5-44 石碑の洞窟
竜暦6561年8月27日
宿の厨房が借りることが出来ない俺達は、今日も大通りのカフェテラスで食事をすることにした。
注文した料理は
俺は野菜の揚げ物ソバ。
サリスは野菜の揚げ物膳。
アミとオルは鳥肉ソバ。
である。
やはりヒノクスの料理は俺のハートを鷲掴みにする。
本当に美味しい。
俺は朝から英気を養ったおかげで快調である。
食後にそれぞれ飲み物を飲みながら打ち合わせをする。
「昨日の夕食時にサリスに聞いたが、ほとんど魔獣が出ないって話が本当だったのは驚きだな」
「これからいく石碑が関わってるのかが気になるです」
「でも、そうするとここの冒険者はどうやって生計を立ててるんでしょうね」
「昨日の冒険者ギルドの話だと街道の警備や、馬車の護衛の依頼が多いらしいわね」
「そっち方面で稼いでいるんですね」
「魔獣がいるかぎり、どこでも稼ぐ手段はあるってことだな」
「そうね」
俺は飲み物を飲み干すと席を立つ。
「さてそろそろ行こうか」
三人も立ち上がる。
俺達は首都イジュフの北門を出て石碑のある洞窟目指す。
アミが先頭に立って農道になっている坂道を上っていく。
徐々に陽が高くなっていく。
時間を見ると10時になったところで、ポッカリと岩肌にあいた洞窟を見つけた。
「結構大きな入口ね」
「ここで暮らしていたかもです」
「アミさん、さすがにここに住むには無理があるかもしれないよ」
「中に入れば分かるさ」
俺達は迷宮灯をつけてから中に踏み入る。
内部の岩肌はゴツゴツしている。
以前地底湖を見たときにソックリだ。
おそらく溶岩によって出来た洞窟だろう。
洞窟の通路はかなり広い、
幅は4m、高さも同じく4mほどあるだろう。
地面はそれなりに整地されている。
明らかに人の手が加えられているのが分かる。
竜人族が最初に整地したのか、その後人族が整地したのかは不明だが手が込んでいる。
「すごいです」
「そうね。これだけしっかりしてるとは思ってなかったわ」
「守り神というのも本当のことかもな」
「きっと精霊がいるです」
「アミさんの言うとおり居てもおかしくない雰囲気はあるね」
10分ほど歩くと大きな広間に出た。
広間の中央に高さ2mほどの石柱が置かれている。
俺達は近寄ってみると表面に確かに字が刻まれている。
『眠りし竜英霊、魔を退けん』
確かに宿で教えてもらった言葉が書かれていた。
「こんな石碑があれば確かにあやかりたくなりますね」
「そうだな」
「どのくらい前からあったのかしらね」
「この竜英霊というのが竜人族なら数千年前の石碑ってことになるな」
「それにしては風化してるようには見えませんね」
「ふむ」
(【分析】【情報】)
<<精霊石>>
聖属
魔力 90
耐久 不明/不明
(え!こ、これも精霊石なのか!)
分析して驚いたが、この石碑に使っている石は精霊石だった。
なぜここに精霊石があるのかが不明だ。
しかし竜人族は精霊石をなんらかの形で利用していたことになる。
あと気になるのは魔力は低い。
アミに預けている小さな精霊石は2000だったが、こちらは90しかない。
普通に考えれば消費してしまったと考えるのが妥当だろう。
(精霊石を使う術を竜人族が知っていることになるな。精霊について調査するには竜人族の残した遺跡を探すのが早いのかもな…)
そこまで考えをまとめたところで、俺は三人に地底湖の時と同様に明かりを消してみようと提案した。
「そうですね。精霊と関係するなら反応する箇所があるかもしれませんね」
「はやく消すです!」
「じゃあ早速消しましょ」
四人がそれぞれ迷宮灯を消すと、石碑がぼんやり輝いていた。
しかしそれより驚いたのが、広間の壁が一面が星空のように輝いていたのだ。
俺達は思わず息を飲んだ。
光る壁に近寄ってみると、壁に埋まっている小石が光を放っていた。
(【分析】【情報】)
<<精霊石>>
聖属
魔力 16
耐久 不明/不明
(この小石も精霊石か…。しかし魔力が小さいな。これが壁のあちこちに存在するってことか…)
「すごいです!!光る石がたくさんです!」
「この小さい石はアミさんの持っている石に近いんですかね」
「そうみたいね。あと石碑も同じように光ってるわね」
「光る力が弱いから迷宮灯の明かりじゃ気付かなかったんだろうな」
「もしかしてこの光る石は魔獣を退ける力があるんじゃないですか?」
オルがそう話すとアミがうなずく。
「そう考えると魔獣がすくない理由が納得いくです」
「オルとアミがいうように関係あると思うのが普通よね」
俺は腕組みをして思案する。
精霊石という名前が付いているということは以前の検証を元にすれば、この世界でそういう名をつけた存在が過去にいたことになる。
それが竜人族という可能性が高い。
彼らはその有効性を理解していたことになる。
ふと俺はスタード大陸の沿岸部に住んでいることを思い出した。
(大陸沿岸部の大地は精霊石を多く含んでいるのか?)
そう考えると人族の居住地域が沿岸部に限られることにも納得がいく。
精霊石を含む大地は中型以上の魔獣にとって生きづらい可能性があるのだろう。
俺はそこまで考えてから、三人に話しかける。
「オルの言うことは間違ってないと思うよ。ここは光る石が多く含んだ土地をしているから小型魔獣まで近寄らないんだろうな」
「理由はあるの?」
「まだまだ調べてみる必要があるけど、俺達はなぜスタード大陸沿岸部に住んでるんだろう」
「それは魔獣が少ないからでしょ」
「なんで少ないのかな?」
「それは…」
サリスが言い淀むと、アミが俺の言いたいことに気付いた。
「沿岸部は光る石が多くあるからです?」
「うん。アミのいうようにそう考えれば辻褄があうよ」
「イジュフ山ほど多く含んでないから小型魔獣が出没すると考えられますね」
サリスがここで疑問を持ったようで口を挟んできた。
「退けるというのは少し違うかもよ」
「というと?」
「中型魔獣でもたまに沿岸部に現れるでしょ。それに大陸中央部からの魔獣の侵攻もあるわ。退けるというなら近寄ってすらこないと思うのよ」
「確かにサリスのいうことも一理あるな」
「生きづらいのかもです」
考え込んでいたアミが口を開いた。
「生きづらいですか。そういう考え方も出来ますね」
オルが迷宮灯をつけた。
俺達も同じく迷宮灯をつける。
「これ以上は今の俺達では分からないな。もっといろいろ調べよう」
「そうね」
「今回のことで分かりましたけど、精霊の調査に竜人族の件も絡めたほうが良さそうですね」
「俺もそう思ってたよ。アミとオルで精霊と竜人族の調査を手分けしたほうがいいかもな」
「アミさんはそのまま精霊調査ですね。僕が竜人族を調べますよ」
「オルのこと頼りにしてるですー」
アミがオルに抱きつく。
オルが顔を真っ赤にしているのを見て、俺とサリスが悪いとは思ったのだがついつい笑ってしまった。
俺達は石碑の広間をあとにした。
入口に向けて歩きながら俺は少し考えていた。
(竜英霊って最初に精霊石の存在に気付いた竜人族の人の事かもな…。たしかに英雄扱いされてもおかしくないけど…)
俺は竜人族がなぜ絶えてしまったのかが気にかかった。
いまの文化の基礎を築き、精霊石の有効性まで生活に活用していた事を考えると当然出生率の問題にも時間をかけて取り組んだであろう。
それなのに何故滅んだのか。
亜人族と精霊石とは何か関係があるのかもしれない。
石碑の洞窟から出ると眼下に広がる首都イジュフを眺めながら、俺は頭の中で渦巻くモヤモヤした気持ちを感じる。
(スッキリしないな…)
魔獣と精霊石と亜人族、謎が深まっていくのを感じた俺だが出来ることは旅だけだ。
旅を続けていけば、また新しい発見があるだろう。
アミとオルの為にも旅を頑張ろうと思いながら首都イジュフに向けて俺は歩き出す。
2015/05/24 会話修正




