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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ドルドス帰国編】
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6-6 【検索】

 竜暦6561年9月9日


 西部都市タハカに到着したのは朝の5時だった。

 今回は一時寄港なのでエワズ海運商会の事務所には行かずに桟橋に係留して用事を済ませることになっていた。


 船室で軽い食事をしたあと、アミを船に残して俺とオルとサリスが下船した。

 どこの都市の店も営業をはじめるのは大体朝の7時なので、その待っている時間を利用して俺とオルとサリスは街の中の復興状況を確認する。


 一ヶ月前に出港した時よりも港湾地区の復興がかなり進んでいるのがわかる。

 瓦礫も綺麗に片付けられている。

 火事で焼け落ちた場所は整地されていたり、仮設の建物が立っていたり、建設途中だったりしていた。


「1ヶ月でここまで復興できたのね」

「悲しい出来事だったけど街の人もいつまでも落ち込んでいられないしな」

「そうですね」


 桟橋前の広場に犠牲者の名前の書かれた一枚板が置かれていた。

 名前を確認したがスキュラの襲撃で亡くなった人の数は32人だったらしい。

 怪我をした人はもっと多いだろうなと思いながら、俺達三人は亡くなった人に対して祈りを捧げる。


 その場を離れるとサリスがぽつりと呟く。


「人は亡くなったらどうなるのかしらね」

「自然に帰るだけですよ」

「体はそうだけど気持ちもなくなっちゃうのかしら」

「僕の育った村では生きてる人に亡くなった人の意思が引き継がれると言われてましたね」


 転生して生前の記憶を持っている俺がいうのはおかしいがその考えに俺も賛同する。

観測者オブザーバーλ567913』が関与しなければ生前の俺はあそこで終わり、新しく魂が生を授かったとしてもそれは俺ではない別の人になっていたはずだ。

 それに想いを引き継ぐのは、生きている人にしか出来ないことだ。

 そうやって何代も想いを引き継ぐことで人はここまでの生活を豊かにしてきたのだから間違いではない。


「そうだな。普通は死んだらそこで考えることも出来なくなるし終わりだろう。亡くなった人の想いを引き継ぐのは生きてる人の役目だよ。だから俺達は亡くなった人の分まで前を向いて生きていく必要があるんだ」


 サリスがなにかを思い出したようで俺を見つめる。


「そうだったわね。すっかり忘れてたけどその言葉をベックから聞くのは2回目だったわ」

「あれ?言ったことあったっけ」

「5歳の時よ。母さんが病気で亡くなって落ち込んでいた私をそういって励ましてくれたのよ」


 昔のことで記憶があやふやだが確かにそんな事を言った覚えがある。


「悪いなサリス。小さい頃の話だから俺忘れちゃってたかもしれない」

「いいのよ」


 時計を確認すると6時50分を過ぎていた。


「そろそろ時間だし用事を済ませてこよう」


 オルとサリスがうなずいて、俺達はそれぞれ分かれて行動することにした。


 俺は大通りを歩いて西部都市タハカの冒険者ギルドを訪れた。

 朝一番で多くの冒険者で賑わっている。


 俺は冒険者証を提示して職員に話をすると会議室に通された。

 あまり時間を置かずに代表のギウガが部屋に入ってくる。


「お久しぶりです」

「よく来てくれたな」


 そういって代表のギウガが笑顔を見せる。


「今朝、タハカに寄港しまして挨拶にお伺いしました」

「復興の状況も見にきたんだね」

「はい、自分達も関わりましたし」

「完全に元通りとはいかないがかなり復興は進んだよ」

「魔獣の襲撃はあれからありましたか?」

「見張りの冒険者をまだ立ててはいるが襲撃はあれ以来発生してないよ。あと一月ほど様子を見て問題なければ見張りを立てるのを止めようという話も出ているくらいさ」

「そうでしたか、良かったです」


 俺が安堵した表情を見せると代表のギウガが俺達の旅について尋ねてきた。


「トウキに行くと言っていたがヒノクスはいろいろ見てまわれたかな」

「実は乗合水車を利用することが出来まして、ガイシュ迷宮と首都イジュフまで行ってきました」

「ほう。精霊峰イジュフ山を見てきたのか。立派だったろう」

「ギウガさんも行ったことがあるんですか?」

「若い頃、ガイシュ迷宮で修行していた時に仲間と首都まで行ったことがあるんだよ」

「そうでしたか」

「しかし一月の間に移動できるとは乗合水車の話は聞いていたがなかなかの性能のようだな」

「トウキから首都までの街道沿いの街や村では存在が認知されていましたね」

「そうなると今後のことも考えてタハカの乗合馬車の組合でも乗合水車を導入してくれると助かるな」


 代表のギウガは腕を組んで考え込むので、俺は乗合水車を開発したサラガナル馬車工房の話をしておいた。

 その話を聞いて代表のギウガがメモを取っている。

 その後情報交換をしばらくしていると代表のギウガがいつまでタハカに滞在するのか尋ねてきた。


「年内にはドルドスに戻らなければいけないので、準備が出来たら昼頃出港しようと思っています」

「それは慌しいな。また来ることがあればいつでも寄ってくれたまえ。君達ならいつでも歓迎するよ」

「はい、ありがとうございます。そろそろ時間なので失礼させていただきます」


 俺は立ち上がり代表のギウガに深くお辞儀をしてから冒険者ギルドを出る。


 大通りを歩いて港湾地区の桟橋に戻ると先に戻っていたサリスが後部デッキにシートを敷いて料理を作っていた。


「ただいま」

「早かったわね」

「冒険者ギルドの話では魔獣の襲撃もあれから無いという話を聞けたよ」

「じゃあ必要以上に海上で注意することはなさそうね」

「そうだな。ところでオルとアミは?」

「二人には先に船室で仮眠を取ってもらってるわ」

「じゃあもう出港できるな」

「これが出来てから出港しましょ」


 煮込んでいる鍋を見るとお粥を作ってるらしい。


「美味しそうだな」

「愛情を込めてるから当然でしょ」


 サリスが冗談をいいながらかわいく笑う。

 俺はお粥が出来るまでサリスの手際を横で見ているとサリスが小さな声で呟いた。


「亡くなった母さんも料理が上手だったんだって」

「ファキタ義父様もそんなことを言ってたね。サリスの料理が美味しいのは亡くなったラキス義母様のおかげかな」

「ベックは生前の母さんを知ってるわよね」

「道場や教会にサリスを迎えに来てたから見たことあるよ、サリスと同じ赤毛で綺麗な人だったよな」

「うん、綺麗なだけじゃなくてとっても優しかったのよ。亡くなった時は凄く悲しかったわ…」

「そっか」

「病気で痩せ細っていく姿で幼い私のことを最後まで案じてくれていたそうよ」

「…」

「母さんが亡くなったあと道場で一人で泣いてる私にベックが今朝話してくれたことを言って励ましてくれたの」

「想いを引き継ぐか…」

「私が想いを引き継いでいる限り、私の中で母さんは生き続けているんだってね」

「サリスはどんな想いを引き継いだのかな」

「母さんを安心させてあげれるように父さんみたいに強くなって幸せな家庭を持つことよ」

「サリスの夢の原点はそこなんだな」

「ええ、そしてあの時優しく接してくれたベックの事を好きになったのよね」


 料理を作りながらサリスが顔を紅くしながらうつむいた。

 そんなことが好きになったきっかけだったんだとはじめて知った俺もつられて顔を紅くしてしまった。


「旅好きで優しいだけの俺についてきてくれてありがとな」

「頼りしてるわ」


 そういってくれるサリスに俺は感謝したが、そうなると道場での出来事をサリスだけ覚えていて俺が忘れていることは決まりが悪い。

 一所懸命思い出そうとしたが、やはり9年も前の記憶でうまく思い出せなかった。


 ふと『観測者オブザーバーλ567913』はどうだろうと思いついた。


【履歴】を使ってみると


観測者オブザーバーλ567913 動作履歴ログ 【検索サーチ】』


 と表示が浮かび上がる。


 俺は"ベック5歳の時の道場でラキスが亡くなったあと悲しんでいるサリスとした会話"と念じながら【検索サーチ】を実行すると脳裏に鮮明なイメージが複数送り込まれてきた。

 一瞬立ち眩みをしてしまった。

 しかしサリスとの会話を思い出すことが出来た。


 たしかに道場の隅で顔をクシャクシャにして鼻水と涙を流しながら泣いている赤毛の女の子がいた。

 俺はハンカチを渡してから話しかけている。

 転生前の親父とお袋の葬式で親が無くなる辛さを知っていた俺は、悲しんでる女の子の気持ちが痛いほどわかったので優しく話しかけたんだった。

 俺は落ち着くまで隣に黙って座り続けている。

 そこに師範がやってきて女の子を連れて行った。


(そうか親の無くなる辛さを俺が知っていたからサリスに優しくしたんだったな)


 俺は思い出した記憶をサリスに話してあげる。


「ようやく思い出したよ。たしかハンカチを渡してから話したんだな」

「思い出したのね」

「少しだけだよ」

「それでも嬉しいわ」


 微笑むサリスが愛しい。


 俺はサリスをもっと幸せにするために何が出来るか考えるが、やはり自分の力を発揮できるのは旅しかない。

 旅行記を書いて稼ぎが安定すればサリスも喜ぶだろうし、俺は旅が出来て喜ぶから一石二鳥だ。

 そういえば新しい調理法や食材が手に入ればサリスはさらに喜ぶから一石三鳥だ。


 俺は拳を握って旅をもっと頑張るぞと気合いをいれた。


2015/06/05 誤字修正

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