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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ヒノクス旅行編】
152/192

5-40 ホブゴブリン

 竜暦6561年8月23日


 朝食を食べたあと朝の6時に魔工都市ママハを出発した。


 俺は西の首都に向けて動力車付き馬車の手綱を握って街道を走る。


「明日には首都のイジュフに着きたいな」

「見てまわる場所があればいいわね」

「ドルドスと同じなら国立図書館とか資料館があると思うんだけどね」

「ベックは旅に関連する情報が集めたいのね」

「うーん、それもあるんだけど、いろいろな歴史とかにも興味あるな。それに精霊に関してもなにか分かるかもだし」

「アミとオルの事も忘れてなかったのね」

「まあね。精霊に関しての情報は地方の都市の資料では調査が厳しいと思ってたし今回は良い機会だったよ」

「ドルドスやパラノスの首都にも行ってみたいんでしょ」

「サリスは俺の事をよく理解してるよな」


 俺はそういって前方を見ながら笑った。

 サリスもつられて笑う。


 朝の街道の穏やかな風が優しく頬をなでる。

 日中は照りつける陽の光がきついが、この時間は過ごしやすい。


 草原の街道をしばらく進むと小川沿いにある村が街道の脇に見えてきた。

 宿で聞いたウリュテ村だろう。

 俺はウリュテ村には寄らずに、そのまま街道を西に進む。


 しばらく西に進むと街道の両側に山が迫ってきた。


 勾配はそれほどきつくない坂道に差し掛かると動力車付き馬車の速度が落ちる。


「やはり坂道はきついのね」

「そうだな」


 しばらく緩やかな坂道になっている山あいの街道を進むと小さな村が見えてきた。


 街道は村の中に伸びていたので、そのまま村の中に入ると俺は広場にいた村人に周辺のことを尋ねてみる。

 村人の話ではイクロ村という街道沿いの宿場として成り立っている村らしい。

 たしかに通常の馬車で山あいを進む場合、安全に寝泊りできる宿場は需要がある。


 俺は村人に礼を言ってイクロ村を出ると、さらに西へと動力車付き馬車を進めた。


「ここでもそうだったけど、動力車を見ても驚かないのね」

「サラガナルさんの話だと乗合水車がトウキと首都を往復してるらしいからね。見慣れてるんだと思うよ」

「なるほどね」

「でも動力車の普及はまだまだ先だろうね」

「そうなの?」

「時間はかかるけど乗合馬車や荷馬車の方が値段では圧倒的に安いからね」

「よほど急ぐ用がある場合だけ需要があるってことね」

「うん」


 サリスが考え込むので俺がさらに話を続ける。


「動力車の本体値段が下がって、性能が上がれば状況は変わるかもしれないけどね。まだまだ時間はかかるかな」

「普及させるのって難しいのね」


 しばらく進むと緩やかな下り坂になってきた。

 動力車付き馬車も軽快に進みだす。

 俺は速度が出過ぎないように慎重に手綱を操る。


「ベック、前」


 サリスの言葉で俺は街道の前方を注視すると一頭の馬がこちらに向かって駆けてくる。

 サリスが身構える。


 ほどなくしてすれ違ったが、馬に乗っていた男性が会釈をしてきたのでこちらも会釈した。

 そのまま馬は駆け足で街道を進んでいった。


「珍しいわね、護衛もつけずに早馬で移動するなんて」

「手紙の配送を請け負った冒険者だと思うよ。腰に帯剣していたしね」

「そうだったのね」

「かなり急を要した案件でない限り、手紙の配送は基本馬車で行うけどね。珍しいものが見れて良かったね」

「一人で請け負うってことは、あの冒険者はDランク以上なのかしら」

「普通に考えればそうかな」


 早馬の男性とすれ違ってから1時間ほど進むと、ようやく山あいを抜け出し平地の街道に辿りついた。

 時計を見ると13時を過ぎたところだ。

 今日は陽射しが強いのか、かなり暑い。

 俺とサリスは、ここで全天候型レインコートを取り出して羽織ってから、御者を交代して西に向けて走り出した。


 サリスが俺の横でチェーンハンドボウを構えて周囲を警戒する。

 林の脇を街道の進んでいると、サリスがなにかに気付いたようだ。


「ベック!」


 サリスが叫ぶと同時に俺は動力車の手綱を大きく手前に引いて急停止させて《オフ》と呟く。


 サリスが俺にチェーンハンドボウを渡すと、御者台から飛び降りて林の前に立つとフレイムストームソードとフレイムスパイクシールドを構える。


 林の奥から複数の蠢く影が見える。


(【分析】【情報】)


 <<ゴブリン>>→魔獣:アクティブ:闇属

 Eランク

 HP 98/98

 筋力 4

 耐久 4

 知性 1

 精神 1

 敏捷 2

 器用 2


(かなりの数がいるな!)


 俺も飛び降りてチェーンハンドボウを構えながら、馬車の外壁を強く3回叩く。


「オル!アミ!魔獣だ!」


 俺の叫び声に反応したように林からゴブリンが飛び出してきた。

 かなりの数がいる。


 サリスが駆け出し、馬車の前方から迫ってくるゴブリン達をなで斬りにしていく。


 俺はサリスの援護をしようとしたが、馬車の後方からもゴブリンが飛び出してくるのが見えたので後方のゴブリンを相手にすることにした。

 チェーンハンドボウを連射する。

 その連射で後方から襲いかかるゴブリン達を複数のスパイクが串刺しにしていく。

 俺はゴブリン達から距離を取りながら、次々とスパイクを深々と突き刺していく。


 しかし妙な感じがする、

 知性の低いゴブリンが狡猾な挟み撃ちという作戦を仕掛けてくるのはおかしい。


 俺がそう思ったところでアミとオルが馬車から飛び出てきた。

 馬車の後方の俺のところにアミが来てくれたので、その場はアミに任せた。

 俺は馬車に戻ると辺りを見回す。

 前方のサリスを見ると、足元に10匹以上のゴブリンが体を切り裂かれて息絶えているのが見えた。


 オルは馬車の屋根に昇って、前後のゴブリンに向けて牽制のために矢を放っている。


「オルおかしい!林の中を見てくれ」


 オルが俺の言葉で林の中を見つめるとなにかに気付いて、林に向けて矢を射った。

 その矢を避けるようにして、街道にゴブリンより一回り大きく体表が赤い魔獣が出てくる。


(【分析】【情報】)


 <<ホブゴブリン>>→魔獣:アクティブ:闇属

 Eランク

 HP 146/146

 筋力 2

 耐久 4

 知性 4

 精神 2

 敏捷 4

 器用 2


(こいつが司令塔か!!)


 俺はホブゴブリンに向けて駆け出しながら、チェーンハンドボウを向けて次々とスパイクを撃ち込む。

 しかしホブゴブリンは動きが素早くスパイクをひらりひらりと回避していく。


(知能も高くて、敏捷とは厄介だな)


 俺はチェーンハンドボウでスパイクを撃つのをやめてカートリッジを交換するそぶりを見せると、ホブゴブリンが隙を見せた俺に向けて鋭い爪を繰り出してきた。


 誘いに引っかかったホブゴブリンの爪をギリギリでかわすと、俺は粘着玉を取りだしてホブゴブリンに叩きつけた。

 粘着玉がホブゴブリンの足に直撃して弾けると、粘着物質が飛び散りホブゴブリンがその場で転倒した。


 思わぬ攻撃で逃げることが出来なくなったホブゴブリンが唸り声をあげたが、もうその時には勝負の行方は決していた。

 俺はホブゴブリンの頭部を狙い至近距離からスパイクを5本撃ち込む。


 眉間を貫通したスパイクの威力にホブゴブリンの体が痙攣してから動かなくなった。


 前後から襲い掛かってきていたゴブリンがホブゴブリンが倒されるのをみて逃げ去っていく。


 三人がホブゴブリンの死体の脇に立っていた俺の元に駆け寄ってくる。


「どうやら襲撃をしりぞけようね」

「しかし統率を取れたゴブリンっていうのは珍しいですね」

「こいつが指示を出していた魔獣だな」

「真っ赤なゴブリンですー」

「普通は緑色よね。確かに珍しいわね」

「亜種かもな」

「可能性はありますね。ところで処分はどうします?」


 俺は思案してから指示を出す。


「まず魔石と右耳を回収しよう。つぎに1箇所に集めて焼き払う」

「右耳も回収って次の街で冒険者ギルドに報告していくの?」

「さすがにこの集団のゴブリンが街道脇にいたという報告はしておくべきですね」

「オルの言うとおりだな。クエストが出ているかは分からないが報告は必要だろう」

「わかったわ。じゃ早速作業しましょうか」

「集めるですー」


 俺達は手分けして作業を進めていく。

 Eランク魔石32個、緑色のゴブリンの右耳31個、赤色のゴブリンの右耳1個を回収することが出来た。

 まとめた魔獣の死体は街道脇に集めて焼き払う。


「魔石だけでも良い金額になりそうね」

「そうだな、さて余計な時間をくったし先に進もう」


 サリスが御者で俺達はふたたび街道を進みはじめると、しばらくして小さな村が見えてきた。

 村の広場に馬車を止めると、オルとアミが馬車から降りてくる。

 魔獣の襲撃で仮眠から目覚めてしまったせいで、すぐには寝れないという話だった。


 俺達四人は村人に聞いたワカ村の冒険者ギルドを訪れた。


 クエスト掲示板に向かいEランクの依頼票を見たが該当する依頼がなかった。

 俺は受付にいた男性にゴブリンの襲撃について報告をすると男性が驚いた顔をした。


「討伐されたんですか!」

「はい、返り討ちにしました」

「ちょっとお待ちください」


 男性が受付から出てきて掲示板に向かい依頼票を持って戻ってきた。


「お待たせしました。規模を考慮してDランク依頼の依頼を出していたクエストですね」


 受付の男性が提示したクエスト依頼票を確認すると赤いゴブリンの討伐で報酬銀貨10枚、その他ゴブリンの討伐が1匹あたり銀貨1枚と書かれていた。


「討伐証明はお持ちになりました?」

「はい」


 俺達は冒険者証を提示してから、回収した右耳を全て提出した。

 受付の男性はさらに驚いた顔をした。


「討伐数も凄いですけど、称号持ちの冒険者の方でしたか!」

「それほどでもないですけど、それよりDランク依頼といってもこの村にDランク以上の冒険者はいないんじゃないですか?」

「確かにおりません。実は村でEランクの冒険者を兼業している農家の方や猟師の方を多く集めて討伐計画を立てていたんですよ」

「そうでしたか」

「さすがにEランク掲示板に気軽に貼れる内容でないのでDランクに掲示していたんです。しかし今回討伐していただいて本当に助かりました」


 受付の男性が安堵した顔を見せて、報酬の銀貨41枚を手渡してくれた。

 俺達は礼を言って、ワカ村の冒険者ギルドをあとにした。

 オルに報酬の半分の銀貨20枚と銅貨50枚を渡す。


「当分はこの村も安心できそうだな」

「そうですね」


 時刻は14時を過ぎていた。

 俺達はワカ村を出発してさらに西に進む。


「粘着玉を使ったみたいだけど」


 手綱を持っているサリスが俺に尋ねてきた。


「感想としては良いアイテムだと思ったよ。とくに俺とは相性がいいな」

「中距離で戦うから?」

「うん」

「私やアミじゃ確かに使いどころが難しいと思ってたのよね」

「粘着物質に戦闘中にうかつに近づいて足を取られたら危険だしな」

「そうなのよねー」


 サリスが残念そうな顔をする。


「中距離でも戦えるように槍も使ってみようかしら…」

「スタイル今から変えるのは大変じゃない?」

「…」


 サリスが悩んでいる。

 どうも更なる戦力強化を模索しているらしい。

 確かに小型の魔獣と戦っているときのサリスの剣さばきは実に頼もしいが、中型の魔獣と戦いだしてから今ひとつ自分に納得のいく戦いが出来ていないらしいのだ。


(サリスの強化も件も考えておかないとな。首都に良い武器売っていればいいなー)


 陽がかなり傾いてくるまで動力車付き馬車を進めたところで、大きな街が見えてきた。

 時刻を見ると16時半である。

 ワカ村の村人に聞いていた緑茶都市ラハノだろう。

 たしかに街の周りの丘にお茶の畑が広がっているのが目にはいる。


(茶の名産地か…。良い茶葉があれば買いたいな)


 ラハノの街中に入って大通りを進んでいると、耳の長い亜人の姿を見かけて驚いた。


(え?あれって!【分析】!)


 <<エタン・エラン>>→兎人族男性:26歳:農業労働者

 HP 257/257


(バニーきたぁぁぁぁ!!!!)


 頭の中に転生前のバニーガールのイメージが延々と再生されていく。


「ベック、亜人族がいるわね」

「ん、あ。ああ、そうだね。耳が長いし兎人族じゃないかな?」


 サリスの言葉に我に返る。


「なにか亜人について情報があるかも尋ねてみましょうか?」

「そうだね。尋ねるならオルかアミも同行させたほうがいいな」


 俺は馬車を止めると、馬車の中にいた二人に声をかけて街中を歩いていた兎人族の男性に里の話を尋ねてみた。

 猫人族を見た男性が驚いた顔を見せたが、事情を話すと快く兎人族の里について教えてくれた。

 俺とアミとオルは男性に礼をするとサリスの待つ動力車付き馬車に戻る。


「ここから北に向かって3時間ほど歩いた場所に兎人族の里があるそうです」

「いくですー」

「うん、動力車付き馬車で移動すれば、すぐに着くと思うし行ってみよう」

「そうね。そういえばヒノクスで亜人族の里にいくのははじめてよね」

「そうだったな。里についたらヒノクスの猫人族についても確認してみようか」


 オルとアミが嬉しそうな顔をする。

 俺達は街の北門を通って兎人族の里であるヅヤ村を目指すことにした。

 ほどなくして北の街道の先にヅヤ村が見えてきた。

 村に到着すると、兎人族の村人に長のところに案内してくれるように頼む。


 村人はアミとオルの姿をみて長の家にすぐに俺達を案内をしてくれた。

 家の中から兎人族の老人が顔を出す。


「珍しいお客さんじゃのう」

「急に訪問して申し訳ございません。実は旅をしている冒険者でしてラハノでこの里の事を聞きつけて訪問いたしました」

「そうじゃったか。そちらは亜人族じゃし村として歓迎するよ」


 そういって老人が笑顔で語りかけてくる。

 俺達は自己紹介すると、長もエハンという名であると明かしてもらった。


 俺達はエハンに頭を下げると、動力車付き馬車の置き場を案内してくれたあとに家に招いてくれた。


「本当にありがとうございます」

「いやいや、亜人族のしきたりじゃし気にせんでええよ」

「ありがとですー」

「お気遣い感謝します」

「旅をしているといっていたが、どういった理由か聞いてもよいじゃろうか」


 俺が代表として長のエハンに経緯を話す。


「ふむ、ドルドスからそこのお嬢さんの婿を探す為にパラノスまで旅をして、さらにヒノクスまで足を運んだという話とは全く驚いたのう」

「俺は旅行記という本を出版しようとも思っていますので各地を訪れるのは、その取材も兼ねております」

「ほー、面白いことをしておるんじゃな。そうなるとこの里にとってもありがたいのう」

「といいますと?」

「その本が他国の兎人族の里に届けば、この里の場所を知らせることになるしのう」

「あー。そうなりますね」

「なにかあった場合に尋ねてくる同じ兎人族が増えるかもしれんしな」

「そうですね、ただし、まだまだ気軽に他国に旅を出来る環境ではないので、そこまで多くの交流があるかどうかは難しいですね」

「うむ、そのとおりじゃ。ただし行くあてもなく彷徨わなくてもすむというだけで有難いものじゃよ」


 そういって長のエハンが笑う。

 そこに一人の兎人族の女性が現れた。

 本物の若いピチピチのバニーガールである。

 サリスがいなければ飛びついていたところだ、危ない危ない。


 女性は外出から戻ったところらしく、俺達を見て驚いた顔をしていた。


「おお、良いところに戻った。旅のお客さんじゃ」


 そういって長のエハンが女性に俺達のことを説明する。

 女性は安心したようで自己紹介してくれた


「はじめまして。エハンの孫のカルンと申します」


 丁寧に挨拶をしてくれたので、俺達も自己紹介する。


「カルン、食事の準備を頼めるかのう」

「はい」

「あのう、もしよければお手伝いしましょうか?」


 サリスが食事作りを手伝うと申し出る。

 エハンとカルンがお客に食事の準備をさせるのは申し訳ないと断ろうとしていたが、是非このヒノクスの料理を覚えたいというサリスの熱心さに負けてカルンとサリスとアミで一緒に夕食を作ることになった。


「すごいお嬢さんじゃのう」

「料理を作るのが好きなんです。迷惑をお掛けしてすいません」

「いやいや、助かるよ。本当は息子夫婦が世話をしなければいけないんじゃが、ラハノに出稼ぎに出ていってな。ちょうど人手が足りないところじゃったしのう」

「ラハノはお茶で有名みたいですね」

「うむ、夏場は茶葉の収穫で忙しいんじゃよ」


 食事が出来るまで俺とオルは、ヒノクスの他の亜人族の情報を聞いてみた。


「わしが知っておるのは、北方にある熊人族の里だけじゃのう。ただし猫人族の里もどこかにあるという話を聞いたことはあるが詳しい場所まではわからんのう」

「そうですか。その情報だけでも十分です。ありがとうございます」

「オルよかったな」

「うん」


 俺は聖地についても尋ねてみた。


「ほう、珍しいことを知っておるのう」

「なにか御存知ではないですか?」

「この里に語り継がれておるのは、人族の近寄らない場所であるということじゃったな」


 新しい情報に俺は思わず身を乗り出してしまった。


「その話は初めてききました!」

「そうじゃったか」

「具体的にはどういった話なんでしょうか?」

「もともと亜人族は同じ場所に住んでおったらしいが、ある日天変地異が起こり住めなくなったので各地に逃れたという話を聞いたんじゃが他の里では聞けんかったのかな?」

「ドルドスでもパラノスでも、その話は出ませんでした」

「かなり昔のことじゃし、場所によって忘れられたか、もしくは…」

「もしくは?」

「わしの聞いた話の方が事実を捻じ曲げられておるかじゃないかのう」


 俺は思わずその可能性もあるなという事に気付いた。

 長い時間をかけた伝言ゲームであれば、内容の不正確さが徐々に増していってしまう。

 本や資料などで伝えられればいいのだが、口伝ならば仕方が無い。

 そうなると聖地や精霊神の話自体も怪しくなってくる。


 オルも同じことに気付いたのだろう無言で考え込んでいる。

 そんな俺とオルの姿を見かねた長のエハンが助け舟を出してくれた。


「どこまでが真実かを調べようとすると昔のことじゃから難しいだろうが、一つ言えるのは亜人族がこの世界に確かに存在しとるということじゃ」

「そうですね。いきなり亜人族が現れたわけじゃないでしょうし、そこには理由があるはずですね」

「うむ、そういうことじゃ」

「ありがとうございます」

「いやいや、気にせんでええよ」


 そこにカルンとサリスとアミが食事を持ってきた。


「野菜とお茶のライスです」


 持ってきた料理を見ると野菜を炊き込みご飯のようだが、お茶という単語が引っかかる。

 たしかに少し炊き上がったご飯が若干緑色がかっている。

 俺は一口頬張ると野菜の旨みの他にかすかにお茶の味もする。


 サリスに話をきくとお茶の粉末を炊き込む際にいれたと言う話を聞いた。

 まさかと思い、その粉末のことをカルンに尋ねると緑色の粉末を持ってくる。

 鮮やかな緑色をしている粉末だ!

 まさしく抹茶である!


 抹茶を見て驚いている俺をみてサリスが首をかしげる。


「どうしたの?」

「いやこの粉末が美味しいから、いろいろな料理に使えるんじゃないかと思ってね。」

「よくわかったのう。そのお茶の粉末はいろいろな料理に使っておるよ」

「興味あるわね」


 サリスが食いついてきた。

 どんな料理に使っているかをカルンが話をしてくれた。


「ソバに練り込んだり、ダンゴに練り込んだりしていますよ。あとはそのまま水やお湯で溶いて飲んだりもしますし」

「美味しそうね。この粉は村で売ってるのかしら?」

「ラハノで買える品じゃよ」

「明日ラハノの食材屋に寄ってみたいわね」

「よふでふー」


 アミがご飯を口に含んだまま喋るので、俺達は思わず噴き出してしまった。

 まったくアミは、いつでも明るく元気である。


 ヒノクスにある兎人族の里のヅヤ村で楽しいひと時を過ごす俺達だった。


2015/05/22 誤字修正

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