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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ドルドス帰国編】
181/192

6-18 新型破砕粘土

 竜暦6561年9月21日


 朝一番で島嶼都市タゴンから渡し舟に乗って俺達はミルクの海のある小さな島にやってきた。

 12時に迎えにきてもらう予定になっているので4時間ほどこの小さな島に滞在できる。


 俺達は島の北を目指してアミを先頭にしてヤシの森の中を進む。


「2ヶ月ぶりですー」

「ヒノクスに向かう途中でここに着てからもう2ヶ月も経ってるんですね」

「あっという間に時間が過ぎちゃうわよね」

「それだけ密度の濃い時間を過ごしてるんだろ。しかしやっぱり綺麗だな」

「そうね」

「準備するです!」


 ミルクの海のある入り江についてから景色を堪能する時間がアミは惜しいらしく着替えを急かす。

 俺はアイテムボックスから簡易テントを取り出して設置するとオルと一緒に中にはいり水着に着替える。


 俺は前回と同じ紺色のトランクスタイプの水着だ。

 そしてオルも前回と同じ水色に白い縦のストライプのはいったトランクスタイプの水着である。


 外に出るとサリスとアミが中に入って着替える。

 俺は二人の着替えが終わるまで絶景を楽しむことにした。


 やはり青い空と白い雲に乳白色の海という景色が非日常を感じさせてくれる。

 そういえば前回来た時はあまりの嬉しさに泥の分析をしていなかったなと海に入ってから底に堆積した白い泥を潜ってすくう。


(【分析】【情報】)


 <<精霊泥土>>

 聖属

 魔力 10

 耐久 250/250


(え?…えぇぇぇぇぇーーーーーー)


 ビックリしすぎて俺は大声を上げそうになってしまった。

 期待していたのは石灰岩を元にした泥だと思っていたのだが精霊という言葉がついていた。


 俺は少し考えをまとめたくて砂浜に戻ると日陰にシートを敷いて海を眺めなる。

 砂浜の砂を手にとって分析を行う。


(【分析】【情報】)


 <<コーラル砂>>

 土属

 魔力 10

 耐久 120/120


(ここの砂は普通だな)


 俺が砂の分析を終えたところでサリスとアミが着替えを終えて出てきた。


「おまたせですー」

「またせたわね」


 サリスは紺色のビキニを着ており、アミも鮮やかなグリーンのビキニを着ていた。

 いつの間にか新しい水着を購入していたらしい。

 アミはそのままオルの元に走っていき、サリスは俺の横に座る。


「どうしたの?難しい顔をしてるわよ」

「うん、ちょっと考え事をしてたんだよ。あの白い泥だけどさ。少し持って帰ろうか」

「え?」

「旅行記の資料にしたいんだよ。あとは普段の肌の手入れにも使えるだろ」

「たしかにそうね。肌も綺麗になるわよね」


 ふと先ほどの分析結果を思い出す。

 精霊泥土は聖属性だ、

 肌の表面の老廃物などを浄化して取り除いてるのかもしれない。


「ちょっとまとめたい記事もあるからオルとアミのところにいって遊んできていいよ」

「ひとりで平気?」

「うん、景色を楽しみながらのんびりするよ」


 俺はそういって笑うと、サリスもうなずいてから海辺にいるオルとアミのところに向かう。

 その光景を見ながら、俺はいままで精霊の名のつくものを見つけた場所を振り返る。


 精霊石はドルドスにあるモタル村の鍾乳洞とヒノクスの首都イジュフにあった石碑の洞窟。

 精霊水はパラノスにある東部部市ナムパトの近くの溶岩洞にあった地底湖。

 そして精霊泥土はここ島嶼都市タゴンの近くの小島にあるミルクの海。



 共通点を考えると石灰というキーワードを挙げることが出来る。


 鍾乳洞は石灰岩が溶け出したものであるからわかりやすい。

 ミルクの海の白い泥は海に溶け出した石灰岩が微生物などの作用により堆積していたものだからすぐに納得できる。

 石碑の洞窟や地底湖は溶岩洞になるが、地殻の変動で地中にある石灰岩の成分が露出していた可能性がある。


 そうなると石灰に含まれる何らかの成分が精霊と呼ばれる要素を引き寄せるのかもしれないなと俺は考えた。


 もともと石灰岩は太古の昔に石灰質の殻をもった海の生物の遺骸などが海底に堆積して出来たはずである。

 ふと俺はスタード大陸の沿岸部に魔獣が少ないことを思い出した。

 さらに石碑の洞窟で見た石碑を思い出す。


 大陸の沿岸部には大陸中央部より石灰岩を多く含んでいる割合は多いはずだ。

 もしその石灰岩に精霊が融合していることが多いならば、それを嫌って大型の魔獣が近寄ってこないのかもしれないなと俺は思った。

 そうなると精霊そのものが魔獣が嫌がる要素なのかもしれない。


 どういう理由で嫌がるのかは今後、精霊と名のつくものを使って魔獣に用いて検証していく必要がある。

 アミに預けている精霊石は魔力も高いし貴重であるから検証には使えないだろう。

 そうなると検証には、ここの精霊泥土か精霊水を使う必要がある。


 精霊泥土は今回できるだけ大量に回収しようと思い、精霊水もナムパトによって再度大量に回収したいと思った。


 俺はシートから立ち上がると、釣った魚を入れるための箱をアイテムボックスから取り出して海に入って精霊泥土を詰めていく。

 三人が俺の元に寄ってくる。


「泥を集めるです?」

「サリスにも言ったんだけど、旅行記の資料にしたいと思ってさ」

「え、箱一杯持って帰るんですか?」

「ほら洗顔とかにも使えるだろ」

「それは有難いわね」

「あー、確かにそれいいかもです」


 女性陣が賛同してくれて、箱に精霊泥土を詰めるの手伝ってくれた。

 箱一杯集めたところで砂浜に戻る。


「大量に集まったわね」

「うん、ありがとな」


 そこでオルが例のテストをしようと話しかけてきた。


「そうだな。泥集めも終わったしテストしようか」

「了解」

「サリスとアミはテントのあるこの場所で見ててね」


 二人がうなずくのを見てテストの準備を行う。

 俺は破砕粘土と飛竜の偶像をアイテムボックスから取り出してオルに手渡す。

 オルは矢の先端付近に赤いカードを巻いてから、さらにその上に破砕粘土を被せた。


 コンポジットボウを構えて海に向かって破砕粘土付きの矢を放つ。

 矢は弧を描いて飛んできて30mほど先の海面に落ちた。


 俺は青いカードを持って《ファイア》と簡易スペルを唱えると高い水柱が舞い上がる。

 テストは成功だった。

 その状況を見て全員喜んだ。


「やったわね」

「すごいです!」

「考えたとおりの結果になったな」

「ええ、これがあれば大型魔獣にも対抗できそうですね」


 その言葉に対魔獣戦を想い描いてから口を開く。


「たしかに今後活動範囲を広げても平気そうだな。中型以上は新型破砕粘土を中心とした戦術を用いる。小型は今までどおり個人の装備を整えていき対処していくという流れだな」

「そうなると大陸中央部への旅も視野に入ってくるわね」

「すぐには無理だろうな。ヒノクスの国立図書館で調べたけど大陸中央部には不思議な現象が起きる土地があるらしいよ」

「それは面倒ですー」

「大陸中央部に行くのは移動手段を確保してからだから数年後かな」


 サリスとアミがファバキと開発中の熱気球を想い描きうなずいた。

 しかしオルは熱気球をまだ説明していなかったのでキョトンとした顔をしている。


「ベックのいう移動手段ってなんです?」


 俺は指を上に向けてオルに説明する。


「空を飛ぶ乗り物を開発しようとしてるんだよ」

「…え、えっと聞き間違えたのかな?今空って言いませんでした?」

「オル、開発中なのは空を飛ぶ乗り物ですー」


 オルが唖然として口をあけたままの表情を見せた。

 以前みんなに話をしたときと同じ顔をされたことがある。


「原理はあとで説明するけど、いま協力している工房と計画中なんだよ。上手くいけば空を飛んで移動できるようになるよ」

「そ、それって凄いですよ!」

「うーん、問題はいろいろあってね。まずは空を飛ぶ魔獣の対策をする必要があるし、風の中を安定して進む必要もある、その他にも素材の開発や燃料の確保なんかいろいろ考えることが多いんだよ」

「ベック達の活動には驚かされることが多かったですけど空まで視野にいれてるなんて…」


 オルが腕組みして考えるとアミがオルの背中を軽く叩く。


「こんなので驚いてると身がもたないです。気軽に考えるです」


 アミがオルにいろいろを話しかけているので俺はオルのことをアミに任せるとサリスと話をする。


「また忙しい日々がはじまりそうだな。苦労をかけるけど俺についてきて欲しい」

「はい」

「ありがとう」


 感謝の言葉を口にするとサリスが笑う。


 精霊と魔獣の関係の検証や新型破砕粘土の調達、さらには飛行船の開発に大陸中央部への旅の準備とやることが山のように出てくる。

 俺は目の前に広がるミルクの海を見つめながら頑張らなきゃなと自分に言い聞かせるのであった。


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