5-50 ギガテグレ
竜暦6561年9月2日
朝食後の薬草茶を飲みながら俺はオルとアミにサングラスとマスクを渡した。
「おー、かっこいいです!」
そういってアミがすぐにサングラスをかける。
ゴーグルタイプのサングラスは威圧感のあるタイプなのだがアミがかけると不思議と似合ってしまう。
かわいいって得だなと俺は思った。
「ようやく見つかったんですね」
「見つかったというより、無理矢理作ったというのが正解かしら」
「え?」
サリスの言葉にオルが首をかしげるので俺が説明する。
「装備工房に売っていたガードマスクを分割してもらったんだよ。切り離すだけの加工だったからかなり安かったし」
「なるほど、この目の保護部分とマスクの部分は元々ひとつだったんですね」
「うん。これで状況によって使い分けできるから便利になったよ」
「たしかにそうですね」
本来は昨夜アミとオルにサングラスとマスクを渡せば良かったのだが、夕食を別々に取っていたので今日渡すことにしたのだ。
二人にも好評で俺は安心した。
サングラスとマスクの装着感を確かめたオルが一息つけると井戸用水魔石の状況を報告してくれた。
「昨日魔石工房に行ったところ井戸用水魔石を39個入手できました。これで合計153個ですね」
「いい感じで集まってるわね」
「ええ、このペースだとあと2日あれば必要な数を確保できます」
「そうするとやはり出発は9月4日になりそうだな」
「今回も途中泊まらずにトウキに行くです?」
アミの問いに俺は旅行準備メモを取り出して確認してから話をする。
「渓流都市ワッラカで一晩宿をとろうと思ってるよ。なのでアミとオルは仮眠なしだな」
「無理をしないで進むんですね」
「うん。どうせ2日はかかる行程だからね。仮眠するのも大変だろうし今回は途中泊まろう」
三人がうなずく。
席を立った俺達は冒険者ギルドに赴き、いつもの手順を踏んで昼過ぎにDランク魔獣のいる広間に続く通路に到着した。
昔の冒険者が壁に書いた魔獣の名前を探すと、サリスが見つけた。
「ギガテグレって書いてるわね。テグレってあのフォレストテグレに近いのかしら」
「どうだろうな」
俺はいつものようにヒノクスの魔獣図鑑を取り出してギガテグレのページを開くと、覗き込んだオルが話しかける。
「テグレで間違いないですけど、かなり大きいようですね」
「そうなるとかなり素早いです」
「粘着玉と高強度ロープどっちがいいかな」
「どうせ素早く動き回るようなら、粘着玉の罠を設置してそこにギガテグレを追い込むように誘導したらどうかしら」
「いい案だな」
俺はサリスの提案を受け入れた。
ギガテグレの体重を支えるこの足裏なら粘着玉を踏めば確実に潰れるだろう。
「まずはアミとサリスでギガテグレの注意を引いてオルは弓で二人の援護してくれ。おれはその間に広間の右手前の壁際に粘着玉をばら撒いておくよ」
「右手前には近づかないようにすればいいのね」
「ああ」
「わかったです」
「あとは罠にかかったら頭部を破砕粘土付きの矢を使って吹き飛ばそう」
「了解」
俺達は作戦が固まったところで、広間に向かって進みはじめた。
しばらく通路を進むと広間が見えてきた。
広間の中央のギガテグレがうろうろしている。
(【分析】【情報】)
<<ラビリンス・ギガテグレ>>→魔獣:パッシブ:火属
Dランク
HP 387/387
筋力 4
耐久 4
知性 4
精神 1
敏捷 8
器用 4
(やはり敏捷が高いな)
ギガテグレは地面から頭までの高さが2mほどある。
以前戦ったカンジャゴウより一回り小さい感じがするがそれでも、その巨体と鋭い爪と大きな口から伸びる牙が脅威であることはひと目でわかった。
アミが《ガード》《ライト・スティング》《レフト・スティング》と簡易スペルを唱えて戦う準備を整える。
パイルシールドガントレットの盾部分を徐々に高熱化してきた。
サリスも《ガード》《ヒート》と簡易スペルを唱える。
アミと同様にフレイムストームソードとフレイムスパイクシールドが徐々に高熱化していく。
二人が合図をしてアミが先頭でギガテグレに向かって駆け出した。
ギガテグレがアミに気付いて身構える。
俺は広間に入ると右手前に粘着玉をばら撒いたあと、チェーンハンドボウを構えて援護に向かう。
アミが両手の盾でギガテグレの右前足の薙ぎ払いを受け止めると、その衝撃で少し後ずさる。
オルが援護で頭部に向けて次々と矢を放つが、激しく左右に動き回るせいで3本放って1本当たるかどうかという感じであった。
サリスも状況を見ながら後ろ足を斬りつけようとするが、さすがに浅い傷を負わせるだけになっていた。
俺は三人に近寄って合図を出す。
「準備完了!」
俺達はギガテグレを包囲する感じで距離を取る。
案の定ギガテグレは俺達の包囲を避けようと手薄な広間の右手前の壁際に逃げ込もうとした。
広間の右手前に移動したギガテグレの足元でばら撒いた粘着玉が次々と潰されて破裂する。
よく見るとギガテグレの足の裏から粘着物質が伸びているのが見えた。
オルが罠にかかったギガテグレの頭部に破砕粘土付きの矢を放つと、俺はすかさずマルチロッドを構えて《バースト》と呟く。
ギガテグレの眉間の辺りで大きな爆発が起こり、ギガテグレが倒れ込む。
鼻から上顎の部分が吹き飛んでいるのがわかった。
かなりのダメージだ。
俺はチェーンハンドボウで至近距離から傷口に向けてスパイクを次々と撃ち込み、オルも同じようにコンポジットボウで矢を放っていく。
オルの放った矢が右の眼球に深々と突き刺さったあとギガテグレが動きを止めた。
(【分析】【情報】)
<<ラビリンス・ギガテグレ>>→魔獣:パッシブ:火属
Dランク
HP 0/387
筋力 4
耐久 4
知性 4
精神 1
敏捷 8
器用 4
(なんとか倒したようだな)
俺はギガテグレの死体に近づいて、残っていた潰れていない粘着玉を拾いはじめた。
近寄ってきたサリスが同じように粘着玉を拾いながら唸る。
「粘着玉の罠は予想以上に使えるわね」
「難点は止めが遠隔武器に頼ることになる点かな」
「他にも水棲の魔獣だと効果は薄いですよね?」
同じく粘着玉を拾い始めたオルが指摘する。
「そうだな。水に濡れると粘着力が弱くなるから沼や水辺、あと雨なんか降ってるときは使えないな」
「でも戦いのはばは広がるです」
「うん。今後クランとして活動する際にいろいろと戦いの幅が広がれば安全な戦いが出来るだろうし良いことだと思うよ」
俺がそういうとサリスが昨日のレッサーアラクネでも粘着玉の罠が有効かどうか尋ねてきた。
「うーん、8本ある脚の先端が尖っていたしギガテグレほど地面に設置する部分が広くなかったから、あまり有効じゃなかったかもな」
オルも俺の意見に同調する。
「もともと粘着物質の糸を出す魔獣ですから、効果は高くなかった可能性がありますね」
「魔獣によっても変わってくるってことなのね」
「スィクロプにはきくですー」
「アミの言うようにスィクロプみたいなタイプは今回のトラップが有効だろうな」
四人で手分けして粘着玉を拾い集めたあと、魔石を回収してから転移石でガイシュ迷宮の外にでる。
ガイシュ迷宮都市の冒険者ギルドの中庭の受付で手続きを済ませてから、魔石工房に井戸用水魔石を購入しにいくオルとアミ、雑貨屋に粘着玉を補充しにいく俺とサリスの二手に分かれる。
(粘着玉のレシピも知りたいな)
俺は今後の旅を考えてパムに戻っても粘着玉を用意できるようにしたいなと思い旅行準備メモに歩きながら記入する。
雑貨屋で製造方法が聞けないかなと、そんな期待を込めながら大通りをサリスと二人で歩いていく。
2015/05/29 誤字修正
2015/05/29 表現修正




