2-30 顛末
竜暦6557年10月15日
冒険者ギルドの救護院のベッドで俺の意識は戻った。
全身に激痛が走る。
辺りを見ようと首だけ動かしたところでサリスが俺の覚醒に気付いた。
俺の目が覚めたことに安心したサリスの泣き声が部屋を包み込む。
「た、たい、たいしょうふ、たよ…」
口が上手く動かないために呂律が回らない。
そのおかしな言葉を聞いて、さらにサリスが泣く。
俺を心配に思って泣いてくれるサリスを見ていると俺までせつなくなってきた。
目に涙が溜まる。
サリスを安心させるために、言いたい事はたくさんあったが体がうまくうごかない。
泣き声に包まれたまま時が過ぎていき、そのまま俺は眠りについた。
竜暦6557年10月16日
次に目覚めた時も覚醒に気付いてくれたのは付き添っていたサリスだった。
激痛はかなり治まっていた。
呂律が回らないということもなくなり、体を動かせなかったが、なんとか会話が出来た。
ここが冒険者ギルドの救護院であること。
迷宮で気を失ってから二日経過していること。
ガニデさん達は全員無事であること。
スプリガンは凄まじいダメージを受けて絶命していたこと。
俺の怪我の具合は全身打撲であること。
Eランク昇格試験の指名クエストの報告はサリスが済ませていること。
オーガント家の家族が毎日見舞いに来ていること。
サリスの父と兄も毎日見舞いに来ていること。
サリスは俺がベッドで意識なく横たわっていた間のことを泣きながら話してくれた。
「心配かけちゃったね、サリス…」
「もういいの、ベックが無事だったから…」
「ごめんな…」
「…」
「俺がんばりすぎちゃったみたいだな…」
「…うん」
「元気になったら、少しのんびり過ごそう…」
そういって目を閉じると、俺は薬の影響でそのまま眠りについた。
竜暦6557年10月17日
朝、目が覚めるとサリスが覚醒に気付き医者を呼びにいった。
上半身を起こし診察を受ける。
「薬が効いてるようだね」
「もう動いても平気でしょうか?」
「打撲だけだったしね、あとは自宅でゆっくり休めば体力を回復できるよ」
「ありがとうございます」
「よかったわね、ベック」
そういって立ち上がるとサリスが寄り添って体を支えてくれた。
「無理しちゃ駄目よ」
「うん」
サリスに手伝ってもらい着替えてから救護院を出て、オーガント家に戻った。
家に戻った俺はジャスチとイネス、アキアに謝る。
「ご心配をおかけして、すいませんでした」
そういうとイネスが泣きながら抱きしめてきた。
「無事で安心したわ、元気でいてくれさえすれば平気よ」
泣きながらイネスがいう。
「母様…」
赤ん坊の時お世話になったときを思い出す。
この人には一生頭が上がらない…
「人助けの結果の名誉の負傷だ、気にするな」
アキアが元気づけてくれた。
「アキア兄様…」
優しい兄で本当によかった。
「家族を守るためにも泣かせないためにも、もっと強くなれ!ベック」
「はい、父様…」
ジャスチの言葉は厳しかったが、心にずんと響いた。
イネスとサリスに支えられて部屋に戻りベッドに横になってから家族の言葉をかみ締める。
サリスが俺の手を両手で包み込む。
あたたかい。
「二人で一緒に強くなっていきましょう」
「うん」
この日から3日後の竜暦6557年10月20日、俺とサリスは冒険者ギルド代表のクルハからEランクに昇格したことを告げられた。




