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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ドルドス帰国編】
175/192

6-12 大型帆船

 竜暦6561年9月15日


 密林都市ノハを朝8時に出発した俺達は歓楽都市チーミンを目指して海原を南に進んでいく。


 操舵輪を持ちながら俺は【地図】を使って現在位置を確認する。

 出港して3時間経つが、歓楽都市チーミンまでかなりの距離があるのがわかる。


 位置としては歓楽都市チーミンはスタード大陸の東南部に突き出た陸地の先端に部分にある為に俺達は南に進んでいた。

 歓楽都市チーミンを過ぎれば今度は北西に向かうことで古塔都市クバに着くことになる。


 地図を見て大体の距離を確認してみたが、密林都市ノハから歓楽都市チーミンまでの直線距離と、密林都市ノハから古塔都市クバまでの直線距離はほぼ同じにだった。

 この突き出た陸地が無ければパラノスからヒノクスまでもっと短期間でいけるのになと思ってしまう。


 そうは思ってみても陸地を削るわけには行かないのでとにかく歓楽都市チーミンを目指すしかない状況だ。


 ふと後ろを振り向くとサリスが食材図鑑を手に持ったまま、こっくりこっくりと船を漕いでいる。

 本当に本が苦手だなと苦笑しつつ、このままでは危ないので声をかけた。


 ふぁっと変な声を出しながらサリスが驚いて目を覚ます。


「ごめんなさい、すこし寝ちゃってたみたいね…」

「そこの椅子に座ったまま寝てると揺れたら危ないよ」

「うん」

「喉が渇いたから水を貰えないかな」

「ちょっと待ってね」


 そういってサリスが水筒からコップに薬草茶を注いでくれて俺に渡す。


「水で十分だったんだけど、ありがとう」


 俺は操舵輪を片手に薬草茶を飲み干すとコップをサリスに返す。


「いいのよ、私も目を覚ますのに飲みたかったから」

「一度に読もうとせずに、少しづつ読んでいけば眠くならないと思うよ」

「次はそうしてみるわ」


 そういってからサリスも薬草茶を飲んで喉を潤す。


「明日チーミンについたら簡単な補給をしてから出発する予定だけど特に用はないよね」

「歓楽街の取材はいいの?」

「歓楽街はどこも大差ないんじゃないかな。もし必要ならパムから近い歓楽都市セジルに行って取材してくるよ」

「ふーん。で本音は?」

「サリスとアミがいなければ是非とも行きたいなーなんて答えれる訳ないよ。こないだ怒られたばっかりなのに」

「そうよね」


 サリスが俺の冗談に笑う。


「冗談はさておき、先を急いでいるから今回は取材に行こうとか思ってないよ」

「古塔都市クバではゆっくりするんでしょ?」

「土産も買いたいしその予定だよ」

「順調に行けば昨日ベックが言ってたように港湾都市バイムに今月中に着いちゃいそうね」


 俺は穏やかな海を見つめながらサリスの言葉にうなずく。


「バイムに着いたら忙しくなるな」

「馬車の組み立てとルードン村にいく準備だけでしょ?」

「小型船についてもダルガラタ船工房と相互技術供与契約書を結んでおきたいと思ってるんだよ」

「えっと…頑張ってね」


 自分には手伝えない話だと思ったサリスが応援してくれた。

 事務仕事はクランのリーダ兼ベック冒険出版商会の代表の俺の仕事であるのだ。


「旅が絡んでいるからといっても、本当に面倒な手続きとか頑張れるわよね」

「他の人にお願いしようと思っても引き受けてくれる人はいないだろ」

「そうよね」

「頑張れるだけ頑張ってみるさ」


 そんな話をしていると井戸用水魔石の魔力切れの合図が鳴ったので、サリスが新しい井戸用水魔石をセットする。


「操船代わるわ」

「うん。少し休憩するよ」


 俺は操舵輪をサリスに渡して船倉にあるトイレに向かい、スッキリしてから操船室に戻る。


 備え付けの椅子に座ると何をやろうか考えていると、先ほど話の出たダルガラタ船工房に提出するレポートを記入し忘れていたことを思い出した。


(やばかったな。すっかり忘れてたよ)


 俺は直前で気付かなくて良かったと安堵しながら、アイテムボックスからダルガラタ船工房で預かっていた資料を取り出して航海記録を書き込んでいく。

 ヒノクスまでの移動状況をレポートとして提出して欲しいと頼まれていたのだ。

 レポートの目的は耐久性などの長期間の航海において問題がないか確認したいという話であった。


 当然、小型船を建造した時に十分すぎるほどテストをしていたそうだが、それでもバイム周辺の移動に限られる。

 ヒノクスまでの航海というのはそれだけデータとして貴重なのだ。


 特に大きな問題もなかったので航海記録の記述はスムーズに進んでいく。

 行きと帰りの記録を書き込んだところで井戸用水魔石の魔力切れの合図が鳴った。

 俺は新しい井戸用水魔石をセットしたあと、サリスと操船を代わり操舵輪を手に持つ。


「集中してたわね」

「ダルガラタさんに渡す報告書を作成してたんだよ」

「大変ね」

「大きな問題もないから基本的なことしか書いてないけどね」

「そういえば問題が起きた際の事を想像すると面倒ね。動力車の場合は馬を使えば馬車を移動させることが出来たわよね」

「あれ?説明してなかったっけ」


 俺は首をかしげた。


「なにを?」

「水流噴射装置なんだけど予備も積んでるんだよ

「それは聞いてないわ」

「あーー、そうだったのか」

「そういうことなら今使ってる装置がダメになっても平気って事なのね」

「うん。予備のほうはあくまで緊急用で近くの港や陸地に辿り着くためのもので速度は出ないって話なんだ」

「じゃあ。海の上に漂流することはないのね」

「そうだよ」


 サリスが安堵する。

 たしかに海で漂流するのは大変だ。


「技術者って凄いわね」

「そうだね。そのおかげで暮らしが豊かになっていくし頭が下がるよ」


 俺は笑って答えて、前方の海を眺める。

 波も穏やかで天気も良い。

 時間を確認すると14時半だ。


 俺は【地図】を使って現在位置を確認する。

 約1/5ほど進んだのを確認する。

 残り4/5となると単純に計算して明日の16時ごろに歓楽都市チーミンに到着しそうだ。

 調達を終わらせて小型船に戻って歓楽都市チーミンを出港するのは18時か19時くらいになりそうだなと俺は考えた。


 しばらく進むと前方に船の姿が見えてきた。

 どうやら海運商会の大型帆船のようだ。


「海上ですれ違うのははじめてだな。大型帆船がこっちに向かってきてるよ」


 サリスが椅子から立ち上がると俺の横に立って前方を見つめる。


「かなり遠いから分からないけどエワズの大型帆船かしら?」

「どうだろうな。海運商会といってもエワズ以外にも複数存在するからな」

「とりあえず危険はないわよね?」

「近づかない限り平気なはずだよ」


 俺は船団とぶつからないように慎重に小型船を操作して進む。

 1隻の大型帆船が近づいてきたが帆に描かれたいたのは盾の紋章であった。

 エワズ海運商会の帆には女性の横顔の紋章が描かれているので他の海運商会の船団らしい。


 盾の紋章を使った帆に見覚えがあった俺は【履歴】を使う。

 "ベック14歳、夏、大型帆船、盾の紋章"のワードで【検索サーチ】を実行したが反応しない。

 もう少し絞り込む。

 "ベック14歳、夏、港湾都市バイムから港湾都市トウキまでの航海途中、大型帆船、盾の紋章"のワードで【検索サーチ】を実行すると脳裏に複数のイメージが流れ込んできた。


 脳裏に表示されたイメージでは歓楽都市チーミンに多く停泊している映像が印象的だった。

 古塔都市クバや密林都市ノハの港にも停泊しているが歓楽都市チーミンほどの数の船は泊まっていない。


 ほどなくして十分距離を取って大型帆船とすれ違うが、こちらを見ていた船員達が騒いでいるのが遠めに少しだけ見えた。

 表情はさすがに確認できなかったが、あの船員達の騒いでいる動きからおそらく騒然としていたと思える。

 まさか航路上で帆もない小型船とすれ違うとは思ってもいなかったのであろう。

 しかもかなりの速度で進んでいるのだ。

 驚くなというほうが無理がある。


「エワズの帆船とは違ったわね」

「もしかしたらチーミンを拠点にしている近場の港町との交易を主とした海運商会かもな」

「よくわかるわね」

「前にチーミンにいった時に、あの紋章の帆船が多く停泊してたんだよ」

「そんな事まで覚えてたの?」

「記事になるかなと思って覚えてたんだよ」

「へぇー。でもチーミンとの交易だけで儲かるのかしら」

「ほら、チーミンには歓楽街があるだろ」

「お客を運ぶほうが主な海運商会なのね」

「だろうな。乗合馬車のようなものさ」


 サリスが呆れた顔をする。

 男ってヤツは本当にしょうがない生き物だ。


 俺はそんなことを思いながら歓楽都市チーミンを目指して海原を順調に小型船で進んでいく。


2015/06/11 誤字修正

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