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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
少年期【迷宮編】
38/192

2-22 ボア

 竜暦6557年10月7日


「またせちゃったかしら」

「平気だよ」


 約束していた迷宮管理の小屋の休憩所のテーブルで合流した。


「でも毎日待ち合わせするのも面倒だし、いっそ一緒にくらしたほうが良いんだろうけどねー」

「…え!?」


 俺が冗談めかしながら話すと、驚いた顔のサリスが俺を食い入るように見つめる。


「た、たしかにそうね!で、でも父さんに確認してみないと…」

「あれ、サリスはそんなこと考えたことなかったの?」

「成人してからだと思ってたし…そんなに早く一緒に暮らすとか…」

「でも、明らかに一緒にいる時間長いしさ、もう家族なみだよ」

「そ、そうよね…」


 サリスが考え込む。


(あれ、なにこの展開!同棲できちゃう流れ!?)


 ちょっと顔がニヤけた俺がいた。


「と、とりあえずはEランク昇格試験を優先しましょ」


 そういってサリスが話題を切り替えてきた。


「そういえば今回の目標ってボアって、あのボアよね」

「あのボアだよ」

「お肉美味しいよね…」


 魔獣のボアの肉は、ドルドス南部の特産品でハムとして加工されることが多く、高値で取引される貴重な品である。

 そのボアまで迷宮には存在するようだ。


「魔獣図鑑の情報では口元の大きな牙を剥き出して突進してくるらしいね。あと固い体毛の皮膚は天然の鎖帷子らしいよ」

「大変そうね…」

「体毛の少ない手足や頭狙いになりそうだね」

「とりあえず話のあった西に向かいましょ」

「うん」


 手続きを終えた俺達は迷宮に入ってから手早く準備を進める。


(【地図】を実施して、ナビゲートで西部の未踏破通路までの最短ルートを設定っと)


 目の前の浮かんだ地図を眺める。


(えっと最初スライム、次は落し穴、その次もスライムで未踏破通路か)


 俺達は薬草茶で腹止丸を飲み込むとアイテムボックスからダミーの地図を出す。


「西の未踏破の通路までの最短ルートだけどスライムだけだね」

「はい」

「途中落し穴が一箇所あるよ」

「じゃ、未踏破の通路まではマルチロッドでさくさく進みましょ」


 サリスが先行し、慎重に歩き始める。


 分岐を曲がったところで壁や天井に張り付くスライムが見えた。


(【分析】【情報】)


 <<ラビリンス・スライム>>→魔獣:アクティブ:無属

 Eランク

 HP 41/41

 筋力 2

 耐久 8

 知性 1

 精神 1

 敏捷 1

 器用 1


(普通のスライムが4体か)


 サリスに合図を出してから火の玉を撃ち込む。


「《バースト》」


 スライムに着弾して爆発。スライム4体が炎上し絶命した。

 魔石を4個回収したサリスが回収する。


「スライムは効率いいわね。」

「お金を稼ぐならね、でも修行相手としては微妙だよ」


 二人で微妙な顔をする。


 先に進むと光ってる床が見えた。


「あそこに落し穴」


 サリスがいつものように剣でつつき穴を開ける。

 アイテムボックスからロープを取り出し、手際よくロープを伝い3mほどの深さの落し穴の底からサリスが魔石を回収してきた。


「6個もあったわ」

「臨時収入ってことで」


 俺はニヤっ笑いかけて、サリスも笑みを浮かべた。


「この先の三又の分岐をまっすぐ行けば、またスライムだね」

「はい」


 分岐をまっすぐ進むと、スライムのいるはずの場所についたのだが周囲にスライムが見あたらなかった。


「倒されたばかりなのかな」

「そうみたいね」

「先に進もうか」

「はい」


 そういって歩き出そうとした瞬間に目の前の空間が歪み、5cmほどの黒い水晶が出現した。

 俺とサリスは異常の発生に思わず後ずさった。


(【分析】【情報】)


 <<ラビリンス・ポータル>>→魔獣:パッシプ:空属

 Fランク

 HP 1/1

 筋力 1

 耐久 1

 知性 1

 精神 1

 敏捷 1

 器用 1


(魔獣?!)


「サリス、魔獣かも!!」


 俺はマルチロッド、サリスは盾を構えストームソードを握り締める。

 黒い水晶が弾け散ると同時に、そこにスライムが5匹出現した。


「《バースト》」


 出現したばかりのスライムに目掛けて即座に火の玉を放った。爆発してスライム5体が火に包まれてウネウネと動いた後に絶命した。

 他に異常がないか二人で辺りを警戒する。

 砕けた水晶の欠片をよく見ると、いつも使っている転移石だった。


(なるほど、ポータルて魔獣が迷宮内に魔獣を外界から転送してきてるのか…、で分裂し砕けた体が転移石になると…)


 迷宮に何故各地の魔獣が生息しているのかが謎だったが、ようやく俺は迷宮の仕組みの一端を理解できた。


(まだまだ謎が多いけど迷宮って本当に不思議だな)


「とりあえずもう異常はなさそうだね」

「そうみたいね」

「あとさっき浮かんでいた水晶の破片が散らばったけど拾ったほうがいいよ、転移石だね」

「え?」


 そういってサリスが幾つか拾い上げる。


「ほんとだわ、これ転移石ね」

「どうやら迷宮が魔獣を取り込む際に、転移石は生み出されるようだね」

「ああやって魔獣が出現してたのね…」

「俺も驚いたよ」

「貴重な経験しちゃったわね」

「だね」


 二人して神妙な顔つきでスライムの死体を眺める。


「さて回収して先を進もう。ボアが待ってるよ」


 そういって魔石5個と複数の転移石を回収してから通路を先に進む。


「ここから先は未踏破の通路だよ」

「じゃ時間もいいし休憩しておきましょ」


 シートを地面に置き、早速休憩をすることにした。

 サリスがランチボックスからチーズとズッキーニのキッシュと薄く切ったカンパーニュを取り出す。

 俺は水筒を取り出し、2つのコップに薬草茶を注ぐ。


「美味しいな、キッシュ」

「朝がんばって作ってみたの」

「こんな料理を食べれる俺は幸せだな」

「う、うん」


 料理を褒められたサリスが嬉しそうに笑う。

 女性って変わるもんだよね、本当に。

 最近、サリスの女性としての成長が著しい。

 料理の腕もそうだけど、体つきも成長している。

 特に胸が!そう胸が!

 以前はAカップ程度であったはずだが、いま目の前にあるカップはどうみてもCはあると思う。


(俺がベッドで揉み始めたら、もっと大きくなるのかな…えへへへへ)


 不埒な考えが脳裏をかすめるが、ここは迷宮である。俺は姿勢を正す。


 休憩を終えた俺達はボアを探して未踏破の通路に足を踏み入れた。


「ちょっとジメジメしてるわね」

「うん」


 分岐があり左に進むと行き止まりであった。


「戻って分岐を右に進みなおそう」

「はい」


 そういって分岐まで戻り、右に進む。

 さらに分岐があり左に進むことにする。


 30mほど先の通路で何かが蠢いた。


(【分析】【情報】)


 <<ラビリンス・ボア>>→魔獣:アクティブ:風属

 Eランク

 HP 165/165

 筋力 4

 耐久 4

 知性 1

 精神 1

 敏捷 4

 器用 1


(ボアだ!3匹いるな)


 俺はサリスの肩を叩き合図する。


「この先にボアがいたよ。しかも3匹」

「はい」

「通路に生えているキノコを食べてるみたいだね」

「作戦はどうするか考えているのよね」

「図鑑の情報より大きいから、ちょっと迷ってるんだよね」


 少し考えてからサリスに提案する。


「壁を設置するから少し通路を戻ろう」


 そういってボアに気付かれない位置まで後退する。


「壁って大変じゃない?」

「簡単な障害物の壁だよ、見ててね」


 そういってアイテムボックスから薪と縄を取り出し作業を進める。

 続いて十字になるように薪を縛っていく。


「こういうの十字に結んだ薪を使うから手伝ってね」


 サリスも手伝い、幾つか十字が出来たところでそれを地面に×字なるように付き立てていき、最後に横に倒れないように更に薪をつかって×字の中央部分を連結していく。


「あとは斜めに突き出た薪の先端を鋭く尖らせておこうか」


 二人の共同作業で2時間ほどして完成した。

 高さ30cmほどの小さいサイズだが古代でいう拒馬、転生前の現代でいうならバリケードが完成した。


「出来上がり」

「手際いいわね、ベック」

「ボアが突進してくると、この尖った薪の先が食い込んでダメージを与えられるよ」

「なるほどね」


 サリスが感心する。


「ここから先の作戦だけど、おれが土塊をマルチロッドで撃ち込んで、追いかけてくるボアをここまで誘導する」

「最初は火の玉の炎上でよくないかしら」

「毛皮も納品だから、傷はなるべくつけたくないんだよね」

「そうだったわね」

「で、誘導したら俺はジャンプして尖った薪の壁を飛び越えてから、こちら側に立って単発の火の玉と槍で頭と手足を攻撃するね」

「わたしは?」

「尖った薪の壁を越えて傷ついたボアの頭と足を狙って攻撃、突進が激しそうなら尖った薪の壁のこちら側に退避ね」

「はい」

「とりあえず、尖った薪の壁を有効に活用してダメージを与えよう」


 作戦が決まったところで、俺は通路を進みキノコを食べているボアに土塊をぶつけた。

 怒ったボアが俺を狙って駆け出してくるので、全速力で尖った薪の壁まで走った。

 尖った薪の壁をジャンプで飛び越えたところで背後で音がする。


 見ると尖った薪の壁に突っ込んだボアが顔から血を流している。

 ギリギリのタイミングだったらしいが、安堵する間もなくシェルスピアで顔に突きをいれていく。

 サリスは突っ込んできたボアの足を狙い、飛ぶ斬撃を繰り出していた。


 血を見て興奮したボア達は尖った薪があるにも関わらず、それを無視してサリスや俺目掛けて何度も突進を繰り返す。

 猪突猛進とはこのことだ。

 しかしこの状況はボア達には不利すぎた。

 自分で尖った薪に顔をぶつけていくという自殺行為によりあっけなく3匹のボアが横たわることになった。


「ボアの突進が鬼気迫って怖かったわね…」

「自滅してくれてよかったよ」

「いまの私が正面から戦うなら1匹が限度ね」

「今回まとめて3匹だったし、採取があったから難易度高かったね」


 戦いの余韻に浸ったあと、俺は薪で作った壁を分解、サリスは魔石とボアの皮と肉の採取作業を分担して行った。


「届ける肉と皮は2体分よね?」

「あまった肉は家に持ち帰ろう」

「ベックのアイテムボックスは空きあるわよね」

「うん」

「じゃ、切り分けるから入れておいてね」


 そういって手際よく解体作業をしていく。


 目的を達成した俺達は迷宮から出て冒険者ギルドに向かい、受付でジュイスにボアの肉と皮と各種魔石を渡しクエストの報告を行う。


「はい、今回のクエストの報酬として銀貨10枚。あと各種Eランク魔石18個で銀貨36枚ね」

「はい」


 そういって銀貨を受け取る。


「8回目の昇格試験の指名クエストの話だけど、調整中で準備が遅れてるからあとで連絡するわね」

「いつ頃準備が終わりそうでしょうか?」

「遅くはならないと思うけど明後日もう一度受付に顔を出してみてね」

「「はい」」


 俺とサリスは返事をしたあと冒険者ギルドから出て、大通りの色づいた銀杏並木の下を歩いている。


「そういえば明日は母様に料理を教えてもらう日だよね、せっかくだしボア肉の料理つくってくれると嬉しいな」

「希望はあるのかしら」

「『ボア肉の葡萄酒煮込み』とか美味しそうだね」

「それ、いいわね」


 二人とも明日の料理を想像して笑みをこぼす。


2015/04/22 会話修正

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