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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ドルドス帰国編】
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6-5 小雨

 竜暦6561年9月8日


 小雨が降っている天気だったがアミのもうすぐ止むという言葉と、それほど波が荒れていなかったので俺達は港湾都市トウキを昼12時に出港した。

 予定では西部都市タハカに明日の朝着く予定だ。


 港を出てすぐにオルとアミは仮眠をとるために船室に入っていった。


 サリスに操舵輪を握ってもらい俺は全天候型レインコートとガードマスクをしてデッキに出て警戒にあたることにした。

 西部都市タハカのスキュラ襲撃事件から既に一月たっているのでもう平気だと思うが注意をするにこしたことはない。


 しかしここで問題になったのが後部のデッキの狭さである。

 動力車を載せたためにかなり狭くなってしまった。

 もともと4m四方ほどあったのだが中央部分の幅1m横2mほどのスペースが動力車用の収納スペースとして占有されていた。


 壁のように左右を分断しているので広く見通す為には最後部あたりに立つ必要がある。

 救いとしては落ちないようにするためのフック等を引っ掛ける手すりが収納スペースに多く取り付けられているので、俺はそこにロープを結びつけて自分の体と支えることにした。


(これ以外の場所は考えられないししょうがないな…)


 俺はそんな事を考えながら海を眺めていた。

 2時間ほど経ったところで小雨が止んで雲の隙間から晴れ間が見えてきた。

 波もそれほど高くないので、このまま順調に進めそうだ。


 後部デッキで見張りをしているが特に襲ってくる魔獣もいないのでかなり暇だった。


 とりあえず海で魔獣に遭遇した場合の対処をいろいろと考えていたが、やはり銛か遠隔武器くらいしか思いつかない。

 破砕粘土が使えれば便利なのだが水の中では紐の火が消えてしまう。


 うろ覚えだが転生前の花火は水の中でも燃えるものがあったはずだが、この世界でそういう火薬を作るのは大変だろうと思いあきらめた。

 雲間から少し顔をだす青い空と波しぶきがあがる海をみながら、あることを思いついた。


 破砕粘土の紐に火をつけてから箱にしまい投げつければいいんだと思いついた。

 先日のガバナンスライムの胴体に取り込んでくる攻撃にも対応できる。


 問題は投げつけるのに失敗した場合だ。

 下手をすれば味方を巻き込む恐れもある。


 うーんと悩むが良いアイデアを出てこない。

 やはり破砕粘土を箱にいれるのは駄目だなとあきらめた。


 地道に戦うしかないなと思いなおし、また海上の見張りに集中する。


 しばらく海上を眺めていたが集中力が途切れてきたので一旦操船室に戻ることにした。


「ご苦労様」

「さすがに変化がないと見張りは辛いな」

「一人だしね。私もここでずっと一人だったから寂しかったわ」

「馬車の時は隣で見張りが出来だから良かったんだがなー」


 俺は水筒から水をコップに注いでサリスに渡す。


「ありがと」


 サリスが喉を潤したあと、俺も水をコップに注いでぐいっと飲み干す。


「そろそろ交代しようか」

「そうね」

「適当に交代しないと集中力が維持できないしな」

「それが問題なのよね」


 操船を交代して俺が操舵輪を持つ。

 サリスは操船室に備え付けられた椅子に座って体をほぐしはじめた。


「タハカではギルドに寄っていくの?」

「あんなことがあったばかりだし、称号も貰っておいて素通りは出来ないだろう」

「そうよね」


 少し物憂げな表情をサリスが見せる。

 あの死体置き場の光景を思い出したのだろう。

 俺もあの広場の光景を思い出して少し眉をひそめた。

 それでも知らぬ存ぜぬとはいかない。


「冒険者ギルドには俺が行ってくるよ。アミは船で留守番、サリスは食材調達、オルは魔石調達をしてもらおう」

「用事が済んだらすぐに出発するのね」

「復興途中のタハカでのんびりは過ごせないだろ」


 こちらを見つめるサリスが無言で首を縦に小さく振る。


 しばらく進んだところで魔力切れの合図が鳴ったのでサリスが操船室にある器具の井戸用水魔石を新しいものと取り替えてくれた。

 時間を見ると16時だ。


「操船を交代してくれないかな。後部デッキで後ろを確認してくるよ」

「もうあれから一月以上経つし平気じゃないかしら?」

「どうだろうな」


 前方の曇り空の広がる海を見ながら俺は思案する。

 Sランクのジュエンウーのもたらす影響がどの程度が分からないのでやはり心配だ。


「心配しすぎても先が持たないわよ」

「とりあえずシャイハまでは俺だけでも警戒しておくよ」

「心配性なのね」


 Sランクを目撃してなければ俺もここまで心配をしないのだがサリスに説明するわけにもいかないので笑って誤魔化した。

 操舵輪をサリスに渡して後部デッキに出ようとする俺にサリスが話しかけてきた。


「そういえば船が進んでるときに襲ってくる海の魔獣っていないわね」

「まだ出会ってないだけじゃないかな。外洋にいる大きな魔獣は襲ってくるって話だし」

「それって船の大きさも関係しているのかしら」

「確かに大きさも関係してるかもな。小型船と言ってもこの船の場合全長10mほどあるだろ。しかも高速で移動してるとなると襲ってくるのは限られるよ」

「その話だと襲ってくるのはCランク以上の魔獣ってことになるのかしら」

「うん。沿岸部にいる小型の魔獣じゃ移動中は襲ってこないだろうな。それに中型でも大人しいDランクは除外していいから。サリスの言うとおりだな」


 そこまで言うとサリスが操舵輪を持ちながら後ろを振り向いて俺を見つめる。


「Cランクが沿岸部をうろついてる事はめったにないんだし平気ね」


 そういいながらニッコリ笑う。

 どうしてもここにいて欲しいらしい。

 しかしサリスとの話で航海中のこの小型船を襲う魔獣が限られてくるのは確かだ。

 少し悩んだが操船室から外を警戒することで妥協することにした。

 サリスが喜ぶ。


 俺は操船室の窓から曇り空と波飛沫の見える海を眺め警戒にあたる。


 しばらくして時計を確認すると17時を過ぎていた。

 出港して5時間ほど経っている。

 俺は【地図】を使って現在地を確認したが西部都市タハカまであと三分の二ほどの距離が残っているのが分かる。

 順調に進めばあと10時間で西部都市タハカに着くことになる。


(到着は3時か4時だな)


 あまりに早く着いても店が開いてないと待つことになるし速度調整したほうがよさそうだなと思った俺はサリスに話しかけて操船を交代する。

 速度を少し落として西に向かって海岸線を進んでいくとサリスが話しかけてきた。


「そろそろ夕食の準備をするわね」

「もうそんな時間なんだな」

「18時にもうすぐなるわね。ついでにオルとアミを起こしてくるわ」


 そういってサリスが船室に入っていき、しばらくすると眠そうに目を擦ったアミが船室から出て船倉に向かった。

 オルも船室から出てくる。


「かなり進んだみたいだね」

「ああ、陽が沈んだら操船お願いするよ」

「了解」


 船倉からアミが出てくると入れ替わりにオルが船倉に向かった。

 トイレは本当に大人気である。


「ゆっくり寝れたかな?」

「まだ眠いです」

「あーー、久々の船じゃ寝つきも悪くなっちゃうか」

「寝るならベッドがいいです」

「タハカの次のシャイハで一泊したほうが良さそうだな」

「わーい」


 アミが喜んでいるとオルが船倉から出てきた。


「アミさん、いいことあったんですか?」

「シャイハで宿に泊まるですー」

「久々の船旅だしタハカの次のシャイハで宿に泊まろうって話をしたんだよ」

「そうだったんですね」

「そういえばさっきサリスと話をしていたんだけどタハカに到着したらオルには井戸用水魔石調達、アミには船の警護をお願いしたいけど問題ないかな?」

「わたしも平気ですー」

「僕は問題ないですけどベックとサリスさんは?」

「俺は冒険者ギルドへ挨拶、サリスは食材調達に行ってもらうつもりだよ」

「なるほど」


 オルが納得する顔を見せた。


「じゃあタハカについたらお願いするよ」


 そこまで話をしたところでサリスが食事が出来たと二人を呼びに来たのでオルとアミが船室に入っていく。


 開けられた船室の扉から美味しそうな食事の香りが漂ってくる。


 今日の夕食は出港前に作った味噌汁を温めなおして焼いた餅を入れた味噌仕立ての簡単な雑煮だ。

 俺のリクエストなのだが船上でも作りやすいのでサリスも特に反対することもなくリクエストを受け入れてくれた。


 俺は雑煮を想像して頬を緩ませながら操舵輪を持って海上を進んでいくのだった。



2015/06/05 誤字修正

2015/06/15 会話修正

2015/06/05 表現修正

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