2-29 スプリガン
竜暦6557年10月14日
午前中に迷宮1階を進み、ゴブリン4体とスライム4匹と遭遇したが危なげなく討伐し、俺達は迷宮2階の縄梯子のある十字路に降り立つ。
「予定より早く着いたわ」
「迷宮1階で遭遇する敵の数が減ってるからだろ」
「他の冒険者に討伐されてるわけね」
「うん」
その会話で、いずれ迷宮2階に狩場を求めて移動してくる冒険者の姿を想像した俺がいた。
「この状況が続くと、遅かれ早かれ1階は初心者、2階は中級者って具合になってくるだろうね」
「そうなりそうね」
俺はアイテムボックスから升目の書かれた紙を取り出しサリスと相談する。
「ガルムの右耳を5体分の採取だし、魔獣の調査よりガルムにのみ絞って今日は戦おう」
「うん」
「早ければ今日中に終われるかも」
「そうなればEランク昇格試験もようやく終わりね」
「まあ、最後まで気を抜かずに頑張ろう」
「はい」
「升目の紙を見ると北1と南3にガルムがいるから、まずは北1に移動するよ」
そういってサリスを先頭に北の通路を進むと唸り声が聞こえてきた。
サリスが止まって小声で話す。
「ガルムがいるみたい」
(【分析】【情報】)
<<ラビリンス・ガルム>>→魔獣:アクティブ:闇属
Eランク
HP 110/110
筋力 4
耐久 2
知性 1
精神 1
敏捷 4
器用 4
「ガルムが3匹だね」
「修行やりたいなー」
「ふむ、じゃバーストなしでやってみる?」
「うん」
サリスがニッコリを笑う。
1階では、剣の実力を思う存分に発揮できなかったストレスがあったらしいので、あえてサリスに任せることにした。
「じゃ、俺はサポートにまわるよ」
サリスがストームソードに手をかけて精神統一する。
呼吸が止まったかと思った瞬間に、一気に走り出し手前のガルムの首を目掛けて斬撃を飛ばす。
「ブシュッ」
鈍い音がした瞬間、ガルムの首から血が噴出した。
皮膚の下の大きな血管を切り裂いたようだ。
仲間の血の匂いで残ったガルム2匹が歯を剥き出してサリスに襲い掛かる。
サリスは丁寧に盾で受けながら、剣を振るい続ける。
俺はサリスの背後を守るように位置取り、槍の間合いを駆使してガルムの行動を阻害しつづけた。
「ギャフッ」
2匹目のガルムが致命傷を受けて崩れ落ちた。
最後に残った1匹がサリスから俺を狙おうと駆け出した瞬間にサリスの剣がその後ろ足を切落とし、あえなく絶命したのだった。
戦闘がおわり、サリスに手拭を渡す。
「血糊ふいておいて」
そういってから俺は魔獣から右耳と魔石を回収した。
「手拭、ありがとう」
「気が済んだ?」
「うん、やっぱり無心に剣を振るうのは私の性にあってるわ」
サッパリした顔で笑みを浮かべるサリスがいた。
「南3に移動してみる?」
「うーん、北2の先にガルムがいないかだけ確認してみよう」
「はい」
北2の十字路に到着し、東に進むと同じように唸り声が聞こえる。
(【分析】【情報】)
<<ラビリンス・ガルム>>→魔獣:アクティブ:闇属
Eランク
HP 109/109
筋力 4
耐久 2
知性 1
精神 1
敏捷 4
器用 4
「北2東1はガルムだったね。3匹いるよ」
「亜種はいなさそう?」
「うん」
「これ倒したら目的クリアしちゃうわね」
「先にクリアした後を考えるのは危険だよ」
「うん」
「まずは目の前のガルムに集中しよう」
「はい」
死亡フラグを立てそうだったサリスを戒める。
迷宮で慢心は危険である。
「作戦はさっきと同じでいこう」
「はい」
先ほどと同じようにサリスがストームソードに手をかけ目を閉じて精神統一する。
目をカッっと開き、駆け出すと1匹のガルムがサリスに気付き、歯を剥き出して足を狙って噛み付いてきた。
サリスは冷静にその動きを見切り、頭を狙って袈裟切りを放つ。
致命傷まで至らなかったが、噛み付いてきたガルムの鼻先から血が滴った。
3匹のガルムはサリスを取り囲むように陣取り、狙い済ませて連携して攻撃してくる。
サリスは終始落ち着いて盾を駆使してガルムのペースに持ち込ませないように動き続けた。
俺もサポートに徹し、シェルスピアを操ってサリスから間合いをあけようとするガルムに傷を負わせていった。
程なくしてその場に3匹のガルムが倒れていた。
「おつかれさま」
「気を引き締めておいてよかったわ、ありがとうベック」
俺とサリスはガルムから右耳と魔石を回収し立ち上がる。
「指名クエストも終わったわね…」
「ああ」
「時間かかったけど楽しかったわね…」
「ああ」
「3週間かな…」
「ああ」
「本当にありがとう、ベック」
長かった昇格試験も終わり、感極まってサリスが涙ぐむ。
抱きついてきた。
俺は適切な言葉が思いつかず、ただ黙って相槌をうつだけだった。
(これでEランク冒険者になるんだな…)
俺にとってはあくまで旅を快適に過ごすための副業のはずだったが、長い大変な試験を終えてみると冒険者という職も案外わるくなかった事をしみじみと感じた。
サリスが落ち着いたのを確認し、体を離しどうするか思案する。
「このまま報告しに戻るか、それとも魔獣の配置調査を続けるか…」
「時間もあるし北2西1と北3だけでも見てからでもいいわね」
「そういうなら、その2箇所だけ確認してから戻ろう」
そういって軽い足取りで北2の十字路まで戻った後、そのまま西に進んだ。
半ばまで進むと壁に染みのような影が見える。
(【分析】【情報】)
<<ラビリンス・スライム>>→魔獣:アクティブ:無属
Eランク
HP 66/66
筋力 2
耐久 8
知性 1
精神 1
敏捷 1
器用 1
(亜種はいなくて、スライム4匹か)
「スライムが4匹いるから金策ついでに焼いちゃうね」
「はい」
マルチロッドを構え、火の玉を放った。
「《バースト》」
いつものように着弾し炎がスライム達を焼いていく。
サリスが魔石を拾ってる間に升目の紙を情報を書き込んだ。
北2東1 ガルム
北2西1 スライム
「結構情報埋まったわね」
升目の紙をサリスが覗き込み感想を漏らす。
「この情報がまとまれば、旅行から戻ってからも迷宮2階で稼ぎやすくなるからね。大事な商売道具さ」
「そうね」
その言葉を聞いてサリスは笑ってうなづいた。
北2の十字路まで戻り、北の通路を進んだところで通路の先から大きな咆哮が聞こえ空気が震える。
異常事態の発生に体が反射的に硬くなったが、状況を確認するために俺とサリスはその場を駆け出す。
その状況は異様だった。
幅4m高さ4mほどのずんぐりむっくりした体を持った1匹の魔獣と1人の冒険者が向かいあいやり合っていた。
よく見ると冒険者の方はDランク冒険者のガニデである。
同じクランのハイエは、魔獣の足元から少し離れた場所に横たわる仲間のクピタを救出しようとしていた。
(【分析】【情報】)
<<ラビリンス・スプリガン>>→魔獣:アクティブ:無属
Cランク
HP 330/362
筋力 16
耐久 16
知性 2
精神 2
敏捷 2
器用 2
「危ない!!スプリガンだ!!」
「スプリガン?」
「Cランクの魔獣だ」
「ど、どうしよう…」
状況を確認し、サリスに指示を出す。
「まずクピタさんが倒れているので転移石を使って救出しよう。サリス任せていいかな」
「ダメよ、ベック」
「ん?」
「戦闘中の転移石の使用は魔力が乱れて転移できないって師範が言ってたわ…」
少し考える。
上手く攻撃を避け続けているとはいえ、いつまでもガニデさんがスプリガンを相手にするのは危険すぎる。
作戦を変える。
「サリスお願いがある。俺と一緒にハイエさんと共にクピタさんを助け出して、北2通路まで走ってくれ」
「う、うん」
「そこまでいけば転移石が使えると思うから脱出して、応援を呼んで欲しい」
「ベックは?」
「俺はそのあとマルチロッドでガニデさんの援護をして時間を稼ぎ、タイミングを見てガニデさんと一緒に撤退するよ」
サリスは真剣に話しかける俺の意を汲み首を縦に振ってうなづいた。
俺は目くらまし用にとマルチロッドに闇魔石をセットする。
「…危なくなったら、とにかく逃げてね」
「ああ、そうするよ」
「…気をつけて…」
そういってお互いに行動に移す。
「手助けします!!!」
そう叫んで、クピタさんの救出にあたる。
俺達が突然援護にあらわれたことにガニデとハイエが驚いた表情を見せた。
「すまない、クピタを連れて逃げてくれ!!」
スプリガンの攻撃を避けながらガニデが怪我を負った仲間を思い、悲壮な声で哀願した。
「「はい」」
そういって通路脇で倒れて気を失っているクピタをハイエと俺とサリスで抱え上げ、スプリガンから逃れるようにその場を離れる。
「先に転移してください」
「しかし…」
ハイエも怪我をしていたがガニデを思い、この場を残ろうとした。
「ハイエさんも怪我を負ってますしこのまま撤退してください。俺はまだ怪我もしてないし平気です、ガニデさんを援護して撤退しますから先に戻って応援を呼んできてください、お願いします」
俺はそういい残しサリスに後を任せて、ガニデの元に走る。
(【分析】【情報】)
<<ラビリンス・スプリガン>>→魔獣:アクティブ:無属
Cランク
HP 298/362
筋力 16
耐久 16
知性 2
精神 2
敏捷 2
器用 2
(まだ八割も体力が残っているのか…)
よく見るとガニデは肩で大きく息をしている。
対してスプリガンのほうは通路の天井で手を振り上げることが出来ないので、足を使ったストンプや蹴りなどの攻撃を何度も繰り返している。
ガニデの消耗が激しいのは、あの大規模質量攻撃のプレッシャーを相手にしているためらしい。
ガニデに向かい叫ぶ。
「二人とも転移石で撤退させました!!!」
「ありがとう」
「ガニデさんもはやく逃げましょう」
「わかった」
そういって撤退しようとガニデがバックステップで左足のストンプを回避した瞬間、スプリガンの右足の蹴りがガニデを捉え20mほど飛ばされてガニデは動かなくなった。
(やばい)
その瞬間、俺は闇魔石をセットしたマルチロッドでバーストを魔石が砕けるまで放った。
「《バースト》《バースト》《バースト》《バースト》《バースト》《バースト》」
スプリガンの巨体を覆うだけの黒い粒子が立ち込める。
目の前を黒い粒子でふさがれたスプリガンが逃れようと歩きはじめる姿が見えた刹那、俺はアイテムボックスから蝋燭を取り出し火をつけスプリガン目掛けて投げつけた。
スプリガンを凄まじい威力の粉塵爆発が襲う。
同じように俺も閃光と爆風に襲われて吹き飛ばされ意識を失った。
2015/04/15 誤字修正
2015/04/22 誤字修正




