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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
少年期【迷宮編】
21/192

2-5 《ショット》

増量中

 竜暦6557年8月28日


 東大通りの朝のカフェテラスに向かうとサリスがミルクティーとアップルパイを嗜んでいた。


「おはよう。サリス。」

「おはよう。」


 お互いぎこちない挨拶をして、俺は席につく。

 昨日のキスの名残りだろうけど初々しいっていいね!

 さて俺はちょっと思案した。


(昨日の件を意識しないってのは無理があるけど時間が解決してくれるだろうし、まずはやるべきことをしっかりやろう。)


 そう意を決して、サリスに話しかけた。


「昨日は突然ごめんね、サリス。」

「えっと…」

「正式に親公認の交際に発展したし俺安心して気分が舞い上がってたみたいなんだ。」

「う、うん。」

「それで、ついそのあんなことしちゃって…。本当にごめん。」

「い、いいのよ。ちょっとビックリしちゃったけど私も嬉しかったし…。」

「許してもらえたのかな、よかった。」

「で、出来れば帰る際には、あ、あの挨拶してくれてもいいわよ…」

「えっ?!」


(うひょー、関係すすんじゃったよ! とりあえずは別れ際に軽いキス重ねていこう。)


 サリスがうつむいてモジモジしている。


(美少女のモジモジとか最高やーーーーん!!!!)


「こ、この話はこれで終わりにしましょ。ほら私達って迷宮で修行しないといけないし。」

「そうだね」


 俺はコーヒーを味わいつつ、今日の予定を確認することにした。


「まずこの後だけど雑貨店で携帯型の小型時計を購入しよう。」

「そうね。」

「そのあとヘイルク装備工房に行って放出系武器を買おうと思ってるんだけどどうかな?」

「放出系武器って高いわよ。平気なの?」

「一昨日の儲けが大きかったんで貯金から金貨1枚程度ならなんとか出せそうなんだよ。」

「金貨1枚なら購入できそうね。」

「迷宮を中心に活動するなら先行投資で買っても問題ないと思うし、後方にいる俺の場合放出系武器のほうがサリスを支援しやすいと思うんだよね。」

「そうねー」

「あと購入の決め手になったのが魔獣が複数の集団で行動してる点なんだ。いままでの冒険者ギルドのFランククエストじゃ基本的に集団になってる魔獣いなかったし。」

「たしかに私達が上のランク狙うなら放出系武器は必須かしら…」

「冒険者3人以上あつまってクランを作れれば必要ないだろうけど、俺達ペアだし。」

「とりあえず防具の報告もあるしヘイルク装備工房に行ってから続きは考えましょうか」

「じゃ、今日はそれで行動しよう」


 カフェテラスを出て、雑貨店で時計を購入したあと、俺達はヘイルク装備工房に顔を出した。


「いらっしゃい、あら久しぶりね」

「やあ、ベキス」

「繁盛してそうね。」


 装備工房の店内には冒険者らしき大勢の人いる。


「迷宮特需で儲かってるわよー。」

「よかったわね。」

「少しは落ち着いて欲しいけど、まだまだ先になりそうね。」

「頑張れよ、ベキス」

「ありがとう、ベック。そういえば今日は何を探しに来たの?」

「ああ、放出系武器を探していてね。」

「ベックは稼いでるのねー。安くないわよ、あれ。」

「迷宮いったんだけど、あったほうがいいと思ってね。ちょうど貯金もあったし先行投資さ。」

「なるほどねー」

「あと防具の報告もあってね。」

「あ、それじゃ父さんに声かけてくるわ。ちょっと待っててね。」


 そういってベキスは店の奥に消え、グネジュさんを連れてカウンターに戻ってきた。


「どうだ、元気にしてたか?」

「はい、おかげさまで。」

「ちょっと防具を見せてもらっていいかい。」

「どうぞ。」


 グネジュは俺とサリスの着ている防具を丹念に確認する。


「特に劣化も起きてないようだし問題なさそうだ。使っていて何か気付いたことあるかい?」

「今のところ大きな問題はないですね、EランクかFランクの魔獣だと大きなダメージを受けることもないですし。」

「激しく動いても防具もずれることがなかったです。あと擦り傷程度なら綺麗に修復してますしとても便利でした。」

「じゃあ、正式版として発表しても問題なさそうだな、ありがとよ。」

「いえいえ、こちらこそ良い防具を提供して頂いて、ありがとうございます。」


 俺とサリスはグネジュに頭を下げて礼をする。


「さてベキスに聞いたが、放出系武器を探してるんだっけ?予算はいくらだい?」

「俺が後方から支援で使うことを考えていて、金貨1枚ほど買えるもので考えています。」

「ふむ。」


 グネジュが考え込んでからベキスに話しかけた。


「倉庫からマルチロッドを出してきてくれ。」

「はーい」


 ベキスが杖を持ってきた。素材は鉄製。形状は1mの長さがあり太さは直径2cmほどである。先端には魔石が嵌め込まれている。


(【分析】【情報】)


 <<マルチロッド>>

 Dランク

 火属

 魔力 200

 耐久 300/300

 知性 4


(火魔石が嵌められてるのかな…)


「金貨1枚の予算なら、これが俺のオススメだ。」

「どうやって使うのですか?」

「《ショット》と唱えれば先端から魔力の玉が放出される優れものだ。しかもセットする魔石により追加効果もついてくる。」

「すごい!!」

「ただしメリットだけでなくデメリットもあってな、セットしている魔石の魔力が空になるとただの杖になっちまうのさ。」

「…」

「ようは金食い虫だ。維持費に金がかかるのさ。」


 俺は説明を聞いて悩んだ結果、購入を決める。


「購入します!」

「ベック、貯金もしなきゃいけないのに平気なの?」


 サリスが心配そうに俺に声をかけてくる。


「出費は必要経費さ、その分だけ迷宮で魔石を稼げばいいしね。」

「さすがだな坊主。こいつを使いこなせそうだ。」


 グネジュは笑いながらベキスに会計を任せて工房に戻っていった。


「しかしこの武器買っていく人は久しぶりね。」

「そうなの?」

「維持費の話すると購入やめる人が多いのよ。稼ぎのいい高ランク冒険者相手の品だし」

「え」

「これでしっかり稼いでね」


 ベキスはにこにこ笑いながら会計を終わらせた。

 店を出てサリスがつぶやく。


「もしかして売れ残りの不良在庫を押し付けられちゃったんじゃない?」

「い、いや。性能は強力だし…そんなことないと思うよ…」

「放出回数がどの程度かによるのかもしれないわ。」

「とりあえず迷宮で試してみよう。」

「今から向かうと迷宮入るのはお昼ごろね。」

「今回は放出系武器の確認をメインにして探索しようか。」


 二人は早速迷宮に向かう。

 今日は小屋のカウンターにヒッチの姿は見えなかった。

 所定の手続きを進め迷宮に入ると、手馴れた手つきで準備を終わらせる。


「一昨日と同じ内容で進もうか。」

「わかったわ」


 分岐を進みながら迷宮の奥を目指すと早速落とし穴の罠を発見。

 指差しながらサリスに指示する。


「そこ、落とし穴」

「はい」


 サリスは剣を突き刺す。

 穴があくと俺はアイテムボックスからロープを取り出す。


「また底見てくるのね。」

「お願いします。」


 底に降りたサリスが魔石を回収して戻ってきた。


「また魔石落ちてたわ!」

「底に魔石あるのは確定かな」

「そうみたいね」

「内緒にしておこう」

「うんうん」


 サリスが首を縦に振る。

 落とし穴という宝箱だね、これ。

 分岐をさらに進むと2個目の落とし穴の罠を発見、今日は大儲けだな。

 サリスが穴の底の確認にいく作業も慣れてきた。


 さらに先に進むと20mほど先に複数の影が見える。

 先行するサリスが身を低くして小声で注意を促してきた。


(【分析】【情報】)


 <<ラビリンス・ゴブリン>>→魔獣:アクティブ:闇属

 Eランク

 HP 45/45

 筋力 4

 耐久 4

 知性 1

 精神 1

 敏捷 2

 器用 2


(多いな、見えるだけで6匹いる。)


「なにか先にいるみたい。」

「初めてみるけどゴブリンらしい。複数いるみたい。」

「見えるの?!」

「ああ、目がいいからね」


 適当にごまかす。


「なにか注意点あるかしら」

「魔獣図鑑の情報なら知能は低いけど簡単な武器を用いて連携攻撃してくるらしい。」

「厄介ね…」

「サリスなら十分対応できると思うよ。俺はマルチロッドのテストもしたいしちょうどいい相手かも。」

「じゃ先制はマルチロッドの《ショット》からにしましょう、そこで相手が混乱したところに私が斬り込むわ。」

「その作戦でいこう。」


 少し近づいてから、俺はマルチロッドを構え《ショット》を実行する。

 ロッド先端から勢いよく火の玉が出て、前方のゴブリン集団に着弾すると爆発しゴブリン達の装備に火がついた。

 着弾と同時にサリスが斬り込んで連撃を加えてゴブリン達に止めを刺す。


(うわー、これ危険!! 乱戦のとき使ったら仲間に被害あるやんかーーーーーー!!)

(【分析】【情報】)


 <<マルチロッド>>

 Dランク

 火属

 魔力 160

 耐久 300/300

 知性 4


 最初分析したとき魔力200だったのが、今見たら魔力160になっている。


(1回の放出で魔力40消費してるみたいだな、今セットされてる魔石は4回でおわりか…。燃費悪いな、これ…)


 ゴブリン6匹に止めを刺したサリスが魔石を回収してから興奮してもどってくる。


「なにその武器すごい!」

「い、いや。思ってた以上に威力あってビックリしちゃったよ。」

「威力の調整は出来ないの?」

「放出するだけだから、とくにそういう機能はなさそうだね…」

「でも大きな戦力になったわね」

「乱戦時は使えないよ、サリスまで巻き込んじゃう。先制用として限定して使うのがいいかも。」

「とりあえず、今後の戦術はマルチロッドを起点として私が斬り込んでいく形でいいわよね。」

「うん、そうしよう。」

「あとは何回使えるかが気になるわね」

「回収した魔石はマルチロッド用に残して買取してもらうほうが良さそうだね。」

「じゃ残す魔石についてベックに任せるけどいい?」

「そうするよ」


(スキルを使えば高い魔力が分かるから、任されてよかったわーー)


 良い流れに話が進み俺は思わず喜んだ。


「時間平気?」

「まだ1時間ほど平気ね」

「じゃ先に進もう。」


 次に遭遇したのはスライム4匹だった。


「《ショット》」

「すごい」


 着弾して爆発したところで戦闘が終わった。

 サリスが斬り込みで飛び出した瞬間に唖然として立ち止まった。


「以前聞いてたけど本当にスライムって放出系武器に対して弱いのね」

「そ、そうだね、まさか、一撃とは…」


 分析するとマルチロッドの魔力が120になっている。

 やはり魔力40づつ消費で間違いないようだ。


「しかしこれなら更に奥までいけそうね。」

「うんうん。」


 そういって進むと、先から唸り声が聞こえてきた。

 サリスが立ち止まる。


(【分析】【情報】)


 <<ラビリンス・ウルフ>>→魔獣:アクティブ:火属

 Eランク

 HP 80/80

 筋力 2

 耐久 2

 知性 1

 精神 1

 敏捷 4

 器用 4


(30mほど先かな、複数の狼って素早くて厄介そうだな)


「声が聞こえたけどウルフ系の魔獣かも」

「え、ウルフって大陸中央部にいるってやつ?」

「沿岸部じゃ生息してないはずだね、さすが迷宮かも」

「それって危険じゃない?」

「一番の脅威は素早いことだね。ただし耐久力はないから確実に攻撃をあてることが出来ればいけるはずだよ」

「わたしで平気かな?」

「サリスなら平気なはずだよ、サリスの体術は凄いしね。」

「ベックがそういうなら頑張ってみるわ。」

「じゃショットから始めるね。」


 体制を整えて、攻撃を開始する。


「《ショット》」


 ウルフ達に火の玉が着弾し炎上する。

 全部で4匹いた。

 飛び出たサリスが連撃を繰り出すが、さすがにウルフは素早くかわされる事も多い。

 それでもウルフの火傷している部位を集中的に攻撃することで徐々にウルフも弱っていく。

 俺も槍でウルフの背後から攻撃を繰り返し、10分ほどかかってようやく倒しきった。

 二人は汗だくで座りこむ。


 俺はアイテムボックスから水筒を出し、サリスと一緒に喉を潤した。


「さすがにウルフは強敵ね」

「マルチロッドの炎症の効果があって良かったよ。」

「やっぱり準備しておいて正解だったわ」

「ああ」

「この強さを余裕で相手できるようになればランクあがりそうよね。」

「まだまだ修行が必要そうだけどね…」

「一緒に強くなりましょ」


 激しい戦闘の名残から頬を紅潮させながらサリスが笑顔で俺に語りかけてくる。

 肌を伝う汗が妖しい色香を醸し出す。

 俺は生唾をのむ音で正気に戻り思考する。


(おい、ここで発情するとか、俺はサカリのついた犬かよ!!!)


 そう思い師範の姿を想像して煩悩を払いのける。

 アイテムボックスからさらに手拭を出しサリスに渡して汗を拭くように薦める。


 サリスが汗を拭いてる時間を利用して、俺は魔石の回収を行った。


「疲れたなー」

「そろそろ時間よ」

「まだマルチロッドの魔力使い切ってないけど、とりあえず次回に引き続きテストしよう。」


 あと2回で切れるのを判っているが、俺はそうサリスに告げた。


「そうね」

「今回魔石はいくつあるのかな?」

「落とし穴から土15個、ゴブリンから闇6個、スライムから風2個水2個、ウルフから火4個ね」

「昼から入ったわりに大収穫だな」

「落とし穴が大きいわねー」


 資金を集めるだけなら落とし穴が効率いいけど修行としてみると戦闘ないとダメなんだよね。

 難しいものだ。

 俺は分析を用いて各属性一個づつ一番魔力の高い魔石をマジックボックスにしまった。


「魔石24個だね」

「じゃ戻りましょう」


 とりあえず俺達は元の道を戻り迷宮を出て小屋にたどりつきカウンターで魔石買取をお願いする。

 銀貨72枚を手に入れた。

 十分な黒字である。

 俺達は街に向かって会話しながら歩き出す。


「明日は休みだけど、またヘイルク装備工房に一緒にいかないかい、サリス」

「えっと何か買うの?」

「いやマルチロッドの威力を調整できないか聞きにいきたいんだよね。」

「改造するってことかな」

「そうだね。いまのままじゃ下手するとサリスに怪我を負わせる可能性あるし、それは避けたいんだよ。」

「体を気遣ってくれて、ありがとう。」


 サリスが喜んでくれる。


「で、問題なければ一緒にいかないかい?」

「特に予定もないし、付き合うわ。」

「じゃ、明日10時にカフェテラスで待ち合わせでいいかな。」

「はい。」


 サリスを家の前まで送り届け、軽いキスをして分かれた。

 幸せそうな明るい笑みを浮かべ、サリスが家の中に消えていく。


(正式な交際はじまったんだし、もういっそ同棲してもいいんじゃないか、これ?)


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