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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ドルドス帰国編】
177/192

6-14 ボニート

 竜暦6561年9月17日


 俺は操舵輪を持って穏やかな海を眺めながら、一路北西にある古塔都市クバ目指す。


 後部デッキにいたサリスが釣り竿を持って戻ってくる。


「頑張ってみたけど釣れなかったわ」

「簡単に釣れるもんじゃないんだろうな」

「でも出来ればツナを釣ってみたいわよね」

「うん。美味しいらしいからな」

「アミが離島都市アニータで食べてたじゃない」

「そうだっけ?」

「グリル焼きを注文して食べていたわよ」

「あー、そういえばシンプルに塩コショウで焼いただけの料理だったな」

「その時、一口食べさせてもらったけど美味しかったわよ」

「じゃあ、なんとしても釣りあげないとな」


 俺の言葉にサリスがうなずく。

 ふと離島都市アニータで俺は例の料理を思い出した。


「アニータと言えばリッチのパテだったな。帰りにまた食べよう」

「いいわね。私もまた食べたいわ」


 リッチのパテとは離島都市アニータで食べたウニのパスタである。

 濃厚なウニの美味しさを存分に味わえる料理だった。

 思い出しただけで口の中に唾液が溢れ出てくる。

 サリスを見ると同じようにリッチのパテの味を思い出したようで頬が緩んでいた。


 二人が頬を緩ませているところで井戸用水魔石の魔力切れの合図が鳴った。

 サリスが新しい井戸用水魔石をセットしたあと、俺と操船を代わり操舵輪を持つ。


 時間を見ると11時だ。

 まだ二人を起こすのは早いので、俺は釣り竿を持って後部デッキに出る。


 まずは準備だ。

 俺の体にロープを巻いて手すりと繋ぐ。

 次に釣り竿のグリップエンドにある穴に別のロープを繋いで手すりに繋ぐ。

 これは船から落ちない為の措置であるので重要だ。

 準備が出来たところで釣り糸の繋がれた疑似餌を後方に向けて投げこむ。


 シャーという音と共にリールから釣り糸が伸びていく。

 ある程度伸びたところで釣り糸を出すのを止める様子を見る。


 釣具屋で教わったのはこの状態で様子を見ろということだった。

 疑似餌が船の進む速度で引きづられるような形になって水面近くを跳ねているのが見える。


 これを餌と思って大型の魚が食いつくらしい。

 俺はずっと待ち続けるが反応がないまま時間がすぎる。


 時間を見ると1時間ほど経過していたのでリールを巻き取り疑似餌を回収すると操船室に戻った。


「釣れなかったのね」

「釣るのは難しいみたいだな」

「でも、船の上でのいい暇つぶしが出来たわよね」

「そう思えば気が楽かな」


 俺は肩をすくめてみせた。


「オルとアミを起こしてくるよ」

「ふざけないでちゃんと起こしてね」

「うん。夕食抜きはキツイからな」

「昨日はちゃんと食べたでしょ」

「食べたけど味がしなかったからなー」

「自業自得だから」

「えーー」


 俺はおどけながら船室にいき、ふざけないでオルとアミを起こして操船室に戻る。


「二人を起こしてきたから、また釣りに出るよ」

「頑張ってね」


 サリスにうなずいてみせてから俺は後部デッキにまた出て釣りの続きを行う。

 疑似餌をキャストしてから海を眺めてアタリをじっくりと待つ。


 しばらくするとオルが後部デッキに出てきた。


「釣るのは難しいようですね」

「うん」


 俺は釣り竿を眺めながらうなずく。


「オルは釣りをしたことあるんだっけ?」

「幼い頃、村の近くの小川でならありますよ。木の枝に糸を結んだだけの簡単な釣り竿でしたけどね」

「どんなのが釣れたのかな」

「川にいる小さな魚や蛙でしたね」

「そういうのもノンビリできて良さそうだな」

「…そうですね」


 オルが海を眺めながらしみじみと答えたのが気になった。


「どうした?」

「いえ、数ヶ月前の自分では想像してなかった経験をしてるなーと思って」

「あー、そういや出会ってからまだ3ヶ月しか経ってないんだな」

「クシナ迷宮都市に向かうまではノンビリした生活をしていた僕にとっては怒涛のような3ヶ月でしたよ」

「アミと出会って、クシナ迷宮で修行して、クランに入って、ヒノクスまで旅をして、ガイシュ迷宮でも修行してと指折り数えても確かにオルにとっては怒涛ような日々だな」

「ええ、でもおかげで世界は広いんだなと実感できましたよ」

「まだまだ行ってない場所もあるし、いままで見てきた風景の世界のほん一部さ」


 空を見上げながら俺がそういうとオルがうなずいた。


「ベックはそういう世界を自分の目で見てみたいんだね」


 海と空を眺めながら俺は口を開いた。


「俺はこの世界は一冊の本だと思ってるんだ」

「世界が本?」

「ああ、その本を読むために旅をしているんだよ。旅をしないというのは本の最初のページだけを読んですぐに閉じてしまうようなものさ」


 俺の言葉を聞いたオルが考え込んでから口を開く。


「その本の最初のページって僕の場合はルードン村だったのかな」

「そうだな。きっとオルの場合は本の最初のページがルードン村で次のページはクシナだったんだろうな」

「うん、そうなるんだね」

「俺の場合の最初のページは港湾都市パムだな」


 そこでオルが察したようだ。


「なるほどね。旅行記を書く理由はそこなんだね」

「旅行記とは俺の人生そのものさ。その本のページを開くたびにワクワク出来るから気持ちもいつまでも若く保てるしね」

「でも大変な本だね。ページを開くのにお金も時間もかかるんだから」

「そうだなーー。まあ頑張るよ。それにオルも手伝ってくれるんだろ?」


 俺はそういってから満面の笑顔をオルに見せると、オルもつられて笑い出す。

 その後、持っていた釣り竿をオルに渡して俺は操船室に戻る。

 俺はアミとおしゃべりしているサリスに話しかける。


「そろそろ1時だから交代するよ」

「わたしが操船するから平気ですー」

「寝起きで大丈夫かな?」

「まかせるです」

「アミもこういってるから平気よ」

「じゃあ、釣りを続けさせてもらうよ」

「ツナ待ってるです!」


 なるほどアミが操船をするというのは以前食べたツナをもう一度食べたいんだろう。

 俺は後部デッキに戻ると釣り竿をオルから受け取る。


 30分ほど釣り竿を眺めていると、突然凄い勢いで釣り糸がリールから引き出されていく。

 魚が掛かったようだ。

 横で見ていたオルもびっくりしてその様子を見ている。


「糸をすぐに巻かなくていいんですか?」

「いま巻くと無理な力かかりそうだから少し様子を見るよ」


 ほどなくして釣り糸の出が遅くなったのを見てから俺は慎重にリールを巻いていく。

 手ごたえからすると大物の感じがする。

 かなり釣り糸を巻き取ったところで手ごたえが変わった。

 魚が抵抗しているようで釣り糸が左右に激しく動く。


 一度様子を見る為にリールを巻く手を止める。

 落ち着いて様子を見てから動きが鈍くなったところで釣り竿のしなりを利用しながらリールで釣り糸を巻き始める。


 釣り竿を上げるとかなりしなる。

 そこで釣り竿を下げながらリールで釣り糸を巻く。

 また釣り竿を上げると釣り竿がまたしなる。

 しなる釣り竿を下げてながらまたリールで釣り糸を巻く。


 それを繰り返しながら徐々に釣り糸を巻き取っていくと釣り針に掛かった大きな魚の魚影が見えてくる。


(【分析】【情報】)


 <<ボニート>>

 Fランク

 水属

 魔力 20

 耐久 96/96


(ボニートって名前の魚か)


 俺は大きな魚の名前を確認してからオルに声をかける。


「もう少し寄せるから銛を突き刺してくれ」

「了解」


 オルが銛を手に持ってボニートが船縁に来るのを待ち構える。

 俺が力を込めて釣り竿を上げると疲れて抵抗するのを諦めたボニートが船縁までやってくるのを見て、オルが銛をボニートに突き刺した。

 オルと俺は二人がかりでボニートを後部デッキに引き上げる。

 引き上げたボニートをよく見てみると見覚えがある魚だ。

 紡錘型の形状が特徴のカツオだ。


「かなり大きいですね」

「ああ、50cmほどあるかな」

「この魚は、どう解体すればいいんですかね?」

「専門家に任せるしかないな」


 俺は魚が釣れたことをサリスに告げる。

 サリスは操船をアミに任せて後部デッキに向かって釣った魚を見てから口を開く。


「凄いわ、ボニートが釣れたのね!焼くと美味しいわよ」

「あれ?サリスはこの魚を知ってたの?」

「4年前のバセナの漁港で漁師の人に見せてもらったことがあるのよ」

「あの時か、しかしサリスはよくそんなことを覚えてたんだな」

「ベックは忘れているみたいだけど、調理して食事を出したこともあるわ」


 そういってサリスがナイフを取り出すと船上で尻尾を振って暴れるボニートの頭を突き刺して大人しくさせたあとエラを切り取る。

 さらに尻尾も切り落とすと、水をいれた桶につけて置くように俺に指示を出す。

 言われたように桶にボニートをつけると徐々に桶の水が赤く染まっていく。


 ほどなくして血抜きが完了する。

 サリスが揺れる後部デッキで器用にボニートを三枚に下ろしてから布に包む。


 その手際の良さに俺とオルは思わず拍手をしそうになったほどだ。


「えっとサリスさんって料理人でもやっていけますよね?」

「オルもそう思うよな」

「褒めてくれてありがと。お礼に今度このボニートで美味しい料理を作ってあげるわね」

「「おーー」」


 俺とオルはその言葉に喜んだ。

 三人で操船室に戻るとアミが釣った魚のことを尋ねてくる。


「ツナじゃなかったです…」

「ボニートも美味しい魚だから期待していいわよ。それにアミも忘れてるみたいだけど4年前にバセナで食べたはずよ」

「覚えてるのはサリスだけだったんだな」

「あ、もしかしてブイヤベースに使ったから印象が薄いのかもね」

「じゃあ、楽しみにしてるです」


 俺達は操船室でボニートを使ってどんな料理を作ったほうがいいか楽しく相談しながら古塔都市クバを目指して航海を続ける。


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