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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ドルドス帰国編】
188/192

6-25 四季

 竜暦6561年9月28日


 操舵輪を握っていると仮眠から目覚めたアミとオルが船室を出てきた。

 時刻は13時である。


「起きるのが早かったわね」


 サリスが二人に声をかけた。


「ええ、さっき目覚めてしまって」

「バイムに今日到着するのでワクワクしてるです」

「到着するのは夕方だと思うけど、確かに早めに起きているほうがいいな。宿で寝るのも苦労するし」

「そうですね」


 二人も起きてきたので俺はサリスに操船を変わってもらうことにした。


「ちょっとオルと二人でデッキで釣りをしてくるよ」

「気をつけてね」


 俺はオルを誘い、二棹の釣り竿を手に後部デッキに出る。

 一棹は俺、もう一棹はオルの竿である。

 二人とも体にロープを巻いて後部デッキの手すりと繋ぐと、次に釣り竿のグリップエンドにある穴に別のロープを繋いで手すりに繋いだ。


「夕方まで時間あるし釣りで時間を潰せるな」

「アミさんが喜ぶしツナを釣りたいですね」

「そうだなー」


 準備が出来た俺とオルは後部デッキの左右に分かれて、釣り糸の繋がれた疑似餌を後方に向けて投げこんだ。

 疑似餌が水面近くを跳ねているのが見ながら、あとはアタリがくるのを待つ。

 アタリがくるまで待ち時間は長そうなので、俺は竿を持って海を眺めながらオルにパラノスへの帰郷について尋ねてみた。


「やっぱりパラノスに帰ってくるとオルの場合、ちょっと安心した?」

「うーん、離れていたのも約三ヶ月でしたし、あまりそういう感覚はないですね」

「確かにちょっとした小旅行って感じか」

「数年離れていれば違うと思いますけどね」


 そこまで話したところで、オルの顔が緊張しているのに気づく。


「やっぱりアミを連れて実家に帰るのは緊張してるようだな」

「ええ。反対はされないでしょうけど不安がないといえば嘘になりますね」

「今から思えば、ヒノクスに行く前に無理をしてでもルードン村に挨拶にいけば良かったかな」

「あー、それについては今の方が良かったと思いますよ。アミさんとの仲も進展出来ましたしね」

「そういえばそうだったな。最初は手さえ握るのもぎこちなかったし」

「生まれて初めて女性と接したんですから、しょうがないですよ」

「あはは」


 悪気はなかったが俺は当時のことを思い出してつい声を出して笑ってしまった。

 オルも同じように思い出したらしく笑顔を浮かべている。


「そういえば到着予定はいつぐらいになるのかな」


 オルの質問に俺は昨日確認した旅行準備メモを思い出す。


「このまま順調に準備が進めば10月の中旬にはルードン村に着きそうだな」

「そうなるとドルドスに向けての出港は11月上旬ってところですね」

「うん、問題がなければ12月にはパムに到着する予定だよ」

「そのあとすぐに年明けだから15歳まであっという間か」

「今年はこうやって旅をしているし、時間が過ぎるのが凄く早く感じるな」

「本当にそうですね。そういえば来年の活動予定はもう決まってます?」

「いま検討中だけど、なにかやりたいことがあるのかな?」

「いえ、実家に帰ったときに両親にクランの今後の活動の話をしなきゃいけないと思ったんですけど」

「あーー。そのほうが確かに安心させてあげれるよな」


 俺は釣り竿を握りながら、すこし思案してから口を開く。


「前にも話したけど、来年は次の旅行に向けた準備期間になるかな」

「修行とかは無しですか?」

「いや、パム迷宮が近いし長期間魔獣と戦わないと戦闘の感覚が鈍るから、ギルドと交渉して地下3階に定期的に向かおうと思ってるよ」

「それならドルドスに出来たばかりの迷宮で修行するという話を両親や長老に話せますね」

「そうだな」


 もともとクシナ迷宮都市に修行ということで村を出たオルにとって、ドルドスに行っても修行が出来るということで少しほっとしたようだ。


「他にもさっき言ったように次の旅行準備の為に出かけたりもするけど、そこで戦闘がある可能性もあるな」

「そんなに大掛かりな準備になりそうなんですか?」

「次は内陸方面に旅行に行きたいと思ってるからね。魔獣の強さを考えると準備を怠れないかな」

「内陸方面だと防衛都市くらいなのかな」

「うん。まずは大陸中央部に近い防衛都市は見に行っておきたいかな。さらに奥に進む為に必要なものも調べておきたいしね」

「かなり危険ですね」

「装備や準備次第だと思ってるけど、前にも話をした空を飛ぶことが出来れば危険はかなり減ると思ってるよ」

「その空を飛ぶ話は、いまだに信じられませんけど」

「まだまだ開発中だし、その準備が一番時間がかかりそうなんだよな」


 そう言いながら俺は流していた疑似餌をリールで巻き上げて、再度結び目を確認したあとに投げ込んだ。

 俺に続いてオルも一度疑似餌を巻き上げてから再度海に投げ込む。


「熱気球の開発は時間もかかる案件だから、まずは馬車と小型船の改良が先かな」

「先日話をしていた陸上を走れるようにした船ですよね」

「うん」

「しかしよく思いつきますよね」

「案自体はサリスが思いつきで考えたんだけど」

「でも、それを実現させようなんて普通は考えませんよ」

「動力車がなければ俺も実現させようと思ってなかったけど」

「そうなるとドルドスに行っても当分は忙しそうですね」

「うん。そうなるな」

「ってことは、アミさんの故郷に行くのは来年ですね」

「時期的に春に行きたいなと思ってるよ。寒いのは辛いからな」

「南端の国のパラノス生まれの僕はよく分かんないんですけど、そんなにドルドスは寒いんですか?」

「12月から2月くらいまでの冬が寒いんだよ」

「へぇー」


 もうすぐ10月。

 パムでは秋の季節を迎え、大通りの銀杏並木が色づく季節だなと俺は思った。


「まあ、そのあたりの四季の変化はパムに行ってからアミと一緒に楽しめばいいよ」


 俺はオルにそういいながら釣り竿を握り、晴れた空と穏やかな海を眺めた。


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