2-14 ロックトータス
竜暦6557年9月29日
リーチは短いが回転切りを行うことでサリスを中心に360度をカバーする剣撃の結界が発生した。
ストームソードの名の通りまさに剣の嵐といって間違いない。
今まで無理に魔獣に近づくことで発生していた背後の隙や攻撃後の隙がほぼ無くなった事で戦闘の安定感は一気に増したのだ。
そして今、目の前にウルフ3体の死体が横たわっている。
俺は魔石を回収したあとサリスに声をかける。
「お疲れ様、すごいよ!サリス!」
「はぁはぁはぁ…、ありがと…」
俺は水筒を差し出し、サリスに喉を潤すように促した。
「た、たしかに強力だけど、まだ使いこなせてないわ……」
「体力の消耗が激しそうだね、ちょっと休憩しよう」
そういって腰をおろす。
「風の斬撃を飛ばすには中途半端な剣の振りじゃ駄目だから、ほぼ全力で振り続けるしかないみたいなのよね」
「さっきの結界は、ここ一番で使ったほうが良さそうだね」
「いまの時点ではそうね」
「修行すれば、もっと頻繁に出せるようになるよ」
「でも、筋肉つき過ぎちゃうのは避けたいわね…」
「遅筋を鍛えればいいと思うよ」
「遅筋?」
「えっとね、そんなに太くない筋肉で持久力をつける為の筋肉さ、女性らしいしなやかな体系を維持することも可能だよ」
「へー」
「逆に速筋といって瞬発力を上げる太くなる筋肉もあるけど、大槌とか重量物を振り回す人向けだね」
「ベックは物知りね」
「そうでもないよ」
「で、遅筋はどうやって鍛えるの?」
「えっと長時間に渡り、息を止めないで走ったり剣を振ったりしてればいいと思うよ。」
「時間が出来たら、長時間体動かすようにしてみるわ…」
「無理しなくていいからね」
「ありがとう」
「さて再開しようか」
腰をあげた俺達は迷宮1階南西の未踏破の通路を目指して歩き出す。
「ここから先は未踏破の通路だから注意ね」
「気をつけるわ、あとここにトータスいるといいわね」
「うん」
慎重に周囲を見渡しながら進むと通路に岩が落ちているのが見えてきたが違和感がある。
(【分析】【情報】)
<<ラビリンス・ロックトータス>>→魔獣:アクティブ:土属
Eランク
HP 183/183
筋力 1
耐久 16
知性 1
精神 1
敏捷 1
器用 1
(あー、ロックトータス発見。でも図鑑の説明より大きいな…)
「落石っぽいわね」
「天井に崩落のあとがないから変だよ」
「え、ほ、ほんとだ」
ロックトータスと分かっていたがサリスにそれとなく魔獣と告げる。
「目当てのロックトータスじゃないかな?岩に擬態してて冒険者が近づくと襲ってくるんじゃないかと思ってるけど」
「そうなのね…」
「うん」
「でも実際にあの殻を見るとストームソードやマルチロッドがあってもダメージ与えるのは大変じゃない?」
そこで俺は練っていた秘策をサリスに告げる。
「まず近寄って戦闘態勢に持っていこう、で殻に篭ったら焼き殺すよ」
「えぇ?焼き殺す?」
「薪と藁を事前に準備して持ってきたから大丈夫さ」
「外を火で囲むって事かしら」
「そうそう、ようは料理と一緒さ。肉の中まで火を通す要領で殻に篭った本体に熱でダメージを与えよう」
「それなら平気そうね」
「ただ料理の肉と違って手足があるし、火から逃れようとするだろうから、そこをうまく阻止できるかが重要だと思うよ」
「うんうん」
「火をつけたあとはサリスは頭と前足を見てね、おれは後足を見るよ」
「はい」
一通り打ち合わせが終わったので合図をし戦闘を開始する。
「《バースト》」
火の玉が岩に擬態したロックトータスにあたって弾けた。
いきなりの攻撃で頭と手足が岩から出てくる。
その頭を目掛けてサリスが鋭い一撃をいれる。
「キュゥゥ!!」
斬撃によって左目に傷をおったロックトータスが呻き声をあげて岩の中に頭と手足を隠した。
「よし薪と藁を敷き詰めるからサリスは頭の警戒おねがい!」
「はい」
俺はアイテムボックスから薪と藁を次々と取り出しロックトータスの周囲に敷き詰める。
「よし準備おわった。サリスいったん後退して」
安全な距離まで離れ火の玉撃ち込む。
「《バースト》」
飛び散った火の玉によって薪と藁に一気に火がついた。
「あとは所定の位置について逃げ出さないようにしよう」
燃え盛る炎を中心にサリスは前面、俺は後面に陣取る。
想定どおりロックトータスは熱気から逃れようと殻から手足を出すが、その手足に攻撃を加えていく。
たまにサリスに噛み付こうと頭も出すが、落ち着いて回避したあと頭に剣を当てていき、徐々に弱っていったロックトータスは30分ほど掛かって、ついに絶命した。
戦闘後周囲は熱気によってサウナ状態になっていたので、冷めるまで少し離れた位置で休憩することにする。
水筒から水を取り出し喉を潤す。
「はぁ、冷たい水が美味しいわ」
「予想以上の熱気だったしね」
「でも時間かかったけど安全に倒せたし、さすがベックね」
「高ランク冒険者なら火を使わなくても斬撃や打撃で倒せるらしいけど…」
「もっと強くなりたいわね…」
周囲の温度が下がったのを確認し、ロックトータスの嘴と魔石を採取する。
「Dランクの魔獣なのに魔石の大きさはEランクなのね、残念だわ」
「殻が大きいからDランクになってるだけだからね、しょうがないよ」
「うーん…」
「でもDランクのおかげで対象数も1匹だけだし、よかったんじゃないかな。これ何匹も相手にするのはきついよ」
「それは言えてるわ、当分やり合いたくないわね」
サリスがうんざりとした顔をする。
(こういった表情のサリスもかわいいな~)
そんな事を思いながら話を続ける。
「とりあえず目標はクリアしたけど、稼ぐために落し穴巡りしてみない?」
「いいわね」
「この近辺の落し穴に向かうね」
俺達は来た道を戻ることにした。
夕方、冒険者ギルドの受付に顔を出してジュイスにロックトータスの嘴と各種魔石を渡しクエストの報告を行った。
「はい、今回のクエストの報酬として銀貨10枚。あと各種Eランク魔石23個で銀貨69枚ね」
「どうもです」
「もう3回分のクエストクリアしちゃったのね、君達早いわよ…」
「すいません」
「誤ることじゃないわ、能力があるってことだから歓迎すべきことだしね」
言葉ではそういうが、ジュイスの表情を見ると少し困った顔をしていた。
想定以上のペースで昇格試験が進んでいることに戸惑っているようだ。
「4回目の昇格試験の指名クエストだけど、迷宮に生えているマヨイタケというキノコをこの採取箱に入るだけ持ってきてね。報酬は銀貨10枚。これが依頼票」
「魔獣討伐ではないんですね」
「ええ、そうよ。頑張ってね」
採取箱と依頼票を受け取り、ギルドを出てから家路につく。
「採取なら楽できそうね」
「…………」
(分析もってる俺は平気だけど、これって普通にやれば違う形の良く似たキノコを持っていく可能性があるクエストだな。ちょっとひっかけ問題に近いな…)
俺は思案してからサリスに告げる。
「クエストの件もあるし念のために本屋によって植物図鑑買ってくるよ」
「あら、じゃあ私も一緒にいくわ」
本屋で買物を済ませ、いつものようにサリスを家の前まで送り、軽いキスをして分かれた。
(キスもスムーズに出来るようになったし、そろそろ次のステップに移りたいなー)
アイテムボックスに入れている避妊薬のことが脳裏をよぎる。
色惚けした10歳の少年の俺がいる。
2015/05/16 誤字修正




