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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ドルドス帰国編】
171/192

6-8 討伐

 竜暦6561年9月11日


 サリスの声が聞こえる。

 もう朝らしく部屋の窓から入る陽射しでテーブルが明るく照らされていた。


「ふぁーぁ、おはよう」


 サリスは既に着替え終わっている。

 時間を見ると朝8時だ。


「少し目覚めが遅かったな」

「疲れてたのかしら、昨日もすぐに寝ちゃったし」


 疲れた理由があるとすれば【履歴】の修行のせいで精神力をすり減らしていたからかもしれないなと俺は思った。

 ベッドから抜け出すと体をタオルで拭いてから冒険者装備に着替えた。


「準備出来たし昼までに食材購入を終わらせようか」

「そうね。あとは食事もどこかで食べましょ」

「ああ」


 大通りを歩いて食材屋に向かう途中、人の多いカフェを見つけたのでそこで食事をとることにした。


 俺とサリスは店員オススメの鳥肉と豆のライスポリッジを注文した。

 店員が食事を運んでくる。

 以前、サリスのオリジナル料理の鳥肉と豆のライスポリッジを食べたことがあるが本場の鳥肉と豆のライスポリッジは鶏がらを煮込んで作った白湯スープをベースに味付けがされており非常に濃厚な味を醸しだしていた。

 アクセントの豆も美味しい。

 サリスがスープを味わって驚いていた。


「このスープは美味しいわね」

「鳥の骨から抽出したスープみたいだね。鳥肉とも相性がいいな」


 サリスは店員を呼んでスープに使った鳥を教えてもらっていた。


「どの鳥でもいいみたいね。ただし大量の骨を強火で煮込んで作るらしいから家や野外で作るにの無理そうね。残念だわ」

「店でしか食べられない味ってことだな。この店が繁盛しているのがわかるよ」

「そうね」


 美味しい本場の鳥肉と豆のライスポリッジを堪能した俺達は店を後にして食材屋に向かう。

 俺はサリスの荷物持ちに徹して買物に付き合う。

 時間がかかったが買物を終えた俺達は小型船に食材を持っていく事にした。


「日持ちしそうなものを結構買っていたな」

「ええ。麦粉とライス粉があってよかったわ」

「ノハまではライスペーパーの料理が多そうだな」

「ライスを炊くことが出来ればいいんだけど船の中じゃ危ないから本当に残念よね」

「本当にそうだな」


 桟橋に到着した俺とサリスは購入した余分な食材を船倉にしまうと、宿に戻り出発の準備をすることにした。

 準備といっても非常にシンプルだ。

 オルとアミを起こす。

 宿の厨房を借りて海上で食べる食事を作る。

 最後に荷物を持って宿をあとにする。


 時間を確認すると12時だしちょうど良い時間だ。

 密林都市ノハまでの航海時間を考えると夕方河川都市シャイハを出るほうがよい。

 そうすれば密林都市ノハに到着するのは朝である。


 宿につくとアミとオルの部屋をノックする。

 オルの声が聞こえて部屋の扉があいた。


「あれ、眠れなかった?」

「さっき僕もアミさんも起きたところですよ」

「しっかり寝れたです」

「じゃあ大丈夫だな。食材はもう買い込んで積み込んでおいたから、あとは食事を作ってから出港準備だよ」

「僕とベックで手荷物を船に運んでおきましょうか」

「そうだな。サリスとアミは料理をよろしく」


 そういって俺達はそれぞれ分担して準備を進めていく。

 手荷物を船に積み込んでから宿に戻る途中で、オルがなにか気づいた。


「ベック、あそこから煙が出てます!」


 オルが街の北を指差す。

 たしかに黒い煙が見える。

 火事のようだが、少し胸騒ぎがする。

 昨日オークの実働部隊の話を聞いていたからだ。

 俺はオルと共に宿に走ると、厨房にいたサリスとアミに火事のことを伝える。

 俺達四人ともにオークの事を思い浮かべて、戦闘準備をしてから宿を飛び出した。


 もしオークの実働部隊だった場合、河川都市シャイハは危険に晒される。

 いまは70人もの腕利きの冒険者がオークの集落を急襲するために出かけているからだ。


 街の北に到着すると悪い予感が的中してしまった。

 オークの姿が見える。

 家々を襲い火を付けているのが見える。

 さらには逃げおくれた街の人を連れていこうとするオークの姿も見えた。


(【分析】【情報】)


 <<オーク・ソルジャー>>→魔獣:アクティブ:火属

 Eランク

 HP 204/204

 筋力 6

 耐久 6

 知性 4

 精神 2

 敏捷 2

 器用 2

 <<装備>>

 オーククラブ

 オークジャケット

 オークパンツ


(くそ!装備を着込んでやがる)


「ガードマスク着用!各個撃破!」


 俺の指示で全員がガードマスクを装着すると、アミが《ガード》《ライト・スティング》《レフト・スティング》と呟いて両手のパイルシールドガントレットの盾を構えて手前のオークに突進する。

 同時にサリスも《ガード》《ヒート》と呟いてアミの後ろについて走った。

 俺はその後ろをチェーンハンドボウを構えて、最後尾をオルがコンポジットボウに矢を番えながら走る。


 民家を襲っていた手前のオークがアミに気づき、雄叫びを上げながらオーククラブを振り回し始めた。

 その雄叫びに他のオークも反応しはじめる。


 手前の叫んでいるオークの振り回す武器をアミが受け止めると、サリスが横に回りこみ袈裟切りを放つが装備が邪魔で浅い傷を負わせるだけだった。

 いきなり斬られたことで慌てたオークが身を翻そうとしたところを俺が無防備な頭目掛けてスパイクを打ち込む。

 醜悪な顔のオークの頭にスパイクが深々と突き刺さった。

 オークがビクビクと体を震わせて倒れる。

 その倒れる姿を見てアミとサリスとオルは頭への攻撃が有効なことを察して動きを変える。


 オークたちはというと仲間が倒されたことに激怒したのか集団で襲いかかってきた。

 アミがオークの攻撃を次々と受け止めていき、サリスが剥きだしになっている頭や手を狙って剣を振るう。

 俺とオルはサリスとアミの背後へと回り込もうとするオークを後方から牽制していく。


 ふと視線を動かすと、遠くからこちらを狙うオークの姿が目に入る。


(【分析】【情報】)


 <<オーク・アーチャー>>→魔獣:アクティブ:火属

 Eランク

 HP 196/196

 筋力 2

 耐久 6

 知性 4

 精神 2

 敏捷 2

 器用 6

 <<装備>>

 オークボウ

 オークジャケット

 オークパンツ


(弓だ!!)


 弓を持ったオークが3体いたようだ。


「矢がくるぞ!!!」


 俺は叫んだ。

 サリスとアミが咄嗟に盾を構えてバックステップしてオークの集団から距離をとる。

 間一髪だった。

 さっきまでサリスとアミがいた場所に、オーク・アーチャーが放った矢が弧を描いて飛んできて地面に突き刺さる。


 オルが弓を構えるオーク・アーチャーに向けてコンポジットボウで狙いをつけると次々に矢を放っていく。

 アミが狙われたことに怒っているようで、その矢を射る姿は鬼気迫っていた。


 オーク・アーチャーはオルに任せて、アミとサリスと俺は集団で襲ってくるオークを1匹づつ仕留めていく。


 かなり数が減ったところで残った7体のオークがアミに一斉に襲い掛かろうとした。

 アミはここで冷静に光玉を取り出すと地面に投げつけた。

 辺りが閃光に包まれる。

 至近距離から閃光を凝視してしまったオークたちが視界を奪われたのを見て、俺は至近距離からアミの左側にいた2体のオークの顔面にスパイクを撃ち込む。

 サリスはアミの右側にいた3体のオークの首を刎ねた。

 アミは正面から襲ってきていた2体のオークの顔面に太いパイルを打ち込んでいる。


 光玉を使ってから10秒もしない間に7体のオークを3人で仕留めることが出来た。上出来である。


 オルはというと3体の弓を持ったオークを仕留めていた。

 さすがである。


 20匹以上のオークが地面に転がったところで、残ったオークがいないか俺達は確認することにした。

 俺はオークの死体を見渡したところで違和感を感じた。

 これだけの実働部隊を指揮していたようなオークが見当たらない。


 遠くまで目を向けて分析を使って探していく。

 5回目の分析で林の中で隠れている魔獣の姿を捉えた。


(【分析】【情報】)


 <<レッドオーク>>→魔獣:アクティブ:火属

 Eランク

 HP 251/251

 筋力 6

 耐久 6

 知性 8

 精神 2

 敏捷 2

 器用 4

 <<装備>>

 オークナイフ

 オークシールド

 オークマスク

 オークジャケット

 オークパンツ


(いた!!!)


 俺は3人に合図を出すとアミが街外れの林に向けて走り出した。

 そのあとをサリス、次に俺、最後尾にオルがついて走り出す。


 気づかれたことを察したレッドオークが林の奥に逃げ込んでいくのが見えた。

 知能が高いようで勝てないと察して逃げることを選択したらしい。


 このまま林の中に逃げ込まれると厄介である。


「オル、ハープーンアローを頼む」


 木々がそれほど生い茂っていない林だが、ここで矢を放ち当てるのは非常に難易度が高いはずだ。

 しかしオルは軽くうなずいてからハープーンアローを取り出して逃げるレッドオークの背中を狙い矢を放った。


 木々を縫うように矢がレッドオークに向かって飛んでいき、その背中に突き刺さる。

 遠くにいるレッドオークの呻き声が聞こえてきた。

 オルの弓の腕は本当に凄いと感心した。


 アミがハープーンアローに繋がれた高強度ロープを握りしめレッドークがこれ以上逃げられないようにする。

 俺とサリスはそのまま林の中を走ってレッドオークの元に駆け寄ると、背中に深々と突き刺さったハープーンアローを抜こうともがいている姿がそこにあった。


 俺とサリスを見てレッドオークは逃げ切れないと悟ったのか、ナイフと盾を構えて前にいるサリスに襲いかかってきた。

 サリスはそのナイフをフレイムスパイクシールドで受け止めたあと、冷静にレッドオークの首目掛けてフレイムストームソードで突きを繰り出した。

 レッドオークの首を刃が貫通する。

 そのあとその刃を上に向かってサリスが降り抜くとレッドオークの頭が真っ二つに裂けた。


 これでオークの実働部隊のシャイハ襲撃は阻止できたようだ。


「こいつだけ少し違うです」

「隠れてたし実働部隊の指揮官みだいだね。しかしよく見つけたよ」

「ちらっと影が見えたんだよ。しかし逃げるとはな」

「本当にオークは面倒だわ」

「もしかしたら討伐部隊が移動したのを見かけたから手薄だと思って襲撃したのかもな」

「そこまで頭がいいのかしら」

「装備を身につけたり連携攻撃をしたりと間違いなく頭はいいはずだよ」


 俺はレッドオークの胸を切り裂いて手早く魔石を回収する。

 次に討伐証明を回収しようと思ったが場所がわからない。


「討伐証明の部位はどこだろうな」

「たしか右耳のはずですよ」

「ゴブリンと同じなんだな」


 オルがレッドオークの少し垂れ下がっている大きな右耳をそぎ落とし回収する。


「さて戻ろうか」


 俺達は林から出ると襲撃を受けて火事が発生していた北側の一角に駆け足で舞い戻る。

 火事については街の住人が力を合わせ水魔石を使って消火作業をしており、かなり鎮火していたのでホッとした。


 火事の対応は街の住人に任せた俺達は怪我人の救護とオークの死体の移動と回収を手分けして行う。

 ほどなくして騒ぎを聞きつけた冒険者や行政庁の職員らしき人が集まってきた。


 人も多くなったのであとは地元の人に任せようと俺達が集まったところに昨日冒険者ギルドであった職員が声をかけてきた。


 職員から聞いた話だと、今まで周辺の警戒をしていたベテランの冒険者の多くが討伐部隊に参加しているらしく今日は見張りを再編をするために残った冒険者を集めて冒険者ギルドで話し合いが行われる予定だったらしい。


 その話からやはりオークは街の警備が手薄になったところを狙って襲ったのだろう。

 しかし連れ去られた人もいなく、火事もそこまで燃え広がらなかったのは本当に不幸中の幸いだった。


 職員はオークと俺達の戦いを見ていた街の住民から事情を聞いていたらしく深々と頭を下げてきた。


「本当に今回の件ですが助けていただきありがとうございました」

「冒険者として当然のことをしただけです」

「のちほど冒険者ギルドに来ていただけないでしょうか」


 討伐証明も提出もあるので俺達はあとで冒険者ギルドに顔を出すと告げると、職員は報告があるのでと足早に戻っていった。


「見張りの再編も急いで行う必要があるし大変そうよね」

「討伐に出かけたハラライさんも、まさかオークから襲撃してくるとは思ってなかったんだろうな」

「あの指揮官のオークが頭よかったです?」

「そうでしょうね」


 俺達はやり残した事がないか確認したあと、その場をあとにした。

 サリスとアミは調理途中だったので宿の厨房に戻り、俺とオルが冒険者ギルドに向かうことにした。


「話では聞いてましたけど弓を使ってくる魔獣は怖いですね」

「アーチャーとしてみた場合、あのオークの技量はどの程度だった?」

「冒険者見習い程度でしょうかね」

「ふむ。その程度の腕でもアミやサリスのいる場所に矢を放ってきたのは脅威だな」

「そうですね。もし次に相手をすることがあったら真っ先にアーチャーから倒すべきでしょうね」

「その時はオルに任せるよ」


 俺はそういってオルの背中を叩く。


「ええ、アミさんを狙う敵を排除するのが僕の役目ですから」


 そういうオルの顔つきはいつにもなく精悍で男らしかった。


 ほどなくして冒険者ギルドに辿りついた俺とオルはEランク掲示板から緊急のオーク討伐の依頼票を剥ぎ取ってから受付に行き事後報告を行う。

 受付の男性が討伐証明として22個のオークの右耳と依頼票を受け取ると驚きながら奥に向かう。


 少しすると先ほど現場であった職員と共に受付の男性が戻ってくる。

 職員が報酬として銀貨176枚を渡してきたので、俺とオルが88枚ずつ受け取る。


「今回は本当にありがとうございました。あと出来ましたら数日シャイハに滞在していただけないでしょうか」

「なにかあるんですか?」

「功績に応じた報奨を出そうという話がギルド内部でありまして」


 少し腕組みをして考えたが、今回は報奨の受取を辞退することにした。


「すでに報酬をいただいてますし帰国の予定もありますので予定通り今日出港いたします。お心遣いだけありがたく頂戴いたします」

「そうですか」


 職員が気落ちしているようだが、俺とオルはお辞儀してから冒険者ギルドをあとにして宿に戻った。

 サリスとアミが料理の入った鍋を持って俺達の戻りを待っていたので、宿の受付で鍵を返してから四人で小型船に向かう。

 その途中、冒険者ギルドであった話をサリスとアミに説明した。


「じゃあ特別報奨は断っちゃったのね」

「ああ」

「もったいないですー」

「そうも思ったけど既に十分な報酬を貰ったしな、それにルードン村に寄ってから年内にドルドスに帰国するとなると先を急ぐ必要があるだろ」


 俺の話を聞いてもまだ唸ってるアミにオルがなにか話しかけていたので、あとはオルに任せることにした。


 桟橋に到着すると出港準備を3人に任せて、俺はエワズ海運商会にいって出港の手続きを済ませる。

 手続きが終わり小型船に乗り込んだのは18時過ぎだった。


 俺達は西陽に照らされて赤く染まる河川都市シャイハを出港した。

 


2015/06/11 誤字修正

2015/06/11 脱字修正

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