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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ヒノクス旅行編】
144/192

5-32 ガイシュ迷宮都市

 竜暦6561年8月15日


 外が騒がしい事に気付いて、俺は目覚めた。

 動力車付き馬車も停止しているようだ。


 俺は用心して外に出る。


「起こしちゃったようだね」


 オルの声が聞こえる。

 月明りの下で、オルとアミの姿が見える。

 俺はとりあえず迷宮灯をつけた。

 そこには、オルとアミに討伐された鳥の死体が横たわっていて、二人が解体してるところだった。


(【分析】【情報】)


 <<マオトーイン>>→魔獣:アクティブ:風属

 Eランク

 HP 0/214

 筋力 2

 耐久 2

 知性 4

 精神 2

 敏捷 1

 器用 2


(もう死んでるけど、こいつがマオトーインか)


 マオトーインをじっくり見てみたが、胴と翼と足はフクロウそのもので、頭だけが猫科の猛獣のような大きな口に鋭い牙が生えているという姿だった。

 挿絵のあったノークテュアやメガヒボウとも異なる姿である。


「魔獣の襲撃があったようだな」

「うん、音もなく襲ってきたけど、僕とアミさんで返り討ちにしたよ」

「この魔獣がマオトーインみたいですー」

「特徴からいうとアミの言うとおり間違いないだろうな。しかしこの鋭い牙で噛み付かれると思うとゾッとするよ」


 二人がうなずく。

 俺は羽根の採取するのを手伝ってから、また室内に戻って横になる。

 時間を確認すると3時を過ぎていた。

 あと少しで夜が明ける。

 明るくなったらオルとアミと交代しようと思いながら二度寝を試みたが、なかなか寝付けないのでそのまま起きていることにした。


 俺は迷宮灯をつけてアイテムボックスから取り出したヒノクスの簡易地図を見つめる。

 さらに【地図】を使って表示された地図と比較をはじめた。


(えっとキカタ村を出てから、次のついたこの大きな街が簡易地図にあるワッラカだろうな…)


 俺は宙に浮かぶ地図にワッラカという情報を書き込む。


(途中俺の寝ている間に2箇所、村を通過しているようだが、さすがに夜中出歩いている住民もいないだろうし、オルやアミに聞いても村の名前はわかんないか…)


 とりあえず村という単語だけ情報を書き込む。

 このペースだと夜明けには次の村に到着するだろうと思った俺は、地図を閉じてから防具の手入れをして時間が経つのを待つことにした。


 しばらくすると車窓から見える空が徐々に白んでくるのが見える。

 俺は迷宮灯を消して、外を眺める。

 山あいを既に過ぎていて平地を馬車が走っているが、進行方向の左手のほうを目を向けるとキラキラと水面が輝くのが見えた。


 波もなく静かな水面がずっと先まで広がっている。

 一瞬海なのかと思ったが【地図】を使って確認すると、やはりここはヒノクスの内陸である。


(どの程度の大きさが分からないけど、かなりの大きさだな。次の村についたら、この湖について確認しないとな)


 かなり明るくなってきたので時間を見ると5時過ぎだった。

 俺は寝ているサリスを起こす。


「朝だよ」


 俺の声に反応して、サリスが寝惚け眼でをこすりながら上半身を起こす。

 軽く唇にキスをすると、サリスが嬉しそうに微笑んだ。


「おはよう。目が覚めた?」

「うん、今ので目が覚めたわ」


 サリスも車窓から外を眺めて、湖にきづく。


「ねえ、これって海?」

「いや、どうやら湖みたいだね」

「ドルドスでは、こんな大きな湖の話は聞いたことないわよね」

「そうだな」


 興味深そうに車窓から湖をサリスが眺める。


 しばらく進むと動力車付き馬車が止まった。

 俺とサリスが外にでると、ちょうど俺達を起こそうとしたオルが驚く。


「もう起きてたんですね」

「俺はマオトーインを解体をしたあとから、ずっと寝ずに起きてたよ」

「あら、そんなことがあったのね」

「3時くらいだったかな」

「私もマオトーインを見てみたかったわね」

「変な顔をしてたです」


 御者台に座っているアミがそう話すと、サリスが首をかしげる。


「そのあたりは、進みながら詳しく話すよ」

「そうね、楽しみにしてるわ」

「じゃあ、ここからは俺とサリスが御者台に座るから、アミとオルは休んでていいよ」

「お願いしますね」

「はいですー」

「朝食はどうしようかしら」

「このペースなら、昼にはガイシュ迷宮都市に着くと思うから、着いてから食べればいいかもな」

「それで平気ですよ」

「わたしは寝ておくです」


 そういって二人が馬車の室内に入る。

 俺が手綱を持って、サリスが横に座る。


「《オン》、《ドライブ》」


 俺が呟くと、徐々に動力車付き馬車が加速していく。

 高い位置から見る湖は綺麗だった。

 朝陽に照らされた湖面が赤く輝く。

 風も穏やかだ。

 夏場だが湖のせいで、朝の気温も涼しく感じる。


 気持ちよく街道を進むと、すぐに村が見えてきた。

 湖のそばにある畑に向かう村人がいたので話を聞いたところ、村の名前はリリピ村といい、目の前に広がる湖はガイシュ湖という名前だと教えてもらった。


「もしかしてガイシュ迷宮都市って湖の近くにあるのかしら?」


 サリスが村人に尋ねると、村人がうなずく。


「湖のそばに迷宮があるだよ」

「そうなんですね」


 俺とサリスは村人に礼をいって、先を目指して動力車付き馬車を進める。


「どんな迷宮かしらね。楽しみだわ」

「そうだね。それとこれだけ大きな湖のそばの迷宮なら水系の魔獣が多くいたりしてな」

「たしかに多くいたら助かるわね」


 それから湖沿いの街道を2時間ほど進んだところで、大きな街が見えてきた。

 時間を見ると朝の7時45分をすぎたところだ。


「あれが簡易地図に書いてあったチオミハだな」

「たしかチオミハのすぐ先が、ガイシュ迷宮都市だったわよね」

「うん、昼には着きそうだな」

「休憩や宿泊なしだと1日で着くことになるのね。本当に凄いわね」

「アミとオルのおかげだよ。夜も安全に進めるからな」

「二人がいなければ、宿に二泊することになりそうだから、最初に乗合水車で3日という話を聞いたのも間違いではないわね」

「うん」


 俺達がチオミハに到着したのは、ちょうど8時過ぎたところだった。

 住民に確認すると、チオミハで間違いないという話であった。

 ちなみに正式には大湖都市チオミハというらしく、湖で取れる魚の収穫や、米や野菜の生産が主な産業という話だ。


 リリピ村からの街道沿いには田んぼが見えなかったが、チオミハを過ぎたあたりで街道の周辺に田んぼが目立ってきた。

 一面緑の絨毯が敷き詰められている光景は圧巻だった。


「これって全部ライスなのね」

「ああ、そうだな」

「すごい量になるわね」

「ライスを生産するのに湖のおかげで水には困らないようだね」

「ライスってそんなに水が重要なの?」

「かなりの量の水を使うっていう事が、本に書かれていたよ」

「へぇー。麦とは違うのね」

「うん」


 緑の絨毯を楽しみながら先に進むと、小さな村が見えてきた。

 ガイシュ迷宮都市ではないようだ。

 村人に話を聞くとエノヒ村といい、やはり米の生産が盛んらしい。

 またガイシュ迷宮都市は、この先にあるという話も聞けた。


 俺とサリスはもうすぐ到着するということで、興奮しながらガイシュ迷宮都市を目指した。


 陽が中天を過ぎた頃、ようやく目当てのガイシュ迷宮都市が見えてきた。

 時計を見ると12時半だった。


「ようやく着いたわね」

「26時間くらいかかったことになるな」

「トウキに帰る時の参考になるわね」

「うんうん」


 ほどなくして俺達はガイシュ迷宮都市に到着した。

 オルとアミを起こしてから、まずは住民に聞いた馬屋に向かう。


 俺は馬車のみ預かって欲しいと交渉し、預かってもらえることになった。


 最初は馬屋の主人も、自分達をおびやかす存在の動力車を警戒しているようだったが、今後同じような客が増える可能性があると告げると、商売の気配を察してくれたようで交渉はスムーズに行えたのだ。


 馬車の件が片付いたので、次に俺達は馬屋の主人に聞いた迷宮に近い宿屋に向かうことにした。


「おなかすいたですー」

「そういえば、まだ何も食べていないな」

「なにか食べましょうか」

「いいわね。あそこはどうかしら、お客がかなりいるわよ」


 サリスが目抜き通りにあるカフェを指差すので、そこで昼食をとることにした。


 テーブルについてからメニューを見ると港湾都市トウキと品揃えは同じようだったが、魚の甘煮膳というのが気になり、俺はそれを頼んだ。

 サリスは焼き魚膳、アミは鳥肉膳、オルは小海老ソバを頼んだようだ。


 店員が料理を運んできたが、魚の甘煮とは甘露煮だった。

 砂糖と醤油で煮詰められた甘辛い魚は骨まで食べれるほど柔らかく、その濃厚な味に、ついつい食が進む。


「ベックの食べている魚は変わってるわね」

「サリスも一口たべてみる?」

「うん」


 そういうのでサリスに一口、甘露煮を食べさせてみた。


「これってビーンソースを使ってのね、それとこの甘みは砂糖かしら」

「そうだね」

「なるほど、こういう料理もあるのね」


 サリスがメモを取っている。

 昼食を堪能した俺達は、店をあとにして宿屋に向かう。


 目抜き通りを湖側に向かってあるくと、湖のそばに立っている宿が見えてきた。


「良い場所にある宿ね」

「素敵ですー」

「湖が一望できるな」

「本当に良い場所ですね」


 その宿の眺望のよさに俺達は思わず息をのんだ。

 宿に入ると、早速宿泊の手続きをして、荷物を部屋に運んだ。


 その後、宿の受付の前に集合した俺達は冒険者ギルドに向かう。

 宿の受付の人から場所を教えてもらっていたので、迷うことなく冒険者ギルドに着いた。


 しかしちょっと不思議だったのが、クシナ迷宮都市と違い、ガイシュ迷宮都市の冒険者ギルドは城壁に囲まれていなかったことだ。

 ここにガイシュ迷宮の入口がないのかもしれないと思いながら、職員に話しかけて迷宮の情報を確認することにした。


 受付の職員に冒険者証を提示し情報が欲しいと話をしたところ、驚いた顔をした職員が俺達を会議室に案内してくれた。

 程なくして上司と思われる女性が会議室にやってきた。


「こんな場所に案内して申し訳ありません。私は、このガイシュ迷宮都市の冒険者ギルドの副代表のオオハです」

「ドルドスの港湾都市パムで活動しているクランの冒険者でオーガント・ベックです」

「ベックの妻のオーガント・サリスです」

「同じクランのムイ・ネル・アミです」

「僕も同じクランのラタ・ネラ・オルと申します」


 俺達はそれぞれ挨拶をしたところで、副代表のオオハさんが口を開いた。


「受付の職員の話では、ガイシュ迷宮都市の情報が欲しいという話でしたが、差し障りがなければ理由を聞いても宜しいですか?」

「実はベック冒険出版商会という旅の経緯を本にまとめて出版する商会も経営しているのですが、その取材として現在ヒノクスまで旅行にきております。もちろん冒険者でもありますので、旅先での修行も兼ねておりまして今回はガイシュ迷宮に挑戦できればと思った次第です」

「大陸の反対側からここまでくる冒険者というのは珍しいので受付の職員もビックリしたようですが、そういった理由があるのですね」

「あとガイシュ迷宮に来る前にも2つほど迷宮に挑戦しております。一つはドルドスのパム迷宮です。こちらは4年前に発生した新しい迷宮です。もう一つはパラノスにあるクシナ迷宮です。仲間のオルとはそこで出会って旅を一緒にすることになりました」

「そうでしたか」


 オオハが少し考えてから口を開く。


「パム迷宮に関しては、詳しく伝わってきていないので分かりませんが、クシナ迷宮はガイシュ迷宮と同じ程度の規模の迷宮ですね。クシナではどのような活動をされていたのですか?」

「Dランクの魔獣を倒しておりました」

「なるほど、やはり称号によるランクアップを適用されたんですね」

「ガイシュ迷宮でもランクアップの適用があるんですか?」

「あります」

「よかったわね、ベック」

「ああ」


 俺達は安堵する。

 大量の水魔石を調達するにはEランクよりDランク魔獣を倒すほうが効率がいい。

 喜ぶ俺達の姿を見ていたオオハが、さらにしゃべり始める。


「次に迷宮の情報をお話しますが、よろしいですか?」

「はい、お願いします」

「入口は、この冒険者ギルドの中庭にあります」

「え?、城壁が見当たらないようですが…」

「特殊な入口でして、中から歩いて魔獣が出ることがないので城壁を設置していないんです」

「特殊?」

「ええ、入口に足を踏みいれると光る床があるのですが、そこに乗ると迷宮内のどこかに転移されます」

「「「「!」」」」


 俺達四人は唖然とした。

 ガイシュ迷宮は転移で進む特殊な迷宮だった。


「それだと仲間がバラバラになるのかしら…」

「いえ、転移する際に一定の距離にいる人は同じ場所に転移されます。そこは転移石と同じ程度の広さが有効距離だと考えてください」

「そうでしたか。しかし転移先が選べないとなると厄介ですね…」

「一応法則は確立してまして、入口から入るとFランク魔獣、次の転移でEランク魔獣、さらに次の転移でDランク魔獣と進んでいきます。入口からいきなりCランク魔獣の部屋に行く事はありませんので安心してください」


 そこでオルが手をあげてオオハに質問する。


「そうなると戦う魔獣は選べないのでしょうか?」

「はい、そうなります。それとその理由からガイシュ迷宮都市の冒険者ギルドのクエストの依頼は事後報告が主となっております」

「特定の魔獣を狙う場合は、皆さんどうしているのですか?」

「そういったケースの場合は、転移石で一旦外にでて再度迷宮に入るというのを繰り返していますね」

「そうなんですね」


 オルが腕を組んで考えているので、俺は次に聞きたかった話をオオハにしてみた。


「実はクシナ迷宮では、ヒノクスから伝わった破砕粘土を討伐に使っていたのですが、ガイシュで購入は可能でしょうか?」

「街の装備工房では買えないと思いますが、ランクアップの適用がありますのでギルドの売店で購入は可能です」


 俺はその言葉に安堵した。

 破砕粘土はいざという時に使える。


「教えていただいてありがとうございます」

「一応私のほうで、ガイシュ迷宮都市で活動する場合に、ランクアップの適用がされていることを示すプレートを準備しておきます。今後はそのプレートを受付や売店に提出してください」

「出来上がりはいつ頃になるでしょうか?」

「明日の朝には出来ますので、また冒険者ギルドに来た際には、私に取り次いでもらうように職員に声をかけてください。その時にお渡しいたします」

「本当にありがとうございます」

「いえ、いいのですよ。称号の一つはヒノクスの西部都市タハカのものですし。なにがあったのかは分かりませんが同じ国の都市で活躍された冒険者を無碍には出来ません」


 そういってオオハが笑顔で話をしてくれた。


 あらためて称号という存在が俺達にとってもたらす影響の大きさを身に染みて感じた俺がいる。


2015/05/18 表現修正

2015/05/18 誤字修正

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