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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ドルドス帰国編】
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6-16 蜂蜜

 竜暦6561年9月19日


 新しく購入したアクアマスクとアクアボウを見つめてニヤニヤしていた。


 理由は簡単で明日タゴンについてからの休息は海で思いっきり遊べるなと想像していたからだ。

 そんな俺の気持ちを理解しているようでサリスが溜息をつく。


「ベックは本当に子供ね」

「えーっと、否定は出来ないな」

「私も楽しみにしてるけど、朝からニヤニヤしすぎよ。リーダーなんだしもっと引き締めた顔をしてよ」

「誰も見てないし二人きりなんだから許してくれよー」


 サリスが深い溜息をつく。


「ベックは、しっかりしている時とニヤついてる時の差が大きいのよね」

「男はこんなもんだよ。ファキタ義父様、エヒラ義兄様も同じだっただろ」


 考え込んでいたサリスがうなだれる。


「悲しいけど、そうだったわ…」

「だろ」

「それに昨日話したけど海の中の散歩はきっとサリスも気に入るはずさ」

「そうかしら。普通に泳いで潜水するのと同じでしょ?」

「息が出来れば苦しくなって浮き上がらなくてもいいから、じっくりと海中を楽しめるはずさ」

「経験したことがあるような言葉ね」


 俺はサリスの鋭い発言に内心ドキッとしたがポーカーフェイスでそのまま会話を続ける。


「クバの装備工房の店員が購入の際に話していたんだよ」

「工房の人が言ってるんなら間違いないのかしら」

「えっと…、俺の言葉は信用できないって…ことかな?」

「もうちょっと引き締めた顔をしてくれたら信用するわよ」

「ごめん、反省します…」


 すこししょげている俺を見てサリスが笑う。


「最近明るくなったわね」

「そう?」

「去年くらいから旅の準備で忙しくなったでしょ」

「そうだな」

「お金も余裕できて、商会も立ち上げて、パラノスへの旅行準備を進めて」

「うん」

「それに春には結婚の件もあったでしょ。今回の旅に出る前は全く余裕がないって顔をしてたから心配してたのよ」


 サリスの言葉を思い返してみる。

 たしかに毎日動きまくって、あまり冗談をいうこともなかったことを思い出した。

 無理をしている俺の姿を見てサリスは心配してくれていたようだ。


「心配かけてたな、ごめん。そしてありがとうな」

「いいのよ。旅に出てからは別人みたいに明るくなっていって嬉しかったし」

「そんなに変わった?」

「ええ、オルと出会ってからアミの件が一段落ついてからは特に変わったわね」

「そっか」

「私もパラノス、ヒノクスとまわって楽しんでたんだけど」


 そういってサリスがペロッと小さく舌を出す。

 その仕草がかわいいなーっと思ってしまった俺がいる。

 ふと今回の旅行は転生前の世界でいう新婚旅行だなと思った俺はサリスに話をしてあげた。


「今回は俺とサリスの新婚旅行ってやつになったな」

「なにそれ」

「結婚したばかりの夫婦が旅に出かける風習が昔あったんだよ」

「魔獣もいるから旅は危険が付きまとうわよ」


 転生前の世界では魔獣がいかなったんだよとは言えないので俺は適当に話をつくっておくことにした。


「あー、えっとね。近場に旅行にいったらしいんだよ」

「でもわざわざ危険を冒す必要があるのかしら」

「ほら、家とは違う環境にだと夫婦の営みも変わってくるだろ」

「それが旅とどう関が係あるの?」

「子作りを期待されたんだよ。しかも精力をつける為と言って男性には毎日蜂蜜酒を飲まされたらしいのさ」

「えーーー、蜂蜜酒にそんな効果があるの!」


 子作りのほうに驚いたのではなく、蜂蜜酒に驚いたのはサリスらしいなと俺は思った。


「本当にそんな効果があったのかは分からないけど、蜂って多産の印象があるだろ。それにあやかったんじゃないかな」

「なるほどね。もしそんな効果があるならすぐにでもオルに飲ませる必要があるわねと思っちゃったわよ」

「おいおい」


 さすがのサリスさんである発言が怖い。

 しかも操舵輪を持っているサリスが考え込んでいる。

 もしかしたらアミにアドバイスして本当にオルに蜂蜜酒を飲ませるつもりかもしれない。


(オル、ごめんな)


 俺は心の中でこっそりとオルに謝った。


「話はそれたけど、それで新婚旅行の事をハニームーンともいったんだってさ」

「なんで月が出てくるの?」

「いろいろな説があるけどね。旅行期間がだいたいひと月だったからとか、月の雰囲気が甘美であるからとか、生理の周期にあってるとか」

「昔の人もいろいろ考えてたのね」

「そうだね」


 転生前の世界の話だけど、まあ昔っていう意味では間違ってないなと思ってサリスの言葉にうなずいておく。


「でもハニームーンって言葉の響きはいいわね」

「そう?」

「なんかお菓子の名前になりそうじゃない」

「うーん、そんな気もするけど」

「今度蜂蜜を使ったお菓子でも作ってみようかしら」

「えっと、もしかしてオルに食べさせようとしてない?」

「ソンナコトナイワヨ」


 明らかにサリスの口調がおかしい。


(オル、本当にごめんな)


 俺は心の中でオルが甘党であってほしいと願った。


 そんな事を思っていたところで井戸用水魔石の魔力切れの合図が鳴った。

 俺は新しい井戸用水魔石をセットしたあと、操舵輪を持って操船を担当することにした。


 俺は穏やかな海を眺めながら【地図】を使う。

 時刻は12時で現在位置は古塔都市クバから島嶼都市タゴンまで距離の約1/3進んでいることが分かる。

 このペースで進めば明日の夕方には島嶼都市タゴンに到着しそうだ。


 アミの希望では3泊はしたいという話だ。

 そうなると出発は9月23日となる。

 計算してみると港湾都市バイムに着くのは9月26日になりそうだ。


 うまくいけば10月初旬にルードン村に出発し10月下旬には港湾都市バイムに戻ってドルドスに向けて出港できることになりそうだ。

 ヒッチ兄様の家族と約束した年内帰還の話も問題なさそうだなと安堵する。


 右手に見える海岸線にそって穏やかな海を順調に小型船は進んでいく。

 後ろから唸り声が聞こえてきたの振り向くとサリスがメモを見ながら真剣な顔をしていた。


「どうした?」

「うーん、ちょっと新しい料理のアイデアを考えていたのよ」

「どんな料理?」

「もうすぐパラノスに到着するでしょ、また大量に香辛料を購入できるから香辛料を使った料理を考えていたの」

「カリーでいいんじゃないかな?」

「もっと深い味わいを出したいのよね」


 サリスの発言のレベルが主婦のものではない。

 どうみてもベテランのシェフみたいだ。


「カリーにいろいろ混ぜてみたら?」

「いろいろって言っても難しいわね」


 俺は転生前の食品を思い出してしまった。


「蜂蜜と果物なんて入れたらどうかな」

「甘さを加えるの?」

「うん、辛いだけじゃなく酸味や甘味も加えれば変わってくるんじゃないかな」


 サリスが腕組みして考えている。

 仕草がどうみてもベテランのシェフみたいだ。


「確かにいい案ね。この時期に手に入る果物といったら葡萄とかアップルとかになるわね」

「森林都市スカットで食べたデイツとかもいいかもな」

「そうね」


 サリスがメモに書き込んでいく。

 俺はさらにサリスに話をする。


「あとはヒノクスでソバに使っていたスープがあっただろ」

「ドライフィッシュやドライケルプを使ったスープよね」

「あれは旨味が豊富だから、そのスープとカリーをあわせてもいいんじゃないかな」

「それって魚介をつかったブイヤベースでも代用できそうね」

「ああ、それでも良さそうだな」

「だったら肉の葡萄酒煮込みで取ったスープも使えそうね」

「うんうん。工夫の余地はいろいろありそうだな」

「ええ、そうね」


 忘れないうちにとサリスがいろいろとメモに書き込んでいく。


 俺は豪華なカレーが食べれそうだなと思いながら操舵輪を持ってニヤニヤしながら島嶼都市タゴンを一路目指すのであった。


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