2-15 猫人族
竜暦6557年9月30日
各種Eランク魔石のレート変更の正式な通達が出た。
1個あたり銀貨3枚だった買取額が10月より1個あたり銀貨2枚になるという内容だ。
さらに今後も需要と供給のバランスを鑑み調整があるということも附則されていた。
落胆する冒険者は多かったが、それでも高収入を得られるのということから声高に不満をいうものはいなかった。
自分の部屋で俺は今後の金の計算をしていた。
(1ヶ月のうち15日迷宮にいく。で1日の収入が魔石20個だとして銀貨40枚。サリスと分配して銀貨20枚。15倍として金貨3枚か…)
眉間に皺をよせる。
(ロージュ工房への支払いが金貨残り10枚か…、いま貯金が金貨3枚なので、このペースなら3ヶ月くらいで目処が立つのかな)
もっと大きく稼げないか思案するが、良い手が浮かばないので考えるのをやめた。
(俺1人じゃ限界あるし今度サリスに相談してみるかな…)
サリスは叔母である師範の手伝いで今日1日道場にいっている。
久々に1人だし図書館にでもいこうかと家を出る。
(もっとこの世界に映画やゲームとか娯楽があれば暇つぶしも楽なんだけどな…)
そんなことを思いつつ、大通りの色づいた銀杏並木の下を歩いていると
ある店の前をうろついている亜人の少女の姿が目には入った。
(おー、もふもふだ。さわりてーーーー!)
そう先日通りを歩いていた猫耳の亜人の少女だ。
(【分析】【情報】)
<<ムイ・ネル・アミ>>→猫人族女性:10歳:冒険者
Fランク※
HP 132/132
筋力 2
耐久 16
知性 1
精神 4
敏捷 4
器用 1
<<装備>>
ナックルシールド
ナックルシールド
レザーヘッドバンド
レザージャケット
レザーアームガード
レザーレッグガード
(アミって名前なのねー)
これは浮気でない!、人助けだ!と心で何度も何度も繰り返したあとアミに声をかける。
「困っている事があったら手伝いましょうか?」
そういって声をかけた。
「あ、えっと私にですか?」
「ええ、先ほどから店の前を何度も往復してましたよね」
アミが恥ずかしそうな表情をすると同時に「きゅーーーーっ」と空腹を告げるようにおなかが鳴った。
「あ、ち、違うんです!そ、その違うんです!これは、その、えっと…」
腹の音によってアミがパニックに陥った。
「落ち着いてください」
そう落ちついた声で優しく語ると少し安堵した表情を見せてから
「あ、あの、じ、実はお金を落としてしまって…その…」
泣きだしそうな顔になる。
遠目で見ると俺がいじめている様だ。
これはヤバイと直感した俺はアミに提案する。
「俺も昼食これからなので、ご一緒にどうですか?アドバイス程度なら出来ますし、お金は心配しなくていいですよ」
「あ、ありがとうございます」
アミが目に涙をためながら嬉しそうな顔で礼をいった。
近くのカフェの店内に場所を移す。
俺はコーヒーにキノコのガレット。アミはミルクにサーモンとほうれん草のキッシュを注文し、軽い食事をすませた。
「名前はムイ・ネル・アミっていいます。えっとFランクの冒険者です。」
(うん、もう知ってたけどねー)
内心そう思いながら自己紹介する。
「アミさんか、いい名前だね。俺はオーガント・ベック。君と同じでFランク冒険者だよ」
「オーガント?」
「ん?」
「いえ私の村にくる行商の方が確かオーガント・ジャスチさんていうんですけど…」
「あー、父様ですね。行商人をやってるんだ」
「そうでしたか」
「奇妙な縁があるねー、あはは」
そういって笑いかけたあと、いまでの経緯をあれこれ聞いたうえで状況を整理することにした。
「まず村で師事していたのは君のお父さんで、主に村近くの森で狩猟を行っていたと」
「はい」
「2週間前に迷宮が出来たことを旅の人から聞いて、修行も兼ねて一人でパムにきた」
「はい」
「冒険者ギルドの迷宮ガイドを見たところ手元の資金で必需品を揃えることが出来ないことがわかった」
「…はい」
「で宿屋を中心にパム周辺のFランククエストをやって資金を稼いでいた」
「はい」
「で、さっき財布を落としたことに気付き、困ってるところで俺に声をかけられたということかな」
「……はい」
アミが小さな声で返事をした。コーヒーを一口飲んでからいう
「さて、これからどうしましょうか」
「…」
アミの猫耳がぺたんと垂れて返事がないので助け舟をだす。
「父様のことも知ってるようだし銀貨3枚をアミさんに貸しましょうか。返済はFランククエストで稼いでから返してもらえばいいですよ」
「え!?本当にいいんですか?」
「はい、そのかわり…」
(体で払ってもらおうか、ぐへへへ!もふもふ最高やーーー)
と邪な考えが脳裏をよぎったが、言葉を続ける。
「この街にあるマリスキン道場で修業を受けるというのはどうでしょう」
「えっ」
「私も通っている道場で師範は元Bランク冒険者です。パム周辺で活動するための最低限の教えを受けてください」
「すでにFランク冒険者なんですけど、私…」
「最低限の戦闘能力はあるでしょうけど、残念ですけど街で活動していく知識が不足しすぎてます」
「そうでしょうか…」
「お金を落としたということでしたけど、それ財布をすられたんだと思いますよ」
「えぇぇぇ!」
アミが驚きの声をあげた。
「村から初めて出てきたということですし、そのあたりの知識がないのはしょうがないんですけどね」
「…」
「この条件でどうでしょうか?道場の月謝はFランククエストで稼ぐ範囲ではらえると思いますし」
「…はい」
「あと困ったときに道場の師範が相談にのってくれるのは大きいと思いますよ」
「!」
アミが大きく目を見開き涙をためていた。
「あ、ありがとうございます。見ず知らずの私に優しくしてくださって…」
「いえ、困った時はお互い様ですよ」
「本当にありがとうございます……」
猫人族の少女を俺がいじめて泣かせたような雰囲気になって気まずくなったので、アミを道場に案内することにした。
アミを連れて東大通りの路地の先にある道場に顔をだす。
「お邪魔します。」
「こんにちは」
サリスが道場の片付けをしてる姿がある。
「いらっしゃっ?!…ちょ、っちょっとベック!ど、どういうこと?」
猫人族の少女の姿を見て、サリスが妙な振る舞いをみせ俺に詰問してきた。
「落ち着いてサリス、師範はいるかい?」
「え、えっとちょっと待っててね」
サリスが奥から師範のギャユスを連れてきたので軽く挨拶をし、4人で会議室に移動し俺から一通り事情を説明した。
「猫人族かい、久々に見たね。で都市で活動する基礎知識や心構えを教えればいいという事だね」
「はい。父様のことも知ってますし見捨てることも出来ません。でも俺もEランク昇格試験で忙しいので、ずっと面倒を見続けることも出来ないですし」
「ベックは人が良すぎるね、まあしょうがない。確かに知識は偏ってるようだし、ここで修行させるのは良い案だね」
「ありがとう、師範」
「宜しくお願いします」
斜め後ろに猫耳を倒しながらアミがあらためて挨拶した。
(猫耳かわいいなー)
と思った瞬間、突き刺すような視線を感じ背中がゾクリとした。
いままで黙って事情を聞いていたサリスの視線だった。
(怒ってるのかな?いや、確実に怒ってる…な)
「じゃ俺はこれから図書館いくのであとのことは、よろしくお願いします」
そういって席を立ち道場を出ようとすると、アミとサリスが見送りにやってきた。
「ほ、本当にありがとうございました…」
そういってアミが申し訳無さそうに頭を下げた。
「ベック、あとで話あるから夕方家にいくわね」
ニコニコと微笑を浮かべ、目が笑ってないサリスがそこにいた。
(死亡フラグ…立ったかも…)
重い足取りで図書館にいかずに俺は家に戻った。




