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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ドルドス帰国編】
170/192

6-7 オーク

 竜暦6561年9月10日


 西部都市タハカを出発して24時間経過した。

 いま昼の12時である。


【地図】を使うとあと数時間で河川都市シャイハに到着しそうだ。


 今日は昨日と違い天気もよく波も穏やかだ。

 俺はサングラスを装着して操舵輪を握る。

 思った以上にサングラスは良かった。

 煌めく水飛沫があまり眩しく感じない。


 後ろで魔力切れの合図が鳴る。

 サリスが操船室にある器具の井戸用水魔石を新しいものと取り替えた。


「そろそろ操船かわるわよ」

「ああ、少し休憩させてもらうよ」


 操舵輪をサリスに渡して俺は操船室の中の備え付けの椅子に座る。

 水筒をアイテムボックスから取り出すとコップに水を注ぎ喉を潤す。


「さっきの話じゃシャイハはもうすぐなのかしら」

「そろそろだと思うよ」

「順調に進めば2日でトウキからシャイハまで来れるのね」

「でも、ずっと海上にいるのは疲れるし、夜間も進むからオルとアミの体調を考慮すると適度に休まないとな」

「そうね。シャイハで一泊はちょうど良さそうね」


 そんな話をしていると船室の扉があいてオルが出てきて船倉に入っていった。

 アミはまだ寝ているようだ。

 しばらくしてオルが船倉から出てきた。


「起きるの早かったな」

「6時間寝ましたから十分ですよ。それよりそろそろですか?」

「あと数時間で到着すると思うよ。疲れも取れないだろうし船室でもう少し休んでていいよ」

「目が覚めましたしここで装備の手入れをしてますよ」

「船室じゃアミを起こしちゃうか」


 オルは軽くうなずいてからコンポジットボウの手入れを始めた。


 俺は少し思案してから書きかけの旅行記の記事を取り出してペンを握ったまま【履歴】を使う。


 記事を書く振りをして俺は昨日判明した【履歴】の使い方を模索をしていたのだった。


 操船の合間に少しづつ取り組んでいるが、なかなか癖のあるスキルだ。

 まず大量の結果が出るようなワードを思い浮かべてから【検索サーチ】を実施しても反応しない。

 たとえば"美味しい食事"と漠然としたワードではイメージが沸かない。

 これを"正月に食べた餅"と変更してもイメージが沸かない。

 もっと条件を絞って"転生前の世界で10歳の時に自宅で親と一緒に食べた正月の餅"というワードを思い浮かべて【検索サーチ】を実施すると脳裏に鮮明なイメージが送り込まれる。


 条件を絞れば絞るほど反応してくれるのだが、その条件を考えるのが非常に厄介だった。


 しかし使い方に寄っては強力なスキルであるのは間違いない。

 きちんとワードを選択すれば転生前の世界の博物館や美術館の展示内容、あとは図書館で読んだ情報や雑誌に書いていた情報まで鮮明に再生してくれる。

 もちろんきわどいワードを絞り込んで選択すれば、転生前に集めた2TBの外付けHDDに保存していた画像や動画まで再生されるのだ。


 もう二度と出会えないと思っていたお宝の数々が再生されたときは思わず船倉のトイレに行きそうになったほどだが、もちろん本当に行ったりはしていない。

 俺には愛するサリスがいるのだ。

 我慢することを覚えた俺は少しは成長しているのかもしれないなと思った。


 話はそれてしまったが強力なスキルなので多少癖があっても使いこなす必要が出てきた俺は【履歴】の使い方を模索をしていたのだ。


 取り組んだのは2点。

 ひとつは条件を絞り込む際のワードの選択だ。

 これは慣れの部分が多いだろうと思い、条件をあれこれ変えながらいろいろと試行錯誤していた。

 もう一点は思い出した情報を記録に残す作業だ。

 こちらのほうが非常に大変だ。

 あくまで再生される情報は脳内でのみ表示されるだけなので、その情報を一言一句間違えずに記録するとなるとかなり精神力を消費する。

 雑誌のページなどの情報を全て書き写すのは、何度も何度も【検索サーチ】を実施する必要があるので現状は無理がある。


 今のところ正確に書き写そうとすると一回の【検索サーチ】で書ける文字の量は30文字ぐらいが限界みたいだ。

 大雑把でよければもっと書けるが、そうなると意味をなさない場合もある。


 頭の中の思い浮かべた映像を印刷する装置が欲しいが、この世界でそういった装置を望んでも無理だろう。

 転生前の世界でも頭に電極を付けてそれらしいことが出来るなんてことをネットのニュースで見たことがあるほどの最先端の技術だ。

 この世界で再現できたら凄すぎる。


 無い者ねだりをしてもしょうがないので俺はとにかく書き写す修行するのみだった。


 書き写す修行をしていると、操船室に井戸用水魔石の魔力切れの合図が鳴る。

 集中している間に2時間が経過していたようだ。

 オルが井戸用水魔石を新しいものと取り替えた。


 これ以上は精神的にきついのでサリスと交代することにし操舵輪を持って海を眺める。


「すごく集中して記事を書いてたわね」

「うん、思い出しながら記事を書いてたからね」

「無理しちゃダメよ」

「うん」


 それから穏やかな海をしばらく進むと前方に都市が見えてきた。


「河川都市シャイハが見えてきたよ」

「荷物は最低限でいいわよね」

「ああ」

「アミさんを起こしてきますね」

「うん、よろしく」

「エワズに提出する書類は揃ってるの?」

「トウキに向かってるときに帰る際に提出する書類も受け取ってるから問題ないよ」

「抜かりがないわね」

「まあね」


 ほどなくして空いている桟橋に船を寄せると係留作業が3人に任せて、俺だけ先に降りてエワズ海運商会の事務所に向かう。

 1時間ほどの手続きをしてから船に戻ってきた。


「サリス今何時になってる?」

「15時50分よ」

「エワズの事務所で確認しておいたから3人とも14時50分に変更しておいて」

「はいですー」

「トウキで調整しましたけど1時間もずれたんですね」

「そうなるな」

「時間がずれるって本当に慣れないわね」

「まあな」

「次のノハも1時間ほどずれてましたよね」

「うん。正確な時間は正午計か現地の時計で合わせればいいさ。さて宿に行こうか」


 俺達は荷物を持って下船すると以前泊まった宿にいき宿泊の手続きを行う。

 鍵を受け取り部屋に向かおうとしたところで、受付の男性から声をかけられる。


「お客様方は街の外には行きませんよね?」

「その予定ですけど」

「そうでしたか、街の外は物騒なので注意してくださいね」


 その言葉が引っかかったサリスが受付の男性になにが起きているのか尋ねた。


「実はオークの集団がうろついてまして今は冒険者ギルドで警戒に当たっているんですよ」

「そういえば1ヶ月前にシャイハに来た時に確か討伐依頼が出てたわね」

「討伐に時間がかかりすぎてますね」

「冒険者ギルドが想定していた以上に大きな集団だったみたいですね」

「そうなると尖兵などの偵察のオークもかなり数がいそうだな」

「街の人がたいへんです」

「ええ、今はまだ平気ですけどこの状況が長く続くと困りますね」

「あとで冒険者ギルドに行って状況を確認してみようか」

「食事のついでに行ってみるです」

「そうね」


 俺達は部屋に荷物をおくと宿をあとにして、河川都市シャイハの中心部を流れる川を目指す。

 川沿いにある目当ての冒険者ギルドに到着するとEランク掲示板に確認する。


 ・【緊急】オーク討伐  銀貨8枚

 ・ロックバード討伐   銀貨2枚


「緊急案件になってるです」

「補足だとEランク以上のクランの受注で1匹あたり銀貨8枚の報酬ですね」

「そこは1ヶ月前と同じね」

「緊急ってことは、どこから襲撃があるか分からない状況だから冒険者に広く手伝ってもらいたいっていうことだな」

「偵察のオークじゃないってことね」

「実働部隊のオークなんだろうな」

「厄介なケースじゃない」

「職員に聞いてみよう」


 俺達は受付の近くにいた職員に冒険者証を提示して事情を尋ねてみた。

 冒険者証を確認した職員が慌てて俺達を会議室に案内してくれた。


「このパターンっていつものかしら」

「うーん、称号絡んでるよな」

「ですです」

「もしかして大変な事態なんでしょうか」


 ほどなく上司と思われる壮年の男性と先ほどの職員が会議室に入ってくる。


「私はオーク討伐の指揮にあたっているハラライだ。旅の冒険者ということだが」

「はい、ヒノクスからドルドスに帰国中なのですが先ほどシャイハに寄港した際に宿でオークの話を聞いたので状況を確認しにきました」

「三人が称号二つ持っているということで職員が驚いたようだが、その年で旅をするとなるとそれなりに実力がありそうだな」

「パラノスのクシナ迷宮やヒノクスのガイシュ迷宮でDランクの魔獣相手に修行をしておりました」


 職員が驚きの声をあげ、ハラライが俺達に話を切り出す。


「Eランク掲示板を見たと思うが現在河川都市シャイハの近隣に住み着いてるオークが脅威になっている。明日の明朝から冒険者による討伐作戦で出発するのだが君達も参加してみないか」

「それはオークの集落を複数の冒険者で襲うということでしょうか?」

「詳しい状況をまず説明しよう。オークが確認されたのが7月下旬の話だ」

「実は8月上旬にシャイハを訪れた際に掲示板を確認しておりまして、オーク討伐依頼を出されてましたよね」

「うむ。多くても30か40程度の集落と思っていたのだが偵察のオークを倒しても倒しても一向に尖兵の数が減らすにいたのだよ。そこで8月末に調査隊を組んで確認したところ、100以上のオークがいるのが判明したのだ」

「100以上ですか!!」


 俺達はその数に唖然とした。

 オークはボアに似た顔を持つ人型魔獣で知能が高く武器や防具を装備する。

 Eランクの中では飛び抜けた強さを持っている魔獣である。

 それが100となるとかなり厳しい戦いになる。


「この作戦のために都市にいる熟練の冒険者を70名集めるのに1週間かかってしまったよ」

「ギルド側の戦力は十分そうですね」

「ああ、ただし追加の戦力があればそれに越したことがないのも事実なのだよ」

「作戦の日程はどうなのかしら」


 サリスが切り出した。


「オークの集落まで行き、帰ってくるまで1週間かかる予定だ」


 その言葉を聞いて俺達は眉をひそめた。

 さすがに予定にない討伐作戦で1週間かけるわけにはいかなかった。

 帰国の日程に影響してしまうので、俺はハラライに素直に頭を下げた。


「すいません、数日程度なら手伝えたのですが1週間となると出港の関係で難しいようです」

「ふむ。旅の途中だしさすがに予定があるのならば仕方がなかろう」

「帰国に余裕があれば手伝えたのですが本当にすいませんでした」

「いやいや、こればかりは仕方がないよ。そうすると出発は明日あたりになるのかな」

「はい」

「では、オークの実働部隊がいる可能性あるのでくれぐれも街の外には出ないようにしてくれたまえ」

「お気遣いありがとうございます」


 俺達はハラライと職員に深くお辞儀して冒険者ギルドをあとにした。

 宿に戻る途中でカフェテラスに寄って食事をとることにした。


「海老と貝のライスポリッジを4つお願いします」


 前回、河川都市シャイハに来た際に食べて好評だった料理を俺は4つ頼んだ。

 料理が運ばれてくるまでさきほどのオークの件の話をする。


「もっと余裕があれば良かったですね」

「まあな。でも冒険者70名も集めてるという話だし俺達がいなくても平気だろうな」

「人が増えれば安心できるから、それで誘ってきたのかしら」

「だと思うです」

「俺もそう思うよ。上に立つとなると戦力はいくらあっても困らないからな」


 ほどなくして運ばれてきた海老と貝のライスポリッジを味わう。

 海老と貝の出汁が十分に出ていて優しい味で非常に美味しかった。

 船旅の疲れがとれる。


 食後に薬草茶を飲みながら俺はさきほどのハラライの顔を思い浮かべ、オーク討伐がうまく行くことを願っていた。


2015/06/11 誤字修正

2015/06/11 表現修正

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