2-4 葡萄酒
港湾都市パムの東大通り路地裏手に冒険者のたまり場になっている小さな酒場がある。
夜更け、その酒場の奥のテーブルに、葡萄酒を酌み交わす赤毛の男女の姿があった。
マリスキン家のギャユスとファキタである。
「無事に両家で合意したんだね、そりゃよかった。」
「ああ、娘の嫁ぎ先が決まって安心したよ。しかもオーガント家ならこちらとしては願ってもないほどの良縁だ。早くに亡くなった妻ラキスに顔向けできる。」
「家柄はたしかにそうだね。お互い商人と冒険者と分野は違うが一目置かれる立場だし。」
グラスに注がれた葡萄酒を一気に飲み干しファキタがギャユスに質問した。
「そこで姉上に聞いておきたいんだが、義理の息子になるベックだが個人としての将来性はどうなのかな。」
「弟子として接してきたけれど将来性はあると思うよ。冒険者の腕としてはサリスには劣るが、それを補うほど頭がいい。」
「頭がいいってのは、商人の血というものかね。」
「そうかもれないね」
ギャユスが皿に盛られたチーズに手をのばしながらそう答えた。
「しかし将来なりたいという職が旅行者という考え方は独特だ。聞く限り各地を巡るというなら行商人もしくは冒険者であると思うが。」
「各地を巡り、その旅の出来事を旅行記という本にまとめる職だそうだね。まあ旅は危険だから身を守るために冒険者の能力も必要だし旅費を稼ぐために商いの能力も必要だ。」
「なるほど冒険者と行商人と文筆業をあわせたのが旅行者の職というわけか。」
「サリスも旅に同行する気らしいよ。楽しそうにあたしに話をしていたよ。」
「そうなると今回の迷宮発生は力をつける上で二人にとっては最高の修行の場のようだな。」
「もう二人で迷宮にいったらしいが問題なく1階を進んだらしいね。魔石もかなりの数持ち帰ったとサリスが喜んでいたよ。」
「ほー、ということはワシの手助けは特にいらなさそうだ。」
「ああ、心配はいらないよ。あたしが保証する。」
「姉上の保証ならワシも安心できるよ。」
会話と一緒にデカンタの葡萄酒も滞りなく減っていく。
「しかしサリスもベックもあたしが産婆として取り上げたが、夫婦になるとはまったく奇妙な縁だね。」
「姉上、顔が笑っておるよ」
「あたしにとっても赤ん坊の時から知っている弟子という名の息子と娘さね。喜ばないほうがおかしかろう。」
デカンタの葡萄酒がなくなったところで二人は店を出て家路についた。




