2-27 レッドキャップ
竜暦6557年10月12日
体を揺さぶられて頭が軽く覚醒する。
「ベック、おはよう」
聞きなれた声が耳から入ってくる。
「時間よ、目を覚ましてね」
再度体を揺さぶられたことで目を開けようとするが意識と肉体が繋がっていない為、もぞもぞとするだけで目を開けることが出来ない
「しょうがないわね…」
頬にやわらかな唇の感触があり、やっと意識と肉体が繋がった。
「ふぁぁぁっ」
「おはよう、よく眠ってたわね」
「おはよう」
上半身だけ起き上がった寝起きの俺は朝の挨拶をいうと、そのまま目の前にいるサリスに軽いキスをした。
「もう、ベックったら…」
「これぐらいは許してくれよ、ゆうべはサリスの横に潜りこむのを何度も我慢したんだからさ」
「……う、うん」
「いま何時かな」
「え、えっと8時よ」
「じゃ、お互い6時間づつ休めたって感じかな」
「そうね」
アイテムボックスの水筒から紅茶をコップにいれ二人で味わう。
「十字路はとりあえず安全地帯っぽいね」
「そうみたい」
アイテムボックスから升目の書かれた紙を取り出し昨日記載した内容を見直す。
東1 ゴブリン
南1 スライム
南3 なし
南4 十字路
南4西1 スライム
南4東1 スライム
南5 レッドキャップ
「今日の予定だけど」
「うん」
「魔石を稼ぎたいからスライムはマルチロッドで焼いていこう」
「はい」
「で縄梯子の周りの魔獣調査しようと思ってる」
「はい」
「あとレッドキャップがいたら目標の帽子まであと2個なので闇から火のバーストで戦おう」
「…はい」
野営用のアイテムを片付け、今日の探索をはじめる。
まずは南4西1に移動する。
(【分析】【情報】)
<<ラビリンス・スライム>>→魔獣:アクティブ:無属
Eランク
HP 65/65
筋力 2
耐久 8
知性 1
精神 1
敏捷 1
器用 1
「スライムが3匹、いくよ」
「はい」
「《バースト》」
スライム3匹の体は燃えあがり、あとには魔石が残った。
魔石を拾い、南4東1に移動する。
(【分析】【情報】)
<<ラビリンス・スライム>>→魔獣:アクティブ:無属
Eランク
HP 60/60
筋力 2
耐久 8
知性 1
精神 1
敏捷 1
器用 1
(亜種はいないな)
「スライムが4匹、焼くよ」
「はい」
「《バースト》」
撃ち込んだ火の玉が弾けてスライム4匹の体がいつものように燃えあがる。
あとに魔石を拾う。
「南5のレッドキャップは見ていく?」
「そうだな、途中まで進んで出現してるかどうかだけ確認してみようか」
「うん」
そういって昨日レッドキャップのいた場所まで南5通路を進んだが、レッドキャップはいなかった。
「出現してなかったみたい」
「戻ろう」
縄梯子周辺の調査もあるため、ここで引き返す。
南3の通路を北に進んでいると先から唸り声が聞こえてきた。
サリスが止まって小声で話す。
「先に魔獣がいるみたい」
「昨日は南3には魔獣がいなかったから出現したようだ」
「うん」
(【分析】【情報】)
<<ラビリンス・ガルム>>→魔獣:アクティブ:闇属
Eランク
HP 105/105
筋力 4
耐久 2
知性 1
精神 1
敏捷 4
器用 4
「ガルムが2匹だ」
「小型魔獣A種だったわよね」
「うん、ウルフをさらに凶暴にしたやつだよ」
「注意点は?」
「特にないかな、特殊なことはしてこないし」
「じゃ、ストームソードの修行をしていいかしら」
「いいよ、俺はサポートに徹するね」
「ありがと」
サリスが呼吸を整えて、手前にいるガルムに向かって駆け込み胴体を狙って剣を振るう。
ガルムが反応よく避けた。
奥にいたガルムがサリスの首に噛み付こうと突っ込んできたが盾で受け弾き飛ばす。
たまらずガルム2匹は距離をおこうとしたが、サリスは飛ぶ斬撃を次々繰り出してガルムを追い立てる。
傷ついた1匹がサリスの背後に回ろうとしたとしたところで、俺はその隙をついて胴体に槍を突き入れ捻じ込む。
「ギャワッ」
槍が心臓に達したのだろうかガルムが血を吐き絶命した。
先を見るとサリスがもう1匹の眉間に剣を突き入れた瞬間だった。
戦闘がおわり手際よく魔石を回収する。
「おつかれさま」
「いい修行になったわ」
「うん」
「今回は私あまり剣振ってなかったし」
「そういえば、そうだったね」
「思い切り剣を振ったからかしら、気分いいわね」
「よかった」
アイテムボックスから手拭を出して渡した。
額の汗を拭き、サリスがいつもの笑顔で笑う。
「やっぱり笑ってるサリスが一番素敵だね」
「ありがとね、ベック」
そのまま北に進み南2十字路する。
「ここの東を見ていこう」
「はい」
東に進むと気配に気付きサリスが止まる。
(【分析】【情報】)
<<ラビリンス・ゴブリン>>→魔獣:アクティブ:闇属
Eランク
HP 77/77
筋力 4
耐久 4
知性 1
精神 1
敏捷 2
器用 2
(亜種はいないな)
「ゴブリン3体いるね、サリスやりたい?」
「うーん…」
サリスが少し考えてから答える。
「やるわ、あと今回は最後まで私にやらせてね」
「いいよ、ただし危ないようなら手助けに入るからね」
「それでいいわ」
サリスが剣を抜いて先にいるゴブリンを見つめる。
一気に駆け出し、一番手前のゴブリンの首をめがけて剣を一気に横にふるう。
反応が遅れ回避できなかったゴブリンの首が刎ねられて飛んだ。
首のついてない体がドサリと地面に倒れる。
一瞬の出来事だったが、残った2体のゴブリンに充分すぎる恐怖を与えたようだった。
残った2体はうまく連携をとることさえ出来ずにサリスの剣によって体を沈めた。
俺は手早く魔石を回収する。
「最初の一撃が鋭かったね」
「うん」
呼吸を整えたサリスが短く返事をした。
俺達は通路を戻り南2十字路から縄梯子を目指す。
「いないな」
「ここ、スライムだったわよね」
「うん」
南1通路に魔獣の姿がなかった。
そのまま北に進み、ようやく縄梯子のある十字路に到着した。
「ちょっと休憩しよう」
「時間もちょうどいいわね」
そういって腰を下ろし休憩を始めた。
「カンパーニュとチーズがあるから食事も済ませましょ」
「いいね」
俺はアイテムボックスから水筒を取り出しコップに紅茶を入れる。
サリスはアイテムボックスからスライスしたカンパーニュとチーズを取り出した。
軽く食事をとる。
「温める調理器具が欲しいね」
「そうね」
冷たくなった紅茶を飲んで思わず呟いてしまった。
「これ以上奥にいくなら必要かも」
「そうだなー」
「本格的な野営調理器具だけど買おうかしら」
「いいんじゃないかな」
「そう?」
「ほら、旅行でも使えるよ」
「あ、そっか…」
サリスが思案する。
「調理器具に関しては、俺の目立ては役に立たないからサリスが使いやすいものを購入するほうがいいと思うよ」
「そうね」
そういってアイテムボックスから升目の書かれた紙を取り出し本日確認した新しい記載内容を確認する。
南2東1 ゴブリン
南3 ガルム
(今日は4回も魔獣と戦ってるし、さっさと目標のレッドキャップを狩るのがいいな)
「西1にレッドキャップいるし、そいつを倒したら戻ろう」
「はい」
休憩を終えた俺達は西の通路を進み、赤い帽子が遠くに見えたところで止まる。
(【分析】【情報】)
<<ラビリンス・レッドキャップ>>→魔獣:アクティブ:火属
Eランク
HP 113/113
筋力 8
耐久 4
知性 1
精神 1
敏捷 1
器用 1
「レッドキャップが2体いるから粉塵爆発狙ってみるよ」
「はい」
「爆発が収まってから切り込んでね」
サリスに目で合図をしたあと闇塊を撃ち込む。
「《バースト》」
闇塊があたり黒い粒子を散布されたところで、マルチロッドに火魔石をセットしなおし火の玉を撃つ。
「《バースト》」
火の玉が着弾すると同時に大きな音がし粉塵爆発が起こった。
熱風が通り過ぎる。
風がおさまったところでサリスが駆け出す。
致命傷に近い傷をおって地面に蹲っていたレッドキャップの首を目掛けて剣をふるい2体の首を刎ねた。
「おつかれさま」
「凄い威力ね…」
2体の死体からDランク魔石と帽子を回収する。
「素早い魔物には通用しないよ。最初の攻撃を受けたところで黒い粒子を避けてるように一気に動かれたらどうしようもないからね」
「鈍い敵限定ってことね」
「うん」
「ロックトータスあたりはどうかしら?」
「うーん。効果ありそうだけど岩の殻固いからなー」
「一度試してみてもいいかもね」
「さて早いけど目標達成したし戻ろうか」
「はい」
転移石を使って迷宮を脱する。
外に出ると日の光がまぶしくて目を細める。
迷宮管理の小屋で書類に退出時間を記入したあと冒険者ギルドの受付に顔を出す。
受付でジュイスに帽子と各種魔石を渡しクエストの報告を行う。
「はい、今回の指名クエストの報酬として銀貨10枚。あとDランク魔石7個とEランク魔石13個で銀貨68枚ね」
「どうもです」
そういって銀貨を受け取る。
「あとは最後の指名クエストね…」
「「はい」」
「では10回目の昇格試験の指名クエストの話だけど、迷宮2階のガルム討伐。右耳を5体分提出。報酬は銀貨10枚。採取箱と依頼票はこれね」
「はい」
サリスが採取箱と依頼票を受け取ったあと俺はジュイスに尋ねてみた。
「えっと昇格試験なんですけど受かりそうでしょうか?」
「…結果は代表がいうから私からは何もいうことは出来ないわ」
「はい」
「ただし」
「たたし?」
「頑張れば苦労は報われるのよ」
そういってジュイスが笑う。
なんとなくその笑顔で状況を察した。
「最後まで気を緩めないで頑張りなさいね」
「「はい」」
俺達は背筋を伸ばし返事をしたあと冒険者ギルドのドアをくぐり外に出た。
2015/04/22 会話修正




