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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
少年期【迷宮編】
22/192

2-6 《バースト》

 竜暦6557年8月29日


 いつものカフェテラスで待ち合わせた俺達は、ヘイルク装備工房に向かった。


「いらっしゃい、あら昨日きてまた今日くるって買った商品に問題でもあったの?」

「いや違うよ、ベキス。その逆さ。」

「え?」

「いやかなり良い品でね、お礼を言いに来たんだよ。」

「あら、そうなの。わざわざお礼なんていいのに」


 けらけらとベキスが明るく笑って答える。

 この店の看板娘ってやつだねー

 ここで本題を切り出す。


「ところでマルチロッドだけど改造をお願いするなら、ここで受けてもらえるのかな。」

「えっとあれはロージュ工房から仕入れた品だから、うちじゃ無理かな。」

「ロージュってあの?」

「あのロージュよ。」


 港湾都市パムで新進気鋭の天才発明家集団が集まった工房がロージュ工房だ。

 代表のロージュ・ファバキが20年前に立ち上げ、画期的なさまざまなマジックアイテムを世に送り出して瞬く間に有名になったのだ。

 ただしその製品は、魔石をふんだんに使用している為に価格が高価で、さらには修理が難しいという点から富裕層の一部マニアが購入しているという実体があり100%受注生産の形態である。

 そういえばオーガント家にある全自動便器もロージュ工房の製品だ。


「マルチロッドの出所は凄い所だったのね…」

「もし改造をお願いするなら、ロージュに直接いったらどうかしら?」

「直接いっても相手にされないでしょ。」

「受付で父さんの名前を出せばいいと思うわよ。」

「勝手に使ったら怒られるよ。」

「娘がいうんだから平気よ。それにファバキさんは私も知ってるし」

「え」

「父さんと飲み仲間なのよ、よく家にきてそのまま酔いつぶれることも多いのよ。」

「そうだったんだ。」

「いい人なんだけど、ちょっと考え方がぶっ飛んでるというか…」

「ベキスにそこまで言わせるなんて相当な人なんだね。」

「あえば分かるわ。紹介状渡すから、ちょっと待っててね。」


 ベキスが店の奥の工房に向かった。

 5分程度店内でうろついて待ってるとベキスが手紙を持って戻ってきた。


「父さん、手が離せないらしくてね。とりあえず紹介状に署名だけもらってきたわ。」

「ありがとう、ベキス。」


 そのままヘイルク装備工房を後にした俺達は西大通りあるロージュ工房に向かった。


「このあたりにくることって少ないわよね。」

「港湾地区は、俺やサリスには縁がないし、しょうがないよ。」

「ここみたいだね」


 工房のドアをあけカウンターにいる男性に声をかける。


「こんにちは」

「いらっしゃい、ずいぶんと若いけど商品の注文で来たのかな?」

「えっと、紹介状を頼りにここに来たのですが」


 そういってヘイルク装備工房で受け取った紹介状を男性に渡す。


「おっとグネジュの紹介か」

「はい」

「私はロージュ・ファバキといってね、ここの代表をしているんだ。」


 男性が挨拶してきたが、まさか代表のファバキであった。

 椅子に座るように薦められたので二人で座ったあと、こちらも挨拶をする。


「オーガント・ベックと申します。」

「マリスキン・サリスです。」


 ファバキは目を大きく開き、俺を見つめた。


「オーガント家といえば以前、全自動便器を納品したけど、あのオーガント家なのかい?」

「はい、家にありますが、非常に重宝しております。すばらしい製品ありがとうございます。」

「嬉しいねー、そういって工房の製品を愛用してもらえると発明者冥利に尽きるよ。ははは。」


 上機嫌になったファバキが用件を尋ねてくる。


「ヘイルク装備工房でこちらで開発されたマルチロッドを購入したのですが、少し改造できないかと思いここにきました。」

「あのマルチロッドも愛用してもらってるのかい、そりゃ嬉しいね。」

「はい、迷宮探索で使用しましたが、非常に強力で頼りになりました。」

「なるほど、なるほど。で改造というと?」

「えっと威力が強力すぎて先制攻撃でしか使えないので、威力を調整する機能を付けられないかと…」

「あーー」


 ファバキが声をあげたあと考え込む。


「その発想はなかったな。大は小をかねるということでとにかく威力重視で作ったんだがね」

「え?」


 ファバキの感性は尖ってるのだ。ようは中間がない。100か0か。さすがある意味天才である。


「と、とりあえず、そういった改造って可能でしょうか?」

「やったことは無いが出来るんじゃないかな。放出魔力を分割するバイパスの術式を設置するだけかな。」

「お時間かかりますでしょうか?あと改造費用を教えていただければ。」

「ああ、この程度ならたいしたことないから、すぐに終わるし費用もタダでいいよ。」

「えっと、いいのですか?」

「そういったアイデアは重要だしね。」

「タダなら、良かったんじゃない。ベック。」


(この人、絶対に市場調査とかしない人だ、間違いない。)


 ファバキにマルチロッドを渡すと奥の工房に持っていった。

 待つこと20分、ファバキが戻ってきた。

 こんな短期間で戻ってきたので失敗したのかと思ったが改造がもう終わったということで安堵した。

 しかしこんな短時間で改造するとは、やはり天才なんだろうねと感心する。


「裏に試射場があるけど確認してみるかい。ついでに説明もするけど。」

「宜しければお願いいたします。」


 俺達はロージュ工房の裏にある大きな空き地に案内された。


「随分と広い空き地ですね。」

「ああ、性能テストで重宝してるよ。」


 いったいどんな製品のテストをするのかと興味があったが、まずは改造の内容を確認する。


「あそこに案山子があるから、あれに向かって攻撃してね」


 ファバキに言われた案山子にマルチロッドを向けて魔力を放出する。


「《ショット》」


 昨日より小さな火の玉が案山子にあたり弾ける。

 その威力をみて、マルチロッドをすぐに分析する。


(【分析】【情報】)


 <<マルチロッド・カスタム>>

 Dランク

 火属

 魔力 70

 耐久 300/300

 知性 4


 昨日の時点で残り80だった魔力が70になっている。消費魔力量10の設定のようだ。

 名称にカスタムの文字まで入ってるし…。既に別物だな。


「昨日の威力よりかなり抑えられてますね。」

「君のアイデアを元にバイパスを設置して消費量を抑えてみたんだよ。」

「なるほど個別に対応するには丁度いい威力だと思います!」

「で、ここからが追加の《バースト》を実行してね。」


 ファバキに言われ再度案山子にマルチロッドを向けて魔力を放出する。


「《バースト》」


 昨日と同じ火の玉が案山子にあたり大きく弾ける。

 マルチロッドをすぐに分析するが残り魔力が30になっている。

 昨日と同じ消費魔力量40の設定らしい。


「今までと同じ威力みたいですね!」

「こちらはバイパスせずに今までどおり直で出力しているから、今までの威力と同じはずだよ。」

「すごいです!!」


 俺は興奮してファバキに答える。

 製品を褒められるのは嬉しいらしくファバキが再度上機嫌になる。


「そうだろ、そうだろ。」

「もう一度試していいですか?」


 再度狙いをつけて案山子にマルチロッドを向けて魔力を放出する。


「《バースト》」


 先ほどより少し小さくなった火の玉が案山子にあたり大きく弾ける。

 それと同時にセットされていた魔石が砕けた。


「おっと魔石を使いきったみたいだね。」

「あー、魔力を使い切ると、こうなるんですね。」

「うんうん。代わりの魔石はもってるかな?」

「はい。」


 昨日手に入れた魔力240の火魔石をマルチロッドにセットし案山子に魔力を放出する。


「《バースト》」


 昨日と同じ火の玉が案山子にあたり大きく弾ける。

 分析したらマルチロッドの魔力が200になっているのを確認した。


「ファバキさん、改造してもらいさらに試射までさせてもらい、本当にありがとうございます。」


 俺は深々と頭をさげてお礼をいった。


「いやいや、また何か面白いアイデアを思いついたら相談しにおいで歓迎するよ。」


 ファバキが機嫌よく答える。

 そこで俺は商売人の顔を出しファバキにいった。


「この改造してもらったマルチロッドですけど、同じ値段なら購入する人多いと思いますよ。」

「え?」

「改造前のマルチロッドの場合、燃費と維持費の関係で購入に踏み切る人が限られると思いますが、この改造後のマルチロッドなら燃費と維持費のバランスがいいので購入したい人多いと思います。」

「ほほー」

「しかも迷宮特需もありますし、一度改造後のマルチロッドの件でグネジュさんと相談してみてはどうでしょうか?」

「なるほど、ユーザーからみた発想ってやつだね。近いうちにグネジュと相談してみるよ。」

「きっとたくさん売れますよ。」

「そうなると助かるなー、ははは。」


(やっぱり消費者視点が欠けてたのね… ファバキさん…)


「今日は本当にありがとうございました。」


 お礼を告げて、ロージュ工房を後にした二人は家路につく。


2015/04/22 語句修正

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