2-11 オーダーメイド
竜暦6557年9月26日
ロージュ工房のカウンターのテーブルで俺と発明家のファバキさんが向かいあう。
ファバキさんが要望の書かれたメモを見て唸る。
・テントは大きさは小型で簡単に設置可能して欲しい。
・テントの内部はアイテムボックスの応用で広げて欲しい。
・テントの内部は温度を快適な温度を維持して欲しい。
・雨具はフードとコートを合わせたもので水が染み込まないように処理して欲しい。
・雨具は炎天下対策にもなるようにコートの内側は快適な温度を維持して欲しい。
・携帯型便器として現在の全自動便器を小型化して欲しい。
・携帯型便器として付属として衝立が欲しい。
「雨具は既存の技術で作れそうだね」
「よかったです」
「しかし便器をあれ以上小型にするのは難しいな」
「そうなんですか?」
「術式の記載と容量、あと座位を支える構造を考えると厳しいよ」
「でしたら、分割してみては?」
「ん?!」
「ええ、排泄物の分解する機能と洗浄風を出す機能を分割するんです」
「ほー、その発想は面白いな」
「どちらもハンディサイズにすれば携帯しやすいのではないでしょうか」
「ちょっと待ってくれ」
ファバキが奥の机から図面をだしてきて、図面を眺めて思案してから呟く。
「洗浄風吹き出し口、分解壷は確かに分離すれば要望の大きさは実現できそうだ。よし製作に挑戦してみよう!」
「ありがとうございます」
「改造に近い案件だしね、やってみる価値も感じるし、こちらこそ有難い」
ファバキが笑みを浮かべる。
「しかし問題はテントだな」
「やはりそうですか…」
「空間を操作する魔力の制御は難しくてね、人が入ってさらにそこで活動できるほどの高度な空間の維持は現状出来ないんだよ」
「なるほど」
「実現できていれば人の住んでいる場所の土地活用の問題が一気に解決するんだけどね」
「そうですよね、あとは大陸中央部への進出も進むでしょうし…」
「そうだね、そういった空間の中はいわゆるセーフティゾーンとして魔獣から身を守れる手段になるしね」
二人して渋い顔をする。
「ただし旅を快適に過ごしたいというのなら、馬車を中心に手を加えたらどうだい」
「え?」
「馬車のキャビンに寝るスペースなどを設置するのさ」
ファバキの提案に俺は思わず身をのりだす。
転生前の世界ならキャンピングカーに相当するものだ、俺もこの発想は浮かばなかった。
(さすが天才だな、ファバキさん)
「いいですね、それ」
「まとめるとキャビンに寝るスペースと温度維持の装置をつけるということでどうかな?」
「ちょっと待ってくださいね」
俺は思案してから、キャンピングカーの構造を思い出しながら簡単な絵にしてファバキに提案してみる。
「車輪は4つ。乗り降りのドアは車体横。後部に荷物室を設け水や食料を収納可能。室内はフラットで大人数人が横になれる、他に天井にも収納スペースを確保するっと」
「こりゃ凄い、具体的で使いやすそうだ」
「あと車軸なんですけど…」
そういってファバキから借りた金属の板を曲げてから反発する様子を見せて板バネの説明をする。
「なるほど変形した金属が元に戻ろうとする力を利用して揺れを軽減するのか……」
「板を重ねることでさらに効果はあがると思います」
「ベック君、この工房で働いてみないかい?」
「は?」
突然の提案に変な声がでた。
「いやこの発想は画期的だよ、というか凄い。これが採用されれば荷物の輸送が大きく変わるよ!!」
興奮したファバキが声をあらげて席をたった。
「お、落ち着いてください、ファバキさん」
「すまんすまん、久々に開発者魂を揺さぶられてしまって、つい声をだしてしまったな」
興奮冷めやらないファバキはそれでも椅子につき語り掛ける。
「そんなに凄いこととは思ってませんでした。俺は旅行者として快適に各地を巡ってみたいだけなので…」
「そうか、もし君がこの仕事に付きたいと望むならいつでも歓迎するよ」
「はい、ありがとうございます」
俺は話を元に戻そうと金額の件を聞いてみる。
「えっとそれでオーダーメイドをお願いした場合、いくらくらいになりそうでしょうか?」
ファバキがメモに数字を記入していき思案してから答える。
「予備を含めて雨具10個、携帯型便器1個、特注馬車1台で最低でも金貨15枚だね」
「結構かかりますね」
「まあ職人も複数使うし、あとは質のいい魔石も必要になる。改造で新しく図面を書くからどうしても高額にはなるね」
迷宮での収支と今後の方針を思い浮かべ、決心してからファバキにいう。
「製作お願いします」
「その若さでこの金額の買い物をするとは君は凄いな、ははは」
「快適に各地を巡るためにケチることはやっぱり出来ません」
「それでは、私も期待に答える作品に仕上げよう。期間は数ヶ月ほどかかるがいいかな?」
「ええ、その間にお支払いするお金を準備します。とりあえず本日金貨5枚は用意してきたので手付け金として置いておきます」
「それは助かる」
手付金を渡しロージュ工房をあとにした。
大きな買物だったが後悔はない。
(さて、あとはサリスにどうやって説明しようかな…)




