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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ヒノクス旅行編】
158/192

5-46 高強度ロープ

 竜暦6561年8月29日


 雨音が聞こえる中、オルの声で俺とサリスは起きた。


 どうやら街道脇に動力車付き馬車を止めているらしい。

 時間を見ると朝6時だった。


 眠い目をこすりながら俺は状況を確認した。


「おはよう。なにか変わったことはあった?」

「夜1匹のサングリエが襲ってきたけど撃退しておいたよ」


 そういってオルが肉を包んだ布を渡してきた。

 サリスがそれを見て喜ぶ。


「じゃあ朝食を作るわね。雨がまだ降ってるから馬車の中で作るからベックとオルは外で見張りをお願いするわ」

「アミはどうする?」

「アミには手伝ってもらおうかしら」


 俺とオルはレインコートを羽織って馬車から降りると、御者台で見張りをしていたアミに馬車の中に入るように伝えた。


「はいですー」


 食事が楽しみなようで、そそくさと馬車の中に入っていった。


「夜間でしかも雨となると進めるのは大変だったな」

「夜間、雨の中の森での狩猟を比べればそうでもなかったよ」

「オルもアミもタフだな」

「小さい頃からそうした暮らしをしてきたからね」

「どんな獲物を追っていたか興味があるな」

「普通のEランクやFランクの魔獣だよ。10歳になってからはノークテュアやメガプテラ、あとはフォレストテグレを父と狩猟することが多かったかな」


 俺はその名前の魔獣を思い返す。

 前半の2匹は夜間襲ってくる鳥の魔獣だ。

 フォレストテグレは森に生息する毛の長い猫型の魔獣だ。

 隠密性の高い魔獣たちばかりである。


「もしかしてアミと同じで10歳になる前から狩猟に出ていたのかな?」

「うん、物心ついたときは、もうFランクの魔獣と戦っていたよ」

「そういえば4年前に訪れた犬人族の里の長と話をしたときに一緒にいた孫の子も5歳か6歳で既に狩猟してるとか言ってたな」

「亜人族は加護もあるからね、人族と違って早くから戦うことを覚えるんだろうね」

「そう考えると大変な経験は多くしてきたんだな」

「そうだねー」


 俺とオルが話をしながらあたりを警戒していると馬車の中から食事が出来たというアミの声が聞こえた。


「先にベックが食べてきていいよ」

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうね」


 馬車の中に入るとサングリエの肉と野菜を塩コショウで炒めただけのシンプルな料理が置かれていた。

 サリスが俺にライスペーパーを渡してくる。


「これで包んで食べてね」

「美味しそうだな」

「おにふがおいひしいでふ」


 先に食べているアミが口いっぱいに頬張ったまま嬉しそうにしゃべる。

 思わず俺とサリスが笑ってしまった。


 笑い終えたところで俺も同じように炒めた肉と野菜をライスペーパーに包んで頬張ったが確かに美味しい。

 シンプルだが肉の美味しさをダイレクトに感じることが出来る。

 肉を堪能した俺はオルと外の見張りを交代する。


 ほどなくしてレインコートを羽織ったサリスが馬車から出てきた。


「片付けは平気?」

「アミに任せてきたわ。あまり止まっているわけにもいかないし」

「それじゃあ、早速出発しようか」


 俺は御者台に座り手綱を持って、動力車付き馬車を動かし始めた。

 隣にすわったサリスが口を開く。


「さっきアミが言ってたけど、もうすぐ雨が止むかもですって」

「それはありがたいな」

「そうね」


 俺は【地図】を使って宙に地図を表示させた。


(さっき休憩したのはシカオ村の東か。俺とサリスが休んでる間にラウゴタ、ユヒシ、イミ、シカオを通り過ぎたんだな)


 雨を降る街道を2時間ほど進んだところで前方に大きな街が見えてきた。

 時間を見ると8時半である。


「ラハノに着いたようだね。お茶を買ってくる?」

「こないだ買ったのがまだあるし平気よ」

「じゃあ、雨も降ってるしこのまま寄らずに進もう」


 サリスがうなずく。

 緑茶都市ラハノの街中を通り過ぎると俺達は東門からまた街道に出た。

 丘一面のお茶畑が雨の雫で濡れているのが見える。

 俺達は街道を東に進むと、徐々に雨が小降りになってきた。


 ほどなくして西のほうの雲間が明るくなっていく。


 次のワカ村が見えてきた頃には空は晴れ渡っている。

 時間をみると10時50分だった。


「結構すすんだわね」

「そうだね、今日中にママハに辿り着ければ予定通りかな」

「もうロープは出来ている頃よね」

「うん」

「そうなると今日はママハで泊まるのかしら」

「時間次第かな。サカラ工房が閉まっていたら泊まるつもりだよ。もし開いててロープを受け取れるならそのまま出発しようと思ってるけどね」

「わかったわ」


 ワカ村を通り過ぎて街道を進むとホブゴブリンと戦った林の近くにきた。


「行きはここでゴブリンと戦ったなー」

「注意が必要ね」

「もう大丈夫じゃないかな。あのとき30匹以上倒してるし」

「そうだけど万が一があるかもしれないし注意はしないとね」


 サリスが周囲を警戒するが、特に何も起こらずその場を通り過ぎた。


 ほどなくして徐々に緩やかな坂道を上りはじめる。

 ここからは山あいを進む街道だ。


 雨のふった影響もあるのか、さほど日差しが暑くない山あいの街道を進んでいくと前方に山あいの宿場であるイクロ村が見えてきた。


 そのまま通り過ぎて更に東に向かうと、雨の影響でいままですれ違わなかったがここで一台の荷馬車を追い越した。

 更にその先で乗合馬車を追い越した。


「雨の影響でイクロ村で休んでいた馬車が動き始めたようだね」

「そうみたいね」

「ここからなら下り坂になるし、あの馬車たちも今日中には次の村に着けるだろうね」

「えっと、つぎはなんて村だっけ?」

「ウリュテ村だね。そして次がママハだよ」


 サリスが時間を確認する。


「いま14時ね。夕方にはママハに着きそうね」

「うん。この調子だと泊まらずに先に進むことになりそうだな」

「食事はママハで取りましょうか」

「馬車を放置できればいいんだけど、さすがに一人は広場に残る必要性があるんじゃないかな」


 少し思案したサリスがうなずく。


「たしかに大きな街だし残ってる必要があるわね」

「ロープの受取は俺が行ってくるから3人は馬車で待っててくれていいよ」

「待ってる間に食事を作ってればいいから、それでもいいわね。」

「本当はカフェでゆっくりしたいところだけどね」

「しょうがないわよ」

「夕方は何を作る予定かな?」

「簡単なものになっちゃうわね」


 うーんと言いながらサリスが唸る。

 俺はある料理が頭に浮かんだのでサリスにリクエストしてみた。


「ダンゴが残ってればダンゴのビーンスープが食べたいなー」

「それもいいわね」

「手軽に作れるんだっけ」

「手間は関わらないわね。じゃあ今日の夕食はダンゴのビーンスープを作っておくわ」


 俺は雑煮が食べれることを内心喜んだ。

 餅は美味しいから大歓迎だ。

 俺は機嫌よく手綱を握って街道を快調に進んでいく。

 ウリュテ村も通り過ぎて快調に進んでいく。


 雑煮が食べれる嬉しさでちょっとテンションが上がっていた。

 徐々に陽が西の地平線に沈みこうもと近寄っていく。

 あと1時間ほどで陽がくれそうだなと思ったとき、街道の先にママハの街が見えてきた。


 ママハの街が徐々にオレンジ色に染められていく。


「陽が暮れる前についたわね」

「よかったよ」


 俺はサリスに手綱を渡すと降りる準備をする。

 馬車の外壁を3回叩くと、車窓からオルが顔をだす。

 起きていたようだ。


「もうすぐ魔工都市ママハに着くから、交代の準備よろしく」

「了解」

「あと俺はロープを取りにいってくるから馬車の見張りをしててね」

「食事はどうします?」

「サリスが手軽な料理を馬車の中で作ってくれることになってるよ」

「楽しみですーー」


 アミが顔を出して喜ぶ。

 俺とサリスとオルは、アミのテンションの高さについ笑ってしまった。


 魔工都市ママハの広場に到着すると動力車付き馬車を止めて、俺はその間にロープの製作依頼を出したサカラ工房に向かった。

 サカラ工房の扉を開けると作業をしていた男性が俺を見て、手を止めた。


「おお、よくきたな!!」


 また大声だ。

 俺は耳を指差す。


「ああ、わるいわるい!!」


 男性は笑いながら耳栓を外す。


「ロープを受け取りに来ましたがどうでしょうか?」

「問題なく出来てるよ」


 そういうと男性が奥の棚から3本のロープを持ってくる。

 糸を撚り合わせたロープのはずだが銀色の光沢を放っているロープだった。

 おもわず金属かと思ってしまったが、確かに触った感じは普通のロープに近い。


「この銀色に光っているのが強化処理を施した証なんですね」

「うむ。試したところ鉄鎖より強固だったよ」

「おお、それは助かります」

「それが切れる魔獣がいるとすればかなり高いランクの魔獣だろうな。あとはこれが補修術式だ」


 3本の高強度ロープと補修術式の書かれた書類を受け取ると、残りの代金銀貨45枚を手渡した。


「ありがとうございました」


 俺は男性に頭をさげてサカラ工房をあとにした。


 夕暮れ時の魔工都市ママハの大通りを歩いて、俺はみんなの待っている動力車付き馬車に戻る。


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