1-14 アイテムボックス
増量中
竜暦6557年7月14日
港湾都市パム。
スタード大陸の西端の国ドルドスの西側に位置しており、円形に広がった都市形状をしていて中央から南北東西に大通りが伸びているのが特徴的である。
その大通りの街路樹として道の両端に銀杏が等間隔に植えられていて綺麗な街並みを醸し出していることから近隣の都市からも観光に訪れる人が多いのも特徴である。
区画ごとの特徴としては中央に行政地区、東側に商業地区、西側に港湾地区、南側は庶民を中心とした住居地区、北側は商人を中心とした住居地区がひろがっている。
中央地区に近い北東に位置しているオーガント家の玄関が開く。
「母様、いってきます。」
「サリスちゃんがいるから心配してないけど怪我しないようにね。」
「はい。」
「あ、ちょっとまってて」
イネスが家の奥にきえてポーチを手に戻ってきた。
「これジャスチが行商見習いの時に使っていたマジックアイテムの鞄なの。今はもう使ってないしお古になるけどベックにとって役立つはずだから使ってね。」
「でもマジックアイテムとか貰っていいんですか?」
「買えば金貨3枚くらいになるかしら。でもジャスチも時期がきたらベックに渡してといいと言ってたし平気よ」
「金貨3枚?!そんなに凄い鞄なんですか!」
「空魔石を使っていて200個ほどアイテムを収納できるのよ、無くさないように大切に使ってね」
「あ、ありがとう、母様!」
旅をする上で非常に役立つ装備が入手できたのだ、俺はおもわず飛び上がって喜んだ。
両親には本当に感謝である。
その後使用法を聞いてから早速腰にポーチを装備し家をあとにした。
真新しい装備を着込んだ俺は家を出て、サリスと待ち合わせをしている中央地区にある冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドの建物に入るとクエスト掲示板の前にいたサリスが俺に気づき明るい笑顔をしながら駆け寄ってきた。
「ベック、待ってたわ」
「遅くなってごめんな」
受付の女性、ジュイスから渡された登録申請書に必要事項を記入してジュイスに提出すると笑顔で話しかけてきた。
「仮冒険者証で今まで活動してたし、詳しい説明はなしでいいわよね」
「「はい」」
「既に実績もあるし審査もすぐ通るはずだから、ちょっと待っててね。すぐに戻ってくるから」
ジュイスはそういうと奥の部屋にむかった。待つこと5分。
手に冒険者証をもってジュイスが受付にもどり二人を呼ぶ。
「はい、これが正式な冒険者証ね」
チェーン付きの小さな金属製プレートを受け取った。大きさはトランプのカードくらいで名前とランクとその他の情報が表面に書かれている。
仮冒険者証と同じだ。
「じゃ何も記載されていない裏面に両手の親指をつけて《レコード》と唱えてね」
「これってマジックアイテムなんですか?」
「偽造防止用ね、仮冒険者証とは違うからよ」
二人とも言われたように《レコード》と唱えるとプレートの裏面が少しだけ光った。
「冒険者証を持って《オープン》と唱えると裏面に記憶されてる親指の指紋が浮き出るわよ、確認してみて。」
二人とも言われたように《オープン》と唱えるとプレートの裏面に指紋が浮き出てきた。
「俺のは大丈夫でした。」
「私のも平気です。」
「では、手続きはこれで終わり。ここのギルドでは問題ないとおもうけど他の都市で活動する場合、本人確認を求められたら冒険者証の《オープン》を唱えてね」
「「ありがとうございました」」
二人は冒険者証をバッグにしまい、受付からFランクのクエスト掲示板の前に移動して依頼を眺めた。
「時間もあるし簡単なクエストをやってみましょうか。魔獣に詳しいベックが選んでね」
「あ、うん」
体を動かすほうが得意なサリスは、頭脳労働は俺に丸投げしやがった。
まあ得手不得手があるし、こういった分野は俺がやったほうがいいな。はい。
「パム郊外ザム海岸Fランクのキングクラブ討伐にしようか、報酬は鋏肉1個あたり銅貨10枚。」
俺はクエスト依頼票を受付のジュイスに渡し採取箱を受け取り、ギルドをあとにする。
ザム海岸へ歩いて向かっている途中、サリスに今朝の話をしたら驚かれた。
「アイテムボックスをもらったの?!」
「うん、このポーチね」
「いいなー、私の家じゃもってないの私だけなのよね…」
「そうなの?でも高いって聞いたよ。金貨3枚っていったけど」
「え!どれだけ収納できるの?」
「200個とかいってたけど」
「あー、それ高級品だわー、さすがオーガント家ね」
「はぁぁぁぁ、母様はそんなこといってなかったよ、お古っていってたし」
「えっとね、ベックは知らないようだから教えておくね。冒険者の必需品のマジックボックスは銀貨30枚程度で収納数20個ほどの品なのよ、私の家の父と兄も持ってるのは収納数20個のやつね」
「なるほど」
「あとは使う魔石の品質にって収納数が増えるんだけど200個とかかなりの性能になるわ、商人や高ランクの冒険者が使うとかって話は聞いてたけど」
「だから父様も昔つかってたのかな」
「でもそのマジックボックスは冒険者として活動するなら、かなり役立つわね」
「やっぱり、そうなんだ」
「さらにいえばベックは将来、旅をするんだから最高の品よ」
さすが冒険者稼業の知識となるとサリスはいろいろ知っているなと感心する。
魔獣の知識もこのくらいあればいいのになー
「せっかくアイテムボックスあるなら、手に持ってる採取箱を入れてみたら?」
「あ、そうか」
早速、採取箱をポーチにしまう。
楽だわー、これ楽だわー
「あと盗難防止に暗号鍵かけておかないとね、中身を取られちゃうわよ」
「うん、母様から暗号鍵は教えてもらったよ、オーガント家で共通の暗号鍵らしいけど」
「じゃ、安心ね」
「そういえばさっきしまった採取箱も簡易型アイテムボックスよ」
「え、そうなの?」
「暗号鍵や劣化防止処理などの機能がついてないし、箱に入りきらない場合だけ一時的に収納数を増やす感じね」
「へー」
「長期保存するなら正式なアイテムボックスが一番だけど、値段を考えると誰でも持てるわけじゃないしね」
「なるほど」
「採取箱は一番低品質の空魔石つかって作れるらしいから、それなりには普及してるんだけどね」
しかし魔石加工技術って凄いな、これ。
アイデア次第でいろいろできそうな予感がする。
会話をしながら先を進むと1時間ほどでザム海岸に到着した。
「キングクラブの注意点ってあるのかしら」
「いや、ただ甲殻が硬いだけかな、動きは鈍いしね。弱点は関節。攻撃は大きな鋏の振り回しだけね、サリスなら簡単に回避できると思うよ。」
「Fランクだし、やっぱりそんな感じなのね」
「装備も揃ったし、きちんと動ければ平気なはずだよ」
「じゃ、クエスト前に装備も含めて再度確認作業しましょうか」
クエストを始めるまえに再度、サリスの情報を分析してみる。書式で情報を読みやすくもしておこう。
(【分析】【書式】【情報】)
<<マリスキン・サリス>>→人族女性:10歳:無職
Fランク※
HP 104/104
筋力 D+D+F
耐久 D+D+E+E+E+E
知性 F
精神 F
敏捷 E+E+E+E+E+E
器用 E+F+E+E+E+E
<<装備>>
ブロンズソード
スパイクシールド
HEレザーヘッドバンド
HEレザージャケット
HEレザーアームガード
HEレザーレッグガード
(冒険者証基準のランク表示もされてるし装備も合算して出てるけどちょっと見にくいな。ランクを数字に置き換えてみよう。)
S=64
A=32
B=16
C=8
D=4
E=2
F=1
これで再度書式を行ってみる。
(【書式】)
<<マリスキン・サリス>>→人族女性:10歳:無職
Fランク※
HP 104/104
筋力 9
耐久 16
知性 1
精神 1
敏捷 12
器用 11
<<装備>>
ブロンズソード
スパイクシールド
HEレザーヘッドバンド
HEレザージャケット
HEレザーアームガード
HEレザーレッグガード
(いい感じだ!階層表示を消してみよう。)
<<マリスキン・サリス>>
Fランク※
HP 104/104
筋力 9
耐久 16
知性 1
精神 1
敏捷 12
器用 11
<<装備>>
(うん、これでよし、自分の情報も見ておこっと)
(【分析】【情報】)
<<オーガント・ベック>>
Fランク※
HP 82/82
筋力 3
耐久 10
知性 1
精神 8
敏捷 13
器用 10
<<装備>>
スキル【分析】【書式】【情報】
観測者レベル10
(よし、これで分析の準備はできたな。あとは武器の準備をしておこう)
手早く戦う準備を整えて、サリスに声をかけた。
「準備できたよ。」
「私もおわったところよ、さてキングクラブはどの辺りにいるのかしら」
「向こうに見える岩場じゃないかな、砂地には現れないらしいよ。」
岩陰にいて口から泡を吹いている中型犬ほどの大きさのキングクラブを見つけた。
両手の鋏で岩に張り付いた海草を食べているようだ。
サリスの肩を叩き合図を送って、キングクラブを指差す。
(【分析】【情報】)
<<キングクラブ>>→魔獣:パッシブ:水属
Fランク
HP 107/107
筋力 2
耐久 16
知性 1
精神 1
敏捷 1
器用 1
「結構大きいわね」
「目当ては鋏肉だから、なるべく鋏は傷つけないようにしようか」
「了解」
「あと新しい武器にも早く慣れた方がいいからエンチャントを使おう」
「たしかブロンズソードは重量軽減だったわよね?」
「うん、ベキスの話だと軽く振り回せるらしいよ。」
「いいわねー、私にピッタリ」
「うんうん」
「ベックのシェルスピアは衝撃軽減だっけ?」
「うん、受けたダメージを分散させるらしいね」
「防御よりの武器なのね」
「弱い俺には、ちょうど良いんじゃないかな」
「…」
(なんだろう、なぜジト目? 何度もジト目で見られてると変な趣味に目覚めちゃうかも…)
「さ、さて、いつのも連携でいいかな、俺は背後とるね」
「うん、それでいいわ」
合図を送りサリスが先制の一撃をキングクラブに与えた。
右鋏にヒビが入る。立て続けに脚の関節を狙いサリスが連撃を加える。
俺は背後から脚の関節に狙ってシェルスピアを突き入れ、脚の一本を切断。
バランスを崩したキングクラブが体制を立て直そうとする隙を見て、サリスの斬撃で右鋏の根元を切断。
キングクラブの大振りな攻撃はサリスにはまったく通じず、二人の連携攻撃によって次第に手脚を失っていったキングクラブは絶命した。
「たしかに弱いけど、硬いし体力多いわね」
「うん、でも鍛錬にはいい感じだね」
「キングクラブより足元に気をつけるのが大変かも」
「あー、激しく動くと滑りやすそうだし、岩場でコケたら大変だ」
「不安定な足場で戦う練習って感じで頑張ってみるわ」
夕方までクエストを続けた俺達は、ギルド受付に鋏肉22個とFランク水魔石11個を提出しそれぞれ家に帰った。
2015/04/22 会話修正




