5-27 動力車
パムからヒノクスまでの旅程
■大型帆船(海上)
港湾都市パム 04/01出発
南部都市バセナ 04/03到着 04/05出発
離島都市アニータ 04/12到着 04/14出発
古代都市ネテア 04/18到着 04/20出発
海運都市スプキロ 04/25到着 04/27出発
砂塵都市クト 05/03到着 05/05出発
森林都市スカット 05/12到着 05/14出発
西部都市カトラ 05/25到着 05/27出発
港湾都市バイム 06/01到着
■馬車(陸路)
港湾都市バイム 06/03出発
ガアナット村 06/04到着 06/05出発
クシナ迷宮都市 06/05到着 07/01出発
ガアナット村 07/01到着 07/01出発
港湾都市バイム 07/02到着
■小型船(海上)
港湾都市バイム 07/11出発
南部都市イマンチ 07/12到着 07/14出発
東部部市ナムパト 07/15到着 07/17出発
島嶼都市タゴン 07/18到着 07/22出発
古塔都市クバ 07/24到着 07/26出発
歓楽都市チーミン 07/27到着 07/28出発
密林都市ノハ 07/29到着 08/01出発
河川都市シャイハ 08/03到着 08/05出発
西部都市タハカ 08/06到着 08/08出発
港湾都市トウキ 08/09到着
竜暦6561年8月10日
今日の朝食は四人で宿の近くにある大通り沿いのカフェで食べることにした。
注文した料理は
俺は焼き魚膳。
サリスは野菜の揚げ物膳。
アミは鳥肉ソバ。
オルは海老の揚げ物ソバ。
である。
揚げ物とは、見た目と味がそのまま天麩羅だった。
ヒノクスでは、衣をつけて油であげた物は全て揚げ物という風に読んでいる。
ソバは、蕎麦粉を練ってから薄く延ばして麺状に切りそろえてから、お湯で茹であげた食べ物である。
転生前の世界と同じ呼び方だったのには驚いた。
「ヒノクスは美味しい料理が多いわね。この揚げ物も衣がサクサクしてるし、中の野菜もホクホクしてて最高だわ」
「本当にそうだな」
俺は焼き魚を箸で食べながら答える。
「ソバもつるつるしこしこしてて美味しいです!」
「アミは、ソバが気に入ってるわね」
「懐かしい味がほんのりするです」
「ああ、ガレットの粉と同じ粉で作ってるからな」
「昨日店員に聞いたけど、あの粉でこんなソバが作れたのね。でもパテもそうだったし、ブンもそうだったけど細長い形状にする料理って多いのね」
「食べやすいのと、茹でやすいからじゃないですかね」
「オルのいうように、細長くしていると茹で時間短くなるな」
存分に料理を堪能した俺達は、薬草茶を飲みながら今後の方針について話す。
「まずは動力車の購入だな、これは契約も絡んでくるから時間がかかると思う」
「そうね」
「あとは井戸用水魔石の調達ですね。あの動力車にも使うとなると今以上の数を調達する必要が出てきます」
「水魔石を出す魔獣を大量に狩る必要がありそうだな…」
「ガイシュ迷宮都市で集めるです!」
「やはり、それが手っ取り早いだろうな」
三人がうなずく。
「あとトウキの近場の名所調査はどうするのかしら?」
「それもしないとな」
「じゃあ私とアミで、冒険者ギルドに行って調査してくるわ。オルとベックに馬車工房の件をまかせるわ」
「うん、わかったよ。オルとアミもそれでいいかな?」
「はいです!」
「うん、問題ないよ」
「じゃあ、あとは宜しくね。アミいきましょうか」
「はーい」
二人が席を立って、カフェをあとにした。
「オル、アミとなにかあった?」
「特になにもないですけど…」
「うーん」
俺は腕を組んで考える。
サリスの行動が妙だ。
かといって悪意が見えない。
でも、朝起きたときも何もいってなかったしな…
「どうしたんですか?」
「いや、サリスが特に理由も言わずに、アミと一緒に行動するって言い出したからさ。いつもなら俺と一緒に行動するって言うんだけど」
「たしかに、そうですね。サリスさんと喧嘩したわけじゃないですよね?」
「朝起きてからもラブラブだったしな。それはないよ」
「うわー。自分でラブラブとか言うんですか」
「アミとオルもラブラブだろ?」
「それはそうですけど…。ほ、ほら恥ずかしいじゃないですか」
ふと俺の頭の中に二人の人物の顔がうかぶ。
「ああ、そうか。なんで俺がそんなに恥ずかしくないのか分かったよ。父様と母様の影響だな」
「ご両親がそんな方々なんですか?」
「小さい頃から、イチャついてるのを見せられ続けたからな。ああいうのが普通なんだと思ってたんだな、きっと」
俺はそういうと、薬草茶を一口飲む。
「そうだったんですね」
「オルの両親はどんな人達なのかな?」
「父は狩人で冒険者ですよ。母は家にいて裁縫が得意でしたね」
「へぇー」
「あまり人前や僕の前でイチィイチャすることはありませんでしたね」
「なるほどなー」
オルが異性に対して不器用な性格なのも両親の影響があるんだろなと、俺は思った。
「でも、お互いに大切にしてたと思いますよ。よくお互いに贈り物をしてましたし」
「いい両親だな」
「ええ」
俺は薬草茶を飲み干す。
「さて、アミとサリスの件はおいといて、動力車の件を片付けようか」
「井戸用水魔石をいくつか持ってきましたけど、使いますかね?」
「動かすにしても使うだろし、持ってきて正解だろうな」
「では、僕達もいきますか」
俺達は席を立つと、サラガナル馬車工房に向かった。
10時過ぎにサラガナル馬車工房に着いた俺達は事務所の扉を開けると、サラガナルが俺達が来るのを待ち構えていた。
「おお、待ってたよ!」
「馬車の組み立てはおわったようですね」
「昨日の深夜までかかったが、組み立て終わったよ」
「え!、そんなに遅くまで作業をしてたんですか?」
「ああ、まったく驚きの連続だったよ。ついつい時間が経つのを忘れてしまっていたしな」
サラガナルが笑いながら話をしてくれた。
そのあと応接室に案内されて、席につくように促された。
俺は単刀直入に、動力車が組み立て馬車を牽引できるかサラガナルに確認してみた。
「まったく問題なかったよ。うちの馬車よりも軽量だったからな」
「そうでしたか」
「うちの馬車も軽くて丈夫だと自負していたが、あの馬車は素晴らしい作りだったよ」
「そういってもらえると作成した工房の人が喜びますよ」
「うちも負けていらないからな、もっと良い馬車を作らないとな」
「すでにサラガナル馬車工房では、動力車を開発されているんですし、そっちのほうが素晴らしいと思いますけど」
「うーん。あれは確かに自慢の商品だが、昨日も話をしたように高価な事とコストの問題で、そんなに数が売れる品ではないからな…」
オルが俺を見てうなずく。
例のクロスライセンスの話を切り出すべきだという合図だ。
「購入の件の話も進めたいのですが、技術関連の協力についても相談をしたいのですが宜しいでしょうか?」
「ん?どういうことかな」
俺を中心に、オルが補足する形で、サラガナル馬車工房と技術協力が出来ないかを時間をかけて説明する。
「そうするとベック冒険出版商会と、そのロージュ工房とは既に相互技術供与契約を結んでいるという話なんだな」
「ええ。その枠組みの中にサラガナル馬車工房も加わっていただけないかと思いまして」
「うちからの技術供与は、動力車なんだろうな」
「そうなります。それに見合うだけのこちら側の技術供与があれば、お互いに合意できると思ってますが、どうでしょうか?」
「ふむ」
サラガナルは腕を組んで目を閉じてしばらく考えていた。
目をあけると俺とオルに対して、ゆっくりと話しかけてきた。
「秘匿技術の開示というデメリットがあるが、メリットもかなり大きいのも事実だな。どの程度の開示まで可能かはお互いに交渉次第という事か」
「はい。あと私とロージュ工房とは技術開示について別途契約を取り交わしているので、私の判断である程度はこの場で技術を提供することも可能です」
「なるほどな。そのロージュ工房というところは、かなりしっかりした所なんだな」
「ええ」
「こちらの開示して欲しい技術は、室内にあった温度調整技術、車軸の緩衝技術と、あとは各パーツの補強術式の基礎部分だな」
俺は動力車の価値と、話の出た3つの技術の価値を比較していくが、条件としてはほぼ対等であるという結論に達した。
オルにも相談したが、俺と同じ結論だった。
サラガナルも動力車の価値と同等ということを考えて、その3つの技術を提示してきたのだろう。
とりあえず大きな問題はなさそうだったが、動力車を動かしてみていないので、その事をサラガナルに話をした。
「たしかに昨日は動力車を見せたが、まだ動かしていなかったな」
「ええ、最終判断する前に、是非動作しているところを確認しておきたいですね」
そういうとサラガナルが立ち上がり、俺達二人を作業場に案内してくれた。
作業場には俺達の組み立て式馬車が置いてあったが、すこし綺麗になっていた。
「あの、車体が綺麗になってますけど…」
「組み立てのついでに、汚れを落としておいたのさ。綺麗になっただろ」
そういってサラガナルが笑う。
本当に馬車が好きなんだと俺は好感をもった。
俺達はシートの外された乗合水車までいくと、サラガナルが動力車に繋がっていたハーネスを外し始める。
「せっかくだし君達の馬車に繋げてみよう」
ありがたい提案に俺達はうなずき、ハーネスを外すところから、組み立て馬車に繋げるところまで一緒に作業を行った。
「動力車は意外と重くないんですね」
「持ち上げるとなると重いけど、押して運ぶだけなら軽いほうさ」
「そうなんですね」
俺はここで井戸用水魔石を持ってきていたことを思い出した。
「そういえば井戸用水魔石を持ってきているのですが使いますか?」
「それは助かるな。いまセットしているのは、かなり減っていたはずだから」
そういうと箱の背面のパネルをあける。
そこには井戸用水魔石がセットされていたので、オルがアイテムボックスから取り出した新しい井戸用水魔石と交換を行った。
「裏に走行できる広場があるから、そこまで動かしてみようか」
そういうと動力車に鍵を差し込んでから、御者台にサラガナルが座って手綱を使って、動力車の操作のレクチャーをしてくれた。
「進む方向を変えたい場合は、馬と一緒で手綱を左右に引っ張って欲しい」
そういって手綱を右手で手前に引くと動力車が右を向く。
次に手綱を左手で手前に引くと動力車が左をを向く。
「簡単ですね」
「ああ。御者をやったことがある経験者なら問題ないはずさ」
サラガナルが手綱を脇に置いてから、説明してくれた。
「手綱を持った状態で簡易スペルを唱えると動作するから注意してくれ」
そういってサラガナルが簡易スペルを教えてくれた。
・動力車を動かすのは《オン》
・動力車を止めるには《オフ》
・前進するには《ドライブ》
・後退するには《リバース》
「速度の調整はどうするのですか?」
「手綱を両方とも手前に引けば、徐々に速度が落ちるんだよ。一番強く手前に引いても止まるから加減が必要だけどね」
「そこも馬と同じなんですね」
サラガナルが手綱を持ってから、手綱を両手で手前に引いた状態で簡易スペルを唱える。
「《オン》」
かすかに動力車から作動音が聞こえてくるが、かなり音が小さい。
次の簡易スペルを唱える。
「《ドライブ》」
しかし前に進まない。
どうやら手綱を両手で手前に引いた状態だからだ。
あの状態がブレーキを掛けているのと同じなのだろう。
徐々に手綱を緩めると、徐々に前に動き始めた。
器用に手綱を操って、倉庫から馬車を出して裏口に向かう。
ここまでの速度は人の歩く程度の速さだ。
裏の広場に到着すると、サラガナルが手綱を緩めた。
徐々にだがスピードが上がっていく。
見てる限り急加速はしないようだが、スピードがのってきたのか、そこそこの走りを見せるようになった。
俺が見る限り、人が軽く走る程度の速さは出ているようだ。
目安になる場所を見つけて計ってみたが50mほどの距離を10秒程度で走っている。
(1分で300m、1時間で18000mか。時速18kmってのは魅力だな)
広場を3周してから、サラガナルが俺達の元に戻ってきた。
「こんな感じで走るのだが、どうかな」
「速度は裸馬の駈足程度ですか?」
「うむ。開発するときの目安はその速さに設定していたんだ」
「そうなんですね」
重い馬車を引いて、この速度を馬車で出そうとするとかなり頭数を増やすしかない。
管理がかなり大変になるし飼葉の準備を考えると現実的ではないだろう。
あとは馬と違って、動力車は休憩が必要ないのも魅力だろう。
「井戸用水魔石の消費はどんな程度ですか?」
オルがサラガナルに尋ねる。
「井戸用水魔石は平地を12時間走り続けて1個が目安だよ。ただし坂の上りや下り、停止と前進を繰り返すと交換時期が早まってしまうがね」
俺は転生前の自動車を思い出した。
たしか自動車も燃料を多くつかうのは坂道の走行時や発進時だ。
この動力車も同じなのだろう。
「自分達でも動かしてみたいのですが、サラガナルさんがよければ横でレクチャーしてもらえませんか?」
「ああ、問題ないから平気だよ。しかしこの馬車はやはりいい。昨日思ったが本当に揺れが少ないな」
「緩衝装置のおかげですね」
まずはオルが御者台に乗って、サラガナルがその隣に座る。
俺は遠めで、動力車を操るオルを見たが楽しそうに運転していた。
(あまり早すぎないのもいいな。もし脱輪したり、ぶつかったりしても、そこまで大きな被害が出ないだろうし)
ふと、そこまで考えたところで御者台にベルトが必要だなと俺は思った。
ほかに安全対策があるかどうか考えると、小型船の周囲に付けられていた膨れた薄い袋を思い出した。
あれを馬車に付けておけば、ぶつかった時に少しは衝撃吸収の役立つだろう。
ベルトの設置は簡単に終わるだろうし、膨れた薄い袋もそこまで時間をかけずに用意可能だろう。
なんなら船から外して馬車に取り付けてもいいなと俺は思いついた。
オルが操作のレクチャーを受け終えて戻ってきた。
「これはいいね!まるで裸馬に乗って走ってる感覚だよ!」
「オルにも好評ってことは、サリスやアミは飛び上がって喜ぶな」
俺はさきほど思いついた安全対策を、サラガナルに話してみた。
「なるほど、衝突時の対策か…。そこは盲点だったな」
「駈足程度の早さですが、万が一の場合も想定しておくほうがいいんじゃないでしょうか」
「たしかに御者の安全は必須だな。あとその膨れた薄い袋をつけるという発想のすぐに出来そうな対策だな」
「既に実装されている船もありますし、既存の技術の応用になりますけど安全に役立つと思います」
「すこし検討してみるよ」
サラガナルが笑顔で答えてくれる。
技術者として、新しい発想を柔軟に取り入れる姿勢は本当に好感がもてる。
そのあと俺も動力車の操作を受け終わると、三人で応接室に移動した。
「自慢の商品というのも納得しました。動力車は必ず普及する技術になると思います」
「そういってもらえると嬉しいよ」
「是非とも技術協力の契約の件を進めたいと思います」
「そうしてくれると、こちらも助かるよ。やはりあの緩衝装置は乗り心地が解決されるから魅力的だよ」
その後、時間をかけて三人で契約書の詳細を詰めていく。
なんとか契約書が形になったときには、既に18時を過ぎていた。
俺はサラガナルに動力車を一から作成した場合の時間を聞いてみた。
「図面はもうあるから早くて3週間だな」
「期間的に問題ないね、ベック」
「ん?」
「実はガイシュ迷宮都市に行って修行しようかと思ってたんですけど、もし動力車の製造をお願いした場合、さきほど試乗した際の展示用の動力車を一時的に貸していただけないでしょうか」
「なるほど、ガイシュまでなら動力車を使えば3日程度で行けるからな」
「9月中旬までには、トウキに戻ってくる予定ですので、その時には製作が完了していますよね」
「お金も払ってもらうなら試乗用を貸し出すのも問題はないな」
「ありがとうございます」
そこから、さらにサラガナルと動力車の値段の交渉を行い、技術供与の件も含めて結局、動力車を金貨8枚で購入することで折り合いがついた。
気付くと20時を回っている。
「遅くなったな」
「いえいえ、無事に相互技術供与契約も結べそうで安心しました」
「こっちも新しい技術が手に入るんだからお互い様だな」
「あと先ほど言いましたがガイシュ迷宮都市に出発するのは、4日後くらいに出発しよう思っていますので、その間に温度調整の技術、緩衝装置の技術、固定強化の技術は例の解除スペルを用いて実物を解析していただければと思います」
「そうさせてもらうよ。解除スペルがあれば実物から解析できるし、ありがたいかぎりだよ」
「動力車の核心技術の解除スペルも教えていただきましたし、お互い様ですよ」
「そうだな!」
そういって大きな声でサラガナルが笑う。
「では、契約書ですが、こちらで書類をまとめて明日また持ってきますね」
「ああ、こちらでも必要事項の確認を済ませておくよ」
俺達はサラガナルと固い握手を交わして、サラガナル馬車工房をあとにして宿に向かった。
外に出ると、もう真っ暗になって星空が出ていた。
「ベックは凄いな」
「どうした?」
「いや、行動力があるなと思ってね」
「うーん、旅に関することになると頑張っちゃうんだろうな」
「本当に旅が好きなんだね」
「昔読んだ本があってね、その中である人が言うセリフがあるんだ。『旅は私にとって精神の若返りの泉である』ってセリフさ。旅があれば俺はいつでもドキドキ、ワクワク、ウキウキ出来るのさ。だから好きなんだと思う」
「へぇー」
「オルはヒノクスまで旅をしてどう思った?」
「大変だったけど楽しかったのは確かにそうだね。あとはみんなと一緒っていうのが一番だったかな」
「アミと一緒じゃなくて、みんなと一緒?」
「うん、もちろんアミさんと一緒にいるのは嬉しいし楽しいのは勿論だけど、サリスさんやベックと一緒にいるのも楽しいよ。こんなに長い時間一緒に過ごす友達が村にいなかったからね」
「そうか。ありがとな、オル」
俺はオルの言葉が素直に嬉しかった。
一人旅もいいけど、みんなで行く旅は格別だ。
宿への帰り道、星空を見上げ、輝く星空を眺めて、俺はそう思った。
2015/05/15 誤字修正
2015/05/15 会話修正




