2-10 亜種
竜暦6557年9月25日
「《バースト》」「はああああ」
ゴブリン達が火の玉の着弾で燃え上がる。そこに飛び込んでサリスが連撃を加え屠っていく。
サリスの背後から鋭く尖った石の短剣で襲うとするゴブリンがいる。
「《ショット》、サリスうしろ!」
単発の火の玉が当たり背後のゴブリンが一瞬怯む。その隙を逃さず振り向いたサリスがなで斬りにする。
4匹のゴブリンを倒したあと、右耳と魔石を回収する。
「ベック、助かったわ」
「サリスが無事で良かったよ」
今日4回目のゴブリンとの戦闘を終え、少し休憩をすることにした。
俺は時計で時間を確認する。
「えっと今15時か」
「いいペースで進んでるわね」
「うん」
「しかし本当にゴブリン達と連戦できててビックリしちゃった」
「昨日しっかりと地図を見直してルートを確認したからね」
「そういった作戦を立てるのってベックは得意よね」
「サリスより弱いし、俺はこういうサポートに徹する方が性に合ってるよ」
「…」
(あれ、ひさびさのジト目なんですけど?まずいコトいったのかな?俺…)
「ベック。あんまり自分を事を卑下しない方がいいわよ。作戦を立案するのも立派な冒険者の資質よ」
「う、うん」
真剣な顔をしたサリスに怒られ、俺はたじろぐ。
「この資格試験に合格したらEランク冒険者になるんだし堂々と振舞う事も必要になってくるわよ」
「うん」
「傲慢になってはいけないけど、かといって自信なく振舞うのは依頼者に不安を与えるだけで良い事はないわ」
「そうだね、アドバイスありがとう。サリス…」
「私が持っていない良いことろをベックはたくさん持っているんだから安心していいわよ、そういったベックだから好きになったんだし……」
変な方向に会話が向かっているのに気付いたサリスが黙り込む。
すこし間が出来たが、俺は知らず知らずに出ていた日本人気質の謙虚さを改めようと心にし、話を元に戻す。
「さてと今って右耳は全部で17個だよね」
「そ、そうね」
「あとゴブリン達と1回遭遇できれば、今日中に達成できそうだ」
休憩を終えた俺達は、先に進むことにした。
「あれ?」
ゴブリン達が固まっているはずの地点についたがいない。
「どうしたの?」
「えっとね、ここにゴブリン達がいるはずなんだけど、他の冒険者に既に倒されちゃってるみたいだね」
「じゃ、次の場所に向かいましょ」
「そうだね」
スキル【地図】でゴブリン達と連戦するための最短ルートは分かっていたが、他の冒険者の存在を俺は忘れていた。
(入口近くの魔獣は午後は倒されてる可能性が高いな…)
「移動に時間かかるけど奥のほうのゴブリンを狙ってみよう。この先を右ね」
1時間ほど進んだところで、ようやくゴブリン達を見つけた。
サリスの肩を叩き、止まるように合図を送り小声で話す。
「サリス、あそこ」
「了解」
マルチロッドに新しい火魔石をセットし準備が出来たところで火の玉を放出した。
「《バースト》」
4匹のゴブリン達に火が着いた。
駆け出したサリスがいつもの調子で一番手前のゴブリンに連撃をあびせると、ゴブリンが吹き飛ばされて倒れ込んだ。
しかしここで異変が起きる。
致命傷で倒れたと思ったゴブリンの傷がいえ立ち上がったのだ。
一番奥の一回り大きいゴブリンがなにか叫んでる。
(【分析】【情報】!)
<<ラビリンス・ホワイトゴブリン>>→魔獣:アクティブ:聖属
Eランク
HP 68/68
筋力 2
耐久 4
知性 4
精神 1
敏捷 1
器用 1
(亜種が混じってる!)
俺は焦った。
一匹だけ名前が違ったのだ。
たまに同じ魔獣でも性質の違う亜種が存在するというのは文献で知ってはいたのだが…。
まさかここで遭遇するとは思っていなかった。
雑魚のゴブリンを相手にしているという慢心から、きちんと魔獣を事前に確認しなかった失敗だ。
しかもその失敗からサリスを危険に晒してしまっている。
雑魚とはいえ傷を回復されてはサリスが強いといっても長期戦で圧倒的に不利である。
サリスがゴブリンに倒される姿を想像しただけで全身から冷汗が噴出した。
そんな事態は絶対に避けなければと歯を食いしばる!
「サリス!!!一番奥のゴブリンを真っ先に倒してくれ!」
同じように傷の癒えたゴブリンを見て混乱しているサリスに大声で指示する。
サリスは俺のほうをチラリと見て、頷いてから一番奥のゴブリンに向かって突進した。
3匹のゴブリンがサリスの背後を襲おうと迫る。
「《ショット》《ショット》《ショット》《ショット》《ショット》《ショット》」
俺は単発の火の玉をばら撒きサリスの背後にいる3匹の注意を引く。
不意に背後から攻撃を受けたことで激昂した3匹は俺に向かって駆け寄ってくる。
即座にマルチロッドの魔石を土魔石に交換し土塊を放出する。
「《バースト》」
3匹との距離が近かったために俺も土塊に巻き込まれ泥だらけになってしまったが、ゴブリン達の素早さを奪うことには成功した。
通路の先でサリスがホワイトゴブリンと戦っている姿が見えたが、優勢に戦っているようなので安心した俺はシェルスピアに持ち替えて3匹のゴブリンの足を狙い突きをいれていく。
槍の間合いを利用して立ち回り、とにかくサリスが駆けつけるまでの時間稼ぎに徹した。
「やぁぁぁぁぁ!」
サリスの裂帛の気合が通路に響く。横薙ぎの一撃を胴にいれホワイトゴブリンを屠ったのだ。
その後、俺の元に駆けつけたサリスと連携し3匹のゴブリンを次々と仕留めていき、ようやく戦闘がおわった。
緊張の糸が切れた俺とサリスは、その場にへたりこむ。
「サリスが無事でよかった……」
安堵し思わず涙ぐむ俺を見てサリスが抱きついてきた。
「助かったわ…本当にありがとう。ベック」
そういってサリスの方から唇を重ねてくる。
激しい戦いでサリスも昂ぶっていたようだ。
(相変わらず唇やらわかいなー、今ならちょっと舌いれてもいいかな…、ふへへ)
突然のキスで興奮し邪な考えがよぎったが、迷宮の中にいるという事実から俺は思いとどまり自制した。
唇が離れたところで俺達は立ち上がり、アイテムボックスから手拭取り出し汗を拭き、次に水筒を取り出し喉を潤した。
右耳と魔石を回収しおえたところでサリスが質問してきた。
「結局あのゴブリンはなんだったのかしら」
「回復能力を持っていた亜種のようだね」
「亜種ってレアじゃない」
「うん、めったにいないはずだけど」
「クエストの報告の際に、この件も併せて報告する必要あるわね」
「そうだね。他の冒険者への注意喚起になるし」
最後の戦闘で体力を消費していた俺達は迷わず転移石を使って迷宮の外にでて、冒険者ギルドの受付にまっすぐ向かった。
受付のジュイスに右耳と魔石を提出しクエストの報告を行った。
「亜種?!」
「はい、回復能力を保有してましたし間違いないと思います」
「無事でよかったわ」
ジュイスが安堵する。
「ええ、イレギュラーで焦りましたが、何とかギリギリで倒せました。あと事前に亜種がいることが想定されていれば戦い方が変わるので他の冒険者であればもっと楽に倒せると思います」
「貴重な情報ありがとね、早速通達をだす準備をしなきゃ。あ、その前に魔石の査定しないと」
そういって席を離れたジュイスだが、ほどなくしてもどってきて二人に声をかける。
「はい、今回のクエストの報酬として銀貨20枚。あとEランク闇魔石20個、Eランク聖魔石1個で銀貨63枚ね」
「「ありがとうございます」」
報酬を受け取ると次のクエストの話になった。
「さて資格試験の指名クエストだけど次は迷宮に生息しているウルフの皮を10枚ね。報酬は銀貨10枚。これが依頼票」
「はい、頑張ります。」
ギルドを出て家路につく。明日は休みだ。




