6-9 ワンピース
竜暦6561年9月12日
サリスの声で目覚める。
時間を確認すると6時だ。
「おはよう」
「ふぁぁ、…交代の時間だな」
サリスが水で濡らしたタオルを渡してくれたので、それで顔を拭く。
冷たくて気持ちがいい。
「食事準備するわね」
そういってサリスが鍋を温める。
鍋の中身は豆料理のカスレだ。
ヒノクスで仕入れた食材を上手く使ってアレンジしており美味しく仕上がっている。
俺はカスレを堪能したあと、操船室に向かい操舵輪を持っていたオルと操船を交代する。
アミとオルは朝食と仮眠の為に船室に向かった。
俺はサングラスをかけて西へ向けて海岸線に沿って小型船を進めていく。
【地図】を使って宙に表示された地図を眺める。
河川都市シャイハから密林都市ノハまで南西に向かって約1/5ほど進んでいるのが分かる。
約12時間でこれだけ進んだと考えた場合、明後日の朝に密林都市ノハに到着しそうだ。
そう考えているとサリスが船室から出てきた。
「オルとアミは寝たようだな」
「うん」
サリスが俺の隣にきて前方の海を眺める。
空は晴れ渡り、波も穏やかだ。
「天気がよくて良かったわね」
「そうだな。シャイハからノハまでは距離もあるから出来るだけ順調に進みたいしな」
「そうよね」
そういうとサリスが俺の近くをうろついている。
なにか様子が変なので振り返るとサリスがにっこり笑いかけてきたので俺も笑顔を返す。
妙な違和感を感じた俺は前を見て、その正体がなにかを考えるが分からない。
またサリスが俺の横に来て前方を眺め始めた。
俺はサリスの横顔を覗き込んで驚いた。
髪型が違うのだ。
真後ろのポニーテールから左に寄せたサイドポニーテールになっている。
違和感の正体はこれだった。
不用意な発言をしなくて本当に良かったなと俺は安堵した。
女性の髪形の変化に気づかないのは、かなりの確立で逆鱗にふれることになるからだ。
「似合ってるね」
「そうかしら」
「うん、惚れ直しそうだよ」
「そ、そうなんだ」
サリスが真っ赤になって照れる。
可愛い!
おもわず抱きしめたくなったが操舵輪を手放すことが出来ないので俺はぐっと我慢した。
「そういう髪型にあう服も買わないとな」
「服に興味のないベックにしては珍しいわね」
「自分で着る服には拘りはないけど、サリスには良い服をきてもらいたいんだよ」
「嬉しいこといってくれるわね」
服の話になったので俺は【履歴】で思い出したサリスの母親のラキスが着ていた洋服の話をサリスにしてあげた。
「そういえば亡くなったラキス義母様がサリスを道場に迎えに来ていたときに来ていた濃紺の服だけど、いまのサリスに似合いそうだな」
「え?覚えてるの!」
「うん、濃紺の服で花柄が印象的だったかな」
この話にサリスが異様に食いついてきた。
「もしかしてどんなデザインか書くことができるかしら」
「絵は下手だけどいいのかな」
「大まかな絵でいいわ」
いますぐに書いて欲しいというサリスの強い要望で、俺はその服のデザインをメモすることになった。
操舵輪をサリスに渡して、俺は備え付けの席に座るとメモ用紙を取り出す。
【履歴】を使い"ベック4歳、港湾都市パムの道場、ラキス"とワードを念じて【検索】してみたが反応がない。
さらにワードを絞り込む必要があるみたいだ。
"ベック4歳、夏、港湾都市パムの道場、ラキス"とワードを念じて【検索】してみたがこれでも反応がない。
一昨日思い出した時のワードがなんだったか悩む。
とりあえず適当にワードを追加しながら念じてみる。
"ベック4歳、夏、暑い日の夕方、港湾都市パムの道場、ラキス"のワードはダメだった。
"ベック4歳、夏、暑い日の夕方、港湾都市パムの道場、サリスと一緒にいるラキス"のワードで脳裏にイメージが流れ込んできた。
俺は浮かんだイメージを忘れないうちに書いていく。
濃紺をベースして小さな白い花が散りばめられ、ネックラインが大きくカットされている膝丈までのワンピースだ。
肩紐は細く首の後ろで結んでいる。
さらにウェスト部分は高い位置で絞っているシルエットでいまゆるハイウエストワンピというやつだった。
この服で特徴的なのは首元や胸元を露わにしておりデコルテラインが強調されている点だ。
ラキス義母様はサリスと同じく胸が大きいのでその谷間の破壊力は抜群だ。
しかもハイウエストでさらに胸の大きさを強調している。
あらためて注意深く観察してみると凄い服である。
なんというか、おっぱいぷるんぷるんが大好きな人には堪らない服なんですけど…
俺はあることを思いついたのでサリスに尋ねてみた。
「サリス、ちょっといいかな」
「なに?」
「ファキタ義父様って女性の胸が大好きだったりするのかな」
「さすがに父親からそんなこと聞いたことないわよ!」
「だよね」
「突然どうしたのよ」
「いや、ちょっとな」
そこでサリスがなにかを思い出したようだ。
「あ!そういえば師範がそんなことを言ってたわね」
「なんて言ってたの?」
「父さんは母さんの胸に一目ぼれしたとかなんとかって。私が小さい時に聞いてたから今まで忘れてたわ」
俺はその言葉に納得した。
この服は間違いなくファキタ義父様の贈り物だ。
しかもその服を恥ずかしがらずに堂々と着こなしている亡くなったラキス義母様も凄く胸に自信があったんだろう。
そうなると既にいまの段階でDカップほどあるサリスの胸はさらに大きくなるのだろう。
子供が出来たら間違いなくEカップは行くと思われる。
これはオッパイスキーとしては由々しき問題だ!
将来サリスのおっぱいが垂れ下がらないようにしないといけない。
たしか巨乳の子は胸を維持する為に寝るときもブラジャーをつけておくといいと聞いたことがある。
今度サリスにアドバイスしようと俺は思った。
ちょっと話が脱線してしまったが、俺は操船をサリスと交代するとテーブルに置いてある簡単な絵にした服のデザインをサリスに見るように伝えた。
そのデザインを見たサリスが怪訝に思っているようで首をかしげる。
「本当にこんなデザインだったっけ?」
「うん、女性らしい人だなーって思ったのは覚えてるよ」
「もっと清楚なイメージなんですけど」
「でも胸は大きかったよね」
サリスが昔を思い出すように目をつぶって考える。
「たしかにそうね。抱き上げられたときに顔をうずめた思い出はあるわ」
「さっきの師範の言葉からすると、どうもその服はファキタ義父様が贈った服じゃないかな」
「えぇぇぇぇ」
その言葉に驚いたサリスがもう一度絵に目をうつしてじっくり眺める。
「…私にも似合うと思う?」
「同じくらい立派な胸になりそうだしな、似合うと思うよ」
「うーん」
どうやら思い出補正されていたようでサリスの中では母親が着ていた濃紺のワンピはもっと清楚なデザインだったらしい。
しかし実際はオッパイが全面的に協調された破壊力抜群の決戦兵器だったのだから心中穏やかでないのだろう。
「まあ俺の中の記憶だし間違っている可能性もあるから、師範に確認したほうがいいかもな」
「そ、そうね」
俺は正直な師範が間違いなくこのデザインだと断言する様子を想像してしまった。
(まあ、俺がいうより師範がいうほうが納得するだろうし、そのほうがいいな)
心の中でそう思いながらサリスの気持ちを察してなんとか出来ないかと考える。
少し考えていると綺麗な布を思い出したのでサリスに話しかける。
「そのデザインのワンピは再考する必要があるけど赤毛と濃紺の服は似合うのは確かだよね」
「そうね」
「古塔都市クバで濃紺のスラダがあれば、お土産とは別にサリスの着る服として1枚購入しようか」
「え!ほんとに!」
「ああ。それにスラダなら普通の服の上に羽織ってもいいしコーディネートはいろいろできるよね」
サリスが嬉しそうにうなずく。
幸せそうな表情を見せるサリスを見ていると俺も自然と幸せな気分になっていく。
俺はにこやかな笑顔を浮かべながら穏やかな海を小型船で進んで密林都市ノハを目指す。
2015/06/11 誤字修正




