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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ドルドス帰国編】
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6-13 釣り竿

 竜暦6561年9月16日


 歓楽都市チーミンが見えてきたのでオルとアミを起こす為に船室に入る。

 まず手前の寝台で寝ていたアミを起こす。


「ふみゅぅ」


 寝起きのアミが手の甲で猫耳と目元をゴシゴシしている。

 非常にもふもふしたくなるがオルもいるし俺はオルで我慢することにした。

 そっとオルの猫耳近くに口を持っていき、オルの猫耳をつまんでから歓楽都市チーミンに到着したことを告げる。


「うぁああ」


 オルが驚いて飛び上がる。


「ベック、オルが驚いてるです」

「え?いまのは俺じゃないよ。アミが耳元で囁いたんだよ」

「嘘はいけないです」

「オレジャナイデス」

「…」


 俺はシラをきったが、無言のオルが俺の腕を引っ張って船倉に連れていく。

 数分ほどして俺は頭をさすりながら倉庫から出てきた。


「なに馬鹿なことやってるの」

「いや、せっかくだし甘い雰囲気でオルを起こしてあげようかと」

「そんな風に起こさなくていいです!」


 オルが珍しく怒っている。


「まったくもう」


 俺とオルの姿を見てサリスが呆れている。

 船室から出てきたアミが笑っていた。


「オルの慌てぶりが面白かったです」

「アミも今度ああやってオルを起こしてあげればいいんだよ」

「そうするです」

「えぇぇぇーー」


 怒っていたオルが慌てだすのを見て俺とサリスは噴き出した。


「もうこれくらいにしてください…」


 オルがうなだれているので操舵輪を持っているサリスが場を仕切る。


「もうおふざけはこのくらいにしましょ。ベックも馬鹿なことしないこと。わかったわね」

「はーい」

「ふざけたら食事抜きよ」


 俺の冗談めいた返事にサリスがキツイ言葉をかぶせてきたので俺は真顔で返事をする。


「はい、もうふざけません」

「お願いよ」

「これからふざけてきたらサリスさんに言って食事抜きにしてもらおう」

「ちょ、オルは俺をサリスに売るのか!」

「誰が悪いんですか」


 オルの迫力に素直に反省する。


「俺だな。申し訳ない。次からはアミに手伝ってもらうよ」

「手伝うですー」

「なんでそこでアミさんを誘うんですか!」


 話がループしそうになったのを見て、サリスが俺の今日の夕食抜きを決めた。

 少しだけ場を和ませようとしただけなんだが、やりすぎたようだ。

 ちょっと反省。


 しかし『人の心をつかむ道は胃袋から』という言葉があるが、このクランの真のリーダーはサリスかもしれない。

 サリスに逆らうと酷い目にあいそうだ。



 俺は表情を引き締めて、いつものように到着してからの指示をだす。


「一時寄港で調達したらすぐに出港するよ。いま15時半だから調達は問題なく出来るはずだ」

「タハカの時と同じでいいのかしら」

「オルの魔石調達、サリスの食材調達は決定かな。俺かアミが船で留守番になりどうだけど」

「オルと一緒に魔石調達いきたいですー」

「じゃあ、俺が留守番で桟橋に残るよ」


 三人がうなずく。

 ほどなくしてサリスが歓楽都市チーミンの空いている桟橋に船を寄せる。

 俺達全員で係留作業を行ったあと俺以外の3人は街に調達に向かった。


 留守番で暇な俺は桟橋近くでぶらぶらしていると一軒の釣具屋を見つける。

 俺は釣具屋に入って店内を見渡すと、そこには想像していた以上に良さそうな釣具がたくさん並んでいた。


 その中で太くて長い立派な黒い竿が気になった俺は店主にその竿のことを尋ねてみる。


「これってやけに長くないですか?」

「ああ。その釣り竿は大型帆船の甲板で使うんだよ」

「船釣り用なんですか!」

「歓楽街目当てに船で来る客に人気のある釣り竿なんだよ。お客さんも興味があるならどうです」


 俺は腕を組んで考える。

 小型船の後部デッキで釣りをするのも楽しそうだ。


「この竿に使うリールはどんなものですか?」


 店主が棚から大きなリールを持ってくる。


「結構立派ですね」

「大物を釣る為ですよ」


 大物という言葉が気にかかる。


「それって魔獣です?」

「いえ、普通の魚ですけど大型魚でツナとかですね。魔獣は賢いので釣り竿とか疑似餌には引っかかりませんよ」


 そういって店主が笑う。

 たしかに知性のある魔獣、セイレーンやサハギンはこんな疑似餌に引っかかることはまずあり得ない。

 もし知性のない魔獣が釣れても、返り討ちにすればいいかなと俺は考えた。


「釣り糸はハードクロウラーの糸を使うんですか?」

「ええ、少し太めのハードクロウラーの糸を使いますよ」


 かなりしっかりしていそうだ。

 あとは餌だがさっき店主が言っていた疑似餌という言葉が引っかかる。

 バセナの釣具屋では売っていなかった餌だ。

 俺は疑似餌を見せてもらった。

 小魚に似せた木製の板に釣り針が仕込んである。


「これじゃ魚の大きさによっては壊れたりするんじゃないです?」

「見た目はちゃちに見えますけど強化術式が使われているので結構丈夫ですよ」


 そういって店主がカウンターの机に疑似餌を叩きつけたがビクともしない。

 一通り説明を受けたが大型の魚用の釣り竿一式というのは本当のようだ。


 俺はせっかくなので船釣り用の釣り竿一式を予備も含めて2セット購入することにした。

 銀貨10枚というちょっと高めの値段だったが大物も釣れるという言葉を信じて代金を支払う。

 俺は小型船に戻ると釣り竿一式を倉庫にしまった。


 1時間ほどして陽が傾いてきたところでオルとアミが帰ってきた。


「おかえり。井戸用水魔石は結構買えたかな?」

「ええ、15個買えたので良かったですよ」

「結構消費してたから助かったな」

「これで183個になりましたね」

「余裕をもって進めるですー」

「うん」


 三人で会話しているところに荷物を持ったサリスが戻ってくる。


「デッキで食事準備を済ませてから出発しましょうか」

「そうなると出発は19時くらいだな」

「そうね。オルとベックは中で休んでいていいわ。アミちょっと手伝ってくれるかしら」

「手伝うです」


 サリスとアミが停泊中の小型船のデッキで調理を進めていく間、俺とオルは操船室で明日の話をする。


「行きの様子から今日19時に出港するとクバには明日の19時くらいに到着するな」

「クバでは宿に泊まるんですよね」

「ああ、ただ到着が19時だとすると明日は昼12時くらいに起きたほうがいいかもな。宿で寝れなくなっちゃうだろうし」

「そうなりますけど起こす時は今日みたいな真似はしないでくださいよ」

「あんな事はしないよ。ちょっとみんなを和ませたかったんだけど、やりすぎちゃったみたいだし」

「ベックらしいですよ」

「あはは」


 屈託なく笑う俺を見てオルが呆れた顔を見せる。


「まあ今日のお詫びに明日は昼間一緒に釣りでもやろうか」

「え?」

「さっき桟橋近くで釣具屋を見つけたんだけど船釣り用の竿を買ってきたんだよ。ちょっと見てみる?」


 オルが釣りに興味があるようで大きくうなずいた。

 俺は船倉にオルと一緒に向かって釣り竿一式を見せる。


「太くて長くて立派な竿なんですね」

「ああ、そうだよ」


 船倉の扉の前でガタッと音がする。


「ん?」


 俺とオルが船倉を出ると操船室でアミが複雑な顔をして無言でこちらを見ていた。

 そこにサリスがやってくる。


「アミどうしたの?オルとベックを呼びにいったのに戻ってこないし」

「…不潔です…」

「え?」

「…二人で船倉の中で、太くて長くて立派なとか言って変なことをしてたです…」

「「えーーーーーーーーー!!!!」」


 俺とオルは同時に変な叫び声をあげた。

 どうやらアミは勘違いをしているようだ。

 俺は倉庫から先ほど購入した釣り竿を持ってきてオルと一緒に懸命に弁解をする。


「じゃあ、なにこの釣り竿の感想をオルが言ったってこと?」

「そ、そうですよ。太くて長くて立派な竿という感想を言ったんです」

「大型の魚を釣るための釣り竿なんだ。さっき桟橋で購入したんでオルに見せてたんだ」


 サリスが腕組みして俺達を見つめる。


「とりあえず問題はなさそうだけど怪しい行動をしたのが悪いわね。アミを悲しませるとか可愛そうな事をした二人は今日の夕食はなしね」

「「…」」


 理不尽だが逆らえない状況である。

 サリスとアミがデッキに出ると、俺とオルは力なくうなだれた。


「今回は俺もオルもわるくないよな…」

「そうですね…。勘違いしたアミさんも悪くないですし…」

「…不幸な事故だったんだな」

「…そうですね」


 歓楽都市チーミンでの俺とオルは呪われているのかもしれないなと思ってしまった。

 男に不幸を呼び込む魔性の歓楽都市チーミン。

 おそるべし。


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