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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
少年期【迷宮編】
17/192

2-1 迷宮

迷宮編開始

増量中

 竜暦6557年8月25日


 異常事態が発生してから3日後の8月23日、行政庁と冒険者ギルドの合同調査の結果として湾都都市パムの行政庁代表であるポウテック・レジュンの名で特別通達が発せられた。


 ・湾都都市パム郊外東部の林にて迷宮が発生した。

 ・迷宮名称をパム迷宮とする。

 ・迷宮規模は小規模と予想される。

 ・迷宮の周囲は城壁で囲い隔離を実施する。

 ・城壁近くに冒険者ギルドの出張所を設置する。


 この通達でパムの街は「特需だ、特需だ」と街を挙げて狂喜乱舞した。

 なぜ特需なのかって?


 ・迷宮の魔獣からは質のいい魔石が入手できる。

 ・質のいい魔石で生活が豊かになる。

 ・迷宮目当ての冒険者が大量に各地から集まる。

 ・冒険者が増えることで街の飲食業などの収入が増える。


 そう魔獣が棲む迷宮のリスクよりもリターンのほうが大きいのである。


 文献に記載されていたが、元々迷宮は大陸中央部付近に出現することが多いらしい。

 沿岸部にも迷宮が出現することはあるが稀であり、確認されているだけでパム迷宮含めて6箇所だ。

 いままでの沿岸部迷宮の傾向から階層は最大でも5階層、魔獣も最高Cランク程度と行政庁と冒険者ギルドは想定しているらしいのである。


 ようはパム迷宮の場合、初心者から中級者程度をターゲットにしたお手軽ダンジョンで魔石がザックザックと取れるという宝の山状態ってことだった。


 特需発生に浮かれている街で俺とサリスだけは迷宮誕生の瞬間というレアな現場に立会い、膨大な魔力の奔流を目にした恐怖からクエストにもいかず街中で今日までおとなしく過ごしていた。


 今日は二人で東大通りのカフェテラスでお茶をしてる。

 俺はコーヒー、サリスはミルクティーを嗜んでる。


 サリスに言わせれば10歳にして苦いコーヒーを飲む俺はおかしいって話だった。

 転生前から飲み慣れてるし俺としては凄く自然なんだけど、さすがに笑ってごまかすだけだった。


「このアップルパイ美味しいわね!」

「ほー、俺にも一口頂戴」

「はい、あーんして」


 サリスがフォークで差し出されしてくれたパイをパクリと頬張る。


「これは本当に美味いな」

「でしょ、ここで食べるの初めてだったけど病み付きになりそうだわ!」


 周囲から寄せられる男達の視線に気付きつつもスルーする。


(((((((((リア充爆発しろ!!))))))))


 そうもし俺に他人の心が読めたなら、こういった怨嗟が聞こえたはずである。


「明日も来たいわね、ここ」

「そうだね」


 唇についたアップルパイのソースを舌でペロリと舐めるサリスの姿が妙に色っぽい。


(あの日、泉であんなことがなければキスまでいけたかな… いや押し倒してその先までいけたかも…)


 邪な想像が脳裏をよぎる。


「でも、そろそろクエストも再開しないとね、ベックもそろそろ平気?」

「俺も平気だよ」

「じゃ、明日から再開しましょうか」

「うん」

「そういえばイネスさんは迷宮いくのに反対してなかった?」

「正式な通達が出て、そこまで危険じゃないのが判明したから無茶しなければ行ってもいいってさ」

「やったー」

「そういえば迷宮の仕組みって文献探したけど、曖昧にしか書かれてないんだよね。」

「ギルドで昨日ガイドが発行されたみたいよ。」

「え、そうだったの?」

「うん、迷宮調査隊に同行した師範の昔の経験とほぼ同じだったらしいよ。」

「師範って迷宮にも入ったことあるんだ!」

「Cランク冒険者のときにパラノスにある沿岸部迷宮に潜ったことがあるらしいわ。そこでBランクまでランクあげたそうよ」

「さすが師範だね」

「パム迷宮の調査隊が確認してるのは地下2階までらしいけど、1階に落ちてある淡く光ってる特殊な石を砕けば即座に迷宮外に出られるらしいわ」

「逃げやすくていいね」

「うん」

「じゃ、このあとは冒険者ギルドによってガイドもらってこようか」

「はーい」


 カフェテラスを離れ、冒険者ギルドに向かった。


 東大通りから冒険者ギルドを目指していたらギルドの前に人だかりが出来ていることに遠目で気付いた。


「なにこれ?」

「凄い人だね」


 そう冒険者ギルド前に人があぶれているのである。

 受付のジュイスが通りまで出てあぶれた人の誘導作業をしていた。


「こんにちは、ジュイスさん」

「あら、君達も来たのね」

「迷宮ガイドもらおうかと思ったんですけど、無理そうですね…」

「君達は発生報告してくれたお礼もあるし、私の持ってるガイドでよければ渡すけど、どうする?」

「頂けるなら嬉しいです」

「じゃ、これね」


 ジュイスは腰のポーチから迷宮ガイドを渡してくれた。


「本当は冒険者ギルドから正当な発見報酬を出すべきなんだろうけど、街近くに沿岸部迷宮が出来たのが初めてだから混乱しててごめんね」

「あれ、沿岸部迷宮ってどこも近くに街があるんじゃないですか?」

「えっとね、今までは先に沿岸部迷宮が発見されて、そこを目指す人が集まった結果として街が出来たのよ、今回は逆で既に大きな街がある近くに迷宮が出来ちゃったことで問題が大きくなっちゃのよね」

「それで、冒険者ギルドもこの騒ぎなんですね…」

「そうなのよね~」

「では邪魔になっちゃうので俺達はここを離れますね、落ち着いたらまた顔を出しにきます」

「あ、迷宮にいくなら冒険者ギルド出張所があるから、そこに絶対に顔をだしてね。」

「はい、ありがとうございました。」


 俺達は冒険者ギルド前をあとにし東大通りを歩きながら相談する。


「迷宮ガイドを落ち着いて読みたいし、どこか静かな場所にいこうか」

「もういちどカフェテラスに行ってみる?」

「迷宮に関する打ち合わせだし出来れば人に聞かれないところがいいかな。俺の部屋でもいいけどさ、出来れば必要な道具もそのまま買いに行きたいんだよね」

「じゃ、すぐそこだし私の家で相談しましょ」

「あれ、サリスの家って…」

「父と兄は今はいないし、私一人だから本当は家に他人を入れるのはダメだって父に言われてるんだけどベックは特別だから平気。」


 サリスが頬を紅くするのを見て、俺のハートのビートが疾走する!


(俺の人生2回目の童貞すてる時が来たのか!!!!!うひょーーーーーーーー!!)


 舞い上がった瞬間、そこで背中に悪寒が走る。


(ちょっと待て、これ死亡フラグっぽくないか?!、いや死亡フラグだ、これ)


 そうお約束なら、こういった時には邪魔がはいるパターンが多いのだ。

 実際先日の泉でもそうだった。


(くそ。冷静になれよ、俺。ここは死ぬ場所じゃないはずだ!)


「サ、サリスの家もいいけど、道場の会議室空いてないかな」

「そういえばそうね」

「師範もいるだろうし、出来れば相談に乗ってもらえるかも」

「じゃ道場にいってみましょ」


 そのまま東大通りの路地の先にある道場に顔をだした。


「「お邪魔します」」


 サリスの叔母にあたる師範のギャユスが道場の片付けをしているところだった。


「二人ともよくきたね。サリスもちょうど良いタイミングで来てくれて助かったよ。そこの本を家に届けにいこうと思ってたところだったんだよ。」


 死亡フラグやっぱり立ってたみたいです、はい。

 あのままサリスの家に行って変なことしてたら師範に見つかって俺と俺の分身は死亡してました…


「師範、会議室が空いていたら貸していただけませんか?」

「構わないけど、どうしたんだい」

「迷宮ガイドを入手したので、二人で落ち着いて検討しようかと」

「なるほどね」

「出来れば師範からアドバイスいただけないでしょうか」

「じゃ、もうすぐ片付け終わるから手伝いな、それからならいいよ」

「「はい」」


 片付けを手伝い、そのまま会議室で相談を始めた。


 まず迷宮ガイドに記載されている必需品を挙げてみる


 ・武器

 ・防具

 ・アイテムボックス

 ・水筒

 ・食料

 ・筆記具

 ・記録紙

 ・巻糸

 ・ロープ

 ・回復薬

 ・腹止丸

 ・迷宮灯


 聞いたことのない品が書かれてる。


「師範質問いいですか」

「なんだい」

「巻糸って何に使うんですか?」

「迷宮は入り組んでるからね。入口から進むときに糸を張って来た道を戻れるようにしておくのさ」

「なるほど」

「地図がある程度できれば必要なくなるけどね」

「師範、この腹止丸ってなにかしら」

「それは女性には必須だね、排泄を抑える薬だよ。飲んでおかないと迷宮の中で仲間の前で排泄することになるけどいいのかい?」

「「はぁぁぁぁぁ?!」」


 俺とサリスは思わず変な声だし首を大きく横に振った。


(考えてなかったわー、簡易トイレとかあるわけじゃないし確かにそうだよな)


「一時的に抑えるだけだから体に害はないよ。私も昔はよく飲んだものさ」

「この迷宮灯ってのは普通の蝋燭などでは駄目なんですか?」

「それは簡単な罠を見つけることが出来るマジックアイテムなんだよ」

「迷宮って罠まであるんですか!」

「落とし穴や落石あたりなら、迷宮灯で見つけられるけどね。複雑な罠は無理だから、そこは冒険者の技量が試されるね」

「迷宮は、いろいろと大変そうですね…」

「二人の力なら奥には行けないだろうけど、浅い場所ならいい鍛錬になるし平気だよ」

「師範がそういうなら、頑張ってみます」

「私も頑張ります」

「じゃ折角ここまで来たんだし、私から餞別を渡そうかね。ちょっと待ってな」


 そういって師範が道場の倉庫から数点の品を持ってきた。


「ほれ、昔私の使ってた迷宮灯とロープだよ。」

「「ありがとうございます」」

「沿岸部迷宮は比較的安全だけど、少しでも無理と感じたら戻ってくるんだよ!」

「「はい」」


 そのあと迷宮ガイドを元にして師範から貴重な幾つか注意点を聞いたあと、道場を出て必要な品を揃えてから二人とも家路についた。


 明日、初めて迷宮に挑戦するのだ。


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