさせているからいるはずだが」
「今度の旅行で馬だけ貸していただけないでしょうか」
「馬車と馬の両方必要だろう」
そういってジャスチが聞いてくる。
「馬車の方は自分で用意しました」
「ほほー」
「実は一ヶ月ほど前にロージュ工房にオーダーしておりまして…」
「馬車をオーダーメイドしたのか!」
ジャスチは俺の顔を見ながら唖然とした。
「そこまで旅行に力をいれるとは、旅行者になりたいという夢はいまだ健在なんだな、ベック」
「はい」
腕を組みジャスチが考える。
「よし成人するまではオーガント家で契約している馬屋の馬を貸すことにしよう」
「ありがとうございます」
「あと馬車の管理も、馬屋で預かってもらえるように話をしておくよ」
「そうしてもらえると安心できます」
「まあ俺とアキアが行商に出れば、馬屋ではスペースが空くことになるしな」
「馬の貸し出し費用と馬車の預かり費用はいくらでしょうか?」
「それは俺が持ち出しておくよ、そのかわり成人後は自分で払いなさい」
「重ね重ねありがとうございます。父様」
これで馬の問題も解決したと安堵した俺は自分の部屋に戻り荷造りをしていた。
しばらくするとサリスが家にやってきて、大通りのカフェに連れていかれる。
「話ってなんだい?」
「もうひとり来てから話すわ」
「うん」
今日のサリスはやけに口数が少ない。
コーヒーを飲んで待っていると猫耳の少女が席に向かって歩いてくる。
もうひとり待ち合わせしている人物はアミであった。
「お久しぶりです、ベックさん」
「やあ、アミさんこんにちは」
「アミも来たし話をしましょうか」
サリスが場を仕切る。
「私のほうから既にアミに旅行への同行の話をしているけど、アミの質問についてベックに答えて欲しいの」
「その程度なら平気だよ」
「ありがとうございます」
「えっと南部の都市バセナへの同行した場合、報酬はいくらくらいになりますか?」
アミが質問してくる。
「アミさんはFランクで同行ということなので1日あたり銀貨2枚と考えてるよ」
転生前の世界の日本の金額では2万円にあたる。
それを聞いてアミの大きな目をさらに大きくした。
「そんなにもらえるのですか?」
「まあ冒険者ひとりの時間を拘束するんだしね、適正だと思うわ」
サリスがさりげなくサポートしてくれる。
「あと旅行先で3人で冒険者の仕事をした時の報酬は三等分ね」
「え?」
アミが呆然とする。
「その場合は雇用主が全て受け取るのではないのですか?」
「あー、今回は雇用じゃないよ。雇用だと指名クエストの依頼になっちゃうでしょ」
「あっ」
アミが気付いた。
「今回は俺達と友人として同行するってのが建前なんだよ。ようは仲間として行動するってこと」
「…」
真剣な顔をしてアミが考え込むので、俺も考えをまとめるためにサリスに質問する。
「そういえばアミの冒険者タイプはどんな感じかな、サリス」
「シールダーよ」
「シールダー?」
「えっとね、前衛で盾によって攻撃を受け止めるタイプよ」
「なるほど」
「私の冒険者タイプはアタッカーなのは知ってるわよね」
「うん、知ってる。あと俺は後方支援のサポーター」
そう俺が答えるとサリスがにこやかに笑っていう。
「アタッカー、シールダー、サポーターって組み合わせは冒険者同士の相性いいのよ」
「あーー」
俺は納得した。
頭の中に戦う場面を想像したが、隙なく連携攻撃している姿が想像できる。
今までは攻防をサリスひとりで担っていたが、シールダーが加わればサリスは攻撃に専念できるのだ。
「そういえばアミさんは迷宮にもぐる資金は溜まったのかな?」
「えっと…まだなんです…」
「じゃあ決まりじゃない?バセナの旅行に同行すればパムに戻った時には、まとまった資金が手に入るよ」
「…そうなんですけど」
「けど?」
なにかを悩んでいるようだ。
「サリスに聞いたんですけど、お二人は交際中なんですよね?私が一緒にいると邪魔になるんじゃないかなと…」
「…あぁ…」
アミは空気の読める乙女だったのだ。
そりゃ恋人同士のイチャイチャ旅行についていくというのは勇気が必要だ。
空気が読める人であれば誰でも遠慮する状況である。
しかしそれなりに戦う力のある同行者がいてくれるのは助かるという事情もある。
横目でサリスを見ると、すまし顔でホットミルクティーを飲んでいる。
俺に面倒事を押し付ける気なのだ…。そうアミを説得しろということだ…
ここまで俺を連れてきて、アミと会わせた時点でサリスはアミの加担に賛成しているのである…
意を決して話しかける。
「邪魔になんかならないよ、むしろ歓迎さ。子供に見える二人だけで旅に行くのは危険だしね」
「…はい」
「アミも加えて三人なら非常に安心だし是非とも一緒に来て欲しいなー、ははは」
すこしぎこちない笑いをする俺がいる。
もう少しで説得できそうなので切り口を変えてみることにした。
「サリスの夢ってなんだっけ?」
「私?私はベックのお嫁さんになる事と父のような強い冒険者になる事よ」
その話をきいてアミの猫耳が紅くなる。
「俺の夢は旅行者になって、世界を巡って本を書くことだね」
俺の話を聞いてアミが食いつく。
「世界を巡る?」
「そうだよ。な、サリス」
「私と出会った4歳のころから教会でも道場でもベックは、ずっと旅行者になる夢を語ってたわねー。懐かしいわ」
「アミの将来の夢ってあるのかな?」
そう質問するとアミが猫耳を斜め後ろに倒しながら恥ずかしそうにしゃべる。
「わ、わたしの夢は猫人族の聖地にいくこと…なんです…」
「聖地?」
初めて聞く単語だった。
「場所はわかりませんが、古くから代々語り継がれてきた場所なんです」
「へー」
「そこにいけば…猫人族に加護を与えた精霊様がいるそうです…」
「スケールの大きな夢ね…」
サリスが呟く、俺も同じ感想だった。
何か他に目的があるのかもしれないなと思ったが、そこは個人の事情なので立ち入るべきではないだろうと思いを封印した。
「それなら今回の旅行は夢の一歩かな」
「え?」
「パムでもそうだったけど、その聖地を探すなら冒険者としての強さのほかに、世界の文化や風習や生活を知っておくことが重要じゃないかな」
「そうですね」
前向きに検討しはじめてくれたので決め手の一言を提案する。
「あと旅先での宿だけど、サリスとアミが同じ部屋、俺は一人部屋で過ごそうと思ってるけどどうかな」
「「え」」
なぜかサリスまで驚く。
「そのほうが友人同士の三人で仲良く出来そうじゃないかな」
「そこまで考えていただけてるのでしたら是非ともご一緒させてください」
「アミさんは挨拶が硬いな、友人なんだしもっと気楽にしてもらえると助かるよね、サリス」
「ええ、そうね。よろしくね。アミ」
「こちらこそよろしくです」
ペコリとアミが耳を倒して可愛らしくおじぎをした。
(もふもふ最高やーーーーーーー)
俺の脳内に某RPGのファンファーレが鳴り響く。
『仲間が増えた』




