5-48 ギガリビングデッド
竜暦6561年8月31日
朝6時に大河都市キワガを出発した俺達は昼の13時20分にガイシュ迷宮都市に到着した。
馬屋で動力車付き馬車を預けてから宿の手続きを行う。
部屋に荷物を置くと四人は受付前に集合した。
「14時だな。なんとか迷宮挑戦できそうだけどいいかな?」
「大丈夫ですー」
「こっちも平気だよ」
「体が鈍ってるしちょっと動かしたわよね」
「じゃあ、手早く終わらせようか」
3人が大きくうなずく。
俺達は宿を出て冒険者ギルドに行くと俺は売店で消耗品の購入を行い、他の三人は掲示板を確認しにいく。
破砕粘土、光玉、煙玉、治癒玉を購入した俺は三人のいる掲示板に向かう。
「確認平気かな?」
「うん。メモしたから問題ないよ」
「中に入るですー」
「さっさと終わらせて宿に戻りましょ」
中庭に移動すると受付で迷宮に入る手続きを終わらせてから祠に向かう。
俺の合図で光る床の上にのってガイシュ迷宮の中に転送すると、手際よくFランク、Eランクの魔獣を倒しDランクのいる通路にやってきた。
周囲の壁を調べてここのDランクの魔獣の名前を探す。
壁に書いてある魔獣の名前を見つけたサリスが唸った。
「最悪だわ…」
「ん?危険な魔獣?」
サリスが黙って壁を指差す。
『ギガリビングデッド→』
俺とアミが固まるのを見てオルが微妙な顔をする。
「どうしたんですか?」
「オルはリビングデッドを知らないのか…」
「名前は聞いたことありますけど戦ったことはないですね」
「で、でも臭いとは限らないです!」
俺はヒノクスの魔獣図鑑を取り出してギガリビングデッドのページを確認してから眉をひそめてページの記述を指差す。
オルがその記述を確認する。
「補足が書いてますけど…、ギガの悪臭は要注意となってますね…」
「帰りましょうか」
「帰るですー」
アミが転移石を投げようとするとで俺はその手を止めた。
「修行だよ。修行。臭いから戦わないなんてのは実戦じゃ選べないだろ」
「「うーーー」」
サリスとアミが同時に唸る。
「以前戦ったときによほど臭かったんですね」
「ああ」
俺はそう返事をすると全天候型レインコートとガードマスクを装備する。
サリスとアミも同じように全天候型レインコートとガードマスクを装備してから覚悟を決める。
オルも同じように全天候型レインコートとガードマスクを装備をするがリングデッドと初めて戦うのでまだ臭さの実感がないようだ。
「破砕粘土付きの矢を使います?」
オルがそう聞いてくるとサリスとアミが首を横に何度も振る。
あの腐敗臭を放つ泥が飛び散って頭からかぶるのが嫌だということだろう。
その姿をみて可哀相になったので、今回は破砕粘土を使わないことにした。
「ガードマスクもあるし今回はかなり臭いに対応できると思う。とりあえず破砕粘土を使わずに火矢を中心にして焼いていく方向で戦おう」
「火が着けばいいですね」
「やってみるしかないかな」
「了解」
「あとは動きが鈍いと思うからサリスとアミは近づかないようにしようか。俺とオルの援護を頼むよ」
サリスとアミが首を縦に何度も振る。
やはり臭いが抑えられていても近づきたくないのだろう。
ある程度方針が決まったところで俺達は広間を目指して進む。
広間が近づくほど、かすかに悪臭がしてくる。
ガードマスクをしているのに、それでも臭うということはガードマスクを外したら倒れるくらい臭いのかもしれない。
ほどなくして広間にたたずむ中型魔獣の姿が見えた。
(【分析】【情報】)
<<ラビリンス・ギガリビングデッド>>→魔獣:パッシブ:闇属
Dランク
HP 454/454
筋力 4
耐久 4
知性 2
精神 2
敏捷 2
器用 2
(臭いの大元か…)
ステータスを見る限り強い魔獣ではなさそうだ。
しかしこの臭さは強烈である。
姿は以前戦ったギガロックパペットに近く、ずんぐりとした胴体から太い腕が二本生えていて胴体がそのまま地面に接しているのまで同じだ。
背の高さは3m近くあり、脅威になる攻撃もギガロックパペットと同じで真上から太い腕を叩きつけてくるやつだろう。
オルが火をつけた矢をコンポジットボウでギガリビングデッドの頭部に向けて次々と放つ。
突き刺さった箇所が燃え始めた。
どうやらあの腐敗臭を放つ泥は火に弱いらしい。
ギガリビングデッドが攻撃を受けて腕を振り回し始めた。
オルは火矢で頭部を、俺はチェーンハンドボウで胴体や腕を狙う。
しかし泥状の体に対して矢とスパイクでは分が悪い。
とりあえず火で頭部を焼いてはいるがギガリビングデッドの腕を振るう威力が変わらないのを見る限りさほどダメージを与えていないようである。
じわじわとせまってくるギガリビングデッドを避けながら部屋を壁沿いを移動して攻撃を続けるがジリジリと状況が悪化していくのが分かる。
さすがに追いこまれてきたせいで、サリスとアミも最終的な覚悟を決めたようだ。
「破砕粘土を使うしかないわね」
「使うです!」
二人の提案を受けて俺はマルチロッドを取り出し、オルは破砕粘土付きの矢を取り出す。
「まずは火の着いている頭部だな。つぎに胴体を頼む」
オルがうなずき、頭部に向けて破砕粘土付きの矢を放つとしばらくして爆音と共に頭部が大きく弾け跳び、辺りに腐敗臭を放つ泥を撒き散らす。
アミとサリスは盾で飛び散る泥を頭から被るのを防いでいる姿が見える。
頭部が大きくえぐれたギガリビングデッドがよろめいたのを見て、オルが破砕粘土付きの矢をおなかの辺りに放った。
深々と突き刺さるのを見て俺は《バースト》と呟き火の玉を放つ。
火の玉が破砕粘土に触れた瞬間、大きな爆音と共に下半身がえぐれて巨体を支えきれなくなったギガリビングデッドが倒れ込む。
アミとサリスが近寄ってバタバタと動かす太い腕を攻撃していく。
二人の攻撃で腕の泥が次々にえぐられていく。
ギガリビングデッドの胴体の泥がえぐれた箇所を穴埋めしようと動いてくるが穴埋めする速さより、えぐる早さのほうが早い。
徐々に徐々に胴体が萎んでいく。
頭のえぐれた箇所にチェーンハンドボウでスパイク撃ち込むと硬い物にあたる音がする。
かすかにだが魔石を包んだ殻が見えたので、俺はそこに至近距離からスパイク撃ち込むと殻が割れて中から魔石が転がり落ちた。
それと同時にギガリビングデッドの動きが止まる。
俺達はどうにかギガリビングデッドを倒すことに成功した。
魔石を回収してから自分達の姿を確認したが全員腐敗臭のする泥まみれになっていた。
俺達はいったん通路に戻って清浄送風棒で綺麗に泥を除去していく。
「やはりやっかいな相手ね」
「ガードマスクをしていても臭うなんて凄いですね」
「今このマスクを外したら悪臭に耐え切れずに倒れるんだろうな…」
「いやですーーー」
綺麗に除去しおえた俺達は転移石を使って外にでた。
もう夜空が出ている時間だ。
時間を確認すると20時である。
俺達は悪臭が残っていないかが心配で恐る恐るガードマスクを外した。
かすかにだが、まだ臭いが残っている。
「取りきれない臭いがついてるな…」
「湯屋にいきましょうか」
「いくです!」
「そうね。このままじゃ寝れないわ」
俺達四人はガイシュ迷宮都市の夜の大通りを早足で湯屋に向かうのであった。
2015/05/29 表現修正




