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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
少年期【迷宮編】
29/192

2-13 ストーム

 竜暦6557年9月28日


 今日は二人で東大通りのパティスリーに併設されているイートインスペースでお茶をしてる。

 俺はコーヒーとカップケーキ、サリスはミルクティーとラズベリータルトを、色づき始めた大通りの銀杏を眺めながら嗜んでいる。


「このタルトも美味しいわね」

「一口頂戴」

「あーんして」


 差し出されたタルトを欠片を頬張ると、口の中にラズベリーの酸味と甘さが広る。


「しつこくない甘さで美味しいね」

「そうでしょ」

「サリスもタルト作り挑戦してみたら?」

「私にはまだまだ難しいかな…」


 そういってサリスが通りに目をやる。


「ねえ、あれって亜人じゃない?」

「え?」


 思わず通りに視線をうつすと、銀杏並木を歩く猫耳&尻尾の少女がいた。

 着てる服を見ると冒険者のようだ。


「パムに亜人って珍しいわねー」

「俺はじめてみたよ」

「迷宮の噂も広がったし、そろそろ近隣からパムに人が集まってきたのかしら」

「パムも賑やかにやりそうだね」

「そういえば魔石買取のレートが下がるって話は聞いた?」

「え?」

「今朝、父に聞いたけど迷宮からの得られる魔石の数が多すぎるかららしいわ」

「あー、供給過剰なのか…」

「明日あたりは新レートになるかもね」

「…」


 高額な買物したばかりなのでレートが下がるのは痛い…


(今まで以上に稼がないとやばいな)


 今後の方針をどうするか思案する。

 Eランク冒険者になれば地下2階にもいけるけど、戦力的には地下1階の魔獣集団相手に6~7回倒すのが限度だ。

 落し穴の収入も見込めるが心許ない。

 あとは短時間で倒せるように武器を新しくするか、もしくは1人加えてクランにするか……

 でもペアでイチャイチャしてるのに、もう1人加えるとギクシャクしちゃうしな……

 いっそ開き直って女の子いっぱい増やしてハーレムにするという手もある!

 そうハーレム、この展開はハーレムくる展開じゃないか!!と邪な想像で顔がニヤけた瞬間


「ねえ、ベック。なにか変なこと考えてない?」

「え」

「顔に出てるわよ」


(見透かされちゃったよ、俺…。というかサリス恐るべし!!)


「いや、その、ケーキ美味しいなって思ってね」

「もう、嘘ってバレてるわよ、まったく」

「ご、ごめん」

「で、なに考えてたの」


 サリスが容赦ない質問を繰り出すので


「朝起きたら横にサリスがいたら幸せだろうなって…」

「………!」


 サリスの顔がみるみる紅潮していく。


(やっぱりサリスはウブだなー。話をはぐらかすのに、この手は使えるな)


「そ、それは結婚したあとで」

「うん」


 さて俺は話を元にもどす。


「さっきのレートの件だけど、今後を考えると戦力強化しないと厳しくないかな?」

「あ、う、うん」


 さっきの会話の影響でサリスはまだ挙動不審だ。


「新しい武器を準備するか、1人くわえてクランにするか」

「まだEランク昇格試験の途中だしクランは考えられないわね」

「でも、Eランクになってから、探し始めるのも遅くないかな」

「そうね、時間もあるし私達のペースにあうような冒険者がいるかどうか探すのは悪くないわね。ただし」

「ただし?」

「仲間増やすなら私が面接するわ」

「えっと」

「ベックは女性に甘いから」

「……お願いします」


(ハーレム展開おわりました…。さすがサリスだわーーー)


「まあ父から冒険者の実力を見る目は教えてもらってるからね、安心してね」

「……はい」


(ファキタさんのことも忘れてたわー。ハーレムとかでサリス泣かせたら俺の命なかったわ!!!!)


「というかベック忘れてない?」

「なにを?」

「クランを組むにしろ、一緒に世界を巡ることの出来る相手を探さないといけないのよ。ベックの夢でしょ」

「あーーー、うん、そう、そうだね、その通り」


 サリスに夢を指摘されて調子に乗っていた俺は猛省する。そしてサリスに感謝する。


「とりあえずサリスの新しい武器でも見に行こうか」

「いいわね」

「サリス、予算の希望はある?」

「貯金から出せるとして金貨1枚かしら」

「結構いいものが買えそうだね」

「ベックは?」

「俺はマルチロッドをもうすでに購入したし平気だよ」

「じゃ私の分だけね」


 イートインスペースを出た俺達は、ヘイルク装備工房に向かった。


「いらっしゃい。あら、いつも二人でいるのね。いやらしい」

「ちょ、ベキス!いやらしいってなによ」

「やあ、ベキス」


 ベキスの軽口にサリスが真っ赤になって言い返してる。

 聞き流せばいいのに…

 まあ二人は仲がいいってことだな。


「今日はサリスの武器を探しにきたんだ。オススメあるかい」

「予算はいくら?」

「金貨1枚で」

「かなりの業物買えるわよ。ちょっと待っててね」


 ベキスが奥に消え、数点の剣を持ってきた。

 早速分析してサリスにあった品を選ぶ。


(【分析】【情報】)


 <<ストームソード>>

 Dランク

 風属

 魔力 300

 耐久 500/500

 筋力 4

 敏捷 4


「この剣の特徴は?」

「えっと質のいい風魔石を芯にした剣で、風の斬撃を飛ばせるのが売りなのよ」

「え、それじゃ剣の形の放出系武器ってことかしら?」

「詳しい話はわかんないけど父さんの話だと、現象を強化するだけみたいよ。ほら手を振れば風が起きるでしょ。あれを強化した感じらしいわ」

「あー、なんとなく分かったよ」

「試してみたいわね…」

「お金かかるけど奥の案山子使ってみる?」

「うん、そうさせてもらえると嬉しいわ」


 俺とサリスは店の奥に設置されている案山子まで案内される。

 サリスは「《オン》」と呟きエンチャントする。

 剣身が淡く光る。

 迷わずストームソードで案山子を切りつけた。

 剣の軌跡にそって案山子が袈裟斬りされる。


「切れ味が今まで以上に鋭いわね」

「飛ばすのは離れて剣を振ればいいらしいわ」


 ベキスの言葉にサリスは一歩後ずさって勢いよく横薙ぎを繰り出すと剣を当てていないのに離れた位置の案山子の胴が切り裂かれた。


「「!」」


 俺とサリスは唖然とした。

 確かに風の斬撃を飛ばしたという現象が起きたのだ。


「使い手の技量によってさらに鋭さがますって話よ」

「これを購入させてもらうわ」

「お買い上げありがとうございます!」

「で案山子の使用料はいくらかしら」

「本当は銅貨50枚だけど贔屓にしてもらってるから今回は無料でいいわ、金貨1枚の武器なんてそうそう売れないしね」


 ベキスがにこにこ笑う。


(ほんとに商売上手だなー)


「今まで使ってた剣は下取りしようか?」


 ベキスが尋ねるが


「予備として持っておくわ」


 サリスが答える。


 代金を支払いヘイルク装備工房を出て、俺達は大通りの色づいた銀杏並木の下を歩きがら会話する。


「よい買物したね」

「うん、いまの私には勿体無い気もするけど使いこなせるように頑張ってみるわ」


 サリスが腰に装備した新しい剣の鞘に手をあてながら嬉しそうに笑っていた。


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